地下15階の階層主
リビングアーマーとの戦闘で盛り上がっていたけれど、ポルターガイストとの検証もちゃんと行った。
浮かばせた物とポルターガイストの間に向けて、シルヴィアが魔道具の剣を振るうことで物が落ちた。
しかし、ポルターガイストの魔力操作が上手いからか、あるいは圧倒的な魔力量でカバーしたのかはわからないけれど、落ちた物はすぐに浮かんで攻撃に加わってしまった。
ハリセンを間に振っても他の人が切るより若干時間がかかった程度で、すぐに復帰した。
魔力の動きを見たアンリいわく、切断面から伸ばせなくなった時点で破棄して、新たに糸を伸ばして接続したらしい。
「あんまこの方法使えへんな」
「そうでもないっすよ」
「前の人が物を落とせば、後ろが一気に近づく道ができる。身体強化しておけば距離詰められるから、戦法としては問題ない」
「大きな物ほど浮かばせるのに時間がかかってたっす。だから、隙を作るのに向いてる戦い方っすよ」
「おー。なるほどなぁ」
ウチには合っていないけれど、他の人たちには有効な戦い方だった。
ウチの場合は飛んでくる物自体をハリセンで叩けば魔力が抜けるし、アンリいわくしばらくウチの魔力が干渉して追加の魔力が流す辛くなるらしい。
そんなことができない人たちは、飛んでくる物を避けつつ魔力の線を切り、相手に繋げ直すという負荷をかける。
これによってポルターガイストの動きが制限できて、狙いやすくもなっていた。
「地下15階に到着っす」
「休んだら階層主?」
「復活してるかわからないっす。ただ、氾濫している時は階層主の復活ペースも早くなるって話もあるっす。氾濫自体稀なんで、誰も検証できてないっすけどね」
「ふーん。地下5階で検証すればええんちゃうん?」
「そこだと元々ペースが早いから調べづらいんじゃないすか?あと、調べたがるような人を氾濫している迷宮に入れるのはあまり良くない気がするっす」
「確かになー。じゃあちょっと休んだら階層主おるか見に行こか」
「そうっすね。ついでにこの階層の主についても話しておくっす」
地下15階の階層主は復活していた。
動物ゾンビが出てくる階層だからか、複数の動物ゾンビが一つに合体したもので、キメラゾンビと呼ばれているらしい。
大型動物の体に、複数の肉食動物の顔が付き、太い尻尾が何本も生え、腕や足も複数ある。
牙や爪が伸びたその姿は、どう見ても理解できない形状をしていた。
・・・合体っちゅうからちょっとわくわくして
たのに、ただキモいだけやん……。顔が複数あって毒液吐いたり瘤飛ばしてきたりと攻撃は多彩みたいやけど、魔法にめっちゃ弱いらしいし、ウチじゃなくても良くない?近づきたくないわ。シルヴィアさんが向かうせいで強制的に近づくことになるけど、早よ倒そう……。
今回のキメラゾンビは、ライオンの体に熊やオオカミの顔、ゴリラの腕が横腹から生えていたり、背中にはよくわからない細長い棘が何本も生えている。
尻尾はワニのような太い物に蛇のような細いもの、毛が抜けた何かしらの肌が見えているものもある。
それぞれ口からはダラダラと液体が出ていて、地面に落ちるとシュウシュウ音を出しているから、溶解液のようなものだろう。
自分の体にかかっても溶けているけれど、痛覚がないのか気にしていなかった。
「気持ち悪い見た目やなぁ……。近づきたくないわ……」
「同感っす。でも、後ろからはポルターガイストやリビングアーマーが出てくるっすけど、数より質だからそんなに溢れてこないのはありがたいっす」
「ゾンビの方が倒すの楽ちゃうん?」
「倒すだけならそうっすけど、数が少ないならこっちの人数で抑え込めるっすよ。ゾンビやスケルトンはこっちよりも多い群れで溢れてるんで、エルがいなかったら混戦になって怪我人続出してたはずっす」
「なるほどなー」
5、60の群れが襲いかかってきたとしても、半分以上がウチの方に来る。
そうなるとトドメ組に向かう数はトドメ組よりも少なくなるので、1人1体倒すだけでいい。
魔物側の数が多ければ、一撃で倒さない限り反撃を受けるし、足を狙って移動しづらくしてもゾンビやスケルトンの場合あまり効果がないか時間で復活する。
瘤が至近距離で破裂したら、その勢いで壁に叩きつけられる上に、毒やら溶けるやらで悲惨なことになる。
もちろん請負人も全部接近戦で倒そうとせず、弓や投げ槍に魔道具といった色々な物で遠くから数を減らして対処している。
それと比べるとリビングアーマーは鎧が硬くて剣術がすごいけれど、人数で押さえ込むことができるし、ポルターガイストも飛んでくる物を耐えたら一度接続を切れる。
もう一度繋ごうとしている隙に近づけば、結構簡単に倒せるから、今となってはそこまで脅威じゃない。
「じゃあ階層主サクッと倒す?」
「そうするっす」
そうして階層主の部屋へと足を踏み入れた。
