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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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279/305

お手紙3通

 

 皮剥き道具を注文して、素材の売却やらお土産を色々な人に渡してから、屋台に出て過ごした翌日には、迷宮へ潜るための準備をした。

 そうして迷宮に潜ってわくわく沼をいくつも調査して、宝箱だったり宝袋だったり、よくわからないガラクタだったりを回収していると、徐々に暑くなってきた今日この頃。

 迷宮から帰って樽風呂に入ってのんびり過ごしていると、誰かが尋ねてきたようで正面側でがやがやとした何かが聞こえた。

 家にいる人が対応するはずだから、そのままのんびりと肩まで浸かって温まる。

 しばらくしたら樽から出て、水をいらないと考えると固有魔法が一気に弾いてくれる。

 それでも温まったことで汗が吹き出してくるから、拭きながら家に入った。


「誰が来たん?」

「請負人っすね。依頼で手紙を届けにきてくれたんすよ」

「手紙。誰に?」


 シルヴィアがひらひらと受け取った手紙を振る。

 この家で生活している人の中で手紙を受け取る可能性があるのは、父親であるサージェとやりとりしているアンリ。

 あるいは、請負人登録した街でお世話になった宿屋の娘であるポコナへとレシピやら何やらを送るので、たまに返事の手紙をもらうウチくらいだ。

 獣人組は故郷に手紙を出さないし、シルヴィアも故郷から出て請負人として生活している。

 ミミは生まれた街すら知らない。

 そんなウチらが暮らす家に手紙が3通も届いた。

 アンリとウチに1通ずつだとして、もう1通はどこかの貴族からレシピを教えろと依頼でもきたのだろうかと頭を捻りつつ、寝巻き用の生地の薄い服に着替えてから裏面に書かれている差出人を確認した。


「えーっと誰からや?これはエリザさんから、これはナーシャさんから、これは……アドルフ・メイズ・セントレイシア?誰やこれ。メイズやから迷宮伯の誰かか?」

「セントレイシア?!今セントレイシアって言ったっすか?!」

「せやけど……。なんなんその反応、有名な人なん?」

「あぁ、エルはまだ子どもだから知らないんすね。確かに教えてもらう以外だと知る機会ないっす。えっと、セントレイシアは大迷宮のある街っす。そこでメイズと付いているならセントレイシアの領主、つまり大迷宮伯っす」

