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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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大迷宮都市観光-お城(の前)-

 

 恐らく観光目的の人たちと一緒に、黙々と城へと続く大通りを歩く。

 馬車が通る時は警告があるらしく、通ってない今は馬車5台以上が並んで走れる道を、まばらに人が歩いている状態だ。

 たまに横に現れる門は貴族街に住んでいる人たちが、大通りを挟んで向こう側に行くときか城に行く時にしか開かないため、大迷宮伯に関係する人たちが大規模に移動しない限り、いつもこんな感じらしい。

 そんな大通りからは貴族街の屋敷が見えないほど高い壁が左右に建てられているので、圧迫感がすごくて少し息が詰まる。

 そんな中ぼそぼそと話しながら進んでしばらくすると開けた場所に出て、左右の壁も途切れた。


「おぉ!壁無くなったらめっちゃ広い場所に出たやん!ほんで向こうに見えるんがお城の門と壁か!じゃあ壁の先に見えるちょっと突き出た場所がお城?全然見えへんやん!」

「ここも、入ってすぐも広場なんすかね。たぶん避難してきた人たちを入れられるように広くとってあると思うんすけど、壁が高すぎてお城が見えないっす」


 ウチらの前には大きな堀と跳ね上げ橋があり、その先にこれまた大きな門と壁がある。

 その門が閉まっているから、遠くから見えていた尖塔もほとんど見えなくなっている。

 せっかく来たのにと落胆しているのはウチらだけではなく、他の観光客にも肩を落としている人がいる。

 そんな人たちに近づく人が何人もいて、少しすると方を下げていた人たちが門を見る。

 中には来た道を戻ろうとしている集団に声をかける人もいる。

 そんな人がウチらのところにもやって来た。


「君たちは帰らないようだね。それが正解さ」

「いや、いきなりなんやねん」


 今回は道を塞いだり、案内板の前に立っていない。

 広場の空いたところに立っていただけだ。


「いきなり声をかけたのは悪かった。僕たちはがっかりして帰ろうとしている人に声をかけて、もうすぐ門が開くと伝えているんだ」

「え?なんでそんなんわかるん?」

「もうすぐ4の鐘が鳴るからさ。その鐘を合図に門が開き、通いで城に勤めている人が出て来るんだ」

「あー。確かにもうすぐ日が暮れて仕事終わりやな」


 話しかけてきた男曰く、仕事終わりで大量に出て来る人と、夜に仕事をする人を入れ替えるために大きな門を開けるそうだ。

 もちろん帰りの中には貴族もいるから、不用意に近づかないようにと、見に来た人を道の端に寄せたりもしている。

 移動しながら他に門が開く時や、開いていない時にどうするのかを聞く。


「大きな門は1の鐘で開く。通常1の鐘は開門準備だが、2の鐘で仕事始めだから、2の鐘で開けたら全員遅刻になるからな。2の鐘が鳴ったら王城の大門は閉まり、次に開くのは3の鐘だ。少しの間開いているけど、昼食に出たほとんどが戻って来たら閉める。次に開くのはこの後の4の鐘で、5の鐘で閉めるんだ」

「ほーん」


 仕事開始の前に開き、仕事終了後の閉門の鐘で閉まる。

 大きな門を開ける理由は移動する人が多いからで、大きな門が閉まっている時は、門の左右にある大型の馬車1台より少し大きいぐらいの門を使うらしい。

 そして、説明してくれた人たちは、お城の門がいつでも開いていると思って見に来た人を狙って物を売ったり、関係のある店に誘導しているらしい。

 普段はお店の店番やらをしているけれど、門が開く時間に急いでやって来て、親切に接したついでに客にしようという魂胆だと、自分から言ってきた。

 たくさん連れて行けば報酬が上がるらしい。


「俺のところは食事処で酒よりも食べ物に力を入れているんだ。どうだいこの後の食事は?」

「奢ってくれるん?」

「おっと、そうきたか。残念ながらデートのお誘いじゃなくて客引きだからね。一品だけサービスで手を打ってくれないか?1人2品以上頼んでくれたら1品サービスだ。出す物はこっちで決めるけど」

「安い物をくれるんやな?」

「そうだな。こっちも商売だからそこは仕方ないということで」

「しゃーないなー。じゃあ、おすすめの店とか食べ物教えてな。それで手を打つわ。シルビアさんもそれでええ?」

「わたしはいいっすよ。宿は宿泊だけなんで、食事はそれぞれっす」

「ありがとう!開門して少ししたら案内するよ!あ!馬車が大量に出て来るから、道は空けとけよ!」


 そう言って男は別の人たちに声をかけに行った。

 ウチらは2人なので儲けは少ないから、もっとたくさん呼び込みたいはずだ。

 近くでウチと男の話を聞いていた人たちに声をかけているのを横目に、道の端へ移動しておく。

 他の人から話を聞いた観光客も同じように端に移動していて、何人かが道は広いから大丈夫だろうと移動していなかったけれど、声をかけて来た人たちに言われて移動させられていた。

