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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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266/305

舞踏会?それとも武闘会?

 

 どうやらだいぶぐっすり寝たようで、ガヤガヤと騒がしい中眠たい目を擦ってぼーっとしていると、アンリがスープとパン、チーズの塊を持ってやってきた。


「食べる?」

「ん。お腹は空いてるから食べる。足がちょっと筋肉痛やな」

「すごく走ってた。よく頑張った」

「せやろ。もっと褒めてくれてもええんやで。倒せてないけど」


 アンリはそれ以上褒めてくれなかったけれど、渡しておいた木の実のハチミツ漬けをパンにかけてくれた。

 ウチの分は食べきっているから、これは残り少ないアンリの分だろう。

 ありがたく食べていると、ふと食べている物の不思議に気づいた。


「なんでチーズあるん?持ち込んでへんよね?迷宮騎士が持ってたん?」

「違う」

「あ。アンリさんの隠しおやつ?」

「違う。あの人たちからの差し入れ」

「ん?」


 アンリが手で示した先には見慣れない集団がいた。

 装備はある程度統一されているけれど、ウチと一緒にきた迷宮騎士のような鎧で全身を固めているわけでもなく、請負人に近い形だ。

 人数はトドメ組よりも多く、迷宮騎士やトドメ組と談笑しているけれど、パッと見て2つのグループがあるように見える。

 一つは服や防具のどこかがひらひらとした、迷宮に潜るにはちょっと華美すぎるのではないかと思うワンポイントを入れている集団。

 もう一つはどちらかというと無骨なしっかりとした装備を纏いつつも、迷宮騎士よりは近寄りやすそうな雰囲気の集団だ。

 そんな集団から乾燥野菜や塩漬け野菜、干し肉に干し果物、チーズやワインなどの補給があったそうだ。


「補給部隊なん?わざわざ最下層まで?」

「違う。あの人たちも討伐部隊」

「え?ウチらの後から入ってきたん?なんか進む速度早くない?こんなもん?1日で追い付かれるもんなん?」

「わたしたちは1番溢れている時に入った。だから、後続が楽になるのは仕方がない」

「それでも早すぎる気がするけど……。ウチら苦労したんやで?怪我した人もおるし、死んだ人もおるのに……」


 憮然としながら眺めていると、後から来た集団の一部が怪我人の治療にあたっていた。

 結構危なかった毒を受けた人も食事が取れるほど回復していて、他に人たちも包帯を巻いたり添え木をしたりとしっかり対処してくれていた。

 人数が多いから料理をする場所、眠るための場所などもしっかり整備されていて、ポルターガイストフロアで拾ってきたのか、装飾された机や椅子まで置かれている。

 そんなテーブルセットに騎士団長が座り、向かいには真紅のドレスを着た赤い髪の女性と、白い全身コートに身を包んだ金髪の女性だった。

 場所は迷宮じゃなければ騎士団長のお見合いですかと冗談を言いたくなるほどの光景だ。

 お見合いにしては騎士団長がいささか年上すぎる気もするけれど。


「あの人らなんなん?コートは防御力微妙やけどまぁええやろ。でも、ドレスは違うやん。腕とか足になんか付けてるみたいやけど、あんな腰から下がぶわって広がってたら邪魔やん。靴もなんか踵上げるやつやし絶対歩きにくいやん。なんでやねん」

