スケルトンはカモ
地下26階は属性を帯びたスケルトンが現れるけれど、溢れているからすでにサソリの階層で遭遇していた。
魔法を放ったり骨自体が燃えたりしても、ウチにとってはスライムと同じぐらい対処が簡単。
ハリセンで叩けば骨がバラバラに弾け飛び、魔力が抜けたせいで元に戻れなくなる。
放置すれば組み上がるはずだけど、それよりも早く胸の内側に浮いている魔石を抜き出せば討伐完了だ。
つまり、あまり狙わなくてもハリセンを振れば簡単に倒せる相手というわけだ。
「あれ?骨拾うん?」
「はい。いい燃料になりますから」
「燃料?燃えるってこと?」
「はい。火属性のスケルトンの骨は燃やせるんです。木材よりかは時間が短いのですが、火の魔力のおかげで簡単に火がつく上に火力もあるので、この街では着火剤として活用されてます」
「へー。便利そうやなぁ。特産品みたいになってるん?」
「いえ、それがこの階層まで来れる請負人が少ないため、少量が出回る程度なのです。リビングアーマーを超えることができても、サソリにやられる請負人が多くて、他領に販売するほど手に入りません」
「なるほどなぁ。火属性以外は使い道ないん?」
「ありますよ。日常では使えませんが、武具にほんの少し属性をつけられます。ただ、しっかりと付けるには大量に必要なため、先ほどと同じ理由で数が出ないので効果を実感できるほどではありません」
さらに詳しく聞くと、迷宮騎士の剣や槍の強化に属性付きスケルトンの骨を使っていた。
しかし、燃やしたり水を出したりなどはできず、若干属性を帯びていることで弱点の属性を突けば少しダメージを与えやすくなる程度らしい。
骨で強化するぐらいなら、魔力を流したら火を吹いたり水を出す素材そのものを武器にしたいところだけど、そういう素材は魔道具に使われることが多く、武器にするにしても強化していなければ鉄より脆かったり、魔力を流して強化できる容量が狭かったりするそうだ。
結果、魔力を含んだ鉄に骨を混ぜて鍛え上げることで、微弱な属性を付与するぐらいで落ち着いている。
「ふ〜ん。炎飛ばす剣とか作られへんねんな」
「迷宮から出てくることはありますが、作るのは非常に難しいでしょうね。それなら使い捨ての矢などを作って、一撃に賭ける方が使いやすいです」
「へー。燃える矢とか雷流れて痺れる矢かー」
「燃えている魔物には水の矢も効果的ですよ。この階層のスケルトンから取った素材は、そういった使い方もしています」
「結構強そうやけど……量産したらええのに」
「消耗品ですからねぇ……。ここまで来るのに消耗して、ここで素材を集めて少しプラスというところでしょうか。サソリ系に近づかれる前に矢で倒すことがセオリーなので、結構消耗するんですよ」
「ままならんなぁ……」
「そうですねぇ……」
せっかく作っても、この階層に来るまでに使ってしまう。
かといってここで大量にスケルトンを倒そうにも、運べる物資に限りがあるせいで長期間滞在はできない。
迷宮騎士は見習いに小麦粉や乾燥野菜を運ばせていて、戦闘時は離れたところで周囲を警戒させているし、見習いを守るために何人か護衛に付いている。
請負人側も軽量袋を使用して食料を運んでいて、もしも底が尽きたら一度撤退する手筈になっている。
これがライテやウルダーであれば、道中の魔物から肉を取れるけれど、この迷宮ではサソリが出てくるまで食べられる物がない。
そのサソリもくまなく食べられるわけではないし、毒に注意しないといけない上に解体に時間がかかる。
死んでも甲殻は硬いままだから、慣れていないと捌けないぐらいだ。
「ほんじゃあ今回はできるだけ骨集める?」
「団長に聞いてみます。いい機会ですし」
そう言ってピクルスの騎士が後ろに下がる。
スケルトンにトドメを刺すのを、請負人と迷宮騎士が交互に行っていたからウチの近くに居た。
そして、団長に話した結果、骨をできるだけ集めることになった。
幸いにも減った食料を入れていた軽量袋が空いていたから、魔石と合わせて属性ごとに骨を分けて集める。
ウチのやることは変わらないけれど、トドメ組は骨の大きさを見ながら判断するようで、少し後処理に時間がかかるようになった。
「欲しい属性のスケルトンとかおるんやろか?」
「あるんじゃないっすかねぇ。火や雷は直接ダメージが期待できるっす。水も話に出た水に弱い魔物に効くらしいっすし……土はよくわかんないっす。矢から土が出るっていうのが想像できないっすよ」
