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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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287/305

そしてすぐに

 

 迷宮から帰ってきて3日目。

 全員がしばらく体を休めるという事で、ウチはミミと一緒に屋台に精を出していた。

 そして昨日から面倒ごとに巻き慣れている。


「なぁ!妹を雇ってくれよ!」

「あかんあかん!今は人募集してへんねん!屋台増やすにしても孤児院優先やって言ってるやろ!」

「そこをなんとか!手伝いだけでもいいからさ!」

「い・や・や!今はいらんねん!」

「頼むよ!俺が迷宮に」

「事情は聞かへん!聞いたらブレるやろ!早よどっか行かんと熱々の油かけるで!」

「ちぇー!また明日来るからな!」

「客以外で来んな!」


 しっしと手を振って見習いになったばかりの男の子を追い払う。

 ウチのしかめ面に苦笑しながら屋台の子たちがお客さんの相手をしていて、並んでいる人たちはいつウチが暴れるのか料理を賭けていた。

 素手で殴る派、ハリセンで叩く派、ゴミを放つ派、至近距離で睨みつける派など様々だったけれど、この中でウチがするのはハリセンぐらい。

 素手はそんなに威力が出ないし、ゴミは後片付けが面倒、至近距離で睨みつけるためにはもう少し身長が必要だからできない。

 背が高くなったらやるかと言われたら、否定できない。

 結局怒鳴るだけに賭けた人が食事代を浮かせただけになった。


「エルちゃん楽しそうなんだよ」

「楽しくないと否定できへんな。声出すのはスッキリするし、あいつすぐ引くからイライラせぇへんねん。別にウチらを馬鹿にしているわけでもないし」


 昨日から現れた請負人見習いの少年は、少し遠くの村からやってきた農家の3男、4男パーティらしい。

 村に残っても農地が継げないため、村で活動していた請負人に稽古をつけてもらい、合格が出たから街に来て請負人見習いになった。

 その時に何人かが、請負人にはならないけれど働き口を探して一緒についてきている。

 何の伝手もない村人が街に来て簡単に仕事にありつけるわけではないため、このように頼み込んで断られるのは普通のことだ。

 ただ、頼み込むとしても屋台ではなく店舗を構えているところに、雑用からでいいから頼ってくださいというのが普通だけど。


「何でウチらの屋台なんやろな?」

「え?エルちゃん知らないの?この屋台有名なんだよ?」

「そりゃ出してる料理が珍しいから、多少は有名になるやろうけども」


 ほとんどの屋台はスープか、肉や野菜の炒め物だ。

 その点ウチらはお好み焼きでパンの代わり、まんまる焼きで甘味、揚げ物で摘まみと他の屋台とはガラリと違う。

 真似をしてお好み焼きの屋台を出す人もいるけれど、区分けが違うから大きな影響はないし、まんまる焼きは焼き台の制作、揚げ物は油の手配が壁になっている。

 つまり独占状態だ。

 その独占も迷宮前広場に限った話で、市場では甘味の屋台もあれば、店舗で揚げ物を出す店も出てきているけど。


「そうじゃないんだよ。エルちゃんが有名なんだよ」

「ウチ?あー、なんか暴れたりした結果?」

「それもあるんだよ」

「あるんかい」

「でも、一番なのは貴族のお家に呼ばれたことなんだよ」

「んー?あ。レシピの件やな」

「それなんだよ。他の貴族がエルちゃんの教えたレシピの料理を食べて盛り上がって、それを仕事に来た請負人に話したらしいんだよ。そこからゆっくりと広まったんだよ」

「ほー。なるほどなー」

「他にも沼地エリアで活動できるとかいろいろあって、話題になってたんだよ」

「ふーん。悪目立ちしてないならええか」


 ウチの言葉にミミは何も言わずに苦笑したということは、悪目立ちしているということだ。

 まぁ、他の見習いよりも小さいウチが活躍していれば、長い間泣かず飛ばずの請負人から妬まれるのはわかる。

