これでウチも請負人見習いや!
アンリとの自己紹介を終えたら、雑談する間も無く2階の部屋に移動した。
ここで請負人見習い証を受け取り、仕事に対する説明聞くことになる。
「あ!あの時のチビ!」
「ん?げっ!いちゃもんキッズやん!」
先に来ていた子と同じように、空いている横長で3人掛けの席に座り、机の上に手を伸ばしてウチとの大きさを比較してのんびりしていると、大きな声が入り口付近から聞こえてきた。
そこには請負人見習いの申請をした時に絡んできた男の子を含む3人組がいた。
開口一番ウチのことをチビと言った男の子を、もう1人の男の子と女の子が止めようとしている。
「お前の方が子供だろ!」
「うるさいわ!行動が子供やねん!さっさと席座れ!べーっだ!」
ウチ言葉に反論してきたけど、これ以上構う気はないので、舌を出してそっぽを向いた。
男の子はまだ何か言ってたけど、無視だ。
残りの2人に宥められた結果、うちから一番遠い席に座ることにしたようだ。
「揃っているようだな。初めまして。俺はこの組合で教官をしているハロルドだ。よろしく頼む。では、まずは見習い証を渡す。名前を呼ばれたら取りに来るように」
2の鐘が鳴ると同時に筋骨隆々で、腕のところどころに傷跡がある男の人が入ってきた。
ハロルドと名乗った教官は、持ってきていた箱から薄い板を取り出しながら名前を呼んでいく。
ウチと3人組以外にも10人の子供がいて、それぞれパーティを組んでいるのか、1人で座っているのはウチだけだった。
しかも、その中で一番年下なのは絶対にウチだとわかるぐらい体格差があるし、全員何かしらの武器と防具を用意している。
「エル」
「はーい」
観察していると名前を呼ばれたので、ハロルドの元へと向かう。
特に何かを言われることもなく、薄い金属の板を渡されるだけだ。
ハロルドが持つと手のひらサイズだったけど、ウチが持つと両手で収まらない。
席に戻って観察してみても、恐らく『請負人見習い』と書かれている部分と、ウチの名前。
後は6つの項目で六角形が描かれていて、その中に10個のメモリのような窪みがある。
「それじゃあまずは見習い証について説明するぞ」
見習い証を見ているうちに配り終えたようで、説明が始まった。
あの失礼な男の子の名前を確認しようと思っていたけど、できなかった。
「カードには請負人見習い、お前たちの名前、それぞれの依頼の貢献度を示す六角形が描かれている。依頼の達成具合や評価によって、組合で特別加工している証用の魔石を嵌め込むんだ」
討伐、採取、探索、雑事、護衛、傭兵の6つを10段階で評価する。
今はどの依頼も受けたことがなく、証を受け取る前に納品した物はカウントされないため、全ての魔石を嵌め込む場所が空いている。
こなした依頼の難度や回数、依頼外での組合からの評価など色々な面で測られた結果魔石を埋め込むらしい。
ただ依頼を淡々とこなすだけではよくて5まで、それ以降は組合への貢献や依頼人からの評価、問題を起こしていないかなど見られる。
「次はお前たちが受けられる依頼についてだ」
依頼は自分の評価+1まで受注可能。
つまり、今は0なので1の依頼が受けられる。
1に上がれば2まで受けられるようになる。
下に対する制限はないけど、あまりにも離れている場合は受付で止められるそうだ。
・・・評価8の人が1の依頼を受けたら、見習いや駆け出しに影響が出るから仕方ないわな。
他には、見習いは討伐、採取、雑事の3つしか受けられないが、請負人の手伝いで他の3つに従事することは問題ない。
ただし、功績にはならず自己責任なので、傭兵に至っては死ぬ可能性が極めて高くなる。
・・・見習いじゃない人たちの戦いに、後方支援とはいえついていったらそういうこともあるわな。勝つ方やったらいい経験になるかもしれんけど、負けたら悲惨やで。
「後は禁止事項だが、殺人や強盗なんかの普通に罰せられるようなことはするな。組合内の揉め事は自己責任だが、対応できないなら組合が仲介するので、遠慮せずに助けを求めてこい。裏切りや犯罪を犯した請負人は、総力を上げて捕まえるから、するとしたら覚悟してやれよ!」
そこから過去の大捜索について話が広がった。
最大評価3の依頼人殺しをした人には、評価7以上の請負人が10人以上集まって捜索を開始。
組合から捜索に使う魔道具貸し出した上で、破格の報酬を用意したおかげで3日と経たずに捕獲。
平均5の傭兵団がならず者に堕ちた時は、複数の傭兵団を雇入れ、組合所属の魔法使いも多数投入した上に、完全な包囲殲滅を実行などなど。
・・・こんな話を聞かされたら、下手なことはしようと思わへんわ。みんな震え上がってるし、みんな肝に銘じたんやろな。ウチは品行方正に生きるで!
依頼ごとの特色は、その依頼を受ける時に受付で説明される伝えられて、請負人見習いへの登録は終了した。
この後はそのまま組合裏にある訓練エリアで運動能力を測る。
・・・もっと運動しろと言われたウチが、周りとどれだけ違うか確かめないとあかんな。みんなが既に身体強化できるなら絶対勝たれへん。さて、どうなるか……。
受け取った見習い証を財布として使っているポーチのカード入れに差し込み、部屋を後にした。
出たところでアンリが待っていたので一緒に行くことになった。
・・・場所わからんからミューズに聞こうと思っていたから助かったわ。これからお世話になるし仲良くなりたいから色々聞こう。まずは格好いい眼帯からやな!




