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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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294/305

大迷宮都市観光-お城への道-

 

 お茶と焼いたパンにハニービーのハチミツをかけたものを食べてから、大通りをお城に向けて歩く。

 食べながら相談した結果、乗合馬車で南側に帰ることになった。

 ウチを背負って走るか馬車かの2択で、流石に街中でウチを背負って走っていたら兵士に咎められるということで馬車になった。

 帰りまで歩いたら夜を廻るし、そもそもウチの足が限界になるかもしれないから。

 そうしてお店を後に歩いていると、遠目に門が設えられた壁が見えてきた。


「お城ってあの壁と門の向こうにあるん?」

「いや、あの壁と門は貴族街のっすね。お城の門や壁はもっと先っす」

「やっぱ地上の方が迷宮やん。人も多いしなんか息詰まるわ」


 貴族街に続く北の大通りは、南の大通りよりも高級店が多い。

 食事処のテラス席で食べられている料理は、量が少なくて見栄えがいい品のあるものが多く目につく。

 もちろん南側のような大盛り料理もあるけれど、それを頼んでいるのは男性ばかりだった。

 南側は労働者が多いからか、男女関係なく大盛りだった気がする。


「このまま真っ直ぐ行くん?貴族街に突っ込んでいくことになるけど問題ないん?捕まらん?」

「真っ直ぐいくっすよ。ただし、貴族街は中央の大通りで左右に分かれてるっす。貴族用の門も途中で左右に出てくるみたいっすけど、普段はそれぞれの貴族用入り口から出入りしているみたいっすね。ほらこことここに門っす」


 シルヴィアに連れられて、近くにあった大雑把な地図へと向かい、指差ししながら教えてもらった。

 地図によると迷宮街の東西南北に門があり、それぞれとても大きな通りが伸びて外に繋がる門へと続いている。

 ただし、北側だけが外ではなく貴族街を隔てる門で、そこから左右に通りを3本ずれると東西の貴族街へと入る門がある。

 迷宮街から真っ直ぐ北に伸びている大通りは、貴族街に入っても真っ直ぐ伸びているけれど、どの屋敷にも面しておらず壁が続くだけで、途中にいくつか左右に入る門があり、貴族が移動する際に必要に応じて開けるようだ。

 つまり、大通りはお城へとほぼ直通になっている。


「おー。ほんまや。じゃあ中央の道は観光目的で歩いてもええってことか」

「そうっすね。氾濫が起きてない時なら観光客が歩いても問題ないはずっす。ただし、左右は貴族の屋敷だから下手に喋ると罰せられる可能性もあるっす」

「騒ぎすぎるなっちゅうことやな」

「そうっすね」

「わかった。せやけど、なんでこんな作りになってるんやろな?普通大通りから自分らの住んでるところまで簡単に行きたいやん。わざわざ門つけてまで道塞ぐ必要ある?」

「うーん……。恐らく氾濫対策とかじゃないっすか?大迷宮伯自ら迅速に出陣できるよう一直線に行きやすくしたとか」

「なるほどなー」


 シルヴィアが城の絵から一直線に指を下ろし、迷宮街の北側にある門へと繋げる。

 途中に何の障害もなく、左右の門を閉めれば貴族街に魔物が向かうのも防げる作りだ。

 そんな風に話していたら、近くでのんびりしていたおじさんがこっちにやって来て説明してくれた。

 地図の前で話し合っているのが邪魔なようで、場所を変える目的もあると言われたから、素直に場所を移した。


「姉ちゃんの言う通り、大迷宮伯が住んでいる城から、一気に迷宮へと行くために大きな道が一本あるんだ。氾濫の時もそうだが、大規模な行動をとる時も北の大通りを大量の請負人が進んでいくんだ。迷宮騎士も一緒に行動するから騎士団だけの出兵より見応えがあるぞ」

「えー?揃いの装備の方が綺麗に揃ってて見応えあるんちゃうん?請負人ってそれぞれ装備バラバラやろ?」

「嬢ちゃんの言う揃いの装備は普通の騎士団の話だな。迷宮騎士は迷宮に潜るから自前の武器も用意するんだ。人相手じゃないから尚更武具に拘らないとな。だから、騎士団支給の鎧や剣に加えて自前の武器まで持つから圧巻だぞ。請負人たちも(こしら)えた武器を掲げて歩くから、今から大暴れするんだって気持ちでこっちまで気分が上がるってもんよ」

「なるほどなー。別の街の話やけど、一緒に潜った迷宮騎士はほとんど同じ装備やったわ。特に鎧と盾と剣。一応魔物に合わせて有効な武器もあったけど、それも同じやつやった気がする。あんま覚えてないけど」


 アンデッド迷宮の迷宮騎士たちは揃いの鎧と剣に、アンデッド用でハンマーを持っているぐらいだった。

 出てくる魔物から武具に使える素材があまり取れないこともあり、高品質な鉱石を使って作られた物だとピクルスの騎士が話してくれていた。

 ウルダー中迷宮都市で見かけた巡回中の迷宮騎士は鎧を纏って剣しか持っていなかったし、訓練した騎士見習いの子どももお揃いの装備だった。

 ウルダー中迷宮に潜っている迷宮騎士も見かけたことはあるはずだけど、装備まで意識していない。

 ウチが使うことのない武具に興味を持てないからだ。


「だったら、なおのことこの街で見た方がいいぞ。とは言っても大迷宮伯が大規模に出ることは稀だから、大迷宮伯に連なるいくつかの団が合同で出る時ぐらいしか見れないがな」

