アンリに背負われ新階層へ
誤字報告ありがとうございます。
非常に助かっております。
適用されたらポイント貰えて、誤字報告プロとか表示されたら面白いですね。
逆に作品には詳細欄に誤字報告を適用した件数が表示されると、事前に誤字多い作品かがわかる……あんまり嬉しくない機能ですが……
ジャイアントカラフルスケルトンと戦っている間も、腐食トカゲは階段を上がってきていた。
それがアンリの背骨走りの理由だった。
迷宮騎士と請負人の何人かで抑えていたけれど、人数が思ったより割けず徐々に押されてた。
素材を諦めてウチのハリセンによる早期決着を着ければ被害を減らせたかもしれないが、素材を求める声が大きいことで貴族に近い迷宮騎士が頭を下げた結果だ。
そうして追加で6人帰還することになった階層主戦は終わった。
後は溢れた魔物を警戒するため降りる階段を見張りつつ、解体と休憩を進めていく。
ウチはもちろん休憩だ。
「それじゃあお先に戻ってるっす」
「お疲れさーん。ミミのことよろしく」
「ガドルフたちも」
「了解っす。エルとアンリも気をつけて進むっすよ」
「はーい」
「もちろん」
シルヴィアとの別れは簡単なものだった。
帰還の魔法陣を使えばすぐに迷宮から出られるから当然だけど。
身体強化して大量の素材を持った帰還組を見送り、新階層へと続く階段前に集まる。
次にするのは降りるための準備だ。
「ほんまにこれ必要なん?」
「そうらしい」
「まぁ、効果はあるんやろうけど……なんか嫌やな」
ウチの手には腐食トカゲから剥ぎ取られた皮がある。
ここまで来るまでに倒した腐食トカゲの皮を剥ぎ取り、ウチの水で洗い、アンリが乾燥させた物だ。
ちゃんとした作りの革鎧を作るならばもっと工程が必要となるが、今回は武具を守るために上から貼り付けるだけ。
毒煙を吐き毒煙の中を移動する腐食トカゲの皮を身に纏うというわけだ。
「ゴワゴワする……」
「仕方ない」
「みんな動きに影響せぇへんの?めっちゃ動きづらそうやけど」
「少しはする。でも、身体強化で力尽く」
「そういうもんなんか」
周りでも腐食トカゲの皮を鎧や武具に巻き付けている。
迷宮騎士は自前の鎧に合わせて綺麗に裁断され、ベルトのような留め具がついたもの。
請負人は道中狩った腐食トカゲのものと、見た目で随分差がついてしまった。
シルヴィアやトドメ組が調べた情報でも腐食トカゲの皮が必要ということはわかっていたけれど、店や組合に出回っていなかったから、溢れた魔物を狩って採取することになっていたらしい。
ウチに知らされていなかったのは、階層主すら平気だから直前まで言わなくてもいいだろうという余計なことを考えさせないためだ。
ちなみに今ウチも皮を巻いているのは念のためである。
・・・毒煙に突っ込んで無傷やのに、こんなん巻く必要あるんか?余ってるから言うて渡されたけど、邪魔やわー。ちゅうか背中覆う量増えてるからアンリさんへの固有魔法の効き悪なるんちゃうか。確認しとこ。
「なぁなぁアンリさん。ウチがこれ体に巻いたら、背中から出てる魔力減ってアンリさん危なくなったりせぇへん?」
「……可能性はある。確認が必要」
アンリがトドメ組から料理が上手い女性を呼び、ウチを背負わせる。
その後腐食トカゲの皮を巻いて、もう一度背負わせた。
その結果、背負っている人へ流れる魔力が半分ほどになり、手や足先は固有魔法の影響を受けないことがわかった。
この状態でシルヴィアに背負われていたら、ジャイアントカラフルスケルトンと戦う前に戦闘不能な怪我を負っていただろう。
腐食トカゲの毒煙で手足が焼け爛れた可能性があるとアンリに言われ、ゾッとした。
これからはシルヴィアの手や足を特に気をつけないといけないと、決意を新たにした。
「新階層も見た目は変わらんな。黄色い石の壁と砂地や」
「毒煙がうっすらと漂っている」
「え?見てわかるもんなん?」
「魔力が違う」
「へー」
アンリの目には迷宮自体の魔力の他に、毒煙に込められた魔力も写っていた。
迷宮の魔力はふわふわと漂う感じで、毒煙は風に乗って線のように見えているらしい。
