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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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247/305

ウヒカ小迷宮突入準備

 

 ウヒカに到着した翌日、朝食を食べたら装備を整えて迷宮広場に通じる門前集合となった。

 装備を整えるとは言っても、ちょっぴり伸びた身長に合わせて買い直した長袖のシャツにズボン、ブーツを履いて幾つかの小物入れとボーラを腰に下げたら完了だ。

 他の人たちと違って鎧や小手、脛当てなどを着ける必要がないから、ウチからすると普段着の着替えに近い。

 ミミでさえ皮の胸当てや膝当てがあるのに、ウチは見習いよりも無防備に見えるだろう。

 周囲を歩く武装した請負人たちを横目に広場前へと向かい、ミミとは炊き出しの依頼を受けるために別れた。


「来たか。まずは現状確認だ。迷宮から出てくる魔物の数が昨日よりも増えているらしいが、まだ上層の人型のゾンビやスケルトン、簡単に倒せるレイスやゴーストだけだ。今なら突入も簡単にできるだろう」

「俺たち獣人組はエルとシルヴィア、アンリが突入するまでのつゆ払いだ!入るまでに疲れることはねぇだろうしな!」

「倒さなくても道を作れば良いだけだから、簡単にできるはずよ。はいこれ。食料15日分あるわ。水生みの魔道具で水を作るために水の魔石もたっぷり入れてあるわ」


 キュークスから食料の詰まった軽量袋を受け取り、アンリが背負う。

 今回はウチが魔物をハリセンで叩くため、ウチ越しにシルヴィアは背負わない。

 アンリは空を飛ぶ魔物を撃ち落とすのと、物資の運搬が仕事となった。


「階層ごとの魔物の情報も仕入れてきたっす。一度に全階層を説明しても覚えきれそうにないので、進みながら説明するっす」

「よろしゅう!」

「エルたちの後を少し間を開けて人族の請負人が続けて入る。エルたちを見失わない程度の距離を空けるつもりだが、エルたちは魔物を動かなくさせるだけでいい。トドメは後続がするからな」

「任せたでぇ!」

「おう!任せろ!」


 ウチの声に20人ほどの請負人が声をあげて応えてくれた。

 それぞれ剣や槍、斧にハンマーなど武器を掲げてやる気を示してくれた。

 ウルダーではウチとシルヴィアのことが有名だったため、子どもだからと(あざけ)るような人たちは選ばれていない。

 どうしても、他の街から流れてくる人や見習い上がりには舐められたウチだからこそ、この対応はありがたい。

 舐めてかかってきた人たちは、軒並みハリセンで叩いて気絶させた結果、怖がる人も出たけれど。

 誰かが被害に遭うよりも先に、怪我せず勉強できたのだから良い事だろう。

 変な呼ばれ方をされてないかだけが気になっているのは内緒だ。


「ほな行くでぇ!後ろはみんなに任せた!」

「後ろはわたしなんすけどね」

「それは言わへん約束や」

「そんな約束してないっす」


 そんなやりとりをしているウチらの前で、ウヒカの街にいた請負人たちにガドルフが合流していた。

 その前には組合長が今回の作戦について話し、まずは迷宮までの道を作ることを専念するようにと号令し、請負人が雄叫びをもってそれに応える。

 周囲を歩いていた平民たちも、何かするのかと期待に満ちた顔を向けていた。

 流石に住民全員に対して説明するわけではないようで、気になった人は組合に直接聞きに足を運んでいた。


「門付近に魔物はいるか?!」

「いないです組合長!」

「よし!開門!」


 ドゥーチェ組合長の声で、迷宮前広場へと続く道を隔てていた大きな鉄の扉が開かれる。

 身体強化した請負人たちが力尽くで。

 ドゥーチェ組合長は、万が一魔物が押し寄せてきた時のために手を門へと向けていたけれど、そこから魔物が出てくることはなく、魔物狩りをしている請負人たちが見えるだけだった。


