キラキラした女の子
–アンリ–
エルがお腹の音を鳴らしながら去っていくのを見送った。
恥ずかしがらずに悠然と歩いて行くところは子供っぽいと思う。
「アンリ、ちょっといいか」
「なに?」
「相変わらずの人見知りだな。そんなのでやっていけるのか?怒られてると思ってるんじゃないか?」
「……一理ある」
わたしも昼食に行こうとしたところをハロルドに呼び止められた。
子供とはいえ今日会ったばかりの人と一緒に食事を取るなんて無理だから、一人で食べようと思ったらこれだ。
父の友人だから多少はマシだけど、もっと小さい時の自分を知っている面は苦手だ。
「それで、あの子はどうだ?」
「キラキラしてる」
「キラキラ?髪の色の話か?」
「違う」
確かに綺麗な金色の長い髪は、陽の光を受けて煌めいていたけど、わたしが見ていたキラキラはそれじゃない。
「魔力が光ってた」
「魔力?あぁ、失ってから見えるようになったんだか」
「消費が激しいけど」
魔法の影響で目を失ってから使えるようになった、視界の魔力を見る魔法だけど、固有魔法ではない。
肉体の強化を突き詰めた人たちがたどり着くらしい。
失った目のことに対して荒れているうちに発動できるようになったけど、中途半端に習得したので効率が良くない。
それでも魔力は見れるし、エルの周囲を常に漂っている魔力はとてもキラキラしていて綺麗だ。
父から聞いた通り背中から魔力が漏れ出ているので、小さな羽が生えているように見える。
その魔力が体の周囲を巡り、攻撃した時や守る時に寄り集まって効果を発揮していた。
「そういうもんだったのか。あれを突破するには手数か一撃の威力だな。それに、見習い達への説明会で脅しの殺気を放ったのに平然としていた。物理以外にも適用されるとはなぁ」
「魔法にも発動するはず」
物理に加えて殺気のような気迫にも対応できて、魔法に対応できないわけがない。
そもそもが魔力なので、一番魔法に対して効果を発揮するのが自然だ。
「ほぅ。お前ならいけるか?」
「無理。魔法、毒、物理が効かないし、手数で押してもあの魔力は無くならない」
わたしの戦法は今言った3種類。
ナイフで斬る、刺す、投げる。
目の位置から魔力を放って相手に無理やり隙を作ったり、属性の魔法石を通して攻撃魔法を使う。
後は麻痺薬や毒薬、砂を詰めた袋を切り裂いて相手を怯ませたりする。
そのどれもあの魔力を突破できる気がしない。
ただの壁に攻撃しても無駄だからだ。
「無くならない?攻撃すれば魔力は無くなるだろ。時間をかければ破れるはずだ」
「攻撃を受けてもほとんど減らなかったし、新しい魔力が追加されていた」
「固有魔法はそういうものなのか」
ハロルドが想像したのは魔力を壁にする防御魔法のことだろう。
その魔法は一度発動しすると、後から追加で魔力を流しても表面を覆うことはできても強化はできない。
熟練者はエルのように自分の体の動きに合わせて動かせるようにもできるらしいけど、エルの魔法は次元が違う。
「それじゃあ、あの子をどう育てて行くつもりだ?体力、足の速さ、腕力全て最下位で身体強化もできない。いくら固有魔法で傷つかないにしても、少しばかり特殊すぎるぞ。俺ならマンツーマンでも厳しい」
「接近戦特化では厳しい」
でも、絶対に帰ってくる斥候、傷つかない前衛と考えればやりようはあると思う。
危険地帯の調査もそうだ。
エルにしか行けない場所、採取できない物があれば、それだけで請負人としては成功だ。
わたしが魔力を見れるようになったおかげで、相手の魔力の流れを読んで攻撃できるようになったように、強みを活かす方向で指導していきたい。
外で活動するのに足並みを揃えるのが難しいなら、進む速度に注意しないといけない迷宮専門になるのもいいかもしれない。
体力と腕力には気を使う必要があるだろうけど、それはパーティメンバーで助け合えばいい。
「今のところ攻撃は面でやりたい。線や点は技術を習得できない」
「例えば?」
「小ぶりなハンマー?」
「なるほど。技術はそこまでいらないし、当たる範囲を大きくするのはいいと思うぞ」
剣の振り方を教えるよりも、面の部分を当てるだけなハンマーの方が最低限振るだけなのでいい。
軽さなら刺突剣かもしれないけど、突き刺すのは思ったよりも難しく、角度を間違えれば手首を痛める。
あの固有魔法で手首を捻ったりしないかもしれないけど、自分のミスは対象外だったら困る。
そういえばランニング後に地面に倒れ込んでいたけど、服すら汚れていなかった。
自分からでも発動する?
だとしたら刺突剣はどうなる?
どちらにせよ取り回しとメンテナンスに技術がいるから、今のエルには無理だ。
「考えがあるようだし任せられそうだな。まぁ、がんばれや」
そう言ってハロルドは、わたしの頭を軽く叩いて訓練エリアから出て行った。
すぐ子供扱いするのが、幼い頃を知っている大人らしい。
父は子供相手なら人見知りも大丈夫だろうと言っていたが、あの子は違う意味でやりづらい。
物怖じせず眼帯のことを聞いてきた上に、固有魔法関係なしに瞳が輝いていた。
・・・話し方といい、ちょっと変わってる子なのかもしれない。
考察も落ち着いたので、昼食を取ってからハンマーを探してみよう。




