ウチの防御力は見習い1なはず!
ウチの身体能力が最下位になったことを聞いたいちゃもん君は、しっかりと笑ってくれたので、体力が回復してすぐに白目を剥いて頬を引っ張る挑発を返しておいた。
そのいちゃもん君は全体的に好成績だったので、あまり効いてなさそうだったけど、残りの2人に肩を掴まれていたからしっかりとはわからなかった。
「よし!全員息が整ったな。次は戦闘力を見るぞ!ここにある木でできた武器で俺が持つ盾に向かって攻撃してこい。ある程度見たら俺からお前たちが持っている武器めがけて攻撃するぞ!ちゃんと手加減はする!」
次は武器を持って戦う能力を測る。
いちゃもん君のパーティは、この街まで来る時に持っていた柄の短い槍か剣で迷っている。
残りの6人は4人と2人に分かれていて、それぞれ得意な武器があるのかすぐに選んでいた。
・・・今気づいたけど1人なんウチだけなんやな。ここに来ることになった理由があれやし仕方ないにしても、見習い仲間ができるとええなぁ。いちゃもん君以外で。
ほとんどの見習いが武器を決めたことで空いたスペースに向かい、並んでいる木製の武器を眺める。
刃の長さが違う剣に柄の長さが違う槍、片刃の斧に両刃の大きな斧、斧と槍が合体したような長い柄の武器に、キュークスが使っていた棒など色々ある。
ウチはその中からナイフを選んで手に取る。
開拓村への支給品から貰ったナイフは刃が緩く曲がっていたけど、訓練用のナイフはまっすぐだ。
ウチが何を選ぶか気にしていたアンリによると、刺すことを目的とした作りらしい。
・・・気にしてるところ悪いけど、ウチが問題なく持てるのがこれだけやってん。刃が短い剣でさえ、ウチが持つとまっすぐ構えられへんし、疲れた体には辛いわ。
戦う時の持ち方がなっていなかったようで、アンリにナイフの握り方や構え方、簡単な動きを教えてもらっている間に、運動能力の高い人から戦闘能力の確認が始まった。
「やぁっ!はぁっ!」
「いいぞ!握りに力を入れるのはあたる寸前にしろ!ずっと力を入れていると消耗が早い上に動きが固くなるぞ!」
4人組の中の1人が、ハロルドの盾に剣を叩きつけている。
それを受けながら助言するハロルドには、当然ながら余裕が見てとれる。
所々剣を寸止めして、どこに隙ができているか指導するほどだ。
「次は防御だ。構えたところに当てていくから踏ん張れ。倒れるか武器を落とすと終わりだ。そらっ!」
がんっ!という大きな音を立てて見習いの剣を叩くハロルド。
見習いの攻撃では、がっ、どっといった短く響かない音だったけど、ハロルドの攻撃は離れているウチらにも衝撃が来そうな音だ。
「よし。なかなかの防御力だ。手が痺れてるだろうからゆっくり休め。それじゃあ次の者!」
結果、最初の見習いは5回目の攻撃でバランスを崩して、6回目を耐えられず仰向けに倒れた。
それでも高評価だったのは、次の人が4回、更に次から3回が続くことで分かった。
いちゃもん君は4回耐えたけど、そのお仲間は男の子が3回、女の子が2回だ。
・・・どの相手にも同じような威力で攻撃してるなぁ。ウチにもあの攻撃が来るなら、固有魔法がなければ1回も耐えられへんやろうな。さて、どうなるんか。
「よし!最後だ!」
「よろしく!」
「いいぞ!元気が戻ってきているな!」
休んでいる時間が長かったおかげでやる気はある。
どちらかというと攻撃するのされるのも怖いので、投げやりになっているのが正解だが。
「たぁ!」
「むっ?」
「ん?」
「いや、気のせいか。もう一度きなさい」
両手で持ったナイフをハロルドの盾めがけて上から下に振り下ろした。
ハロルドは盾を動かして、面の真ん中で受け止めたけど、なぜか首を傾げている。
変なところはなかったと思うけど、つられてウチも首を傾げてしまった。