 そういう人たちには、文句を言う前に固有魔法を使えるようになればいいと言い返すことに決めている。

 ウチだって、身体強化もできて固有魔法も使える人が羨ましくないといえば嘘になるからだ。


「それで、あの子がまた来たらどうするんだよ?」

「うーん……。マジで今は人いらんからなぁ……。新しい屋台を開くつもりないし、アンリさんが保守募集してたりもせぇへんもん」

「孤児院の子を代わりばんこにして、休みを多くするのもありかもしれないんだよ?」

「それって稼ぎ減るやつやろ?納得せぇへんくない?少なくともウチなら、人増やしたから休み多くするけど稼ぎも少ななる言われたら、増やすな!ってなるわ」

「そう言われるとそうなんだよ……」


 休むのも大事だが、働くのも大事だ。

 ウチらの屋台はほぼ毎日やっている。

 他の屋台もそうで、関係者全員に何か用事がない限りは休まない。

 それは稼ぎを落としたくないこともあるけれど、休んでも丸一日かけてすることはないからだ。

 体調が悪ければ他の人に任せて休めばいいし、それは個人の用事があっても同じだ。

 朝に用事が終われば昼から仕事をし、逆に夕方に用事があれば朝働く。

 お金に余裕がなければ休むことはできない上に、休んでもほとんど寝るか食事をするかしかない。

 結婚して子どもがいれば別なのかもしれないけれど、あいにくとウチらの方が子どもなので。

 そう考えると働かせてくれと頼む気持ちもわからなくはない。

 しかし、雇うとなると誰かの稼ぎが減るわけで、その対象は……。


「ウチか」

「え?」

「ウチが屋台に出んかったらええやん」

「えっと……、まぁ、エルちゃんは迷宮に行くこともあるから他の人に代わっても問題ないんだよ」

「もしかして、ウチ戦力にならん?」

「なってるんだよ!呼び込みも気合が入っていて、エルちゃんがいる時の賑やかさに釣られてお客さん増えるんだよ!」

「でも、おらんでも回るやろ?」

「それはそうなんだよ」

「じゃあウチの代わりに1人雇っても問題ないんやろか」

「売上を考えると、あと2、3人雇っても問題ないんだよ」

「うーん」


 しかし、どうせ雇うなら同じ孤児院から追加した方が楽だ。

 連絡も1回で済むし、売れ残りの処分もひとまとめにできて助かる。

 これが複数になると、この間のアンデッド迷宮に行く連絡でたくさん回ることになり、日々の売れ残りも量を調整する必要が出てくる。

 人数分渡せば良いという簡単なものではない。


「うーん……。どうしよかな。明日も来るでアレ」

「いっそのこと迷宮前広場以外に屋台を出してみたら良いんだよ」

「市場とか、屋台街とか?」

「そうなんだよ」


 この街にはいくつか市場や屋台街がある。

 それは人の多さに対して分散目的でもあり、発展とともに複数の場所が確保されたせいだ。

 宿屋街や各種工房、商会もいろいろな場所にあり、それがそのまま商機に繋がる。

 だから、孤児院の子たちに料理を教え、それを各屋台街で売り出すという考えはわかる。

 ここでの売れ行きから考えると、ある程度の利益は出そうな気もする。

 しかし、ウチらは子どもである。

 それも請負人証を作っているとはいえ、迷宮広場前で仕事をするためにほとんどが見習いのままだ。

 やる気を出してしっかり講習を受けて、見習いを卒業している子もいるけど。

 そんなか弱いウチらだけで屋台を出したら、余り素行に良くない人たちに狙われる可能性が上がる。

 請負人の方が武器を持っていたりと危なそうに見えるけれど、意外と真面目というか、余り犯罪見てを出す人はいない。

 請負人が犯罪を侵したら、同業の人たちに追われるからだ。

 そもそも悪事を働くほど落ちぶれる人は、請負人の活動をほとんどせずに貧民街や街の外に出ていく。

 簡単にまとめると生きるためにお金が必要で、請負人は腕っぷしがあれば何とかなるため、しっかりやれば生きることに困ることはなく、周囲に迷惑をかけずに生きていくことができる。