「行くぞ!」

「おぉ!」


 またもやドゥーチェ組合長の号令が発せられ、並んでいたつゆ払い担当の請負人たちが中へと進んでいく。

 ウチを背負ったシルヴィアとアンリはゆっくりと進み、その後ろをトドメ担当の請負人たちが付いてくる。

 首を回して前方に目を向けると、平時は屋台で賑わっている整備された道沿いには何も建っておらず、魔物の死体なのか腐った肉塊や重なった骨が山積みになっていた。

 横にいるアンリや後ろの人たちは吐き気を抑えるように口元へ手を当てているけれど、ウチとシルヴィアからは微かに臭う程度だ。

 これも固有魔法のおかげかと感心しつつ、組合長たちの後を追う。

 後ろを向いているウチの目には、請負人の中には行きたくなさそうな表情を浮かべている人もいるけれど、仕事だと割り切って頑張ってもらおう。


「うわー……。なんちゅうか、絵面が酷いな……」

「見た目が悪いっすね。向こうなんてゾンビの山っすよ」

「変な汁出てるな」

「汁はやめてほしいっす。体液って言ってほしいっす」

「体液の方がなんか嫌やない?出てきてる感すごいねんけど。汁は搾り出した感あってマイルドやん」

「汁の方がエルの言う出てきてる感強くないっすか?体液は血液や唾液も含めて色々っすけど、汁は汚い感じがするっす」

「う〜ん。アンリさんはどう思う?」

「どっちでもいい。伝われば」

「そっか。じゃあ体液って言うように頑張るわ。咄嗟には汁って言いそうやけど」

「まぁ、絶対じゃないんでどっちでもいいっす」


 ウチらが見ている先には、入り口付近とは比べ物にならないほどの腐肉の山と骨の山ができていた。

 更に、先行した組合長率いるガドルフたちつゆ払い組が、両手を肩まで上げて近づいてくる足の遅い人が楽しい魔物や、胸の中で魔石を輝かしている骨だけの人型の魔物を叩き潰している。

 骨の方がスケルトンで、腐った人がゾンビだろうけど、そのゾンビの方は切ったり叩いたりすると体液が飛び散って周囲を汚す。

 その体液も血のような赤ではなく、緑がかった白っぽい少し粘ついたものだから目に悪い。

 中には腐った体から小さな虫を突き出していたり、濁った目の周辺を虫が這っている個体もいる。

 こうしてこの迷宮が嫌われる理由を実感してしまった。

 ゾンビは腐って臭うし、見た目も最悪で、頭や腕を切り飛ばしても、胸の中にある魔石を抜かない限り動き続けるけれど、四肢を切り飛ばしたり潰せば対処は可能。

 一方のスケルトンはバラバラにしても、胸の中で光る魔石がある限り骨が集結してまた襲ってきて、魔石を壊せば倒せるけれど素材が骨だけになって儲けにならない。

 どちらの魔物も、いかにして効率よく胸の中の魔石を抜き取るかが重要だ。

 今回に関しては、一部の請負人が魔石回収を担当していて、それ以外の戦闘組は四肢を切り飛ばしたり、骨を砕いて再生を遅くして対応している。


「大量のゴーストが出てきました!」

「俺に任せろ!ぬぅん!」


 ドゥーチェ組合長が魔石を持った手を突き出すと、そこからゴーストたちに向かって炎が放射された。

 逃げようとするゴーストを追いかけるように手を動かし、空を赤く染めながらゴーストを焼き尽くしていく。

 周囲の請負人たちが暑さで汗を噴き出す中、少しの時間で殲滅することができ、後には魔石だけが残った。

 ドゥーチェ組合長が魔法使いだとは聞いていたけれど、大柄な筋肉の塊らしい攻撃的な魔法になんとなく納得できる。


「よし!後少しで道が開くな!一気に吹き飛ばすから突入組は気合い入れろよ!」

「組合長?!魔法で吹き飛ばす気じゃ?!」

「その通りだ!おらぁ!」


 上げた手を地面に叩きつけるかのように振り下ろしたドゥーチェ組合長。

 その手からは強い風の塊が飛び出して、迷宮入り口前の地面にぶつかった。

 直後、爆発的に風が撒き散らされ、入り口付近にいたゾンビとスケルトンは宙を舞い、魔石を抜き取った後の肉塊と骨の山は広がるように吹き飛び、請負人たちは飛び散る汁に当たらないように伏せる。

 迷宮から出てこようとしていた魔物も中へと押し戻されているから、確かに道は開けたけれど、被害の方が多いように見える。


「やっちまったか?まぁ、いい。ほら!さっさと行け!」

「行くっす!」

「組合長おおきに!」

「無理すんなよ!」

「組合長はさっさと周囲を抑えにいってください!片付けもですよ!」

「悪い悪い!」


 駆け抜けるウチらの横では、ドゥーチェ組合長が請負人に怒られながら道に水を撒き、飛び散った肉片や汁を洗い流していた。

 周囲の魔物は請負人が抑え、その中で道を掃除するムキムキのおじさん。

 少し可哀想な気がするしたけれど、後先考えず魔法を放った結果だから、甘んじて受けてもらおう。

 迷宮に入る直前に見た景色は、なんとも締まらないものとなった。


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