迷宮騎士は強い
休憩していた迷宮騎士たちは指揮担当らしく、今いる部屋を拠点に周囲の魔物を倒していた。
持ち回りである程度魔物を間引いたら先に進んで拠点を構築、これを繰り返して早く地下31階の攻略が詰まっていた新階層に向かう計画だった。
地下15階までは迂回してでも溢れた魔物との戦闘を避けて体力を温存。
氾濫の原因となった最下層にいち早く到達しようとしたけれど、迂回しても氾濫した魔物とは遭遇するため、殲滅速度が異様に速いウチらが追いついた形になる。
ウチとしては結構時間がかかったと感じているけれど、他の人からすると大量のゾンビやスケルトンを一撃で消し去るのだから当然らしい。
「ふむ。つまり、君たちはリビングアーマーが苦手なんだな」
「そうっす。警戒されて思うように攻撃できてないっす。複数人で囲んで隙をついて倒すから時間がかかるっす」
時間がかかると言っても、ハリセンが当たればそこから一気に崩せるので、普通の請負たちが倒すよりも格段早い。
逆に迷宮騎士たちはポルターガイストが苦手なようで、飛んでくる物を身体強化した体で無理やり突破する戦い方をするため、ナイフやフォークが体に刺さることがあるようだ。
めちゃくちゃ痛そう。
「我々も早く下に進みたいのだが、増えた魔物が厄介なんだ。先行している部隊によると、地下18階からは更に下の魔物が現れていてな。単体では問題なく倒せるのだが、混戦となると被害が出るんだ」
「次の階層というとサソリの魔物っすね?」
「そうだ。大きいが位置が低く、ハサミの力は強力で、尾の先には毒がある。甲殻は硬く、足音もそこまでしない。まぁ、足音に関しては気にせずとも大きさで見落とすことはないだろうが……」
リビングアーマーの足元縫うように近づいてくるのが厄介で、鎧の意だから尾を伸ばして刺してくることもあるそうだ。
迷宮騎士は足元も金属製の物で覆っているけれど、強化が一点集中されたサソリ魔物の尾は金属を貫通し、足を中心に刺さって毒を受ける。
もちろん今回増えた階層ではないから、今までに倒されたサソリの毒から解毒薬を作っているし、騎士たちも持ち込んでいる。
しかし、使えばすぐに解毒されるわけではないから、こうして安全に休める場所の確保が重要になる。
「エルと言ったか。君の固有魔法ならサソリ種でも蹴散らせるのか?」
「どうやろ?攻撃当てれば動けんくすることはできるやろうけど……。あー、ウチの固有魔法は攻撃するやつちゃうねん。守るやつやねん」
固有魔法を軽々しく言わないようにシルヴィアがぼかしてくれていたけれど、直接聞かれたら能力を伝えないと会話にならない。
ウチとしては別に話してもらってもいいのだけれど、吹聴されて厄介なことになった例があったことでの慣例だから、他人が軽々しく個人が特定できる内容で話してはいけない。
どういった固有魔法の人と出会ったか、迷宮内にいる固有魔法持ちはどんな能力かなどがギリギリのところとなる。
「守り?もしや背負った人を守るのか?」
「惜しい!ウチ自身を守るんやけど、背中から魔力を出して、もう1人守ってんねん」
正確には漏れ出しているけれど。
「ほう。他者にも影響を与えられるのか。では、我々の誰かがエルを背負っても守られるのか?」
「せやなー。多分いけると思うけど、馬車みたいに大きいやつには効果薄くなってんねん。だから、おじさんたちが大丈夫かどうかはわからんなぁ」
「そうか」
今目の前に居る迷宮騎士たちは大柄な上にゴツい鎧を着ている。
そのおかげで横幅は熊獣人のベアロよりもある。
アンリに見てもらえばどれだけ固有魔法の影響を受けているかわかるだろうけど、息の合うシルヴィアから離れておじさんたちに背負われたくはない。
初めて会った人が、ウチのハリセンを当てやすいように動いてくれるわけがない。
そんなウチの断りに団長のおじさんは気分を害した様子もなく何か考え始めたので、おじさんたち迷宮騎士を放置して、ウチらは先に進むための準備を進めていく。
皮袋ウチの水を満たし、体をほぐしてすぐに動けるようにした。
「提案なのだが、我々も君たちに同行することは可能だろうか?」
「ん?一緒に行くん?なんで?いっぱい倒さないとあかんのちゃうん?」
「それは他の隊に任せる。いち早く下層に向かうのに、君たちに着いていく方が早いのではと考えたんだ。この階層の魔物を狩り続けても、上層の溢れが止まるだけで下層はそのままだ。早く下層を抑えねばならん」
「まぁ、着いてくるのは別にええやろうけど、あんま人多なってもなー。みんなはどう思う?」
トドメ組に聞いてみたところ、迷宮騎士が同行するというなら拒否はしない方がいいという、何やら権力的な話になってしまった。
迷宮内を見回ることが多い迷宮騎士は、普通の請負人よりも強い上に、不審者を拘束する権限から安全のために人を殺す権限まで色々持っている。
