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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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251/305

ポルターガイストって凄いんやな

 

 進むことしばらく、何度もポルターガイストを含んだ魔物の集団と戦い疲れたウチらは、階段へと続く道から外れた小部屋で休憩を取ることにした。

 溢れた魔物は階段から階段へと向かう複数の道に多くいるため、少し外れただけでだいぶ魔物の数が減る。

 一度に5体でも多い方だけど、動物ゾンビや武装スケルトンだから、ハリセンで簡単に倒せる。


「ふぃ〜。やっぱ疲れるなぁ」

「ずっと活動してるから仕方ないっす」

「せやなー。食料は問題ないん?」

「まだまだ余裕あるはずっすよ。軽量袋3つに固パンや干し肉、乾燥野菜やらたくさん入れて持ってきてるっす」

「そっか」


 話している間にも、色んな人たちがウチの背中に水生みの魔道具を当てて美味しい水を飲んでいる。

 さらには食事の準備に使う用の鍋型にも魔力を魔力を流し、料理の上手な請負人の女性がスープを作りだす。

 ウチの水を使うとサラサラと飲みやすくて体に染み渡るスープになるから、疲れた体によく効くと好評だ。

 アンリいわくウチ魔力が良いように作用しているらしく、他の人たちが普通に使う分には起きない現象だった。


 ・・・アンリさんやシルヴィアさんがめっちゃ魔力溜めて水生みの魔道具使ったら同じようなこと起きるらしいけど、味に変化なかったもんなー。不思議やわー。


「エル」

「ん?どしたんアンリさん。水なら勝手に汲んでくれてええで」

「わかってる。それよりポルターガイストがどうやって物を浮かせているのかわかった」

「おぉ!さすがアンリさん!」


 食事として配られた干し肉とパンを使って説明してくれた。

 なお、スープが冷めるから早めに飲み干した結果、アンリは硬いパンをガジガジと齧りながら食べることになった。

 そんなアンリの説明では、ポルターガイストのモヤモヤした部分は可視化されるほど濃い魔力で、そこから糸のように浮かばせている物へと魔力が伸びていたそうだ。

 体を構成している魔力よりも薄く伸ばすことで普通には見えなくなり、何も繋がっていないように見えていた。

 そして、その繋いだ魔力で引っ張るのではなく、物を掴んだ腕のように自在に動かしているそうだ。

 つまり、投げてくるのではなく、物を掴んでぶん殴ってきていたというわけである。

 話しながらアンリが干し肉とパンを交互に浮かせたり、移動させてくれたけれど、ウチらの目には突然浮き上がったようにしか見えなかった。


「アンリさんもそれで攻撃できるようになるん?」

「今すぐには無理。いつもは魔力を放出するだけで良かった。けど、これは出し続けて操作しないといけない。慣れるまで時間がかかる」

「ふーん。そういうもんなんやな」


 普段の魔法は失った左目から魔力を放ち、魔石を通すことで属性に沿った攻撃をするというもの。

 他の人たちも同様で、魔力を放出できる部分からドバッと放ち、自身からは切り離した状態となる。

 放出の勢いや形で効果が変わり、矢のように細長いものから、抱えられるほど大きな球体に、視界を奪う壁状のものまで様々だ。

 その放出を切り離さず繋げたまま操作することで、ポルターガイスト同様に物を浮かせたり移動させたりはできるけれど、少し長い手を手に入れたようなものだと言われた。


 ・・・あんま嬉しそうやないな。調味料とか取る時便利そうやねんけど……。


 早く動かすには訓練が必要だし、動かす物に自分の魔力を流さないといけないから、大きな物ほど消費魔力が増える。

 アンリの魔力では机をぶんぶんと飛ばすことはできそうにないらしく、近接戦闘時にナイフを操って牽制できるようにするのを目標に定めていた。


「仕組みがわかれば対策もできるっすか?」

「できる。思いつくのはポルターガイストと浮かんでいる物の間に魔力を纏わせた攻撃を通すこと。これで線が千切れたら物が落ちる。エルじゃなくても物を落としやすくなる。ただ、わたしは浮かばせる時に一直線にしかできないけれど、ポルターガイストは曲線で浮かばせることもできていた。攻撃する時は直線だったけれど」

「めっちゃ喋るやん。テンション上がってるな」

「とても興味深い現象だった。上手くできるようになれば遠隔で魔道具を動かすこともできるし、戦闘の幅が広がる。そのためには魔力量を増やすことと、細かい魔力操作が必要だけど」

