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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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277/305

皮まで美味しい新鮮野菜

 

 依頼者に確認した結果、野菜も花も持って帰っていいと言われた。

 もちろん依頼料もだが、村にはあまり現金がないため、肉や野菜の現物払いで済ませた。

 素材を売ればある程度金になるだろうと請負人たちが言ったからだ。

 貰った野菜は喜んで種類ごとに木箱へ収納し、馬車に積み込んで翌日、ウルダーへ向かう馬車の中で魔物化した野菜を味見をすることにした。

 ウチとミミでにんじんを分けて食べる。

 洗うのに使ったのはウチの水だ。


「かった!え?めっちゃ固いねんけど!」

「魔力が満ちてるんだよ。ミミが切るんだよ」

「任せるわ。えー、魔物化したらこんな固なるんか。そりゃ請負人呼ぶわ。殴られたら相当痛いでこれ」


 負傷人が後ろに下げられるわけだ。

 念のため持たされている解体用ナイフで切ろうとしたけれど、皮に薄らとした傷すら付いていない。

 そんなにんじんにミミが身体強化に加えてナイフにまで魔力を込めて頭と先っぽを切る。

 それでもストンと切れず、ぐぐっと押し切るようにだった。

 その後皮を削るように角度を変えてナイフを走らせ、ようやく食べられるようになった。

 いつも食べているにんじんより若干色が濃い気がするけれど、普段よく見ていないから気のせいかもしれない。

 そんなにんじんを口に咥え、思いっきり噛み切る。

 ゴリっと音がした。


「かった!うわ味濃い!青臭さない!でも固い!甘いなこれ!すごいわ!固いけど!」

「美味しいんだよ。甘みが強くてにんじんの苦味がすごく少ないんだよ。風味も良いし味がはっきりしているから口の中に結構残るんだよ。これは火を通したらどうなるか気になるんだよ」

「サラダじゃないん?」

「サラダでもいいけど、主張が強すぎるから他の野菜が負けちゃうんだよ。レタスやキャベツも魔物化してたら一緒に出せるんだよ」

「残念ながら大根と白菜やな」

「その2つだとスープが妥当なんだよ」


 バリバリと身体強化した口でにんじんを齧るミミ。

 ウチが食べるよりも圧倒的に早い。

 そんなミミが発した言葉を吟味していると、食べ物が頭に浮かんだ。

 スープのように野菜を入れるものだけど、煮立てて終わりではなく出汁で長時間煮込むことで味を染み込ませるものだ。

 お婆さんの屋台で出ていた煮込みに似ているけれど、思いついたのは食材をあまり細かく刻まずに出汁を染み込ませる料理となる。

 名前までは思いついていないけれど。


「ん?ミミ何してるん?」

「皮を集めてるんだよ」

「捨てるからか」

「違うんだよ。前に魔物になった野菜は皮まで美味しいって聞いたことがあるから試してみるんだよ」

「皮までー?嘘やろそれー」


 言いながら、ミミが集めた皮を1つ摘んだ。

 削ったから細かい破片になっているけれど、にんんじんの皮だと認識できる色味だった。

 それをウチの水で軽く洗ってから振って水気を飛ばし、口に放り込む。

 剥いた実よりも少し柔らかく、甘みは抑えめだけれど普通のにんじんよりも十分濃厚。

 惜しいのはナイフで削っているから形が微妙で食べづらいところ。

 それでもピクルスの騎士教えてもらった酢漬けにしたり、細かく砕いてパンにかけたりと色々思いつけた。


「確かに美味い。美味いんやけどボロボロなんがなー」

「ナイフで削ったから仕方がないんだよ。風の刃とかで綺麗に切れるかもしれないんだよ」

「ふむ。野菜の皮を剥くための魔道具か」

「薄い刃物で十分。魔道具にすることじゃない」

「確かに。アンリさんの言うとおりやな。わざわざ魔道具にするのはちゃうわ」


 話を終えて暇になったから、皮剥きの道具を考える。

 腕を組んでそれっぽい姿勢になったけれど、肩が突っ張ってる気がする。

 やめた。

 皮剥きは、家や屋台でする時は包丁があれば問題ない。

 想定する使うところは馬車で移動する時の野営や、迷宮の中で調理する時だ。

 そう考えるとあまり嵩張る物は持っていけないし、包丁のような刃物は鞘に入れるか刃部分を布で包まないと危ない。

 そうなると嵩張(かさば)るから、できれば小さくまとまっている方がいい。


「んー。なんか皮剥く道具ってないかな。野菜じゃなくてもええねんけど」

「獣や魔物はだいたいナイフで解体する」

「皮が薄かったり、取りたい部位が小さかった場合は?」

「持ち手から刃先まで小さくて薄い精密用ナイフがある。皮を摘む小さな補助具も」

「なるほどなー。他に皮剥かなあかんやつってなんやろか……あ。木は?切り倒した後皮剥かな家建てるのに使われへんやろ?」

「あー、木の皮とは違うんすけど、切った面を整えるのに(かんな)っていう道具があるっすね。木の皮は斧で叩き割っているはずっす」

「ほーん。その(かんな)っちゅうのはどういうやつなん?ウチでも使える?」

「エルには無理っすね。こう、木の箱の下に薄い刃物が付いていて、グッと力を込めて木の面を滑らせると、薄く切って木屑が上から出てくる感じっす。昔は砥石とかで磨いていたそうっすけど、確か海洋国家群の方から入ってきた道具っすね」

