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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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256/305

サソリの魔物たち

 

 地下20階の階層主は、ずらりと並んだリビングアーマー30体に、ポルターガイスト10体を従えた、ジェネラルリビングアーマーだった。

 ジェネラルは他のリビングアーマーよりも鎧の装飾が豪華で、群青のマントも付いていた。

 他と比べて2周りほど大きく、剣も幅広で一撃が重いタイプ。

 他のリビングアーマーも階層主部屋だからか、道中遭遇した個体よりも傷が少なく綺麗な状態だった。

 ポルターガイスト用の武器も多く配置されていて、砂の地面に突き刺さっている光景は戦場のようだと迷宮騎士がぽつりと呟いていた。

 しかし、そんなリビングアーマーも迷宮騎士には敵わず、ウチがポルターガイストを倒している間に、騎士団長がジェネラルと一騎打ちして楽しそうに戦っていた。

 剣がぶつかり合い凄い音が鳴っていたけれど、結果を見れば団長の圧勝で、盾に受けた傷があるものの他は無傷。

 団員も2人1組でリビングアーマーを倒していたから危なげなかった。

 もちろん請負人たちもリビングアーマーを倒したけれど、こちらは3人1組か4人1組で戦っている。

 これが経験や訓練の差なのだろう。


「ここからはサソリ型魔物中心にゾンビやスケルトンも出てくるっす。もちろん動物型もっす。逆にリビングアーマーやポルターガイストは出てこなくなるんで、稼げる階層の終わりっすね」

「え?旨みないん?」

「サソリの肉と甲殻が売れるらしいっすよ。貴重な腐ってない肉と硬くて防具にしやすい殻。サソリの肉は毒にさえ気をつけていれば淡白で美味しいらしいっす」

「ふーん。じゃあ後で食べてみよか」

「そう言うと思ったっす」


 サソリ型の魔物は、毒の種類で名前が分けられていた。

 麻痺毒サソリ、熱毒サソリ、腐食毒サソリ、嘔吐毒サソリ、出血毒サソリ、眠り毒サソリなどなど。

 見た目は黒や茶色、赤みのある茶色の甲殻で、毒の種類によって尾や腹に模様があったりするけれど、素人目では判断しづらい。

 さらにゾンビやスケルトンと違って属性を帯びたハサミによる攻撃もあるそうで、その場合はハサミの内側が属性の色になっている。

 見た目でわかりづらいタイプということで、基本的には誰かがハサミを押さえ込んでいる間に回り込み、尾を切り飛ばしてから倒す。

 しかし、ウチとシルヴィアには関係なく、無造作に近づいて的になっている間に、迷宮騎士や請負人がハサミと尾を切り飛ばして簡単に倒してしまった。

 その様子に団長も呆れていた。


「ウチらはやること変わらんな」

「そうっすね。リビングアーマーよりもハリセン当てやすいっすか?」

「んー、振る位置は低いけど、変に距離取られへんから叩きやすいのはあるな」

「じゃあわたしが一気に奥へ突っ込んで、追いかけてきたやつにハリセン叩き込むのがいいっすね」

「せやな。ウチら向いてると尻尾がみんなの方に近なるから切りやすいやろうし、ええんちゃうか」


 ゾンビやスケルトンは相変わらず武装しているけれど、ハリセンを避けるようなそぶりはなく簡単に倒せる。

 地を這うサソリは位置が低くて攻撃しづらいけれど、伸ばせば何とかなるし距離も取られないから当てられる。

 当たれば動きが鈍くなるからサクッとトドメを指してもらい、ハリセンが当たってない部位の肉と魔石を取って残りは放置。

 1匹あたりの大きさがウチ以上にあるから、10匹ほど切り取れば全員の食べる分にはなるだろう。

 肉の切り出しは慣れている迷宮騎士任せにしているから、料理はトドメ組がすることになるだろうけれど。

 ちなみにウチは味見係。


「動じない盾役はこれほどなのか……」

「我々も盾を持っていますが、いっそのこと大きな両手盾運用しますか?」

「それだと後ろから見えないからな。彼女たちの場合は体自体が盾となっている。少し横にズレるだけで状況がわかりやすい」

「その分面の防御はできない感じですね」

「そうだな。だが、偵察や魔物の誘導にはうってつけだ」

「そうなるとここよりも開けた場所や難所の方が良さそうです」

「確かにな」


 団長とその部下がウチの運用方法を話し合っていた。

 残念ながら、どれだけ話し合っても迷宮騎士にはならないから、せいぜい迷宮の中で支持通りに動くだけだ。

 シルヴィアが。

 ウチでは魔物を見て倒す順番を決めることはできないけれど、シルヴィアは団長の指示通りに動くことができるし、一度教えてもらえたら次は指示されなくても効率良く動ける。

 ゾンビが数体減るだけで動きを変えるなんて無理だ。

 魔物ごとに順番を指示されるぐらいならなんとかなるけれど。


 ・・・ゾンビとスケルトンの数をある程度減らしたら残りは後ろに任せて、サソリを抑えてくれって……ある程度ってなんやねん!具体的に指示しろや!迷宮騎士相手やから言わんけども!請負人やったら何体まで減らせばええねん!って言うところや!周りから迷宮騎士は貴族階級やから噛みつくなって言われとるし……ウチ誰にも噛みついてへん優しい子やねんけどなぁ。