「団は迷宮街にあるんじゃないっすか?」

「ほとんどはそうだ。だが、団が減るより増える方が早いから、迷宮街じゃ収まらなくなってるんだよ。そいつらは人数が少なければ迷宮に近い場所に拠点を構え、大人数の場合は門から遠い街の端の方の家をいくつか買い取って新しく建ててるな。あまり治安が良くない場所もあるが、請負人ならなんとかなるっつう場所だ。お嬢ちゃんは近づくなよ」

「わかった。でも、その団の人らがお城へと続く道通るのはおかしない?別の場所におるんやろ?」

「あぁ。そいつらはこの道を通らないぞ。というか、そいつらが大量にどうしても街の人間はわざわざ見にいかねぇ。行くのは大迷宮伯関連だ」

「んー?ようわからんわ」


 迷宮街にほとんどの団の拠点があって、あぶれた団が迷宮街近くと治安と移動に難ありの場所にある。

 さらに大迷宮伯に関係する団もあって、この道を大々的に通るのは大迷宮伯に関係する人の団。

 大迷宮に関係するのは迷宮騎士団ではないのだろうか。


「まずな、どこの迷宮泊も街の勢力として迷宮騎士団を運営している。これはわかるな?」

「わかるで」

「それとは別に、迷宮泊は迷宮に潜る際の自前の戦力を持っている。少人数のパーティだけにしている人もいれば、団を作って大きく活動している人もいる。そのどちらも俺たちが収める税ではなく自分たちで活動したお金で運営されているぞ」

「なんかややこしいな。騎士団と団ってどっちも団やん。だんだんわからんようになるわ」

「合わせて言うと混乱するのはわかるぜ」


 だんだんと団をかけたウチのボケに、シルヴィアはツッコミを入れてくれなかったけれど、おじさんが笑ってくれたから良しとする。

 ボケに笑ってくれた感じではないけれど。


「ほんで、大迷宮伯関係の人って(なん)なん?」

「大迷宮伯の子どもや孫、後はパーティメンバーが独立して作った団とかだな」

「んー?迷宮泊の子どもって迷宮泊になるんちゃうん?」

「迷宮泊を継げるのは1人だけだ。大迷宮伯が複数人いても困るだろ?継げなかった子どもは請負人になったり、大迷宮伯が持つ貴族の位を受けて大迷宮都市の運営に関わったりと色々だ。その中で請負人になった子どもやらが団を作るか、元からある大迷宮伯に関わりのある人の団に入って関係を強める。そういった団が複数合同で大規模な行動をするときにパレードみたいなものが開かれるんだ」

「もしかして大迷宮伯に関係している団は城の敷地に拠点があるんすか?」

「お。よくわかったな姉ちゃん。その通りだ」

「えー?それって大丈夫なん?城の中に複数の武装した人がおるんやろ?武力で地位を奪ってやるぜーみたいな人出てくるんちゃうん?」

「城の中とは言っても、大迷宮伯の住んでる場所とは離れているから大丈夫だろう。間に迷宮騎士団の詰め所もある。簒奪に関しては聞いたことがないな。そもそもどこの迷宮泊もいざという時は迷宮に入る必要があるから強いはずだ。本人がそこそこの場合は周囲を強い奴で固めるだろうしな。さらに戦えるだけじゃなくて書類の処理や迷宮泊同士のやり取り、迷宮伯じゃない貴族とのやり取りもある。大迷宮伯なら請負人組合の統括もか。武力だけでは成り代われない地位なんだよ」

「うわー……。ウチ絶対嫌やわその仕事」

「俺もだ」


 おじさんと同時に笑う。

 お互いなれるわけではないけれど、面倒と思えるほどの仕事だと認識が一致したからだ。

 その後もいくつか大迷宮伯や大迷宮都市について話を聞き、おじさんと別れてから城へと続く道を北に向かう。

 貴族街へと入るところの門は開けられていて、遠くまで続く左右の壁、奥にそびえる大きな門とそれを支える壁が見える。

 真正面に立っているのに壁と門が大きすぎて、城のほとんどが見えない。

 高い部分と尖塔が少し見えるくらいだけど、遠いこともあってとても小さい。

 おじさんに聞いた話だと、大迷宮伯が住んでいる城は高さよりも広さを重視しているそうだ。

 今の王城は高さと広さの両方を満たしているらしく、なぜ大迷宮伯の城がそこまで高くないのかは理由がわからなくなっている。

 恐らく迷宮が氾濫したときにたくさんの人を匿えるために広さを確保し、飛べる魔物に対してあまり高くしなかったのではないかと言われているようだ。

 新しい王様の城の付近には迷宮がなく、小さな森があるくらいなので空からの脅威が無いらしい。


「結構遠いな」

「乗合馬車もあるっすね。帰りは乗るっす」

「せやな」


 歩いていると何台かの馬車に追い抜かれた。

 他に歩いている人も大勢いるけれど、左右の壁の向こうが貴族街のため、皆黙々と歩いていて観光という感じがしない。

 時間もかかるから帰りは馬車に乗ると決めた。


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