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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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278/305

ウルダーへ帰還、そしてまた迷宮へ

 

 何日もかけて、日が沈みかけている時間にウルダーへ戻ってきた。

 長い間馬車に乗っているせいで、なかなかに疲れた。

 それでも固有魔法のあるウチはまだマシで、ミミとシルヴィアはお尻をさすっていたり、途中から獣人組とアンリは走ったりと散々な状態だ。

 他の請負人たちも同様で、馬車に布を多めに持ち込んでクッションにしている人でも疲れが見える。

 整備された道でも揺れるのが悪い。


「迷宮から取れる素材使って、揺れへん馬車とか造られへんのかな?」

「お貴族様の馬車にはいろいろ工夫されてるっすよ。その分高い上に素材が回ってこないっすけど」

「はー。それはしゃーないか」


 良い物は貴族から広まる。

 金の力で横入りできることもあるけれど、そんなことをすれば貴族から睨まれるし、場合によっては嵌められて破産、逆鱗に触れれば首を刎ねられることもある。

 どうしても必要であれば貴族に相談のうえ、いくばくかの心付けと共にお伺いを立てて上手く立ち回らなければならない。

 良い馬車を個人、あるいはパーティで所有する必要はないから、今のところは布を重ねて我慢するしかない。

 皆んなが。


「今日は全員ゆっくりするだろ?俺は組合に報告してくる」

「わたしはゴロゴロしているわ。エル、毛繕いよろしく」

「ええで」

「俺は酒だ!軽く飲むぞ!」

「ええで。いっぱいあるし」

「わたしは魔道具をいじる」

「わたしは部屋の掃除とかっすね」

「ミミは屋台の様子を見てくるんだよ!」


 家に着いたら荷物を置き、それぞれやりたいことのために散っていった。

 家の掃除は屋台のために雇っている孤児の子たちが軽くやってくれているけれど、高いところなどは身長のこともあって甘い。

 掃除も毎日行われているわけではなく、帰ってきた時点では少し埃が積もっているところもあるため、シルヴィアが掃除を開始した。

 外出するガドルフとミミを見送って、布張りのソファに寝転んでいるキュークスに近づき、お気に入りのブラシ受け取って毛繕いしていく。

 ウチがすることで細かな汚れが固有魔法で弾かれるため、自分でやるより綺麗に仕上がる。

 それをベアロがお酒を飲みながら眺めているのは良いのだろうか。

 キュークスも服は着ているから変なことにはなっていないけど。


 ・・・そもそも獣人は服脱いでも毛皮あるしどういう扱いなんや?人やから服脱いだらあかんのか?お風呂でも毛皮がびっしょりになるし、全然裸って感じがせぇへんねんなぁ。


 気になったから2人に聞いてみたら、判断は普通の人と同じだと返ってきた。

 男なら下半身、女なら胸と下半身が露出しなければ問題ない。

 異なる獣人だと興奮しないから、仮にキュークスが服を全部脱いでもベアロとガドルフは興奮しないそうだ。

 むしろ獣人に興奮できるのは人族だけらしく、2人は怖い怖いと話しを終えた。

 そうしてしばらく、掃除を終わらせたシルヴィアがお茶を入れてくれて、まったりと過ごしているとミミを連れてガドルフが帰ってきた。

 どうやら組合帰りに屋台街へと行き、夕食を買って帰ってきたようだ。

 2人とも沢山の料理が乗った大きなお盆を持っている。

 馬車移動の後だから料理をしなくて済むのは助かるだろう。

 主にミミが。


「食事だ」

「おおきに」

「それとエル、お前に指名依頼があるそうだ」

「ウチに?またどっかの迷宮?」

「いや、沼地の宝箱回収だ。以前儲けているだろう?」

「あー、わくわく沼か。シルヴィアさんと一緒に行くわ」

「そうしてくれ。俺たちも沼地ガニや沼地エビを狩に行くつもりだ。同意を得るのはこれからだがな」


 移動も含めると2月ほど留守にしていたから、わくわく沼が結構見つかっているそうだ。

 水中行動ができる獣人によっていくつか取得しているけれど、大きな(いかだ)を作って請負人を乗せ、長い棒で沼地を突いて探す方法も運用され始めたとか。

 1人が(いかだ)に魔力を流し続ける必要があるけれど、迷宮内で取れた木材を使えばある程度運用に耐えられる。

 しかし、見つけても沼の中で動けないことから、回収方法については後手に回っているため、ウチや獣人に依頼が来ることになる始末。

 早いところ回収する手段を構築してほしい。


「ベアロとキュークスも良いか?」

「いいわよ。馬車旅で退屈していたし、思いっきり体を動かしたいから草原で暴れるわ」

「俺もこの斧を試したいからいいぞ。ようやく手に馴染んできたところだから、カニ相手にどこまで有効か楽しみだ」


 ニヤリと笑うベアロとキュークス。

 顔は普通のクマと狐だから、知らない人が見たら人を襲う寸前に感じるかもしれない。

 そんな2人は新しい武器を試したくて仕方がない状態で、ベアロは魔力を込めると重さを変えられる両刃の大きな斧、キュークスはアンデッドドラゴンの骨を幾つものヤスリを犠牲にして削り出した真っ白な(こん)となっている。

 2人とも食魔植物との戦いに加わっていたけれど、花に斧を叩き込んだベアロはともかく、殴ることに特化した(こん)のキュークスは、(つる)を巻き取って引き千切るぐらいしかできていない。

 沼地ガニは硬くて大きいから、試すのにはちょうど良いようだ。

 美味しいし。


「とりあえず明日は1日休み、翌日迷宮へ入る前の準備、さらに翌日迷宮だな」

「休みは大事だな!」

「帰ってきたことを知り合いに伝えないといけないわね」

「戦利品を売ったり、お土産に渡したりもしないとダメっすね」

「皮剥きの注文もやな!」

「ミミは食材の買い出しと屋台の準備なんだよ」

「そういや屋台どうやった?」

「問題なかったんだよ」


 屋台は雇っている孤児院を運営する商会にもお願いしていたから、問題なく運用されていたそうだ。

 むしろ仕入れの仕方や在庫管理などを教えられ、以前より上手く回っていたぐらい。

 今度はミミとウチがそれを教えてもらうべきだろう。

 そうして夕食を済ませたら、樽風呂に入って寝た。

 固有魔法でお尻の痛みはないとはいえ、移動は疲れる。


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