魔物野菜の使い方
「誰かあの植物について知っている人はいるか?予想では食魔植物系の魔物で、魔力のあるものを食して成長するタイプの魔物だ」
「組合の資料で読んだことはあるっすけど、詳細は覚えてないっす」
シルヴィアは薄らと覚えがある程度。
他の請負人も首を傾げて考え込み、アンリとキュークスは話し合いながら知識をすり合わせている。
ベアロはぼーっと蕾を見ていて、ウチも横で同じようにしている。
頭脳労働担当ではないから。
・・・あ、ちょうちょが蕾に食われた。蕾やのにちょっと伸びたで。
「あのー、自分もしかしたら心当たりあるっす」
「今はどんな情報でもいい。教えてくれるか?」
「もちろんっす!」
声を上げたのはシルヴィアと同じような口調で話す、まだ若い青年だった。
見習いの中で筋が良かった子に目をつけ、見習い卒業と同時に声をかけてパーティに入れたそうだ。
そんな青年は林業が盛んな村出身で、青年がウチぐらいの時に森の中にある花畑付近で同じようなことが起きたらしい。
村からそこまで離れておらず、一面に咲く花畑は村人の癒やしの場所となっていて、家族連れでピクニックに行く場所だった。
それがある日一面枯れ果てたかと思えば、離れたところに大きな蕾が鎮座していて、その根元には枯れたはずの花が少しだけ咲いていた。
せっかくピクニックに来たのだからと近づけば、今回と同じように蔓が襲いかかってきたことで魔物だと判断。
近くの街に請負人の派遣依頼を出して、日々村人が監視することに。
そうして請負人が来るまでの数日、子どもは村から出れなくなり、伐採も念の為反対方向へと向かう。
野生の獣や魔物に襲われにくいよう木の上に監視できる場所を作り、持ち回りで蕾を見ていると、時たま香りに釣られたのか草食動物がやってきて捕食される。
蔓を動物の体に刺し込んで血を撒き散らし、血の匂いで肉食動物を呼び込んでは同じように捕食する。
そして、大型の魔物が現れたときは、根本の花も動き出して数の暴力によって倒していたそうだ。
そうして大量に捕食した蕾は日に日に大きくなり、木に蔓を巻き付けて森の奥に移動して行った。
その情報を請負人に伝え、森の一部を焼き払うことで根本の花と蔓の大半を消し炭にして、時間をかけて切り刻んで倒したそうだ。
青年は直接見ることはなく、親世代が宴会で盛り上がるたびに同じ話を聞かされてうんざりしたそうだけど、今の状況に似ているからと意を決して話してくれた。
「助かった。情報感謝する。全員彼の話は聞いたな。一旦今の話を前提に考えるぞ」
「間違っているかもしれないっすよ!」
「その時は頑張って対処すればいい。少なくとも今は蔓で攻撃されること、捕食されそうになったこと、切られた蔓を捕食していたこと、根元に恐らく野菜の魔物か何かが埋まっていることしかわからないからな。どう動くか予想できるだけでもありがたい」
「そうっすか……」
青年はパーティメンバーに背中を叩かれたり、頭をわしゃわしゃと掻き回されたりと褒められていた。
ウチもたまにやられる。
そうして始まった作戦会議は誰がどれを担当するかというものだった。
囲んで蔓の相手をするのは手数が多い人たちや、盾を持っていて自分を守れる人たち。
重量級の武器を持っている人は数が多くて再生する蔓の相手は厳しいという判断だ。
その斧やハンマーを持った請負人はというと、切り開かれたところに突っ込んで、花を強襲する役割になった。
ただし、近づいたことで動き出すと予想される根元の野菜の魔物は数が多いから、別のグループで抑える予定だ。
そしてウチはシルヴィアに背負われて遊撃となった。
蔓に巻きつかれた人を助ける係だ。
ウチが1人で向かってハリセンで叩けば簡単に倒せるだろうけど、それでは請負人の経験にならないし、魔力が抜けて素材の価値も下がる。
魔物に攻め立てられているなら仕方ないけれど、今はまだ村まで蔓が伸びているわけでもないから余裕がある。
そして、それぞれの役割を再確認してからもう一度挑んだ。
「よし!やるぞ!」
「「「おぉ!」」」
ガドルフを先頭に、剣やナイフを持った請負人が駆けていく。
呼応するように伸び上がる蔓は、新たに生えた部分が若干明るい緑なだけで、ほとんどさっきと同じだった。
再生する時にぬめぬめとした液体に塗れていたから、土でコーティングされている。
そんな蔓を切り飛ばすと土も一緒に飛び散るから、目に入らないよう注意して戦うことになる。
そうして時間をかけると再生され、また切り飛ばしてと繰り返し、徐々に近づいていく。
出番はまだかとうずうずしているベアロの顔が凶悪に歪み、いつでも斧を振りかぶって近づけるよう足に力を入れていた。
顔怖すぎやろ。
