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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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260/305

ジャイアントカラフルスケルトン

 

 属性スケルトン階層を順調に進み、階層主のいる地下30階まで到達することができた。

 被害は属性スケルトンから遠距離の魔法攻撃を受けた請負人が2人、腐食トカゲによって迷宮騎士が3人、請負人が4人装備を壊されたり怪我を負わされてリタイアとなった。

 命に関わるほどの怪我ではないけれど、数日は休んだ方がよさそうな具合で、階層主戦直後ならともかく、道中でそんな怪我を負うと肩を借りてでも進むしかない。

 今は休憩準備をしている横で、比較的綺麗な布に寝かされていた。


「大丈夫やろか……」

「薬は使ってるから問題ないっすよ。それよりも確認が必要なのはエルの方っす」

「ウチ?元気やで?」

「そうじゃないっす。階層主の方っす」

「あー、ジャイアントスケルトンやっけ?」

「そうっす。早めに見ておくっすよ」

「せやな」


 地下30階の階層主は、ジャイアントスケルトンと呼ばれていて、名前通り巨大なスケルトンだ。

 武器や防具は装備しておらず、むき身の骨で胸骨の中に魔石があるのは他のスケルトンと同じ。

 しかし、その骨の大きさに加えて色も違っていて、ジャイアントスライム同様に複数の属性を操ることができ、骨の至る所から魔法を放てる。

 そんな使える属性が混ざり合い、骨の色を常に変えている様子からジャイアントカラフルスケルトンとも呼ばれていた。


「あれがジャイアントカラフルスケルトンか……。問題ないけど、色が変わるの気持ち悪いなぁ……。なんか落ち着かんわ……」

「そうっすか?薄っすら光っていて綺麗に見えるっすよ」

「えー?もっとシンプルに一色な方が綺麗やない?見てみあの腕の骨。赤かと見てたら黄色っぽくなって、黄緑になったら青になるんやで」

「そうっすよ。見ていて飽きないじゃないっすか。この街の貴族は、あの骨を加工して装飾品作ったりするぐらいっすよ」

「骨の装飾品……。なんか嫌な感じせん?」

「しないっすね。戦利品をいい感じにしたもんっすよ。強さや富の証明になっても、不気味さはないっす。それが拷問の末に殺した人間とかなら別っすけど」

「魔物やからか」

「そうっす」


 そんな会話を繰り広げつつも、ジャイアントカラフルスケルトンを観察していた。

 絶え間なく色が変わるその姿は、骨の表面か内側に色のついた薄い膜でも這っているかのようだ。

 それがコップや皿であれば綺麗かもしれないけれど、遠くに見えるのは巨大な人の形をした骨。

 何をするでもなく胡座(あぐら)で座り、ぼーっと虚空を見つめている。

 時折り手で腰あたりの骨を()いているけれど、骨だけなのに痒いのだろうか。


「ジャイアントカラフルスケルトン倒したら、シルヴィアさんは地上に戻るんやろ?」

「そうっす。素材を持って、負傷者と一緒に一足お先っすね」

「まぁ、しゃーないか。ミミをよろしゅう」

「任されたっす。エルも無茶しないように」

「もちろんや。ウチほど迷宮内でおとなしい請負人はおらんで」

「ずっと背負われてるからそうと言えばそうなんすけど……」


 ウチの発言にシルヴィアは納得してくれなかった。

 酒に酔って暴れることもなければ、取ってきた魔物の大きさで揉めることも、喧嘩の賭けに負けてイライラすることもないのに。

 他愛のない話をしながら休憩している広間に戻り、作戦を話し合うことにした。