「何て?」

「大迷宮伯っす。ここ迷宮王国で国王様の次に偉い人っすね」

「はぁー?!なんでそんな人がウチに手紙送ってくんねん!おかしいやん!」

「そうなんすよ!だからわたしも驚いたっす!」


 2人で手紙片手にぎゃあぎゃあ騒いでいると、魔道具をいじっていたアンリからうるさいと怒られた。

 そして集中が切れたからと騒ぎの理由を聞き、少しの間固まった。

 珍しい。

 獣人組は街の外に出る依頼を受けて留守、ミミは屋台の運営に関する勉強のためにまだ帰ってきていないから、3人で手紙を確認することにした。

 まずはエリザとナーシャのものから。

 ウチは辛いことと好きなものは最後にするタイプだ。


「エリザさんはお礼とウチの魔石の注文やな。あとさりげなく勧誘されてるけど無視や」

「魔石はお風呂や飲み水を作るのに使ってもらったから結構貯まってる。でも、アンデッド迷宮に優先して送るからもう少し貯めたい」

「せやな。エリザさんより迷宮が溢れへん方が重要や」


 とても綺麗だけど、なんかオシャレでムカつく装飾のある字で書かれていたで少し読みにくい。

 丸まった部分に不要なちょんちょんや、書き出し部分に黒い丸を付けたりと、読めるけれど見慣れないせいで違和感がすごい文字だ。

 内容はアンデッド迷宮でのお礼に加えて『よければわたくしの団に入りませんか?』という勧誘に、エルさんの魔石を20個ほど購入したいというものだった。

 ちなみに手紙には『ですわ』がない。


「ナーシャさんの方は勧誘は無いな。でも、報酬として譲れる魔道具の一覧があるわ」

「見せて」

「ほい。なんや大きいもんは送られへんから、取りに行く必要あるみたいやで。送り出す側としては道中壊れたり盗まれた時の責任まで負いたく無いとかやろな」

「それはあるっすね。迷宮王国内は山賊やら海賊やらの賊はそこまでいないっすけど、0ってわけじゃ無いっす。護衛のいない荷馬車やら、やたら大きな荷物を運んでいたら狙われる可能性が上がるっすね」

「はぁー、なんで盗賊なんかになるんやろな?」

「食い詰めて仕方なくっていうのは弱いんですぐしょっ引かれるっす。一部の迷宮を除いて、迷宮都市近くまで行ければ食べ物には困らなくなるんすけどね。他には他者から奪うことで楽に稼ぎたいとか、人が苦しんでいるところを見たいだとか、普通に暮らしていたら手に入らないものが欲しいとか色々っすね。基本的に自分中心の考え方から人に迷惑をかけゴミの集まりっす」

「すごい言い草やな……。なんかあったん?」

「少し前に盗賊を討伐する騎士団の雑用依頼で色々見たり聞いたんすよ。エルは関わらない方がいいっす」

「進んで関わりたくはないなぁ……」


 例え固有魔法で傷つかないとしても、人同士の殺し合いは見たくないしやりたくない。

 移動している時に襲われたとしたら、問答無用でハリセンで叩いていこうと決意した。

 ウチとシルヴィアがちょっと気分が下がる話をしている間も、アンリは魔道具の一覧を集中して読んでいた。

 しばらく戻ってこなさそうだから、残る一つの1番重要そうな手紙を手に取る。

 羊皮紙を綺麗に折りたたみ、大きな葉で作った入れ物に封蝋で止めるのは他2通と同じ。

 封蝋にやたらごちゃごちゃした印を使っていて、署名は男の人なのに綺麗で読みやすい。

 封蝋をアンリの薄いナイフでぺりぺりと剥がし、中身を取り出す。

 封蝋は記念品としてウチの宝箱行きである。


「えっと、何々……。お礼と大迷宮都市へきた時に便宜を図ったるちゅう内容やったわ。できれば一度顔出せとも書いとるけど、そこはあんまり興味ないというか、のこのこ行ったら便利に使われそうで嫌やわ。貴族怖いし、緊張する」

「それはそうっすね。わたしが貴族で迷宮を管理する側なら、どうにかしてエルを手元に置きたいっすよ。置けなかったとしても自分の治める街で活動してほしいっす」

「ウチでもそう思うわ」


 手紙の内容は、氾濫した迷宮の対処に尽力したことに対して迷宮を治める者の長としてのお礼、その手腕や固有魔法についての言及、ナーシャとエリザから褒められていた報告。

 他にも、大迷宮都市を訪れた時に迷宮伯の屋敷か騎士団詰所までこの手紙を持ってくれば、宿や家を優遇するという記述や、一度固有魔法を見てみたいという貴族的な的を得ていないけれど意味がわかる遠回しなお誘いが書かれていた。

 しかし、こちらは貴族ではないから、書かれている言葉通りに対応する。

 所謂(いわゆる)機会があればというものだ。


「とりあえずエリザさんとナーシャには返事を書くとして、迷宮伯にはどうしたらええんやろか」

「お礼とタイミングが合えばで良いっすよ。たぶん。困ったら組合に助けてもらうっす」

「せやな。明日行ってみるわ。とりあえずウチらの中でどう対応するか決めてからやけどな」


 ガドルフたちが帰ってきたら、手紙を見せて返事の内容を相談する。

 組合が返事を出さなくても良いと判断してくれたら楽だけど、相手は貴族だから失礼のない文章を用意してもらわないといけないだろう。

 本当に面倒なので、関係のない人から手紙は貰いたくない。


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