「やぁー!」
「はっ!ぬ?」
「ん?」
「やはりか。受け流そうとしたのだが、なぜかピタリと止まるな」
「つまり?」
今度はアンリから教えてもらった、左手で柄頭を押し込むようにした突きだ。
盾に対してなら攻撃できるので、思い切ってやってみたけど、やはり受け止められた。
そしてまた首を傾げるハロルド。
ウチはわからなかったけど、受け流せないことに納得したようだ。
「最初も次も、盾を滑らせて横に逸らす予定だった。だが、何故か受け止めた後に力を入れても盾が動かなかったんだ」
「盾を動かすとナイフが滑るんやんな?」
「そうだ。力の向きを変えるつもりだった」
「滑ったらウチはどうなるはずやった?」
「バランスを崩す。場合によっては転ける」
「たぶん、それがウチの害になるから、そうならんように盾が動かんかったんやろな」
「これが固有魔法なのか……」
バランスを崩せば転けるだけでなく、盾に体をぶつける可能性もある。
ウチにとっての害になることを弾くだけだと思っていたけど、相手の行動にも影響するとは考えていなかった。
盾を動かそうとしていたことには全く気づいていなかったので、ただ綺麗に受け止められただけという認識だった。
「攻撃はもういい。次は防御だ。ナイフを体の横に出して構えてみろ」
「こう?」
「そうだ。その刃の部分に剣をぶつけるが……これはどうなるんだ?」
ハロルドに言われように、ナイフの刃を体の横に出して構えた。
この刃に向かって剣を振り下ろすらしいけど、その結果どうなるかはウチにもわからん。
今まで攻撃してきたのは角ウサギなどの魔物で、突進のダメージをそのまま自分に返していたような感じだった。
つまり……。
「ウチはダメージを受けずに、ナイフを叩いた威力が手に返る……気がする。知らんけど」
「わかった。覚悟した上で攻撃する。いくぞ」
「いつでも」
「はっ!……っ!ぬぉぉぉ……」
大丈夫という感覚があるので気楽に構えていた。
そこに降ってくる剣。
大きく鳴る音。
剣を握っていた手を抱えて震えるハロルド。
ウチは全く動いておらず、ナイフも構えた場所のままだ。
ハロルドに何が起きたのか確認しようとしたら、復活したのか、はたまた耐えているだけなのかはわからないけど、教えてくれた。
「岩、いや鉄の塊か?とにかく俺にはどうしようもないぐらい硬い何かを叩いたような感じだった。反動で腕が痺れた……ふぅ」
「へー。武器で叩かれるとそうなるんや」
「そうみたいだな。いい固有魔法じゃねぇか。後は上手く攻撃できれば強くなれるぞ。まぁ、そのためには体力や筋力、色々足りてないがな」
そう言ってハロルドは見習いが待機している場所へと歩いていく。
ウチの記録は1回ということになった。
・・・攻撃は2回で防御は一回。離れて見ていた見習いには、ウチが限界になったと思われてるみたいや。固有魔法のことを話す必要もないし、まぁええか。言っても負け惜しみみたいに思われるかもしれんし。
「今日のメニューは終了だ。この後からは自由だ。昼食を食べるもよし、何か依頼を受けるもよしだ。色々な講義の話は受付に聞いてくれ。絶対に受けないといけない講義もあるからな」
「それを受けないとどうなるん?」
「ずっと見習いのままだ」
「それは嫌やな」
見習い達が頷く。
そして、ハロルドの「解散」という号令の後、それぞれ連れ立って歩き始めた。
「エルはどうする?」
「ウチは昼食やな〜。お腹すいた」
「その後は?」
「ん〜、ミューズさんのところ行って依頼の話聞く!」
「わかった。その時合流する」
「じゃあ昼食後で!」
アンリにこの後の予定を聞かれたので答えた。
講義の話も聞きたいし、受けられそうな依頼がないかも聞きたい。
それよりもまずは昼食。
運動したからお腹が空いているのだ。