 素材は欲しいらしく、ウチを背負ったシルヴィアは壁として、地面スレスレで振られる大きな腕を受け止めたり、踏み潰しの足元へと駆けつけて受け止めることになった。

 攻撃の後の隙を迷宮騎士を中心に請負人が援護して倒すというわけだ。


「ほな行くでぇ!」

「おぉ!」

「よっしゃ!」


 ウチの号令に続けて迷宮騎士と請負人が、ジャイアントカラフルスケルトンのいる広間へと入る。

 その2つの集団は武器を構えて、ウチらから少し距離を空けてついて来ている。

 まずはウチらが壁として機能するか確認するために全体を見やすい位置関係にいるのと、いざという時に駆け付けられる絶妙な位置どりらしい。


「動いたっす!」


 背中を丸めて胡座(あぐら)で座っていたジャイアントカラフルスケルトンが、面倒くさそうに床に手をついてゆっくりと立ち上がり、その足をウチらに向けて落としてきた。

 それを身体強化した腕で受け止めるシルヴィア。

 固有魔法だけで完全に守り切れるか微妙なところなので、念のために身体強化してもらっている。

 その結果。


「鈍い痛みがあるっすけど、問題なく耐えられるっす!」

「痛いん?大丈夫なん?」

「組み手で相手とぶつかった時ぐらいっす!これなら何発でも耐えられるっすよ!」

「せやったらええねんけど……。魔法の時以外でもウチを前にした方が良さそうやで」

「そうっすね。危ない時はエルを攻撃に向けるっす」


 ウチと比べるまでもなく素早いシルヴィアに移動を任せている。

 そのせいで攻撃を受けるのもシルヴィアが行っているけれど、上手いことくるりと回ってもらえれば、ウチが攻撃を受けられる。

 そうすれば固有魔法の力を十全に発揮できるのだけど、魔物から視線を外すという行為が難しいこともわかる。

 事前に話し合った戦法は、見てわかるほどの魔法を放たれた時は、ウチを前にしてハリセンでかき消すというものだ。

 物理攻撃も同じようにできればいいけれど、そこはシルヴィアに任せるしかない。


「足にヒビ入れたぞ!」

「退がれ退がれ!倒れてくるぞ!」

「倒れたら胸の骨狙え!」

「砕いた骨は回収しておけよ!復活されるぞ!」


 何度も行われた踏み潰しや腕による薙ぎ払いをウチらで受けていると、左足に集中して攻撃していた請負人から声が上がった。

 一度で太い骨を折ることはできないから、執拗に同じ場所を狙って剣や斧にハンマーや槍、時には盾も使って骨の周囲を叩いていた。

 そのおかげでヒビが入り、攻撃が効いていると確信できたのだろう。

 そこで追撃しないように言ったのは迷宮騎士団長で、その判断が正しかったことがすぐにわかった。

 骨に入ったヒビから火や雷が迸り、周囲を焼いたからだ。


「なんなんあれ?魔力を放つとは違う感じやな」

「漏れ出た魔力が周囲に影響してるんすよ。エルの固有魔法がわたしに影響しているのと同じっすよ。たぶん」

「そうなんか……。アレ、どうやって近づくん?」


 くるぶしより上に横一線のヒビが入っていて、そこから火や雷、風に水と土といったものが飛び出している。

 よく見ると常に出ているわけではないようで、ハンマーを持った迷宮騎士が盾持ちに守られながら近づき、出なくなるタイミングで飛び込んだ。

 ガツンと良い音が響き、ヒビが大きくなったけれど、折るには至らなかった。

 しかも、ヒビが大きくなったことで漏れ出る魔力も増え、魔力の影響範囲も広がっている。


「近づき辛なったな。ウチが叩く?」

「そうすれば簡単なんすけどね。素材重視だからダメっす」

「せやな」


 続けて見ていると、攻撃部隊はヒビを入れた足を放置してもう一方の足を狙いに行った。

 ウチらが足踏みを受け止めて、その隙に攻撃することは変わらない。