「落ち着いて。あれは魔道具。あの人たちも熟練者だから普通の服で入ることはしない」

「そういうもんか……」

「そう。それ格好が問題ならエルも見習い程度の装備。魔道具じゃない分おかしいのはエル」

「ウチ?!そんな……だってちゃんとした装備をウチのサイズにしたら高なるし……あんま良い素材使うと魔力全部そっちに行ってまうから仕方ないやん……」

「そう。人ごとに理由がある。だから、基本その人がいる時に指摘せず無視すれば良い。関わるだけ面倒」

「さすがアンリさん」


 興味がないことには近づかず、口を出さず、気にしない。

 何か事が起きても自分とその周りに影響がない限り静観し、意見を求められたら答える程度。

 そのくせ人助けには躊躇しないという、少し変わったところもある。

 一度なぜ助けるのか聞いたら、その方が気持ちよく眠れるからと返ってきた。

 それはわかるので、ウチも助けられるなら助けるようにしている。


「エルさん、起きたのですね」

「うん。食事も終えたしバッチリや。ちょっと足が筋肉痛やけど」

「普段背負われているようですし、運動不足ですね」

「せやなー」


 食事を終えたらピクルスの騎士が話しかけてきた。

 すっかりウチ担当になってしまっている。

 そんなピクルスの騎士だが、ウチを騎士団長のところへ連れて行くという仕事を受けていたらしく、問題がなければ行きましょうとにこやかに言われた。

 問題ないと返したから断ってゴロゴロすることもできず、騎士に連行されているという演技のため俯いて付いていった。

 それを見た他の騎士たちは笑っていて、ピクルスの騎士を全力でからかう人もいた。

 もう二度としません。


「団長、エルさんを連れてきました」

「ご苦労。さぁ掛けてくれ」

「……ちょっとこの椅子高くない?届かへんわ」

「失礼」

「おおきに」


 ピクルスの騎士に座らせてもらった。

 椅子が高ければ机も高いせいで、顔がギリギリ覗く程度だけど、席に着いている人たちは見れる。

 いつの間にか女性2人の後ろに、迷宮内なのにビシッとした体の線に合わせた服を着た姿勢のいい男の人が1人ずつ立っていた。

 そのうちの1人がウチをジッと見てきたけれど、団長の声掛けで話が始まったから視線を逸らした。


「なんでウチ呼ばれたん?」

「エルが唯一階層主と戦ったからだ。できれば直接話してほしい。と、その前にこちらの2人を紹介しよう。赤いドレスを纏っているのが大迷宮都市で活動している『赤い薔薇の雫団』の団長の娘エリザ。白いコートの方が同じく大迷宮都市で活動している『白孔雀の輝き団』の団長の娘ナーシャ」