「ほうほう。それを改造したら野菜の皮剥けるかな?」

「んー……刃を表面に出して、それの上に野菜を押し付けながら滑らせればできるかもしれないっす。ただ、勢い余って怪我とかしそうっすよね」

「怪我はナイフでもするやろうけど」

「勢いが違うっすよ。こう、グッと力を入れて前に進むか手前に引っ張らないといけないっす。酷い時には指が飛ぶんじゃないっすかね。ナイフならざっくり切る程度っす」

「あー、それはあかんな。(かんな)だけに」

「うわ出たっす」

「うわは酷ない?」


 話を聞いていたミミにくすくす笑われた。

 キュークスも口角が上がっているし、アンリは視線をこっちに向けていない。

 ウチの(かんな)ネタが受けたのか、シルヴィアのツッコミが受けたのかはわからないが、勝ちは勝ちだ。

 ミミの笑いが落ち着いたら、シルヴィアの言う(かんな)の作りを変えた道具を想像して、木箱の上で野菜を滑らす動作を試した。

 (かんな)がわからないから想像になるけれど、そこは現物を知るシルヴィアの言うとおりに動いてみた。

 そうすると、木箱が固定されていないこともあって体ごとズレたり、手前に引っ張ったりした時に木箱が自分に飛んできたりと非常に危なかった。

 ミミとアンリも同じ意見で、発想はいいけれど危険だから発注するなと釘を刺されてしまう。


「うーん……。固定できれば使えそうやけどなぁ」

「迷宮や野営で使う時に固定具まで用意するのは面倒っす。物が増えるっすよ」

「せやなぁ……。こう、手持ち出来へんかな?薄い刃をこんな感じでシャシャってする感じ」


 小さなナイフで野菜の表面を撫でるのを想像して手を動かした。

 野営で使うナイフが分厚いから使いづらいだけで、薄い刃物であればできそうだ。


「難しいっすね。刃物を薄くするだけで結構手間がかかるっす。それに耐久性が落ちるっすね。アンリの投げナイフは2、3回投げたら厳しいっすよね?」

「そう。木や獣ぐらいならもう少し使える。魔物相手だと当たりどころによっては1回でも折れる」


 そう言いながら投げナイフを出してくれた。

 たまに手入れしているところを見たことがあるけれど、しっかりと見るのは初めてだ。

 持ち手の太さはウチでも問題なく握れるほど細く、一応両刃と言える刃部分は薄くて細長い。

 切るよりも突き刺すことに特化してそうなナイフで、アンリは徐に魔物化していたにんじんに突き刺した。

 そして折れた。


「え?こんな簡単に折れるん?」

「魔力をあまり流せないから」

「ナイフが小さいから?」

「それもある。あとは材質。普通の鉄などはあまり流せない。魔物素材を混ぜれば流れる量も少し増えるけど、このサイズではそこまで変わらないからお金の無駄」


 つまり、ただの鉄だけで作ったということだ。

 その結果、耐久性が低いこともあってにんじんの魔物に負けている。

 このナイフ使い道あるのか気になった。


「基本牽制。自分に向かって何か飛んできたら警戒する。特に顔や目を狙うといい。後は木に登る時の足場にもなる」

「直接倒すのには使わへんねやな」

「投げたら魔力が抜けるのも理由の一つ」


 投げる前までての中にあるから魔力で強化できても、投げた瞬間から流すことはできなくなるためどんどん抜ける。

 その結果、身体強化して投げつけただけになるのが投擲武器らしい。

 弓なども同じだけど、抜け切る前に刺さればいいし、物が大きくなると素材を多く混ぜられるから投げナイフよりは戦える。

 場合によっては魔石で(やじり)を作ることもあるそうだ。


「魔石で薄いナイフ作ったらええんちゃうん?魔力流しやすいし強化もええ感じにできるんちゃうん?」

「無理。まず、魔石は元がそれほど硬くない。魔道具を作る際に粉にしたり溶かしたりできるほど。次に、ナイフの刃を作るほどの大きな魔石は地下30階や35階の階層主の物。非常に高価になる」

「そんな物を野営で皮剥きに使っていたら周りから正気を疑われそうっすね」


 シルヴィアがケラケラと笑う。

 魔石で作ったナイフで戦うわけでもなく、野菜の皮剥きに使っていたら何してるんだとなるだろう。


「うーん。手に持って使えるのが良さそうやねんけどなー。こう持って引っ張ったら皮が剥けるみたいな感じ」


 にんじんを左手に持ち、右手を表面に沿って手前に引く。

 実際に動きを考えると何か思いつくかと試した行動だったけれど、上手いことひらめきに繋がった。


「せや!持ち手があって、その先に内向きに(かんな)の薄い刃を斜めに固定したら、向いた皮が奥に出ていくんちゃうかな?」

「あー、作り次第ではいけるかもしれないっすね」

「せやろ!ウルダー着いたら作ってもらいにいくわ!」

「わたしも着いていくっす」

「よろしゅう!」


 着いた後のやることが増えた。

 思いついた料理もミミに伝えたけれど、これ以上手を広げるのは嫌だと渋い顔をされる。

 でも、なんだかんだ言いながらも家では作ってくれるのがミミだから、期待はしておく。


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