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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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269/305

アンデッドドラゴン初回討伐報酬の分配

すみません。

仕事が忙しくて思うように書き進めれていないため、今回から毎週水曜21時の週1更新にします。

持ち直したら週2に戻す予定です。

 

 この迷宮でよく出てくるアンデッドとはいえ、ドラゴンは初めて解体するため時間がかかった。

 腐食トカゲとは大きさも違えば、内包されている魔力量も違う。

 刃を突き入れるのにすら苦労するほどだった。

 一応ハリセンで叩こうかと提案したけれど、価値のある素材だから魔力が抜けるのは良くないとやんわり拒否された。

 仕方ない。

 そうして時間をかけて何とか解体が終わったら、エリザやナーシャたちが待ち望んでいた宝箱の開封だ。

 念のためウチが近づいたけれど、固有魔法は反応しなかった。


「エル、そのまま開けていいですわ」

「いいんですわ?」

「……ふっ。君が1番活躍したからね。開ける権利は君にあるよ」

「ほんじゃあ開けますわ」

「だから発音が違いますわ!」

「さっきのはですわじゃないねんけどな」


 力を込めて宝箱を開ける。

 中には大剣が5本と腕輪が5つ入っていた。

 腕輪には表面に、大剣は刃の根本で(つか)の部分にそれぞれ窪みが1つある。

 今までの経験から考えると、おそらく魔石を嵌め込む場所だろう。

 そして嵌め込んだ魔石の属性によって効果が変わるタイプの魔道具だ。


「大剣と腕輪ですわね」

「窪みは魔石を入れる場所だろう。武具に属性を付与するというところかな」

「腕輪に属性をつけてもあまり効果はないのではなくて?」

「腕輪の場合、装備者に効果が出るようなものが多いね。例えば風の魔石を入れたら、体の周囲を風が覆ってくれて矢避けになったり、ここだと煙を散らせるんじゃないかな」

「なるほど。火を入れるとどうなるのかしら?」

「火に強くなるだろうね。後は接近して鍔迫り合いでもすれば、熱で相手を消耗させることもできる。水なら水中で動きやすくなるはずさ。同じ魔道具を見たわけじゃないけれど、魔力を流して火や水の効果を得る物はいくつか手にしたことがあるよ」

「へー。そんな魔道具あるんや。風のやつ使ったら毒煙(どくえん)もなんとかなるかな?」

「直撃は無理だろうけど、舞っている毒は散らせるんじゃないかな。魔道具が空気を生み出すはずだから呼吸も楽になるよ」

「ほうほう」


 ナーシャの見立てでは、魔石の交換によって効果を変えられる万能タイプらしい。

 魔力を込めると1つの効果しか得られないものより、魔石の消耗があれど効果を切り替えられる方が汎用性もあって価値があった。

 それが5つだから結構な売値になるだろう。

 大剣はよくわからないけれど。


「大剣はどういったものですの?」

「試してみないとわからないけど、魔石の属性を刃に纏わせるものじゃないかな。エリザの大剣のように炎を生み出すほどじゃなく、あくまで火属性と熱、水属性と冷気、風属性と小さな風。魔物の弱点を突きやすくなるだけだと思う。もしかしたら込めた魔力で斬撃を飛ばしたり、属性を強く出したりできるかもしれないけれど、汎用性が高いものは特化型に比べて火力が低くなる傾向だね」

