頭装備はすでにあった
軽鎧のような服のような物を試してくれた男の人が沼地から戻ってきた。
服に付着していた泥は出る時に流れ落ち、見た目の汚れは顔と髪の泥だけ。
服の色も暗いので、沼地に生息する部族のように見えなくもない。
仲間に笑われながら休憩所へと向かい、着替えを待ってから総評となる。
「回収船は問題ないですね」
「使い方を教える人材を組合の方で用意してくれるなら何とかなるだろう。俺たちは職人だからな。作るのは担当しても良いが毎回使い方の説明で出張るのはしんどい。請負人ほど戦闘に慣れちゃいねぇしよぉ」
「人材はこちらで手配します。職人に戦闘までしてもらった今回の件が特殊なんですが、まだまだ拠点が発展途上なので難しいのです」
「まぁ、状況はわかっちゃいるが、もう少し防備に手を入れてほしいもんだ。木を取りに行くだけで命懸けってのはなぁ……。最初のエリアぐらいなら俺たちでも簡単に倒せるが、丘エリアやらを抜けるとなると厳しい」
「木材ですか……。もう少し依頼を増やすべきですね。乾燥させる必要もありますし」
回収船は上手くいった。
しかし、操作は作った職人だし、請負人は護衛に集中していたから、操作がわかっているのは乗り合わせた組合職員とその近くにいた請負人ぐらい。
いざ運用しようとしても毎回組合職員を引き連れる訳にはいかない。
恐らく講習か何かで使い方を教え、破損などが起きた場合は弁償する契約などを結ぶのだろう。
きっと。
ウチには関係ないので、話半分に聞いておいた。
「次に、見つかった防具についてですが、どなたか同様の装備、あるいは頭に着ける装備について情報のある方はいませんか?特にエルさん」
「ウチ?」
「はい。この中で1番沼地の宝箱を開けているので」
「う〜ん……。使わん物はあんま覚えてないからなぁ……。使い方わからん物とか全部アンリさん渡してるし」
話しながらアンリに顔を向ける。
ウチやシルヴィアが宝箱を回収しても半分はわくわく沼を見つけた人に、残り半分をウチらが貰える。
ただ、取り出しても魔石を入れる場所がわからなかったり、魔力を流しても動かない物は全部アンリに渡して好きにしてもらっている。
中にはそこから使い方がわかる物もあるけれど、いまだに使い方がわからない物もある。
ただの綺麗な石やトゲトゲがたくさん突き出た棒なんてどうすればいいのか。
ちなみにわくわく沼を見つけた人たちは、魔道具職人の工房に持ち込んだり、組合で過去の記録と照らし合わせたりする。
持った瞬間使い方がわかることなどないからだ。
「頭装備ある」
「え?!あるん?!」
「ある。家に置いてある」
「えー?ウチらが持ち帰ったやつやんな?なんかあったっけ?アンリさんは良い物やったら使い方教えてくれるけど、教えてもらってないということは使いづらいやつ?」
「そう。エルには使えないし、頭装備だけでは足りない」
「あ!あの顔全体覆う仮面っすか!被ると口元に突起がくるやつっす!そういえば呼吸できる仮面だったっす!」
「え?いつのやつ?」
「アンデッド迷宮行く前に獣人パーティと一緒に迷宮入って、風纏いの布と飛刃の剣と一緒に見つけた仮面っす。わたしたちとチャッキーさんのところで2つずつっすね。こっちから組合には提出してないっす」
「チャッキーさんから買取の依頼は出てないはずです……。少なくとも水中で呼吸できるようになる装備が組合に入れば話題になるはずですから」
シルヴィアが1つ使ったから持ち帰り、もう1つは魔道具の依頼をたくさんお願いしていたことへのご機嫌取りとしてアンリに1つ渡した。
チャッキーのところに渡る2つのうち1つぐらい組合に出すかと思っていたけれど、どうやら売らなかったようだ。