「そろそろ休憩とするか。この辺りの部屋に向かおう」

「道を教えてほしいっす」

「了解した」


 シルヴィアを先頭に、地図を持った迷宮騎士の案内で進む。

 ウチらも組合長から地図を借りているが、初めての場所を進むのはどうしても遅くなる。

 その点迷宮騎士はこの迷宮で訓練することもあるから、道案内はお手のものだった。


「ここなら交代で食事できます。まずは請負人の方々で休憩してください。サソリ肉の調理はこちらの料理担当が補助します」


 手早く魔道具を設置して、食材の準備に入る騎士。

 慌ててトドメ組の調理担当が補助に入って、それぞれ下拵えをしていく。

 その間にウチは水生成装置になり、皮袋への水補給も行なっていく。

 背中を貸すだけだが。


「やはり美味しいですね」

「エルちゃんこの街の迷宮騎士にならないかい?騎士団のお手伝いでもいいんだよ?」

「えー、ウチは自由がええねん。迷宮騎士はなんか硬苦しそうやん?」

「あー、確かに規律は多いな」

「ですね。後、こういう時はすごく忙しくなりますし、日々訓練なので休息日が待ち遠しくなる時もあります。その分、しっかり給金をいただけてますが」

「うーん。お金ちゃんと貰えたとしても堅苦しいのは嫌やな。ウチは自由な女やねん」

「確かに」

「自由ですね」


 どこを見て自由だと判断しているかはわからないけれど、とりあえず勧誘は諦めてくれたようだ。

 しかし、この街にいる間はご贔屓にしてくれるようで、色々なお店を教えてくれた。

 食べ物のお店ばかりだったけれど。


「できたぞー」

「サソリ肉の塩焼き、堅パンとエル(みず)を使った乾燥野菜スープ、ドライフルーツだ」

「おー!サソリ肉!見た目は普通やな!」

「毒があるところは変な色の液体が流れてたり、妙にブヨブヨしてたぞ。流石に捨てたけどな」

「普段はその毒袋や毒腺も素材になるんですよ。今は荷物になるので放置です。階層主部屋から伝令を走らせる場合は持って帰らせますけど」

「そういうもんなんですか。確かに戻るなら素材もとはなりますね」


 迷宮騎士が教えてくれたことに、調理を手伝っていた請負人のおじさんが丁寧に返す。

 ウチもできるだけ丁寧にしようとはしているけれど、すぐに忘れてしまうというか、自分のペースで喋ってしまう。

 特に怒られていないから、今のところは大丈夫そうだけど、呼ぶ時のさん付けだけは忘れないようにしている。


「うーん。なんかむちむちしてるな。ほんで味は沼地エビとかに似てる?なんか筋がみっちりしてる感じ。ただ、味の深みがないというかあっさりしすぎというか。ハーブとかと一緒に炒めたらもっと美味しくなるやろな。ん?スープにも入ってるんか……どれどれ……。んー!スープの方が美味いやん!肉が野菜の味も吸って味わい深くなっとる!」

「なんというか……」

「すごいですね」

「あー、この子はいつもこんなもんですよ。ウルダー中迷宮都市では屋台経営するぐらい食べ物にこだわるんです」

「屋台経営まで……」

「請負人なのにですか。本当に自由ですね」


 食べているところを囲んで何か話しているけれど、それでもウチより食べるペースが早いのは大人と子どもという差のせいだ。

 きっとそうだと思いながら、もぐもぐとサソリ肉を噛み続ける。

 筋肉質なのか噛み切るためにやたら噛まないといけないから、ウチは会話に入れない。

 いつの間にかミミたちに任せている屋台でどういったものが食べられるのかという話に発展していた。


「エルの嬢ちゃん。この街で屋台出す予定はないのか?」

「んー……わからん!長くおるなら出すかなぁ。あ!でも、アレやで!屋台で料理するミミが炊き出しに参加してるから、もしかしたら屋台と同じもん作ってるかも知れへん。!自由に作って良いって伝えとるし!」

「おぉ!」

「次の伝令は私が行きましょうか」

「いや、さすがに戦える奴はダメだろ。見習いに見に行かせる程度にしておけ」

「仕方ないですね」


 本当に残念そうにしている迷宮騎士2人。

 屋台の話を振った請負人はにやにやしながらどう美味しかったか、どれだけ人気だったかなど話し出す。

 それを怒ることなく真面目に聞くところに、迷宮棋士の育ちの良さが出ている。

 満腹の今ならウチも大人しく聞けるけれど、空腹の時に話されたら、思わずハリセンを振り込むだろう。

 空腹時の美味しいもの談義は喧嘩になることもある。


「そうだ。エルにこれをやろう。砂漠の花のはちみつ漬けだ」

「おー?」


 白い花とピンクの花が、薄らと黄色がかった膜に覆われている。


「では、私からはこれを、サボテンの酢漬け、ピクルです」

「おー」


 渡されたのは壺で、開けるとツンとくる匂いが漂い、液体に浸された薄緑で輪切りになった野菜のようなものが沈んでいる。

 その中の一つにフォークを突き刺し、酢をこぼさないようポタポタと落ちる水滴が落ち着くまで待ってから口に入れる。


「酸っぱ!」

「ははは!そのまま食べるとそうなりますよ。普通はパンに挟んだり、刻んで野菜と一緒に炒めたりします」

「早よ言うてやぁ。まぁ、ウチこれ嫌いじゃないけどな。もうちょっと酸っぱくなかったら嬉しいわ」

「ハチミツを溶かし込んで甘さを加えたものもありますが、それはハチミツを手に入れる関係で少し高価なんですよ。長期の遠征ではこちらの酢と塩で漬けたものをたくさん持ち込みます」

「なるほどなー」


 口直しに砂漠の花のハチミツ固めも食べる。

 パリパリと砕けて、ハチミツの甘さが口に広がったと思ったら、花の香りが鼻を抜けた。

 花だけに。

 ウチはこれ好きだ。

 ウルダーに帰ったら他の花でも作ってみたい。

 ここにいる間に作り方を調べようと決意して、探索に戻った。


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