 どうやら思った以上に馬車が出て来るようだ。

 しばらく広場端でぼーっとしていると、ついに鐘の音が鳴り響いた。

 街の中央とお城の両方から聞こえてくるから、思ったより大きい音に何人かがびくりとしていた。


「お。門が開き始めたっす」

「ゆっくりやな」

「大きいから仕方ないっすね」

「ふーん。どうやって動かしとるんやろな?」

「魔道具を使ってるんじゃないっすかね?さすがにあの大きさの門を手で押して開け閉めするのは面倒っすよ」

「できひん訳やないんか」

「身体強化した人が数人いれば、ゆっくりと押し開けることはできると思うっす。恐らくっすけど」

「へー」


 ゆっくりと開いていく門を遠目に見ても、押して開けていないことだけはわかる。

 門のこちら側に揃いの鎧を着けた騎士が何十人も並んでいるけれど、誰1人として門に触れていない。

 門が完全に開き切ると同時に鈍い音が響き、それが合図になったのか並んでいた騎士が一斉に剣を抜いて胸の前に掲げた。

 門が開ききると向こうから一台の馬車が現れ、その後にも続々と続いてくる。

 ガラガラと音を立てて走る馬車が連続するだけでボアの集団よりも迫力が出ていて、馬車の集団を初めて見た人たちは呆然と見送るしかなかった。

 馬車はウチらの横を通って貴族街へと向かったり、広場で左右に分かれて移動している。

 まっすぐ進んだ馬車は、途中の門から貴族街に入るのだろう。

 馬車が落ち着いたら、今度は馬に乗った人や徒歩の人が続々と現れて帰っていき、それがまばらになってようやく門の中に意識を向けることができた。

 大量の人が一斉に移動する姿に、ウチも呆気に取られてしまっていた。


「門の向こう……建物見えるけど遠いな」

「門の内側に広場があって、そこから大迷宮伯の関係者が運営する団に行けるんすよね確か。じゃああの見えているのは大迷宮伯の居城じゃなくて団の設備っすね」


 大通りで教えてもらった情報によると、お城に入ってすぐは広場になっていて、いざという時人を非難させられる。

 そこから正面に大迷宮伯の団が使う砦のような建物、その奥に迷宮騎士が使う施設や街の運営を行う貴族の施設、さらに奥に大迷宮伯の居城がある。

 大迷宮伯の団から左右に他の関係者の団施設が、迷宮騎士の施設の周囲にお城勤の人が暮らす場所や小さな森や馬の飼育場などがあり、お城の裏にも何かしらの施設があるらしいけれど、一般には公開されていない。

 門からは大迷宮伯の団の施設と、その奥に一部だけお城の尖塔や外壁が見れる程度だった。

 それでも門の開閉や大量の人が同じ方向に向けて移動する姿など、普段目にできないことが見れて満足だ。

 周りの人たちもウチと同じような感想を得たようで、中には興奮しすぎて少し前に出てしまい、危うく馬とぶつかりそうになったと笑って話している人もいるけれど、連れの人からめちゃくちゃ怒られているし、それを見ていた剣を掲げていた騎士がやって来て重ねて注意を受けていた。


「もう見るのはいいか?この後はまばらに人が出て来るだけだし、近づいて見ようとしたら騎士に止められるからできることがないんだ」

「そうなんや。ウチはええけど、シルビアさんは?」

「わたしもいいっすよ。なんというか、お城見るより人の移動を見た方が迫力あったっす」

「よく言われるよそれ。しっかり見れないからね。それじゃあ他の人たちを集めて移動しようか」


 説明してくれた人が声をかけた人を集めて店に移動する。

 すでに普通に訪れた客でいっぱいだったらどうなるのか気になったけれど、お店は広くて何かしらの催しがない限り埋まらないそうだ。

 仮に埋まっていたとしても、別の店を紹介できるらしく、食いっぱぐれることはないと胸を張って言われた。

 飲食店の互助みたいなことをしているらしい。

 一緒に向かう人たちと話しながら進み、請負人や行商人の話しを聞いているうちに、食事処が集まっているエリアに着いた。

 夕食の時間を少し過ぎているけれど、どの店も賑わっている。

 むしろ出来上がっている人たちで大騒ぎしているかもしれない。


「案内するお店はこの辺りと比べて落ち着いているので、ゆっくり食事できますよ」


 案内のために度々振り返る案内人が、眉間に皺を寄せて酔っ払いを見ていることに気づいたようでフォローしてくれた。

 落ち着いて食べたいから嬉しい情報だ。

 さらに歩いて着いたお店は路地に入ったところにあり、表通りの喧騒から少し離れていることもあって静かだった。

 食事も美味しく、迷宮から取れる素材をふんだんに使われていて、なんと魚料理の種類も多かった。

 聞いたことがない魚ばかりだったから詳細を聞いたら、大迷宮は中迷宮を合わせたぐらい広く、その中に海エリアまであるそうだ。

 そこで取った魚を移動式の生簀に入れて大急ぎで運ぶことで、新鮮な魚を提供できていた。


「海ってあれやろ。でっかい水たまりで塩っ辛いやつ」

「そうらしいっすね。わたしも見たことないっす」


 ウチらが話していると、同じように案内された商人から海について聞くことができた。

 海の迷宮がある中迷宮都市から行商に来ていたからだ。

 楽しく話しながら食事を終え、今度他の料理を食べに来ようと話しながら帰っていると、途中でべアロが別の熊獣人と盛り上がっているのを見かけた。

 服装からべアロだと思っただけなので、間違っている可能性もある。

 だから、声をかけずに宿に戻った。

 キュークスからべアロは飲みに出ていると言われた。


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