水中行動用軽鎧(頭抜き)
休憩所に戻ったウチらは、戦闘組の泥落としを待ってから宝箱を開けることにした。
罠解除の心得がある人が宝箱を確認した上で、念のためウチが開けることになった。
見たことがない罠が仕掛けられていたら困るからとのこと。
今のところ沼地から出てきた宝箱には罠がないけれど、一つ前の丘エリアなどで見つかる物の中には、開けたら矢が放たれるものや痺れ毒の粉が舞う物があるから注意は必要だ。
「ほんじゃ開けるでー。よいしょ」
大人1人が横になれそうなほど大きな宝箱を開けた。
蓋が重すぎたから、最初の持ち上げるところだけをウチが行って、何も起きないことを確認したシルヴィアが残りを持ち上げることになったけれど。
1人で開けるにはウチが入れるぐらいの大きさが限界だ。
「さてさて、これは何やろな?」
「服?にしてはツヤツヤしてるっすね。ところどころに金属っぽい何かが付けられていて、革鎧のようにも見えるっす」
「革鎧かー。この金属のせいで嵩張ってるんやろな。でかい宝箱やのに2つしか入ってへんやん」
宝箱の中には折り畳まれた服のような物が2つ。
つま先まで覆われたツルツルした素材のズボンに、お腹から指先に顎下まで覆われるこれまたツルツルした素材の上着。
肘や肩に手の甲や胸、膝やふくらはぎにつま先などは金属のような物が付いている。
触れても問題ないかまでをウチが確かめるため、触って持ち上げたりしている。
「やっぱツルツルしとるな。すべすべっちゅうよりツルツルやわ」
「どっちも手触り良さそうっすけど」
「すべすべは綺麗なお姉さんのお肌とか、綺麗にブラッシングされた馬の毛とかかな。ツルツルはおっさんの禿頭とか?」
「ツルツルに悪意を感じるっす」
「あー、カニや亀の甲羅とか?なんか湿ってる感じ?これは湿ってる訳やないねんけど、質感的にそういうのあるやん?そういう感じ」
「それならわからなくはないっすけど……。触っても問題はなかったっすか?」
「固有魔法は反応してへんし、問題ないで」
「わかったっす」
そう伝えても慎重に触れるシルヴィア。
取り出した服を組合職員と一緒に広げてみたり、何人かの体に当てたりと試している。
大きさは大人の男性分ぐらいで、人族の女性には大きく、獣人族には小さいようだ。
さらに獣人に関しては尻尾があれば、種族によっては角があったり腕や足の形状が太ましかったりと様々だ。
獣人は迷宮から出た装備品に尻尾用の穴を開けたり調整が必要となる。
その加工をした結果、装備の効果が弱まったりすることもある。
そういったことがあるため、この装備を獣人が使うことは難しいだろう。
「誰かに装備してもらって効果を確かめたいですね。組合の記録に該当する服や鎧はありませんでした」
触って確かめていた組合職員とは別に、分厚い羊皮紙を何枚も捲っていた職員。
組合で確認したことのある魔道具などの情報の一部が記載されているようで、持ち込まれていたのは出現数が少ない物が書かれているらしい。
よく出現する物は職員が覚えているため、珍しい物を中心に書き写してきたと説明してくれた。
その中には載っておらず、また触った感想から導き出せる装備もない。
よって、誰かに使ってもらわなければ効果がわからないことになる。
躊躇する請負人に対して追加報酬を出すと伝えた瞬間、1人の男が手を挙げた。
「俺がやろう。この迷宮で出たんだ。使える装備かもしれない」
「確かに迷宮に適した物が出ているという統計はありますね。使えるなら貸出品に入れても良いかもしれません。では、よろしくお願いします」
男が着替えに小屋へと向かい、破損しないか確認するために男性職員が同行する。
男の着替えを監視しないといけない仕事に涙を禁じえない。
そして、着替えるにしては結構な時間をかけてやってきた男は、ピッチリとした服に剣と盾を持ってやって来た。
元から装備していた革鎧やブーツなどは、肘やらを守っている金具のせいで付けられなかったらしく、ヘルムは服に合わなかったらしく鎧と一緒に部屋に置いてきたらしい。
