ガドルフたちとの交渉
結局、宝箱から出てきた魔道具は、チャッキーと相談するまで組合には買取ってもらわないことにした。
組合としてはチャッキーからの依頼を仲介しているので儲けは出ているし、売らないと言っているわけではないので問題ない。
少なくとも風纏いの布だけでも売ってほしいと念を押されているし、それを依頼完了報告書に書いてチャッキーにも伝えている。
後はカバの獣人組の探索が終わってからチャッキーがそれを受け取って、恐らく団に相談することになるだろう。
その結果でウチらがどれをどれだけ売るかが決まる。
それを組合職員に伝えてから迷宮を後にして、数日屋台に出たらガドルフたちが帰ってきたから、シルヴィアのパーティ加入について交渉だ。
ちなみにアンリとミミはこちら側に引き込み済み。
時間だけはあったから。
「おかえり〜」
「おう。ただいま」
「帰ったぞ!腹減った!何か買ってくるわ!」
「ただいまエル。まずはお風呂に入ってくるわね」
ガドルフは椅子に座って武具の整備、ベアロは荷物を置いてすぐ出て行き、キュークスはお風呂へ。
ベアロに関しては帰ってくる途中で何か買えばよかったのではと思わなくもない。
けれど、荷物を置いてスッキリしてから行きたい気持ちもわかる。
なんというか、気持ちの切り替えだろう。
「なーなーガドルフ。後で相談があんねんけど」
「相談か。全員いる方がいいか?」
「せやな。だから、夕食後で!」
「わかった。2人にも伝えておく」
「よろしゅう!」
そうしてお風呂から上がったキュークスの毛を綺麗に梳かしたり、帰ってきたミミと一緒に夕食の準備をして食べた後、全員がリビングに集まった。
いや、ミミは明日の屋台で使う料理の仕込みをしているけれど。
「それで、俺たちに相談とは?料理に関してはミミと相談して自由にしてくれて良いぞ」
「今回は料理ちゃうねん。ミミにもしばらく新しいのはいらんって言われてるし……。ってちゃうちゃう。初っ端から脱線させたらあかんで。相談はシルビアさんのことやねん」
「あら?何かやらかしたの?やらかすのはいつもエルなのに」
「ウチ今までも何もやらかしてへんし。誰にも迷惑かけてへんもん」
「そうだな!迷惑なことはしていない!」
「ほら!ベアロも認めてるやん!ほんで話を戻すけど、シルビアさんがパーティに入りたいって言ってるねん。結構前から。みんなはどう思う?ちなみにウチとアンリとミミは賛成」
アンリは魔道具に夢中でウチの固有魔法をあまり研究しなくなったし、数日に1回魔力の流れを見て「いつも通り」と言うだけだ。
だから、自分の替わりに迷宮へ行く人ができる分には反対しなかった。
ミミはカニを獲ってきた人として懐いていて、試作した料理の味見を頼むほど仲がいいため反対はしていない。
他にも森で取れる香草の知識などが多く、味付けの相談もしていたことを最近知った。
「ふむ。今のままでダメな理由はあるか?」
「う〜ん……。仮にやけど、この街を出るとなった時に行動しづらいとか?」
「確かに別パーティと行動し続けるのはあまり良くないな。他には?」
「パッとは思いつかんな。報酬はパーティ組んでも組まんでも参加した人数で分けるつもりやし、強いて言えば集合が面倒?」
「なるほど。確かに家で準備してから一緒に行くのは楽だな」
いつもは始業開始の2の鐘を目安に迷宮前の広場で待ち合わせている。
他にも待ち合わせをしている人たちもいるから、混雑していると合流するのに一苦労する時もある。
そんな状態で入ると、まずは草原で一休みするのがウチらのスタイルだ。
主にウチのせいで。
他にも用事があったりした時にも、同じ家にいれば簡単に済む。
一緒に活動するならパーティに入ってもらった方が楽ではある。
「じゃあ逆に入ったことによる悪いことはあるか?」
「悪いこと?えー?食費が増えるとか?あー、後は部屋が足りへんな。アンリさんと一緒の部屋になるかも?」
「寝るだけだから問題ない」
「いつも作業用の部屋おるもんな」
「外出もしてる」
「素材買いにやな」