「ほー。めっちゃ知ってるやん。ナーシャさんすごいなぁ」

「ナーシャは魔道具を集めるのが趣味なのですわ。それが壊れていた場合、直そうとするぐらいに重症ですわ」

「その結果魔道具を自作したり強化できるから空を飛べるようになったんだけどね」

「はー。すごいなー」


 風を噴射する魔道具のことだろう。

 浮くだけの魔道具を迷宮で見つけ、どうにか改造できないかと色々試した結果、外付けの魔道具で移動を確立させた。

 それによって地を這う魔物には一方的に攻撃できるようになり、仲間と行動すれば隙をつきやすくなっていた。

 相手が空を飛ぶ場合、出せる速度の差で逆に獲物になることもあるらしいけれど。

 後は今回みたいな大きな魔物だと、魔道具だけで倒すのはできたとしてもお金がかかる。

 大きな団だからこそできる戦法だ。


「とりあえず箱から出す?」

「そうですわね。エルは腕輪を、わたくしとナーシャで大剣を取り出しますわ」

「よろしくてよ」


 かちゃかちゃと音を立てながら腕輪を取り出す。

 ウチには大きすぎるため、片手に1つずつしか持てないけれど、間近で見た腕輪はとても綺麗だった。

 銀をベースに縁取りは金、何かを彫ったような装飾は植物の(つる)や小さな花にも見えるし、川のようにも見える。

 所々に細かく砕いた色石が散りばめられていて、光の当たり方によってはキラキラしている。

 魔石を嵌め込むところは、小さな魔石でも入れれるように返しと透明な蓋がついていて、端っこの起点を軸にくるりと回る仕組みだ。

 他の4つも同じ意匠で、裏側を見ても特に違いはなかった。

 こういった綺麗な物は作り手のマークなりが彫られていると聞いていたけれど、迷宮の宝箱から出てくる物は該当しないようだ。


「この大剣、魔力の通りは良いですわね。金属に詳しくはないのですが、おそらく魔法金属の何かでしょう。重心も使いやすくクセのない一品ですわ。これならほとんどの大剣使いが欲するはずですわね」

「そうだね。魔力の通りは良いし、流しはじめの反応も早いし、均一に流れているね。僕には重いから合わないけれど、欲しがる人は多そうだよ」


 エリザとナーシャは大剣片手に談笑している。

 大剣を携えながらにこやかに話す姿は、決闘前の最後の会話が思い浮かんだ。

 決闘なんて見たことないけれど。


「次は魔石を入れての動作確認をしたいところだけど……。撤収はもう少しかかりそうだね。やってしまおう」


 ナーシャが確認したのは解体後の素材の割り振りや、休憩所の片付けの進捗具合だ。

 巨大なアンデッドドラゴンから取れる骨は太い上に長く、何本もまとめて持つのは持つ側の骨が折れそうになる。

 他にも鱗や毒袋などもあるし、こちらから持ち込んでいる道具なども多い。

 応援が来たとはいえ、その人たちも自分たちの道具を持っているから、なかなかに大変な作業となるだろう。

 帰還の魔法陣に大量の素材と少しの人員を配置し、戻ってから人を手配することにはなっているけれど、1番楽をしたのは伝令として先に戻った請負人かもしれない。

 そんなことを考えている間に、ナーシャが手持ちの魔石を大剣の窪みに入れて魔力を流し始める。

 大剣の刃の部分が根本から薄らと青くなっていくので、水の魔石を入れたのだろう。

 その状態で剣を振っても、残念ながら水の刃は飛ばなかった。


「やっぱり属性を付与するタイプだね。水を纏わせたら火の魔物に対して有効になるって感じ」

「見た目はあまり派手ではありませんわね。貴族は珍しさから欲するかもしれませんが、実用性を説明すればある程度落ち着きそうですわ」

「そうだね。剣身に装飾もないし、無骨な見た目だ。これなら観賞用として欲しいとは言わないはずさ。配下に下げ渡すために欲しがるかもしれないけどね」

「使うなら結構ですわ。使わない魔道具なんて意味がないですもの」

「いやはや耳が痛いね」

「研究目的なら別ですわ。その後ずっと放置するのはいただけませんことですけれど」

「ははは。できるだけ放出するようにするよ」


 どうやらナーシャは魔道具を溜め込むタイプのようだ。

 そしてエリザは使ってこそだと考えているらしい。

 ウチはどちらかといえばナーシャ側だけど、数が多い魔道具なら遠慮なく使えるはず。

 1つしかなかったら、壊れたらと考えて使いづらくなってしまう。

 魔法薬も数があるとはいえ勿体無くて、いざという時以外は使いたくない。

 店で売られていたら、疲れたら飲むという使い方ができるかもしれないけれど。


「次は腕輪やな。あれ?アンリさんもう試してるん?」

「そう。これは使い勝手がいい物」


 大剣を試している間に、いつの間にか取り出した腕輪をアンリが試していた。

 ナーシャと違って色々弄くり回すアンリは、魔石を複数個入れたり、違う属性を混ぜたり、大量の魔力を流したりとやりたい放題だった。

 それを見たナーシャは笑顔だったけれど頬をひくつかせていた。

 アンリは1つしかない魔道具でも躊躇(ためら)いなく使えるタイプだろう。


「同じ属性を複数入れると強化されたけど、魔石の消費が早くなった。複数の属性はあまりうまくいかない。組み合わせが大事。魔力を多く流しても強化されたけど、その場合も魔石の消耗が激しくなった」

