ですわ(お嬢様)ですわ(関西)
「あの巨体で空を飛ばれるのはのは厄介ですわね」
「そうですわ」
「……着地時の振動もすごかったから、巨体ゆえのパワーも相当だろうね」
「腕で叩き潰されたり、尻尾で薙ぎ払われたりするんですわ」
「……それ見てみたいですけれど、近づかれないように逃げられるなら仕方ありませんわ」
「あれじゃあウチに攻撃が届かへんねん。あきまへんわ」
「……わたくしの真似をするのはやめていただけませんこと?発音がおかしくて耳に引っかかるのですわ」
「あー、ごめんやで。なんか面白くなってしまってん」
「それは、わたくしの口調が面白いということかしら?」
「いや、同じような言い方やのに発音ちゃうからかな。ですわですわ」
「ふっ……」
「ちょっとナーシャ!何笑っていますの!」
「ごめんごめん。耐えられなかった」
まだ笑いが収まらないナーシャの背中を、エリザがバシバシと叩いている。
周囲では2人の団に所属する請負人たちがどう戦うか話し合い、必要なら迷宮騎士も力を貸すと話に加わっている。
アンリとトドメ組は、後は任せたとばかりに傍観するつもりだけど。
道中まではいいとして、毒が厄介な階層主に進んで挑みたいと言う人がいれば、譲っても仕方がないだろう。
そんな作戦会議を経て、エリザとナーシャが選んだ数十人と共に階層主の部屋へと入っていった。
ウチらを含む残りの人の中で、暇な人は通路から顔を覗かせる。
ウチの後ろにはアンリが待機していて、いざという時はウチを放り投げてでも誰かを助けられるように準備していた。
「行きますわよ!ぶち殺しですわ!」
「こっちはサポートと撹乱だよ!」
エリザの周囲には剣や槍、盾を持った殺意の塊が出来上がり、エリザ本人は自身の身長以上もある大剣を右手に、左手には赤い鞭を持っている。
ナーシャは手袋を嵌めた手で3、4人のグループに指示を出し、アンデッドドラゴンを囲むように配置させた。
その人たちは盾こそ持っているけれど、腰に下げた剣や背負った槍などは抜いていない。
誰もが片手を空けている状態だ。
対するアンデッドドラゴンは、入ってきた直後に挨拶がわりの毒煙を放ったけれど、見越していたから走り抜けて大きく避けていた。
見学組からすると煙邪魔やけど。
「まずは腕を落としますわ!ナーシャは翼を焼き払いなさい!」
「任された!みんな!やるよ!」
エリザを守るように盾持ちが駆け、その後ろにエリザや他の武器持ちが走る。
一直線に距離を詰めるのではなく、アンデッドドラゴンの視線や顔の向き、腕の位置に気を付けながらジグザグに走っている。
そんなエリザたちとは別で動くナーシャたちは、それぞれ身を守りながら翼に矢や魔法、魔道具を放ってダメージを与えていく。
その中でもナーシャは他と動きが違った。
「ナーシャさん飛んでるやん!なんで?!羽ないで!」
「魔道具。コートが風を出して浮かんでる。魔力を込めたら早く飛ぶこともできそう」
「ええなーええなー。ウチも投げられるんやなくて空飛びたいわー」
「訓練が必要。あと魔力のコントロール」
「無理やな。抱えてもらうだけにしとくわ」
垂れ流している魔力をコントロールできないのに、あんな魔道具を使いこなせる気がしない。
そもそも身長差がありすぎてコートを着れないけれど。
そんなナーシャは遠くならふわふわと、アンデッドドラゴンが近づけば機敏に空を飛び、できるだけ顔付近でちまちまと攻撃して注意を引いている。
執拗に目を狙って何かを投げている姿は、見た目の美麗さから程遠いけれど、命がかかっているのだから使える手段は全て使うべきだと納得させた。
笑顔で攻撃しているところを見る限り、本人は楽しんでいそうだけど。
「良いですわよナーシャ!わたくしたちも負けていられませんわ!」
「抑えるぜ!」
「切断は任せましたよ!」
「もちろんですわ!」
ナーシャたちがチクチクと攻撃して注意を引いている間に、エリザたちの塊が左手のところまで辿り着いた。
それに気づいたアンデッドドラゴンが腕を振って遠ざけようとしたところを盾持ちが数人ががりで抑え込み、止まった腕部分を剣や槍で傷つけていく。
いくら腐り落ちているとはいえ、教会で語られる古の生物。
残っている鱗に傷をつけるのがやっとで、腐肉が剥き出しになっているところを狙うようになった。
そこにエリザがやってきて、片手で操る大剣を真上に掲げたと思ったら、そこから炎が噴き出して腕へと落ちた。
「ぶった斬りですわー!」
炎を噴くだけでなく、刃先が落ちるのに合わせて噴射し、落下速度を早めていた。
腐肉を焼きながら突き進む刃は、地面に接した瞬間爆炎を上げて周囲の砂を吹っ飛ばした。
どうみてもエリザごと焼いているけれど、炎が消えて出てきた姿は無傷だった。
「あはは!やりますわね!でも、まだまだこれからですわ!」
「あのですわめっちゃ怖いんですわ……」