「刺さった周囲に土が出て重さが増えるんですよ。動きが鈍るので結構使えるんですよ」
「おぉ!そんなことなるんやな!」
「風は相手を吹き飛ばせる上に範囲が広いので、密集しているところに放つと効果的です。要は使い方ですね。ただ単に土が出るだけだったら効果はないですが、土の出し方を工夫すれば重しになるんです」
「へー」
「試しに使ってみましょう」
ピクルス騎士が矢を取り出しながらウインクしてきた。
ウチとシルヴィアは特に反応せず、矢の先端に注目した。
鏃がスケルトンの骨でできているようで、うっすらと茶色と緑色になっている。
それを次に出会ったスケルトンに向けて放つと、風はパァンと高い音を出しつつ数体のスケルトンを吹っ飛ばした。
土はガスッと骨に刺さったかと思ったら、傷を覆うように土が溢れ出して、ゴツゴツとした動きづらい形状で固まった。
土をぶら下げたスケルトンは動きが鈍り、他の迷宮騎士が簡単に倒していたし、風で吹き飛ばされたスケルトンは、バラバラになった骨を集めるのに必死で攻撃してこなくなるほどだった。
「おー!凄いやん!」
「これは色々使えそうっすね!」
「それに、骨を加工しただけでこの威力なら、武器にもすぐ属性つきそうやけどな」
骨を鏃の形に削り出し、棒と矢羽を付けたら矢になる。
放つ前に魔力を通せば効果を発揮するらしい。
それなら骨を上手く形作れば剣は難しいとしても、ナイフぐらいなら作れそうなものだけど。
「それができれば良いのですが、骨のまま使うと1回か2回で限界を迎えるのです。そのため、強化する時は骨を粉にしたり、鉄に溶かし込んだりと色々工夫しているようですよ」
「へー。難しいんやなぁ」
「強化は素材をくっ付けたら終わりじゃないっすからね。エルには今のところ縁がないっすけど」
「せやな」
ウチは武器と呼べる物を持っていない。
一応ナイフとボーラを持ち込んではいるけれど、使うのは専らハリセンだ。
出し入れ自由で重さもなく、長さや太さが調整できる上に、叩いた相手の魔力を散らすことができる。
これが使えるのに普通の武器を使うのは、何か困った時ぐらいだろう。
ナイフは肉を切るのに使うけれど。
「じゃあスケルトン狩りしよか!」
「お願いします」
素材を集めるために迷宮騎士と請負人の中でも身軽な人を走らせ、階段から階段までの道とその周辺を索敵しながら進む。
離れた場所に大量発生していればウチらが向かい、通常程度の数しかいなかったら何人か呼んで発見者が倒すというやり方で。
そうして休憩を挟みながら進んでいき、もう少しで階段というところまで来た。
「ん?あれなんすか?」
「どれどれ?なんやろ……。遠くてわかりづらいけど、デカいトカゲ?その割にはなんか煙出してる気がするけど」
素材集めをみんなに任せて進む先を警戒していたシルヴィアが、何かを発見した。
今は地下26階で、出てくるのは属性付きスケルトンだけと聞いていた。
しかし、そこに現れたどうみてもスケルトンじゃない魔物は、黒っぽいトカゲを大きくしたような形をしていて、体や口元付近から煙が出ているように見える。
数は1体だけど、大きさはスケルトン3、4体分ぐらい大きい。
「もしかして新階層の地下31階の魔物っすか?」
「え?早ない?大抵半分ぐらい進んだら次の階層の魔物出てきたやん」
「溢れた魔物が下から押し上げてきてるから、ここに来ててもおかしくないっすよ。それだけ新階層に魔物が溢れてるってことっす」
「あー、そういうことか」
そもそも氾濫が最下層から起きているのだから、その次の階層である属性スケルトンの階層に最下層の魔物がたくさんいてもおかしくない。
押し出された属性スケルトンがサソリの階層に、サソリがリビングアーマーの階層にと押し出されている。
その押し出された魔物の対処に追われて最下層の魔物を減らせなければ、徐々に上の階層に来る。
それにウチらが遭遇したというわけだ。
「エル、問題ないっすか?」
「んー?せやな!問題なしや!」
「わかったっす!」
幸い魔物の動きはのっそりしていて遅く、ウチの固有魔法も大丈夫だと判断している。
ひとまず情報を聞いてからだけど、倒すことはできるだろう。
ウチはハリセンを出していつでも叩けるように準備した。