「へー」

「へーって、ここはもっと驚くところですわよ!」

「そうだよ。もっと大迷宮都市の団長が?!みたいな反応が欲しかったのに」

「うーん。団長の娘言われても別に偉ないんやろ?団のことも知らんし。大迷宮都市やったら団もたくさんあるんちゃうん?中迷宮都市でも2、30個ぐらいあったはずやで」

「ま、まぁ、大迷宮都市では大なり小なり合わせると100を超える団がありますわ!でも、わたくしやナーシャの団は上から数えて20には入っているはずですわよ!」

「そうだね。エリザの方が討伐向きで、僕の方は探索や採取で活動しているけど、どちらも大きい団になるよ」

「僕っ子や」

「僕のこと?僕っこ?というかそこが気になったんだね」


 ナーシャは苦笑していて、エリザは驚かないウチにむっすりとし始めた。

 2人とも綺麗な顔をしていて、肌は白いのに体は鍛えられている。

 歳は20に届いてないとは思う。

 アンリやシルヴィアと同年代だ。

 そんな年齢なのに団長を務められるほどの実力者なのかと見ても、ウチには強さがわからなかった。

 そもそも魔物の強さも見てわかるわけではないから、気にしないでおく。

 エリザは肩を過ぎるぐらいまで伸ばした髪を後頭部で一つに結んで残りを垂れ流し、ナーシャは首あたりまでのサラサラとした髪だ。

 目はエリザが赤で、ナーシャが青。

 改めて見ると2人ともとても綺麗で、あまり請負人としては見ないタイプな気がする。

 ドレスを着て迷宮に入る人は初めて見たけど。


「大きい団言われてもわからんもん。で、ウチは何したらええん?」

「もう一度階層主に挑んでほしいのだ。この2人に毒煙(どくえん)やアンデッドドラゴンの動きを見せるためにな」

「ええけど、もう腕も尻尾もウチには向けてくれへんと思うで?」

「それならそれでかまわん。見たいと言っているのはこの2人だ。ある程度戦ったら戻ってきてくれ。なんなら倒してくれても構わんぞ」

「それは無理やな。ウチの攻撃当たらんし」

「まるで攻撃が当たれば倒せるつもりですわね。いくら固有魔法持ちとはいえ、階層主を1人で倒そうなんて、少し傲慢じゃないかしら」

「でもウチジャイアントスライム倒せるで」

「どこの迷宮の階層主なのかしらそれは」

「ライテ小迷宮の地下35階やな。相性ええねん」

「へぇ。小さいのになかなかやるようですわね。でも、あの階層主は別でしょう?」

「せやねん。当たればすぐやねんけど当たらんねんなー」

「とりあえず見てみないことには対策も練れないからね。よろしく、お嬢さん」


 懐疑的な目を向けてくるエリザと違って、どこか楽しそうな目で見てきたナーシャ。

 後ろのおじさんたちは会話に参加せず、ただ立っているだけだった。


「やるのはかまへんねんけど、一個聞いていい?」

「いいですわよ」

「どうぞ」

「なんでこんな早くここまで来れたん?ウチら結構苦労してんで?」

「あぁ、それはいくつか理由がありますわ。まずは装備の性能差。大迷宮の素材は頑丈なものが多く、魔道具も出てきますのよ。後は迷宮の進み方ですわね」

「進み方?」

「そう。君たちは氾濫の最前線だったからしっかり戦う必要があったけれど、僕たちは君たちの後を追うだけだからね。魔物の数はマシになっているんだ。2つの団が協力して進んだのも大きいね。それに、団員を魔物に当てたら残りは先に進む緊急時の速度重視で進む方法を取ったのも早さの理由だね」

「戦闘を他の人に任せて先に進んだんや」

「そういうこと。もちろん安全性を重視して複数のパーティで当たらせたけど、今のところ届く報告では怪我はあれど死者は出ていないね」

「ほーん。そんな方法があるんやな」

「人数が多いからできる方法ですわ。団1つだと氾濫時にそれを使うか悩むことになりますわ」


 2つの団が同時にやってきたからこそ採用された移動方法らしい。

 魔物を抑えられるほどの戦闘力があるパーティが先行し、後から来る本命を戦わせることなく進ませる方法で、大量の魔物に襲われた村に急行したり、急いで素材を取りに行かないといけない時などで利用される。

 今回はそれを使って移動を優先している。


「そんなに急いでどうするつもりなん?」

「初回討伐報酬が欲しいからですわ」

「数が出たら山分け、一つだったらお金で解決するということで合意しているんだ」

「つまり、ウチらより早く階層主倒したいんやな」

「そういうことですわ。でも、倒せない貴女によって階層主の動きを見せてもらえるなら頼まない手はないということになったのですわ」

「ふーん。じゃあ、いくら貰えるん?」

「え?」

「タダ働きは嫌や!」


 やってもウチのためにならないことに、筋肉痛の体を動かしたくはない。

 やるなら報酬が必要だろう。

 この人たちが来るまではどう倒すか頭を悩ませていた迷宮騎士たちも、どうにかなるかもと明るい表情を浮かべていた。

 それが今ポカンとした顔に変わっているけれど。


「そ、そうですわね。無理を聞いてもらうのですし、報酬は必要ですわ。ちょっとナーシャ、どうしまして?」

「お金か魔道具あたりで手を打ってもらうべきだね。さすがに初回討伐報酬を分けるのはなしだ」

「そうですわね。でしたら、交渉はこちらで」

「任せたよ」


 相談の結果、ウチが階層主に挑んで動きを見せた報酬は、2人の団が所有する魔道具を1つ貰うことになった。

 高価すぎる物は無理だけど、価値が低い物なら複数出してもいいとまで言われた。

 その代わり、階層主に挑むときはある程度言われた動きをしてほしいと追加の要望もあったけれど。

 結果、アンデッドドラゴンは毒煙(どくえん)を吐く以外は飛んで逃げることになり、あまり役に立たなかった。


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