「魔石の組合よりも効果が知りたいわウチ」

「効果は属性の膜のようなものを纏う。風を纏えば砂を跳ね返した。水を纏えば涼しくなったし、火を纏えば暖かくなった」

「便利やん。ウチはいらんけど」


 固有魔法のおかげで暑さも寒さも気にせず過ごせる。

 以前雪が降る日に肌着かつ裸足で外に出てみたけれどなんともなかった。

 キュークスに女の子がなんて格好で外に出てるんだとめちゃくちゃ怒られたけれど。

 そんなウチには腕輪は必要ないけれど、エリザとナーシャは目をキラキラさせて、魔道具を試し始めた。

 ドレスが暑いエリザは水の魔石で涼み、風を纏うことで少し肌寒くなるナーシャは火の魔石で温まりながら浮かんだりしている。

 アンリは雷の魔石を入れて、触れるもの皆バチっとさせる危険人物になったり、土を纏って防御を固めたりと楽しんでいた。


「ええなー。ウチもなんか纏ってみたいわ」

「常に魔力を纏っているから問題ない」

「ちゃうねん。なんかこう普段と違う感じがいいというかなんというか、そういう感じやねん」

「なんとなくわかる。でも、魔石を入れた腕輪をつけてもエルには使えないはず。一応試してみる」


 アンリから腕輪を渡された。

 腕輪に手を入れてもぶかぶかで、肩まで上がった。

 そして何も起きない。

 魔力を流すというのがわからないからどうしようもない。

 外して背中に付けてみたけれど、魔石が剥き出しになっていないから魔力が流れず何も起きなかった。


「やっぱあかんかったな」

「エルが自分の意思で魔力を流せるようになったら使えるようになる」

「なるんやろか?」

「成長して魔力量が増えたら操作に回せる魔力もできるはず。予想だけど」

「そういうもんか」


 アンリいわく背中の魔力が垂れ流しになっている部分は広がっていないから、体が成長して生み出す魔力が増えることで、体に残る魔力が増えて操作できるようになるとのこと。

 あくまで予想だけど、大人や子供の魔力を見比べた結果らしく、結構自信があるようだった。

 いつか身体強化できるようになるかもしれないと思うと、テンションが上がってくる。

 早く体が大きくなってほしい。


「それでは、分配の話しをいたしましょう。まずはわたくしとナーシャは1セットずつ、功労者のエルが2セット、残り1セットを騎士団か請負人組合に買い取っていただき、そのお金をわたくしたちで分配はいかがでしょう」

「僕はそれでいいよ。ある程度戦ったとはいえ、そこまで活躍できたわけじゃないし。貰えるだけでもありがたいね」

「あら?わたくしたちとナーシャたちで腕を1本落としましたもの。正当な成果ですわ」


 エリザの提案ではウチらが2セット、エリザとナーシャが1セット、残り1セットを売却という内容だった。

 トドメ組は階層主戦不参加だけど、解体を手伝ったから素材の一部がもらえる。

 迷宮騎士団は職務の一環のため、こういった場ではあまり要求できないそうだ。

 迷宮騎士だけで倒していれば総取りできたけれど、今回は補助に徹していたから功績はあまりないという判断らしい。

 道中の素材を見習いに持ち帰らせていたから、騎士団長もこの話しに異論はないようだった。

 採算は取れているのだろう。

 人は亡くなっているけれど。


「エルはこの配分で問題ないかい?」

「ウチはええけど、アンリさんどう思う?ウチらに大剣いらん気すんねんけど」

「確かに使う人はいない。ただ、いざという時のために1本は手元に残していてもいいと思う。将来誰かが使うかもしれないし、パーティに人が入るかもしれない」

「確かになぁ。じゃあとりあえず貰っといて、欲しそうな人がいたら1本売ろか」


 話がまとまったから、宣言通りの数で分配した。

 ウチらの2セットは、全部アンリに持ってもらい、余った1セットは騎士団を代表してピクルスの騎士が運んでくれることになった。

 そして、残った大剣が5本並べて入れられるほど大きな宝箱は、エリザがほしいと言ったので譲った。

 ウチは魔法薬の宝箱があるし、この宝箱は大きすぎてウチとミミが入っても余裕があって置き場所に困る。

 アンリとシルヴィアも詰め込めるぐらい大きいだろう。

 そんな宝箱だけど、エリザは金貨を詰めて眺めるのに使うそうだ。

 詳しく聞いたところ、そういった趣味で宝箱をどんどん大きくしていき、この宝箱が今までで最大サイズらしい。


「この宝箱から金貨が溢れるぐらいまで集めるまで死ねませんわ!」


 興奮したエリザは大剣や腕輪の魔道具を受け取った時よりも笑顔だった。


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