目から魔法が出るアンリとウチの運動能力
訓練エリアへ向かう途中、思い切って聞いてみることにした。
「そのめっちゃ格好いい眼帯は何で付けてるん?目を怪我してるん?」
「これ?怪我じゃない。格好良くもない。ただの魔法を使う時の補助道具」
眼帯を指差した後、ツンと視線を逸らしたアンリ。
目の部分にそんな道具をつける必要があるのか気になったけど、聞いてはいけないことだったのかもしれないので、これ以上は聞かないようにする。
・・・初手で失敗してもうたかもしれん。もっと無難なところから聞くべきやったわ。せっかくサージェという共通の知り合いがおるねんから、そっちについて聞けばよかった。
「わたしの魔法は目から出る。無茶して左目を失っただけ。眼球がなくても魔力は出せる。眼帯につけた魔石で威力を上げている」
ウチが内心反省していると、アンリは視線をこちらに向けないまま早口で言った。
ほっぺたと耳が少し赤いので、どうやら照れているようだ。
・・・もしかして、ただの恥ずかしがり屋さんなだけ?突き放したような言い方も、照れや緊張からくるものかもしれない。なんか可愛いな。
「それにしても、魔法は目からも出せるねんな。サージェは手から出してた気がするけど」
魔石は手で持っていたし、ウチに魔力を流す時は手と手の間に魔石を挟んでいた。
わざわざ目のところに持ってこないといけないのは、とても面倒そうだ。
相手の手を握るのではなく、目を近づけなければならないのだから。
「目から出るのはわたしだけ。他には知らない。普通は手から」
「そうなんや」
アンリの魔法が出る場所が変わっているということだ。
その結果左目を失っているので、特別で良かったわけではないと思う。
・・・どうせ特別になるならダメなところは無い方がええやろ。使い方が悪かったのかも知れんけど、それでも目を失うのは嫌やなぁ。
軽い会話をしているうちに階段を降りて、解体場所近くの扉から長い廊下を通り、組合の裏にある訓練エリアに着いた。
剥き出しになった地面には草が生えておらず、かろうじて周囲を覆う壁際に少しだけ生えているぐらいだ。
組合の建物側には日差しよけなのか、突き出た屋根があり、そこには木で作られた様々な武器が並べられている。
その横の屋根がない部分には矢を当てるための的なのか、藁が地面に刺さった丸太に巻かれていた。
もしかすると近接戦で的にしているのか、丸太の近くに細かく千切れた藁が散乱している。
「見習いはこちらに、アンリは向こうで見学だ」
「はーい」
「了解」
ウチが最後だった。
足の長さ的に一番遅い上に、アンリと話しながら来たからだろう。
他の見習いを待たせて悪いと思いながら指定された場所に向かう途中、あのいちゃもんキッズがボソリと「前とは違う人かよ」と呟いたのが聞こえた。
・・・面と向かって言わんのか!男らしくない!こんなやつは無視でいいんや!ふん!
聞こえてないフリをして、いちゃもん君から離れた場所に並ぶ。
不機嫌がわかるように、顔を背けるのも忘れていない。
完全に無視するよりもダメージはあると思いたい。
「なんだなんだ。今回のは既にやり合ってるのか?元気だな!よし!その元気をまずは走って発散だ!」
・・・いや、元気を発散したらあかんやろ。
ウチといちゃもん君のやりとりを見ていた教官のハロルドは、笑いながら最初の測定内容を話す。
訓練エリアを壁沿いに3周全力疾走するというものだ。
ここで重要なのがただ走るのではなく全力でというところだ。
魔物に襲われた時に逃げることを選択することもあるので、自分がどんなスピードでどれだけ走れるかを把握しておかなければならない。
成長して走れるようになれば測り直せばいいし、実践で感覚を掴んでもいい。
今はその最初が把握できていない人もいるし、教官としても把握しなければいざという時の対処に困る。
「では、走れっ!!」
ハロルドの大声で弾かれたように走り出す見習い達。
一部の見習いは飛び上がったかのようにびっくりしていたけど、ウチはそこまでじゃなかった。
「もぅあかん……。しんど……」
「へっ。だっせぇな。体力なさすぎだろ。足も遅いし」
「うっさいわ……。ウチは……まだこれから……大きくなるねん……」
何とか3周走り切ったけど、いや、3周目はほぼ歩いていたに等しい速度だった。
それでも3周はできたウチを待っていたのは、体力の回復が終わった見習い達と、呆れた声を出すいちゃもん君だった。
地面に倒れ込みながら言い返したけど、こんな有様のウチに言い返されても全然効いていなかった。
「息が整った者から次の測定だ。石を持ち上げるのと、籠に石を入れて端っこまで歩くことで、腕力と採取帰りの歩行能力を測るぞ」
石を持ち上げるのは腕力の確認と、どれぐらいの重さまでなら素材として持ち帰れるかを測る。
自分で籠に入れることができる重さを把握しておかないと、籠から離れて採取した挙句に動けなくなるなんてことになりかねない。
そして、採取が終わったらそれを持ち帰らなければならないので、籠に石を入れて歩く。
「ふらふらする量を入れるな。戦うために下ろすのにも苦労しているし、疲労も多いだろう。それで森から街まで歩けるか?場合によっては1日歩くこともあるぞ」
息を整えつつ見習いを観察していると、ハロルドの注意が聞こえてきた。
確かに無理に詰め込んで訓練エリアの端まで歩けたとしても、魔物も現れる外でふらふらと歩いていたら危ない。
ウチがやる時はそこも考慮してやろう。
「体力、走る速度、腕力、持てる重さ、全てにおいて最下位だ。まぁ、一番小さいしこれからだこれから」
結果、ハロルドから頂いたのは注意ではなく慰めだった。
一番重い石から順番に持てそうなものを探し、何とか持てるサイズより小さい物を一生懸命籠に運び、それを背負って立ち上がれる重さになるまで石を減らして何とか歩いた。
注意を聞いていたのでふらつきこそしなかったけど、めちゃくちゃ疲れたのでまたもや地面に寝転がっている。
・・・ウチ子供やから仕方ないねん!成長したらもっとできるようになるし!