「エル、行くっすよ」
「いつでもええで。ばっちりや」
「ば?ちり?よくわかんないっすけど、よくあることっすね。気にせず行くっす」
ウチを背負ったシルヴィアも駆け出す。
蔓を切り落としている請負人の後ろを通り、今は蕾の花に近づいていく。
ウチらを狙う蔓は無視してガンガン進んでいくと、足止めしたいのか量が増えていく。
そうすると斬っていた人たちへと向かう量が減り、慌てて追いかけてくる始末。
速度を落として対処してもらいながら進むことになった。
「もうすぐで蕾っす!」
「その前に埋まってるやつやな!」
「そうっすね!」
周囲を請負人に切り進んでもらいながら、もう少しで蕾という距離までやってきた。
何となくウチらに向かってくる蔓が多いように見えたけれど、集団だからかもしれない。
この植物は魔力を食べるということだから、魔力の詰まった請負人や、垂れ流しているウチはご馳走に見えるのだろう。
ウチも目の前に美味しいものが自分からやってきたら目を輝かせて手を伸ばす自信がある。
「埋まってるのが動いたっす!」
「前の方だけやけどな!あれ何?にんじん?手足が枝分かれしとるけど」
「野菜の魔物によくあるやつっすね。手足のように枝分かれする種類、手足ができずに飛び跳ねる種類、近づくと爆発する種類と様々っす」
「はー。意外と暴力的なん?」
「魔物っすからね」
話しているウチらの前には緑が広がっている。
その1番点前にある葉っぱがわさわさと動き、徐々にオレンジの身が出てきたかと思ったら、側面に枝分かれした手にあたる部分を地面に付き、よっこいしょと這い出てきた。
それが大量に。
パッと数えて30本はいるだろう。
それが自分に近い石を拾ってこっちに投げてきた。
野菜と侮っている人はウチ以外いなかったけれど、その勢いは相当なもので、少なくともウチが投げるよりも鋭く素早い。
請負人たちは全身鎧ではないから、それぞれ身体強化して肌に当たること備えたけれど、切り傷ができてしまった。
そんな中ウチを背負ったシルヴィアはズンズンと進んで行き、石の集中砲火を浴びることになった。
飛び交う石を固有魔法の影響で跳ね返して進み、ウチらから距離をとりつつ下がるにんじん。
ある程度下がったら、次は手足の生えた大根が土からぬっと出てきた。
にんじんと比べると少し太い手足はマッチョなのだろうか。
「大根やな」
「大根は近接攻撃してくるっす」
「え?野菜で行動変わるん?」
「そうっすよ。同じような見た目の魔物でも、ツノがあるかどうかで攻撃が変わるっす。それと同じっすよ」
「おー。そう言われると納得やわ」
自前のものを活かした戦い方をするということだろう。
そんな大根の魔物はわっさわっさと頭に生えた葉っぱを振るうと、同じく育っている葉っぱのにんじんの葉元をグリッと掴み、両手に剣を持つように構えた。
それでいいのかにんじん。
抵抗しないにんじんを振り回しながら大量の大根が襲いかかってくる。
魔力で成長しているから、にんじんも大根も太くてでかい。
子どもならなすすべもなくボコボコにされそうなほどだ。
しかし、そんな大根に振り回されたにんじんだけど、シルヴィアには効果がなかった。
殴った反動でばきりとにんじんが折れ、反動で大根は後ろに転ける。
そこに突き刺さる請負人の剣や斧。
簡単に倒せているように見えるけれど、攻撃している人たちの顔や腕にとても力が入っていて、野菜がとても硬いことがわかる。
「次が来るっす!」
「次は何や?」
「白菜っすね!破裂するっす!」
「是認距離を取れ!シルヴィアはそのままだ!」
「シルビアさん大丈夫?」
「身体強化はしてるっす!」
「危ななったら背中向けて下がってや!」
「了解っす!」
破裂するという白菜から距離を取るため、一気に周りから人がいなくなった。
それをチャンスと見た大根とにんじんから猛攻撃されるけれど、ウチらにダメージはなく反動でにんじんがどんどん折れていく。
大根はあまり賢くないようだ。
そんなウチらに向けて蔓で引っ張られた白菜が飛んできて、触れたと思った瞬間大きな破裂音と共に飛び散った。
その衝撃は大根とにんじんも吹っ飛ばすほどだった。
仲間のはずの魔物に影響を与える攻撃をしてもいいのだろうか。
花からするとどうでもいい存在なのかもしれない。
「なんか面倒になってきたな」
「とりあえず野菜からっすね。みんなは蔓と大根とにんじんをお願いするっす!白菜はわたしとエルで対応するっす!」
「おう!」
「任せろ!」
「気をつけろよ!」
口々に発するとみんながウチらと花を囲むように布陣する。
まずは白菜からだ。
蔓に巻き取られて、いつでも飛んできそうな白菜を警戒しながら、シルヴィアが足を踏み出した。




