シルヴィア個人の実力
-ガドルフ-
ベアロ、キュークス、アンリ、シルヴィアを連れて、ウルダー中迷宮都市から北にある森へと向かっている。
行きは馬車を借り、5日後に迎えにきてもらえるよう契約しているが、道中の会話は問題なかった。
それどころかシルヴィアは聞き上手な上反応も良く、ベアロやキュークスと今までの依頼の話などで盛り上がっていた。
アンリに対しては過度なやり取りをしないけれど、時たま話題を振るところからよく様子を見ているようだ。
エルが懐くのもわかる。
「依頼の再確認だ。討伐は山イタチの群れと巣の破壊、ハンマーザリガニの討伐、呼吸草の採取だ」
「山イタチは探すのが面倒だな!臭いを探すにしても最初の一体からだ」
「痕跡ならわたしに任せるっす!伊達に逃げ回ってないんで見つけるのが得意っす!」
「お!そうか!なら、任せるわ!痕跡さえ見つけてくれたら追跡はガドルフがやってくれるからな!」
「シルヴィア、ちゃんと戦闘に参加しないとダメよ?ある程度近づいたらあらかじめ武器に魔力を流しなさい」
「了解っす。時間がもらえるなら大丈夫っす。腕はお察しっすけど」
今回の目的は依頼じゃなく、シルヴィアと俺たちの相性だ。
会話などは問題ないから、後は活動する時の動きや連携を見たい。
本人曰く身体強化はできるけれど、武具に魔力を流すのが苦手で、いきなりの戦闘では役に立たないとはっきり言われている。
だから、今回はある程度場所が絞られる魔物を狙った依頼と、素材の知識を活かせる依頼を受けている。
山イタチは川や湖などの水辺が近い開けた場所に生息していて、ハンマーザリガニは川に居る。
採取対象の呼吸草は湖や池に生えているから、だいたい同じような場所で事足りるはずだ。
「よし!各自気をつけて進めよ!」
俺の合図で森に入る。
陣形は俺、シルヴィア、キュークス、アンリ、ベアロとなっている。
ベアロが後ろからの壁役で、索敵はアンリ以外の全員。
アンリはいざという時の魔法攻撃担当だから、道中はできるだけ温存する。
常に魔力を見る必要はないから、何か気になるものがあれば都度頼むつもりだ。
そうして森の中を進み、1度野営を挟んだ翌日の昼頃に、シルヴィアが小型動物の痕跡を見つけた。
「山イタチか?」
「そこまではわからないっす。ただ、さっきまであった鹿やイノシシ系とは明らかに違うっす。近くに川もあったんで、小動物系が群れている可能性はあるっす」
「わかった。俺が匂いを辿ってみよう」
シルヴィアが見つけたのは、木に擦り付けたような小さな傷と、その周囲に散らばる短い毛と糞だ。
その内の毛を摘み、身体強化を鼻に集中させて匂いを嗅ぐ。
獣人だから嗅覚が鋭いと思われがちだが、平時は人間よりも数倍良い程度で、しっかりと追跡する場合は、こうやって魔力で強化する必要がある。
学者いわく、普段は抑えられている能力を、魔力を使って開放しているとかなんとか。
俺たちからすると自然とできるようになっていることだからよくわからないが、これを使えば獲物の追跡ができるだけで十分だ。
鼻を鳴らしながら進むことしばらく、川から少し離れたところに開けた場所があり、そこに山イタチが20匹ほど走り回ったり丸まったりしていた。
いつもならベアロが突っ込んで、俺とキュークスがフォロー、アンリが逃げる個体を追うけれど、今回はシルヴィアと俺で突っ込む。
キュークスとベアロがフォローとなり、アンリはいつも通り。
「いけるか?」」
「いけるっす」
「魔力通ってる。流れは荒いけど」
「うし、じゃあ行くか」
剣を抜いて魔力を流したシルヴィアと左右に分かれ、山イタチのいる開けた場所に向かって強襲する。
出会い頭に切り捨てて行き、動揺している個体から潰す。
遠くの山イタチが逃げようとしたから、跳んで先回りして切り伏せる。
シルヴィアは近くの個体から切っていて、後からやってきたキュークスが動きを牽制していた。
ベアロは斧を振り下ろして退路を絶ち、アンリは樹上から山イタチの動きを指示してくる。
アンリいわく逃げようとしている個体は足に魔力を集める傾向にあるから、ちらりと見るだけでわかるらしい。
「よし!もう居ないな?」
「逃走0」
「よく指示してくれたわね。やっぱり殲滅戦だとアンリがいた方が漏らしがなくていいわ」
「だな!戦いに集中したら聞こえなくなるのが残念だが!」
「それはベアロだけよ」
「シルヴィア、毛皮を剥ぎ取るぞ。肉は一部を食事用で確保、残りは穴に集めて燃やす。その後巣の捜索と破壊だ」
「了解っす!」
「少し汗ばんでるな。やっぱ魔力を武器に流すと辛いか?」
「あー、集中しないと途切れちゃうっす。だから、戦闘しながらだと精神的に疲れるんすよ」
「そうか。じゃあ昼食にはエルが用意したナッツのハチミツ漬けも食え。エルいわく疲れた時には甘い物だそうだ」
「いただくっす。いつもエルそれ言うっすよ」
