ウチの武器と初依頼受注
昼食にパンと野菜スープと、ハーブをまぶしたいい匂いの鶏肉の串焼きを屋台で買い、近くの食事スペースで食べた。
お昼を出している定食屋や宿屋は、大人で溢れていたので、下手に入ると潰されてしまいそうだから屋台にした。
・・・固有魔法があるからウチは怪我せんやろうけど、ウチを踏むことで相手が怪我するかもしれへんからなぁ。はよ大きくなりたいわ。
昼食後は約束通り組合に戻り、併設されている食事処から受付に戻ってきたミューズの元へと向かう。
「ミューズさん。アンリさんはおる?」
「はい。食事は終えられてましたよ。呼びますね」
アンリも食事処で昼食を取っていたようだ。
ミューズに呼ばれてすぐにやってきたアンリは、四角いブロックに棒が付いている物を片手で持ってやってきた。
おそらくハンマーだろうと思うけど、釘を打つためのサイズではない。
地面に杭を打ち込む時に使うサイズだ。
「はい、これ」
「これウチのなん?」
「そう。武器はこれでいく」
渡されるままに受け取ったハンマー。
アンリは片手で持てるけど、ウチは両手で持つしかない。
それも、右手でブロック下を持ち、左手で柄の真ん中を持つという不格好さだ。
持ち手の部分には布が巻かれているんだけど、そこを持とうとするとバランスが崩れる。
「エルちゃんには大きすぎますね」
「ん。やっぱりこっちになる」
「これなら何とか持てる!」
ミューズの言葉と同時にハンマーをアンリに取り上げられ、腰に刺していたであろう、釘を打つにしては少し大きすぎるぐらいのハンマーを渡してきた。
ブロック部分はさっきと同じ鉄製でほぼ真四角の長方形。
柄の部分は木で作られていて、先端が少しだけブロックから出ている。
そこを更に鉄で覆っているのでぽこっとしている。
持ち手の部分はしっかりと布が巻かれていて持ちやすく、ウチが両手で持てば何とか振り回せる。
「エルに剣の扱いを教えるより、ひとまず攻撃できるようにしたい」
「その結果がハンマーなんやな」
「そう。柄の部分以外のどこで叩いてもいい。もしかすると側面の方が広いから当たりやすいかも」
「なるほど。ウチのこと考えて選んでくれたんやな!アンリさんは良い人や!」
「教官として当然」
相変わらず、すぐに照れて横を向くアンリ。
ウチとしてもナイフぐらいしか持つことができない上に、それで相手を切りつけるよりも、とりあえず当たれば痛いハンマーの方が気は楽だ。
上手く振れるか別として。
ウチは受け取ったハンマーヘッド部分が上に来るように左腰のベルトに差して、ミューズのいる受付に向き直る。
「訓練は明日の2の鐘でする。今日はエルのしたいようにして構わない」
「わかった!じゃあミューズさん。勉強っていつやるん?」
「お勉強は最初に文字と数字を覚えるところからです。それが終われば歴史や地理、魔物の特性や採取できる物についての基礎講義が受けられます」
「読めへんかったら勉強できへんもんな」
資料として渡されるのか、大きく何かに書かれるのか、はたまた読み聞かせるだけかはわからないけど、文字を知らなければ依頼書を読めないので、最初に文字と数字を勉強するのは当然だ。
地理は依頼で移動したりする際に役立ち、歴史は素材のありかのヒントになることもあるそうだ。
魔物の特性や採取物に関しては、読めるようになる前に依頼を受けた場合、対象の説明と付近の説明を受けられる。
「そうです。そして、最初のお勉強は3日後の2の鐘です」
「意外と期間空けるんやな」
「はい。見習いになったばかりの子が依頼を受けたがるのが今日と明日。初めての依頼で疲れて1日休んで、お勉強です」
「休むことも予定に入っとるんや……」
「これまでの経験ですね」
ミューズがくすりと笑った。
この反応から何と無く想像できる。
初日に勉強を入れた時は、見習いになった興奮で
集中できず、翌日にしたら疲労でダメに、更に1日次にしても翌日にガッツリ依頼を受けた人が疲労でダメになったんだろう。
読めることを確認する意味もあるので、絶対に受けないと受けない講義らしく、しっかりと評価をするために3日後になったんだと思う。
「それで、エルちゃんは依頼を受けますか?」
「せっかくやし受けようかな。でも、ウチにできることってあるかな?全部最下位やで?」
「店番などは文字を覚えて計算ができるようになってからですが、腕力を使わない依頼もありますよ。少しお待ちください」
ミューズさんが依頼の貼られた掲示板へと向かった。
荷運びは腕力や速さがいるし、店番は文字と計算ができないといけない。
アンリがいるなら街の外に出ても平気かもしれないけど……そういえばアンリはいつまでウチに付いているんだろう。
「アンリさんはいつまでウチに付いてるん?訓練は明日やんな?」
「そう。だけど、しばらく様子を見る」
「そうなんや」
「そう」で頷き、「だけど」で首を傾げるアンリ。
首を傾げる理由がわからないけど、ウチのことを考えると答えは一つしかない。
・・・そんなにウチが心配なんか!全部最下位やったら心配か!担当している子がちゃんとできるか気になるんやろな。
「お待たせしました。コチラなんてどうでしょう。保存食を作るために使ったたくさんの壺を洗う依頼です。腕力は使いますが、荷運びよりはいいと思います」
「できるかな?」
思ったよりも最下位という証はウチにダメージを与えている。
それはミューズが選んでくれた依頼に対して、自信がほんのちょっぴりなくなるほどだ。
「腕力が最下位と言っても全く石を持てなかったわけではないですし、問題はないと思います」
「なら受けてみようかな!」
確かに全部最下位だったけど、リタイアしたわけではない。
ちゃんと自分なりに全力でやりきっている。
そう考えるとほんのちょっぴり減っていた自信も倍になって戻ってきたような気がする。
というわけで受けることにした。
「では、こちらの依頼書を持ってペルス保存食店へ向かってください。場所は……」
「わたしが案内する。この街に日が浅いエルに口頭で説明しても通じない」
「そうですね。では、アンリさんよろしくお願いします。エルちゃんがんばってね」
「はい!」
アンリの先導で組合を後にした。
ハンマーのせいで若干ふらついたけど、そこにある物と意識すれば、徐々に慣れていけそうだ。
・・・洗い物かぁ。上手くウチの固有魔法がハマれば楽に終わるかも知れへんな!