「おー。なんか大変そうやけど頑張って。ウチには応援することしかできへんし」

「頑張る」

「アンリの決意は良いとして、ポルターガイストへの対策っすよ!試してみても良いっすか?」

「もちろん」


 実験はアンリが浮かせた干し肉の周囲を、魔力を込めた剣で切れるかというものだった。

 武器に魔力を流すことが苦手なシルヴィアは見学で、トドメ組から連れてきたおじさんに協力してもらい、魔力の見えないウチらからすると何もない空間に剣を振るっている姿を堪能した。

 演舞のようなものにしては物々しかった。

 結果、アンリと浮いた物との間に剣を振り下ろすと魔力の線なるものが切れ、浮いた物の制御ができなくなって落下することがわかった。

 ムキになったアンリが頑張って避けようとしたけれど、ふよふよとゆっくりにしか動かないため一回も成功しなかった。


「次は魔力を流してない剣で切れるかっすね」

「おう。任せとけ」


 ウチには変わったように見えない剣を再度振るおじさん。

 今度は干し肉が落ちることなくふわふわと浮いたままだった。

 剣だけでなくおじさんが間に入ってみると落ちたから、魔力の干渉によって接続が切れると判断された。

 これがアンリだから起きるのか、ポルターガイストにも有効なのかは実際に試してみないとわからないけれど、基本戦法は耐えるか逃げ惑うだけだったところに、相手の戦力を減らす方法ができたのはいいことだろう。


「次はこれを試すっす」

「おぉ!全然使ってへんやつ!」

「ガドルフたちと依頼に出た時は結構使ってるんすよ?」

「そうなんや。知らんかったわ」

「エルといる時は移動担当っすよ」


 シルヴィアが取り出したのは、沼地で手に入れた魔力を流すと剣や盾が出てくる魔道具。

 もちろん魔力を使って刃や盾を出しているのだから、干渉して浮いた物は落ちた。

 考えたら当然だけど、実際に試してこそ実戦で使えるというものだ。

 ぶっつけ本番で効果がありませんでしたでは、何か起きた時に困る。

 少なくともアンリが浮かせた物に対しては効果があったから、ポルターガイストにも通じるかもしれないと、実行に移す気になる。

 そして、実行するとなれば失敗した時のことも考えて段取りを組めるから、確かめるのは大した手間じゃない。


「エルのハリセンは……もちろん落とせるっすよね」

「魔力の塊やしな」

「それだけじゃない。魔力の糸が霧散して使い物にならなくなった」

「ん?どういうこと?」

「よくわからないっす」

「魔力を込めた剣や魔道具の剣で切られても、断面から糸を伸ばすことができる。けれど、エルのハリセンで散らされた場合、断面から新たに伸ばすのは難しい。3倍近い魔力を流せば伸ばせるけれど、効率を考えると一度破棄するか、側面から新たに伸ばすほうが良い」

「ほーん。なんか凄いんやな」

「そうっすね」


 魔力の糸を出せないウチらからすると、アンリの説明を聞いてもそういうものなんだと納得するだけで終わる。

 ウチの魔力が糸に干渉してどうのこうのとぶつぶつ言っているアンリを尻目に、休憩にために広げた荷物を片づけて移動の準備をする。

 シルヴィアも魔道具の武具を出してポルターガイストに備えたけれど、遭遇したのはまだ見ていなかった魔物だった。


「めっちゃ鎧やん」

「あれがリビングアーマーっす。死んだ請負人の鎧が動き出したとか言われてるっすけど、たぶんそれは違うっす。請負人があんなに上等なフルプレート着て迷宮に行くことなんてほとんどないっす。どれだけ倒してもいつの間にか復活するのが迷宮の魔物っすからね。鎧ごと作り出されてると考えるのが普通っす」