エルとコンビを組んで迷宮に行っているから、ハチミツ漬けもよく食べているようで、お湯を沸かしてハチミツを溶かして飲むのが好きらしい。
俺たちは炙ったパンにかけて食べることが多く、ベアロは直で飲むこともある。
エルのおかげでハニービーのハチミツが常備されているから、家で補給するだけで依頼に行けるのはありがたい。
休憩のことに想いを馳せつつ、匂いを辿れば簡単に巣を見つけることができたので破壊、保存食やハチミツ漬けで昼食を取ったら、ハンマーザリガニを探しに川へと向かう。
「シルヴィア、ハンマーザリガニとの戦闘経験はあるか?」
「見たことはあるっすけど、戦ったことはないっすね。確かハサミが大きくて底が平らになっているザリガニっすよね?」
「そうだ。それを5匹倒すのが依頼だが、1匹の大きさがエルぐらいあるから気をつけろよ」
「魔物の大きさを知り合いで例えられるのって嫌っすね。しかもエルだと攻撃通らないイメージもついてくるっす」
「気にしすぎだ」
大きさをよく知る別の何かで例えることはよくある。
俺たちなら俺以上ベアロ以下や、キュークスと同じぐらいなどが多い。
そこにエルぐらい、ミミぐらい、2人を足したぐらいなどが最近増えている。
軽い雑談をしながら川に沿って歩き、魚や貝に虫を見つけ、その魔物も見つけた頃にハンマーザリガニも見つけた。
いつもの3人でかかれば苦戦しないが、相手が硬いため少し時間がかかる。
今回は俺とシルヴィアでハンマーと化したハサミを受け止め、横からベアロの斧で両断する戦法にした。
積極的に攻撃しない分シルヴィアの負担も少なく、運動能力を向上させる身体強化はできることから、囮なら問題なくこなせるだろう。
実際、2匹までなら俺とシルヴィアが別れて抑えることができたけれど、3匹目が現れた時は少し焦った。
アンリが雷を放って動けなくさせなければ、一度引く可能性もあったけれど、なんとか討伐して、残りの2匹も見つけて倒すことができた。
討伐証明となるハンマー化したハサミをシルヴィアの軽量袋に入れ、呼吸草の探索に移る。
「呼吸草は見たことあるのか?」
「あるっすよ。採取もしたことあるっす。水中の結構深いところにあるから、しっかり準備しないと水中魔物に襲われるっす」
「準備?水中戦のか?」
「いやいや、水中で戦うなんてエルがいないと無理っすよ。準備するのは重りになる何かっす。袋詰めした石を掴んで一気に潜って、採取したら手放すか石を捨てて浮上するっす」
「慣れないと難しそうね。いざという時は重りを捨てて逃げるのね?」
「そうっす。練習した時は何度も捨てたっす。おかげで布袋代が嵩んだっすよ」
シルヴィアは、採取する物によって必要な道具や手順が変わることから、色々な方法を経験していた。
宿屋の借りている部屋は使う道具が数多く置いてあり、休日は手入れをして過ごしている。
物が増えるにつれ、徐々に借りている宿を大きくしているらしく、なかなか生活に苦労しているようだ。
「じゃあ行ってくるっす!」
「途中までは俺が護衛だ!斧は振れないから拳と爪だがな!」
しばらくして見つけた湖をシルヴィアが覗き込むと、湖底に呼吸草らしき物があるように見えた。
防具を外したシルヴィアとベアロが水中に向かい、残りの俺たちは周辺の警戒となる。
石を入れた布袋を持った2人を見送って周囲を見るも、特に何かが起きることなく2人が水中から戻ってきた。
シルヴィアは濡れた皮袋を掲げていて、口から草が飛び出していた。
ベアロは魚の魔物を2匹掴んで獲物をアピールしている。
「それが呼吸草か?」
「そうっす。魔力を流すと空気を出すやつっすね。根まで求められていたんで、恐らく栽培するつもりっす」
「栽培できるのか?」
「魔力を含んだ水があればできるんじゃないっすか?知らないっすけど」
栽培できるかどうかは誰も知らなかった。
俺たちは素材を取ることはあっても作ることはしていないから、仕方がないことだろう。
納品先から世間話程度に利用方法を教えてもらう程度だ。
夕食としてベアロが獲ってきた魚と干し肉を食べ、夜を明かしてから帰路に着く。
帰りに出会った魔物を狩り、肉や毛皮などを採取しながら馬車の迎えが来る場所まで戻り、野営準備をした。
予定より早く依頼を終えたため、雑談しながら過ごしてパーティ加入について話し合い、問題なく加入してもらうことになった。
「これからよろしくっす!」
「あぁ、よろしく。部屋はアンリと一緒でいいんだよな?」
「問題ない。道具は地下室に」
「わかったっす。アンリよろしくっす」
「よろしく」
「よろしくな!」
「エルを頼むわね」
「はい!任されたっす!」
加入祝いは街に戻ってから酒を飲みながらすることにして、馬車が迎えに来てから街に戻り、宿に荷物を取りに行くシルヴィアと別れる。
家に戻るとあまり嗅いだことのない匂いが漂っていて、エルとミミが白いトロトロとした物に切ったパンや腸詰め、野菜を付けて食べていた。
新しい料理はしないんじゃなかったのか。