 他にも腕の薙ぎ払いや、流れる魔力を集中させて放つ魔法もウチら、というよりシルヴィアが駆け回って受け止める。

 攻撃を受ける寸前にくるっと回ることを意識していたおかげで、シルヴィアへのダメージも減らすことができている。

 試しに風を受け止めた時は、シルヴィアが吹っ飛ばされそうになるけれど、後ろのウチは吹っ飛ばされないから板挟みになるという珍事も起きた。


「お?なんかヒビから出てる火とか弱まってない?」

「もう片方の足にもヒビ入れたからっすかね?よく見ると腕やら手のひらやらにもヒビが入っているっす」

「ほんまや。いつの間に攻撃したんやろ」

「薙ぎ払いを受け止めた時っすかねぇ?」


 地面スレスレを狙う薙ぎ払い攻撃は、ジャイアントカラフルスケルトンに向かって行く面々が一度に攻撃されてしまう。

 腕を振り上げて広範囲を薙ぐ方法と、出の早い体制を変えずに腕を振る方法があるけれど、そのどちらもシルヴィアが突っ込んで受け止めている。

 しかし、間に合わない時もあって、何人も派手に吹っ飛ばされているけれど、今の所戦闘不能にはなっていない。

 そんな攻撃をしてきた腕や手も、受け止めたことで動きが止まっている隙を突いて攻撃し、ヒビを入れることに成功していた。

 その結果、体の至る所から魔力が漏れ出したジャイアントカラフルスケルトンは、放出するより回復する方に魔力を使うことにしたようで、ほと走る火や雷が落ち着いた代わりに、小さなヒビが治ったり、足に入れた大きなヒビが徐々に小さくなっていった。

 迷宮騎士と請負人はそこが好機と見たのか、一気に両足へと向かい、ヒビが治るよりも早く広げていく。


「もうちょいだ!」

「全力で攻めろ!」

「槍でこじ開けろ!」

「刺さった!ハンマーで叩け!」

「おらぁ!」


 バキリと大きな音をたてて左足が折れた。

 すかさず折れた足先を数人の請負人が持ち上げ、入り口付近まで運ぶ。

 即座に回復されないためと戦利品の確保だ。


「もう片方も折れ!」

「体制が崩れたから薙ぎ払いが増えるぞ!注意しろ!」

「折れたところから魔法が飛び出るぞ!」

「頭突き注意!」

「受け止めるっす!」


 片足を折られたことで膝をついたジャイアントカラフルスケルトン。

 踏み潰しが難しくなった分、薙ぎ払いや魔力を放つ攻撃が増えた。

 そこに頭突きまで増えてシルヴィアは大忙しだ。


「もう片方も折れたぞ!」

「間接狙え!」

「手も攻撃しろ!」

「誰か登ってるぞ!」

「背骨?いや、魔石狙いか!」


 両膝をついて四つん這いになったジャイアントカラフルスケルトンの背中を、アンリが駆け上っていた。

 振り落とそうと身じろぎするのを攻撃して止め、アンリを全員でサポートする。

 細かく薙ぎ払われるようになったことでシルヴィアが追いつかなくなったけれど、そこは慣れた盾持ちの迷宮騎士がカバーする。

 それを見て動きを学んだ請負人も盾で受け止めてくれるようになり、なんとか戦線を維持しているうちに、アンリが背骨を走り切って魔石の上に到着した。

 そして、胸骨の間に体を滑り込ませ、魔石を掴んで落下。

 ジャイアントカラフルスケルトンもやられてたまるかとばかりに体を動かしたけれど、一度掴まれた魔石は離されることなく体の外へと出ていった。

 魔石を失ったことでジャイアントカラフルスケルトンは力付き、ずずんと地面を揺らしながら突っ伏す。

 本来ならもっと細かく体を分解して、腕や足を無くしてから狙うはずだったけれど、アンリはいけると判断したのだろう。

 早く決着がついて被害が減ったことに湧く迷宮騎士や請負人。

 解体を考えたのか、横たわるジャイアントカラフルスケルトンを眺めて苦笑いに変わった。


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