ただ、その線に気をつければいいというわけではなく、魔力を失って霧散した毒は見えなくなっていて、普通に呼吸するだけで体内に入ってくる。
ウチの場合は口に入るまでに排除されているようだけど、他の人たちは身体強化で負けないように対抗している。
そのせいで魔力消費は激しくなり、休憩しようにも毒が薄い場所がどこかわからない。
そもそもあるのかも不明なので、風の魔石や魔道具を使って部屋の空気を入れ替え、そこで休憩を取ることになっている。
持ち出しに対して見入りが少ないと請負人の誰かがぼやいていたのが聞こえた。
「腐食トカゲが集団で来たら面倒やな」
「毒煙の範囲が広がる。それに属性持ちがいたら魔法を放ってきてさらに厄介」
「ほんまそれ」
毒煙はまだいい。
良くはないけれど、何度も戦ったことから近づかない、消えてもしばらく毒は滞留していると学んでいる。
しかし、煙の向こうから魔法を放たれるのはとても厄介で、風は毒ごと迫ってくるからまだいい方だ。
水は毒を含んだ液体となって武具や体にこびり付くし、土も同じ。
場合によってはへんな足場になっていて、踏んだら崩れバランスを崩したり、足が引っかかって転けたりする上に毒を含んでいる。
火は煙を消してくれるかと思いきや、煙がさらに見えづらくなっただけで毒は残る。
雷なんて煙の中がちょっと光ったかと思ったら、パリパリと突き進んできた。
そんな魔法はウチには影響なかったけれど、後ろで身構えていた迷宮騎士や請負人には有効だった。
身体や武具に魔力を流して強化しているけれど、魔法を受けたらそこに負担がかかる。
流している魔力量よりも魔法の方が強力であれば破られて怪我を負うし、強化が勝っても流していた魔力を消耗してしまう。
消耗すれば毒に負けてしまうから、とても厄介なことになっている。
「素材無視して倒す」
「了解や!ばしばし叩いて行くでぇ!」
まだ探索が済んでおらず、階層主も不明な新階層。
研究のためにも腐食トカゲの素材はできるだけ欲しいと迷宮騎士から言われているけれど、今は氾濫中だから我慢してもらう。
被害を抑える方が優先だろう。
迷宮騎士たちもそれがわかっているようで、飛び込んでいくウチらを止めることなく、黙々とトドメを刺してくれた。
「ふぅ……。解毒薬を飲みます」
「俺も飲む。ちょっと喉に違和感がある」
「こっちもです」
「ふむ。休憩にするか。上手く休めるかも確かめねばならんしな」
ピクルスの騎士の発言から休憩する流れになった。
騎士団長の指示で小部屋を探しつつ腐食トカゲを倒すことしばらく、ようやく辿り着いた頃にはウチら以外が少し体調が悪くなっていた。
「よし、魔道具の準備だ。魔法を放てる者は風の魔石で空気を入れ替えろ。アンリ殿、すまないが魔力の流れを見てくれ」
「わかりました」
迷宮騎士の中で魔法を放てる人が緑色の風の魔石を使って空気を生み出し、小部屋の入り口へと流れを作る。
それをアンリがジッと見ていることから、相当腕があるのだろう。
下手な魔法は見る価値なしとばかりに、すぐに視線を逸らすのだから。
アンリの横ではウチが入るか入らないかぐらいの筒状の物を入り口に向けて設置し、緑の魔石を嵌め込んでいた。
ふぉぉぉぉと音を出したと思ったら、結構な勢いの風が出て行く。
「おぉ!すごいやん!これ暑い時にも使えるんちゃう?」
「魔石の消費が割に合わんのだ。石1つでお湯が沸く時間程度だろうな。寝ずにする警戒に石を補給する仕事を加えなければならん」
「おー、大変やなぁ」
「ああ。大変だ。どうにか毒煙を気にせず休憩したいのだが、まだ難しいな」
団長が頭を振って戻っていった。
どうやら魔道具の動作確認に来て、それが済んだから先に休憩を取るようだ。
アンリは念のためウチを背負ったまま休憩に入り、水は階段を降りる前にウチから取った分で対応する。
いざという時は迷宮騎士と請負人を撤退させ、ウチとアンリだけで階層主を倒すことになっている。
ハリセンで叩きまくればなんとかなるのではというのが、団長たちの判断だ。
そんなに上手くいくと良いのだけれど。