笑いながら炎を噴射することで加速する大剣を片手で振り回し、腐肉を弾いては骨に亀裂を入れていく。
残りの人たちが総出で腕を封じており、炎の余波で汗が滴り落ちていた。
もちろんアンデッドドラゴンもやられっぱなしではなく、何度も毒煙を吐こうとしたけれど、ナーシャがその度に妨害して一度も吐けていない。
口の中で爆発する魔道具を受けた結果、顎の肉がだらりと垂れているぐらいだ。
「それにしてもあの剣相性ええな。アンデッドドラゴンの体液が撒き散らされる前に吹っ飛んだり焼き払われたり蒸発してるやん」
「ナーシャの動きも良い。コートの下にどれだけの魔道具を詰めているのか後で聞く」
「そっちも気になるな」
ナーシャは白いコートを着ているけれど、腰あたりから末広がりとなっていて、どうやら中にカバンか何かが吊るされているようだ。
他にもコートの内側に縫いつけられたホルダーから何かを抜いたりもしていた。
見た目以上に色々な手段で戦っているけれど、火力はエリザほどではない。
ただ、魔道具の選択が上手く、少ない手数でアンデッドドラゴンの動きを制限しているように見える。
「めっちゃ魔道具使ってるけど、採算取れるんやろか?」
「お金はあるところにはある。団の情報は詳しくないけど、恐らく自作しているか販売されている魔道具の魔石を入れ替えて威力を上げている」
「おー。そんなことができるんや」
「安全性が下がる」
「まぁ、せやろな」
魔石に合わせて作られているのに、その魔石をより強力な物に交換するのだから危険だろう。
ウチはあんまり興味ないけれど、アンリはすでに手を出している気がする。
自作できるようになっているし。
そんなやりとりとしていると、戦いに動きがあった。
アンデッドドラゴンが数人がかりで抑えられて動かせない腕に向かけて、顔で押し潰そうと顎から下げ始めている。
盾で受け止めるべきか一瞬迷ったようだけど、そこまで追い詰められているわけではないから、一旦引くことにしたようだ。
受け止められるかわからないなら避けるほうが安全なので、判断を下したエリザに賞賛を送るべきだろう。
「エリザ!」
「わかったわ!」
下降する首を追って高度を下げていたナーシャが、エリザに向けて手を伸ばす。
どう考えても届かないのになぜ伸ばしたのかと首を傾げた瞬間、エリザから赤い線がナーシャの腕に伸びた。
それは左手に持っていた鞭で、一気に引っ張り上げられたエリザはアンデッドドラゴンの頭より高いところまで飛び上がっている。
大剣を持った女性を引っ張り上げるナーシャにも驚いたけれど、エリザの次の行動にはもっと驚いた。
鞭から手を離し、大剣の重みで落下し始めたのである。
しかも、炎を噴射して加速しながら。
落ちる先は盾持ちを潰そうとして避けられた頭で、一直線に突っ込んでいる。
「そこですわぁぁぁぁ!」
「グォォォ!!」
脳天直撃コースで落下していたけれど、アンデッドドラゴンに感知されて避けられるところだった。
そこにナーシャの仲間が攻撃を集中させ、動きを制限したことで、エリザの大剣がアンデッドドラゴンの右頬を切り裂いた。
勢いそのままに地面へと突き刺さった大剣を、炎を噴射することで抜き、一度距離を取る。
傷つけられた怒りからか、アンデッドドラゴンが頭上に毒煙を吐いて牽制してきたのもある。
「あまり効いていませんわ!」
「切った腕も徐々に治ってきているね。肉を削いだはずなのにどこから復活しているんだか……」
呆れたナーシャは、喋りながら風を出して毒煙を散らす。
そしてエリザたちが突撃して傷を与えるという戦法を幾度も繰り返した。
その結果。
「魔力切れですわ……。体が重い上に空腹で動けませんわ……」
「参ったねぇ。魔道具の残りが心許ない。成果は腕一本。再生が厄介だよ。巨体故に攻撃も通りづらいし……」
なんとかエリザが左腕を切り落とし、それを仲間が回収。
大きな欠損は回復できないのか、今は片手が無い状態だ。
それも全員が撤退したら時間経過で回復するだろうということで、今は一部の請負人が継続戦闘していて、エリザとナーシャは休憩所まで下がってきている。
「時間をかけて削るしか無いか」
「火で焼いたところは回復するまで時間がかかっているようです。大規模な炎を当てれば削りやすくなるかと」
「火炎系魔道具か……持ってきていないな」
「魔法使いもそこまでいません。いたとしてもあれを相手にできる炎はとても……」
迷宮騎士たちもどう戦うか悩んでいた。
各部位を切り落とせば、時間はかかるけれど倒せるだろうと判断されている。
・・・ウチのハリセンが当たれば一気に楽なるのにな。近づくと逃げられるし、放り投げてもらうしか無いか?……いや、ナーシャさんにウチを抱えて飛んでもろたらええんちゃうか。そうしたら向こうが飛んでも追いかけられるやろ。ほんで、隙を見てスパン!や!いける気がする!