一応発見当時は組合職員いたけれど、同じタイミングで手に入った風纏いの布と飛刃の剣と一緒に報告されたことであまり話題にならなかったようだ。
仮面だけでは沼地に対応できないのも盛り上がらなかった一因だろうと職員が話を締めた。
「さて、そうなるとその仮面?ヘルム?の魔道具を売っていただきたいのですが……」
「ウチらが使ったやつ渡すのってどうなん?口に含んだやつやで?」
「別に洗えば問題ないんじゃないっすか?」
「誰かが使った物なんてそういう物」
「すごく汚れてたりしなければ問題ないっすよ。流石に目の前で使われた物を手渡されたら嫌っすけど」
「そういうもんか……」
ウチはたとえ綺麗に洗われていたとしても、おじさんが使ったやつは使いたくないけれど、2人はそこまで抵抗がないらしい。
他の請負人も目の前で口に含まれたものでなければ問題ないし、男同士なら水でさっと流せば使えるとまで言われた。
極論、命をかけて戦うのだから多少汚くても必要なら使えると答えられた。
そういう覚悟は大事だろうけど、固有魔法もあるから今じゃなくて良いだろう。
その時になったらウチでも使えるだろうし。
きっと。
「それで、売っていただけるのでしょうか?」
「シルヴィアは?」
「わたしは売っても良いっすよ。服も無いと使えないっすし」
「わたしも調べるのは終わったから売っても良い。これで2つ揃う」
「ありがたいです」
「調べるって何かわかったん?」
「素材。恐らく肌に張り付くのは沼地カエルの皮。魔力を流すと空気を出すのは草。どこで取れるのかはわからないけど、外で溜めた空気を魔力で押し出して出すような仕組みだった」
「へぇー。ヘルムの素材とかは?」
「わからなかった。ただ、代用品があれば魔道具職人なら作れるはず」
「ほう。組合に出す前に見せてくれねぇか?」
「どうすれば?」
「組合から提示します」
「それで構わねぇ」
売った後の話が進んでいく。
使用者2人が納得しているなら良いの交渉の席から離れ、武具の手入れをしているガドルフたちの方へと向かう。
ウチの仕事は終わったから、この後は帰るだけだ。
「あっちはいいのか?」
「話まとまりそうやったしええよ。ガドルフたちはこの後どうするん?狩り?」
「そうだな……。2人はどうだ?」
「わたしはもう少し魔物が柔らかいところで慣らしたいわね」
「俺もだな。もう少し使いこなしたいところだ」
「というわけだ。俺たちはここで受けられる依頼でもやるさ」
「ふーん。さっき組合の人らが言ってた木材の調達とか、肉や野菜の調達やな」
「森林方面か。獣も多いしキュークスの慣らしには十分だろう」
「そうね。鹿や猪だと良い相手になるわ」
「俺は木でも切ってみるか」
「それで?めちゃくちゃに慣れへん?」
「そんなヘマはしねぇよ。今までの斧でもできてたんだ。重さを増すタイミングを練習するのにちょうど良いだろう」
両刃の大きな斧を眺めながらニヤリと笑うベアロ。
刃に写った顔はやっぱり凶暴だった。
魔力を流すことで重さを増す仕組みはよくわからないけれど、ビッグ沼地ガニ相手に節を狙った一撃は、堅い殻を物ともしないとは言い過ぎだけど、以前の武器とは比べ物にならないほど重い音を立ててヒビを入れていた。
それを木に打ち込んだらどうなるか気になってきた。
「なんか楽しそうやな。ウチも行こかな」
「来るか?誰かが背負うか、シルヴィアも来させれば問題ないだろう」
「話が落ち着いたら相談してくるわ」
今はいくらで売るか話し合っているらしく、なかなか白熱して近づきづらい状態だった。
今のうちに食事を済ませようと食堂に向かい、カニスープと沼地ナマズの塩焼きを食べた。