「おー。鎧取り放題やん」

「そうっすよ。だから稼げるっす」

「ふーん」


 ウチらの前にいるのは抜き身の剣を右手に、左手に盾を持った全身金属の鎧で、ヘルムから足先まで細かな傷がいっぱい刻まれている。

 それが3体並んで歩き、後ろにゾンビやスケルトンがわらわらいる。

 リビングアーマーはどう見ても強そうで、そこに注力していたらゾンビやらに隙をつかれてやられてしまうだろう。

 ウチ以外は。

 固有魔法は問題ないと判断しているから、シルヴィアに伝えて正面から抑えにかかってもらう。


「うわっ!わたしより剣の扱い上手いっす!」

「動きも早いなぁ!ハリセン避けるやんこいつら!」


 近づくと3体でウチらを囲んできた。

 負けじとシルヴィアは剣の魔道具を振り、シルヴィアの後ろに回ってきたことでウチの正面に来たリビングアーマーにハリセンを振るうも避けられる。

 シルヴィアの剣は、リビングアーマーが持っている剣で受け止めたり盾で逸らしたりするのに、ウチのハリセンには頑なに触れようとしない。

 そのせいで付かず離れずの距離保ち、切り込むというよりも突いてくるだけになっている。

 もしかすると魔力感知優れていて、ウチの魔力を脅威判断しているのかもしれない。

 何度振るっても容易く避けられてしまい、背中に縛り付けられているウチでは追いかけることもできない。

 ならばとハリセンを細長く伸ばしたら、予想外だったのか避けられずヘルムに当たった。


「よっしゃ!当たったで!」

「わたしはもう剣で対抗するの諦めたっす!ゾンビやスケルトンを攻撃するっす!」


 シルヴィアはリビングアーマーに攻撃せず、その周りから隙をついてくるゾンビやスケルトンを狙って魔道具の剣を振っていた。

 しかし、その件はリビングアーマーに受け止められて満足に攻撃できていないし、反撃としてリビングアーマーに切り付けられてもいる。

 固有魔法のおかげで無事だけど、ソロだったらすでに殺されているだろう。

 伸ばしたハリセンが当たったリビングアーマーは、ヘルムが床に落ちて空っぽの中身が見えている。

 背中側の内面に張り付くように魔石が付いていて、ヘルムは飾りだと言わんばかりに剣を振ってきた。

 口がないから本当に言いたいのかは想像だけど。


「短くしたり、太くしたり、開いて面で叩けばええんやろ!」


 いつものサイズに戻して再度伸ばしてみても、一度見たとばかりに避けられた。

 太くしたり、良い音はならないけれどハリセンを開いて叩きつけることでなんとか剣や盾、腕を叩くことができて、その部分に魔力を流せなくなったのか外れて地面に落ちる。

 援護としてもう1体のリビングアーマーが割り込んできたけれど、ハリセンを振ったところに割って入ったため、胴体に直撃。

 一気にガラガラと崩れ落ちて動かなくなった。


「魔石のある胴体が弱点なんやな!シルビアさんバックステップ!」

「はいっす!」

「おらぁ!往生せいやぁ!」


 一気に近づけたリビングアーマーにハリセンを叩きつける。

 シルヴィアの移動もあって、今まで振り下ろしてきた中で1番良い音が鳴り響き、リビングアーマーが分解されながら吹っ飛んでいった。

 魔石を抜き出すのはアンリたちに任せ、残りのリビングアーマー1体とゾンビやスケルトンを叩く。

 対処法として、まずは足を伸ばしたハリセンで叩くことで足を落とし、動きづらくした状態で防御する部分を叩き続けてガラ空きにさせ、トドメに胴体を叩くと効率が良い。

 叩く回数は増えるけれど、避けられて剣で牽制されるよりも楽だった。


「ふぃ〜。なんか動き凄かったな」

「あれがちゃんとした剣術っすね。普通は盾役が抑えている間に他の人たちが攻撃するらしいっすよ」

「せやろなぁ。それにしても1対1で戦えたら格好良さそうやわ」

「見応えはあると思うっす」


 魔石を拾いながら感想を話していると、他の人たちもリビングアーマーの剣術には学ぶところがあったようだ。

 普段は魔物相手に戦っている請負人からすると、対人戦に特化したリビングアーマーの動きは見慣れておらず、盾の使い方も的確で、できるなら打ち合いたいとまで言う始末。


 ・・・怪我してもええならやってもろてええけどな。後で相談してみるか。


 その結果、危なくなったらウチを投入するということで、進みながら何度かリビングアーマーと打ち合うことになった。

 まずは他の魔物を倒し、リビングアーマーを1体残したところで請負人が順番に戦いを挑む。

 剣を弾き飛ばされたり推し負けたら、シルヴィアやアンリがウチを投げつけて間に入るか、勢いそのままにハリセンで倒す。

 進行速度は落ちたけれど、トドメ組はとても楽しそうだったからこれで良いだろう。


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