命令ではなく提案とはいえ断るべきではないと考えていた。
「反対もないし、しばらくよろしく?でええん?」
「あぁ。よろしく頼む。副団長はここで指揮を、俺の隊で行く。戦力的にも問題ないだろう」
「はっ!了解しました!」
団長に頷き返され、その後の指示も出し終えたから、この先の準備として迷宮騎士皮袋にもウチの水を入れた。
その間にシルヴィアからどういった隊列で進んでいたのかを説明してもらった。
迷宮騎士たちの実力を見せるということで、ウチのすぐ後ろに団長たちが組み込まれ、ウチらが足止めした魔物を素早く倒してくれることになった。
小部屋を出たところでいつでも戦えるように剣を抜き、周囲に鋭い視線を向ける騎士たち。
ヘルムに顔のほとんどが覆われているため、鋭い目つきが強調されている。
「リビングアーマーっす!後ろにポルターガイストもいるっすね!」
「じゃあウチらが前出るから、団長さんたちはリビングアーマーよろしく!」
「任された!」
ウチを背負ったシルヴィアがリビングアーマーに近づく。
正面はハリセンを持たないシルヴィアだから、普通に斬りかかってこられたけれど、固有魔法に弾かれる。
その間に2体が脇を抜け、後ろにいるウチを警戒するように剣を向けてきたので、ハリセンで牽制する。
「ぬんっ!」
「せいっ!」
抜けた2体とウチがお互い攻撃できずに戯れていると、迷宮騎士の2人が凄い勢いで突っ込んできて、駆け抜けながら放った一閃によってリビングアーマーの胴体が真っ二つになった。
さすがに団長自ら動いたわけではなく、部下の若い2人だったけれど、トドメ組でも深く切りつけるぐらいの相手を両断できたことに驚いた。
2人はそのままシルヴィアの正面にいたリビングアーマーを倒し、後ろから出てきた追加のリビングアーマーと切り結び始める。
そこを狙ってポルターガイストが物を飛ばしてきたけれど、それはウチらで押さえ込んでそのままポルターガイストを倒した。
「やりますね!」
「そっちもな!凄いやん!ズバッて感じで真っ二つや!」
「魔石は取ってないので倒せたわけじゃないんですけどね。まぁ、それは他の方でも簡単にできるので、後ろに任せるんですよ」
「ほぁー。先に切って動けなくしてから魔石取るんやな」
「そうです。そうすると我々は切ることだけに専念できるので、戦闘に集中できるんです」
「なるほどなぁ」
役割をきっちりと分けることで仕事に集中する。
これはウチらもやっていることだから、すぐに納得できた。
それよりもリビングアーマーを真っ二つにできる強さの方が気になったので、考えるよりも聞いてみることにした。
「あぁ。それは訓練の賜物ですね」
「あー!それ知ってんで!大人が誤魔化す時に使う奴や!頑張りとか根性とかそういうのと一緒のやつ!」
「いえいえ!そうではありません!しっかりとした理由があるのですよ!」
「ホンマにぃ?」
疑いの視線を受けた若い騎士は鍛錬の効果などを話してくれた。
その内容は、迷宮騎士は訓練による技術力や装備の性能で強くなっているというものだった。
請負人が実践で強くなっていくのに対して、迷宮騎士は身体強化のバランスや強化量の調整、武具への適切な魔力の流し方に対人、対魔物の戦い方の訓練、さらには自身にあった武具の選定に高品質な素材を使った強化などで強くなっていく。
武具の強化は請負人も行っているけれど、元となる物の性能が違うため強化伸びに影響するそうだ。
迷宮騎士の武具は、所属する迷宮の管理者、つまり迷宮伯が用意することになる。
当然貴族なので生半可な武具ではなく、長期間使えるしっかりした素材使って作る。
その素材は魔力を多く含んだ魔鉄が中心で、これで作られた剣は魔力が流しやすく強化幅も大きくなる。
それで武器や防具を作るのだから、請負人よりも効率よく戦えるし、その時に磨いた技術が役に立つ。
請負人は訓練してもお金にはならないけれど、迷宮騎士は迷宮伯からお金が出ているので訓練中も生活に困らない。
ただし、迷宮から魔物が氾濫したり、付近の街道で強い魔物が現れたり、迷宮伯が他所の街に行く時に護衛したりと、自分で仕事は選べないけれど。
請負人も全く訓練していないわけではないけれど、迷宮騎士が言うように実戦で強くなろうとしていると言う説明はわかる。
ガドルフたちも訓練しているけれど、それは休日や空き時間に動きの再確認程度だ。
・・・ウチらの中で一番訓練しとるのはミミかも知れへんなぁ。料理の練習に身体強化の練習。最近はシルヴィアに教えるぐらいやったし。本人はめっちゃ縮こまって教えてたけど。
訓練の内容も教えてもらえる範囲で話してもらいながら、魔物も倒してどんどん進んでいく。
そうしてサソリ型の魔物が登ってきている、地下18階に到達した。