瞬間、緑や紫色の煙を複数の口から吐いてきたキメラゾンビ。
普通の請負人ならすごい被害になるところだけど、ウチの固有魔法のおかげで被害ゼロ。
若干部屋の入り口から外に漏れ出たけれど、野営の準備で誰も近くにいないはずだから恐らく問題ないだろう。
煙を突き抜けてもらってキメラゾンビに近づいたけれど、接近戦は嫌なのか、歪で巨大な体の割に素早く動いて距離を取られた。
身体強化したシルヴィアが何度も距離を詰めたけれど、それを上回る速度で空けられる。
もしかすると魔力を感じ取ることができて、固有魔法を警戒しているのかもしれない。
あるいは毒の煙の中を平然と突っ切ってきたからか。
「どうするっすかねー」
「ウチを投げるのは」
「わたしが危なくなるっすね」
「せやな。誰かに遠くから牽制してもらう?」
「そうっすね。槍や魔法で動きを制限してもらえたら近づけるかもしれないっす。ただ、それをする人たちが危ないんすよね」
「他の請負人はどうやって戦っとるん?」
「毒の煙は風を出す魔道具っすね。それ以外は速さで翻弄したり、盾で押さえ込んだりといった普通の戦い方のはずっす。ここまで降りてくる人たちは、この先の家具やら雑貨やらを求めてるんで、ある程度慣れているはずっすよ」
「なるほどなー。ウチらを囮にして他の人らに攻撃してもらうしかなさそうやなー」
風を出す魔道具はないし、そもそもウチらだけなら固有魔法のおかげで必要ない。
とりあえず戻ってアンリを呼び、魔法で援護してもらいながら戦うことにした。
他の請負人も参戦しようとしたけれど、万が一が起きないようまずは3人で挑んでみる。
「アンリさん魔法よろしゅう!」
「任せて」
「火と風が苦手らしいっす!水や土、雷はあまり効かないはずっす!」
「わかった」
火の魔石を投げたところに魔力を放ち、火を起こしてそれをキメラゾンビに向かわせる。
シルヴィアの言う通り火が苦手なのか、近づくウチらから逃げるときと同じように大きく距離を取られた。
逃げ方はあまり多彩ではないから、火とウチらで挟むように迫れば、ある程度逃げ道を予測することができて、徐々に距離が近づいていく。
しかし、火よりもウチらを警戒しているようで、もう少し近づければ叩けるというのに、被弾覚悟で火の中に突っ込んでいった。
「このまま行くっす!」
「了解や!」
「火を追加する」
炙られた痛みで少し動きが遅くなったキメラゾンビを追って、シルヴィアも火の中に飛び込む。
アンリが火から出た先に、さらに火を放ったことで何とか追いつくことができた。
後は足を狙ってハリセンを当てれば、機動力が一気に下がる。
しかし、キメラゾンビもただ殴られるわけではなく、尻尾を足とハリセンの間に挟み込んで抵抗してきた。
弾ける太い尻尾。
少し身軽になったからか、速度が上がるキメラゾンビ。
若干動きがぎこちないけれど、距離はなかなか縮まらない。
アンリに一度戻ってもらい、しっかり防御や回避することを念押しして、投げやり部隊も投入することにした。
「おらっ!」
「そこだ!」
「避けると思ってここで投げる!」
「火だす」
何人かの請負人が応援に駆けつけてくれて、瞬く間に足や体に槍が生えたキメラゾンビ。
動きが鈍くなったところにアンリが火を放ち、完全に動きが止まるのを待ってシルヴィアが駆け出す。
後はウチがハリセンを胴体に叩き込み、破裂して剥き出しになった魔石を回収して終了となった。
「時間かかったなー。みんなお疲れさーん」
「おう」
「槍回収してくるわ」
「じゃあ俺は警戒しとく」
「戻る」
キメラゾンビから取れる素材は魔石と骨、運が良ければ何かしらの動物の皮となるが、今回は荷物のこともあって魔石だけにした。
片付けと警戒をトドメ組に任せ、階層主前の広場で食事をとって体を拭いたら就寝だ。
迷宮に入る前に色々話しを聞いていたシルヴィアいわく、迷宮騎士を中心としたいくつかのパーティが先行しているとのこと。
これまでに出会ってないことから、もう少ししたら合流できるかもしれないらしい。
いまだに溢れているので解決はしてないけれど。
「合流したらどうするん?」
「どうもしないっす。あー、情報交換ぐらいっすかね。討伐が進んでないのは地下31階からなんで、ようやく折り返しっす」
「うぇー。まだまだかかるんか……」
「エルのおかげで順調っすよ」
「それほどでもあるな!みんなの援護もめっちゃ助かってるけど!」
「そうっすね。さ、休める時に休むっすよ」
いつも通り警戒はトドメ組に任せて休む。
地下16階は稼ぎやすい階層だから、どんな風になっているのか楽しみだ。
小部屋がいっぱいあって、家具が置かれているらしいけれど、いまいち想像できないでいる。
色々な部屋を想像しているうちに、いつの間にか眠りについた。