 例外はどこにでもあるし、腕っぷしを誇って腹が悪くなることもあるが。


「屋台出すだけならできるけど、誰が管理するん?子どもだけやったら変なのに絡まれるかもせぇへんで?いちゃもんつけられたり、帰りに襲われて稼ぎ奪われたりや。請負人の人らはある意味同業のウチらを守ってくれるし、いざとなったら組合が出てくるけど、広場の外やとそうはいかへんで」

「むむっ。確かに子どもだけだと危ないんだよ。ミミたちで食材を買うときに怒鳴られたりしたこともあるんだよ」

「初耳やけど」

「屋台で顔見知りになった人が助けてくれたんだよ。あ、ちゃんとお礼はしたんだよ」

「ならええか」


 念の為襲われた流れを詳しく聞くと、半獣のミミがいたからに加えて、子どもだけで大量の食材を運んでいたから貧民街のゴロツキに狙われたそうだ。

 ゴロツキでも市場で食材を買うため、見つかるのは避けられない。

 これ以降はミミが同行しなかったり、他の屋台の人と一緒に買いに行ったりと工夫しているおかげで、同じ目にあったことはないらしい。

 それでもじっと見てくる人はいるそうなので、気を抜かずに買い出ししていた。

 ちなみにアンリには報告していて、キューキス経由で獣人組にも伝わっているそうだ。

 ウチに言わなかったのは、場合によっては貧民街で暴れるかもしれないからと判断されたからで、その判断は間違っていると言い切れないのが辛いところ。


「それだったら、いつかこの街を出た時のために後継者として育てるのはありなんだよ?」

「エリカたちでよくない?別に人増やさんでも」

「孤児院の子たちは大きくなったら出て行かないといけないんだよ。その時にその子も含めて運営すればいいんだよ」

「ふむ。なるほどなぁ」


 エリカたち商会の孤児院の子は、商会と付き合いがあるお店の手伝いをしてお金を稼いでいる。

 他にも商売に関する勉強をして、見込みがあればそのまま商会が雇い入れるけれど、人数が多すぎても運営が厳しくなるため、ほとんどの場合手に職付けさせて卒業になる。

 請負人、職人の弟子、料理人見習いや兵士見習いに騎士の従僕、豪商の使用人などが多い。

 エリカたちの場合は独立して屋台を運営し続けるという未来もあり、孤児院の子たちでお金を出し合って家を借りれば助け合えるだろう。

 そこにさっきの子の妹が加わるだけなら問題ないような気もするけれど、それをするとしても決めるのはウチじゃなくてエリカたちだ。


「じゃあ後でエリカたち集めて相談やな」

「それがいいんだよ。それに、大迷宮行く前に準備する時間がほしいんだよ」

「あー、アンデッド迷宮行った時は急やったからなー」


 組合に呼ばれて話を聞けば、少しの準備期間ののちにすぐ出発となった。

 普段通りなら問題なく回せるけれど、主力のミミが抜けるだけでろくに休憩が取れなくなっていたらしく、急遽孤児院から数人呼んで何とか回していた。

 慣れたら応援人数を減らしたし、お金の管理は孤児院を運営する商会が行ってくれたけれど、手数料代わりにお土産を渡したり、居ない間の聞き取りなど色々やることが増える。

 普段は雇っているエリカたちだけで済むのに、何かが起きて誰かが参加できなくなるとも限らない。

 それなら独立したエリカとだけ雇用関係を結ぶ方が楽で、そうすれば儲けの範囲でエリカが人を雇える。

 今すぐ独立とはいかないけれど、そのための準備は早い方がいいだろう。


「エリカに仲間以外で人を使うこと覚えてもらった方がええか」


 ウチの呟きにミミがこくりと頷いた。


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