・・・見た目変態っぽいもんな。騎士が着けるって聞く鎧下も結構ぴっちり目らしいけど、ここまで体のラインはでぇへんやろ。これで街中歩いてたら兵士に止められるやろな。生地が黒いからテカってて不気味やし。
「ぶほっ!なんだそれ!ピチピチじゃねぇか!」
「駆け出しでもそんな部分防御だけの装備なんてしねぇぞ!」
「動きにくそうだなぁ!」
「いや、それがめちゃくちゃ動きやすいんだ!なんというか、服に引っ張られないというか、すごく伸びる素材だったから、着るのに時間がかかったけど、動くのに支障はないぞ」
「へぇ。軽く動いてくれよ」
「わかった」
着替えた男が自身のパーティメンバーに、笑われたり揶揄われていた。
見慣れない格好に他の人も凝視していたり目を逸らしている。
ウチは凝視する方でシルヴィアは目を逸らす方だった。
「んで、これからどうすればいい?」
「まずは魔力を流してみてください」
「おう。……なんかすげー流れやすいな。動きも阻害されない。ただ、硬くなったりするわけではないようだぞ」
「アンリさん、どうですか?」
「表面を覆うように何かが出ている。触っても?」
「いいぜ」
「エル」
「ウチかい。ええけど、固有魔法反応してへんで」
言いつつも要望通りに触ってみる。
触った質感は着る前と同じだけど、触れた手に対して風が纏わりついているような、そよそよと流れているような、でも風ではない何かというわからないことになっていた。
それを伝えたアンリも触り、組合職員も触りと続いていくけれど、不思議な感覚に全員が首を傾げる。
小石や砂を投げると表面を滑るように流れることから、重くないものや細かい物を受け流す効果があるのではと推測された。
手のひらサイズの石だと、少しだけ流れた後体に当たる程度の効果だけど。
「これで何をすればいいんだ?」
「とりあえず沼地に入るか?」
「あー、やっぱそうなるよな。でもその前に水を弾くかも確かめさせてくれ」
「慎重だな」
「普段使ってる防具なしで沼地に入るんだぞ?それぐらいしても足りないぐらいだ」
「それもそうか」
追加で水を流した結果、表面に触れないように流れたことで、生地は濡れなかった。
若干ウチの固有魔法とかぶってる気がしないでもないが、ウチの方が色々弾けるから便利さでは勝っている。
着るだけと背負う必要があるでは使い勝手が違うだろうけど、効果で勝てば良い。
なぜ競っているのだろうか。
「じゃあ入ってくるわ。魔物は任せた」
「おう」
「気をつけろよ!」
「やばくなったら手を上げろ!誰かが助けてくれるから!」
「そこは俺が助けるぐらい言えよ!」
パーティ内で盛り上がりながら沼地へと足を進めていく。
周りをパーティメンバーで固めて、ウチはシルヴィアに背負われていつでも出れる状態に。
そうして全員で眺めていると、男は何の抵抗もなくお腹まで沼地に入り、さらに突き進んでいく。
「動きがほとんど阻害されない!これなら沼の中でも戦えそうだ!……いや、武器は効果の対象外だな。抜いた剣が重くなってる」
「探索には使えるということか?」
「そうだな。若干泥を押し除ける感じはするが、素手やいつもの装備の時と比べると動きやすさが桁違いだ」
どうやらあの服は水中行動を補助する効果があるようだ。
体の形のせいで獣人には使えず、魔力を常に流す都合上、魔力の多い人限定の装備になるけれど。
問題は。
「顔が覆われてねぇから中は見えないし、そもそも効果がかかってないから沈めるのにやたら抵抗を感じるぞ。体に負担がないせいだな」
「それ、どこかに顔用の装備でもあるんじゃないか?」
首までは服のおかげで動きやすくても、顔は覆われてないから泥を避けられないらしい。
他の人が言っているように別の魔道具があるかもしれないけれど、それなら一緒に出してほしい。
同じことを考えた人が多かったようで、みんな口々に一緒に出せと呟いていた。