「……」
それ以外ではほとんど外に出ていないとミミから聞いている。
いや、庭で素材の検証をしているから、外には出ていると言えるかもしれない。
作った魔道具を街の魔道具屋に売りに行ってもいるから、案外外出しているのかと考えたけれど、ウチが迷宮や依頼から帰った時は絶対に家にいるから何とも言えなかった。
そんなアンリを置いて、少しの間考えていたガドルフが口を開いた。
「食費と部屋はどうとでもなる。家を借りていなければ宿で大部屋を借りることもあれば、迷宮内や出先で野営するのに同じテントを使うから問題ないだろう。だが、戦力的にはどうなんだ?確か、武具に魔力を流すのが苦手だったはずだ」
「せやな。草原ウサギとかは問題なく倒せるけど、沼地エリアの魔物はウチが気絶させた奴にトドメ刺すぐらいかな。後は足速いから逃げてる」
「斥候ができるというわけではないんだな?」
「斥候が何するかあんま知らんけど、1人で森エリアの素材採取とかしてたから、ある程度は1人で行動できるんちゃう?偵察してて見つかった時の戦闘が心配なくらいで」
「なるほど……。足が速ければ素早く合流して、魔物は仲間が倒すパターンでもよさそうだな。エルを背負って沼地に行くところは見ているから度胸があるだろう。ベアロ、キュークスはどうだ?」
「実力見ねぇと何とも言えねぇな!背中を預けられなきゃダメだ!いざという時に困るからな!」
「わたしもベアロに同意ね。戦いが苦手でもある程度の戦力になってほしいわ。別に直接戦わなくても知識だったり、色々な調整役でもいいのだけれど」
つまり実力を見せろってことだろう。
ベアロは戦闘力、キュークスは戦闘力以外で役にたつところを示せば納得してくれそうだ。
ガドルフはその結果を見て判断するといったところか。
「今度一緒に何か依頼を受けて、その時の動き次第ってところか?」
「模擬戦でもいいぞ!」
「わたしとしては色々話したいところね。いくら身体能力があっても会話が成り立たないようじゃダメよ」
「ウチとはしっかり話せてるで。いいツッコミも貰ってるし」
「あまり心配してないけれど、一応ね。今後どういった依頼を受けたいとか聞きたいの」
「ふ〜ん。ようわからんし、キュークスに任せるわ」
「ええ。任せて」
というわけで、獣人3人にアンリを加えた4人とシルヴィアで、数日かかる依頼を受けることになった。
その時の動きや会話でパーティに入れるかどうかが決まるけれど、過度な頑張りは不要で、あくまでもいつも通り振る舞ってもらうことが重要とのことだ。
ウチに関しては色々一緒に行動していたから、そういった試験のようなものはなかった。
翌日、シルヴィアに依頼のことを伝えると、普通に受け入れられた。
後からパーティに参加する時は、大抵一緒に依頼を受けて確認する流れらしい。
実力も相性もわからない人を入れることはないから、当然のことなんだろう。
シルヴィアも駆け出しの頃はいくつものパーティを出入りしていたようで、そういった経験があった。
「行ってらっしゃーい!」
「おう!」
「あぁ。エルはミミと2人だから気をつけろよ」
「頼んだわよミミ」
「わかったんだよ!」
「なんでミミに頼むん?」
「仕方ない」
「そうっすね」
話し合いから3日後、5人は依頼で街の外に行くため家の前に集まっている。
ウチとミミで見送りに出たけれど、ウチへは注意でミミにはウチをしっかり見ているようにと言われた。
そのことに憤慨しながらも、5人が受けた依頼についてもう一度考える。
受けた依頼は3つで、討伐2つに採取一つ。
討伐はシルヴィアの特性を考えてサポートに徹し、逆に採取はシルヴィア主導でガドルフたちが護衛として動く。
その間に色々話して仲を深めるそうだ。
ちなみにガドルフに飛刃の剣を見せたけれど、慣れるまでは実戦で使わないということで、今回はいつも使っている剣を持って行く。
ガドルフ曰く重心や重さが違うらしいけれど、ウチとシルヴィアにはわからなかった。
「行ってもうたな」
「そうなんだよ。今日は何するんだよ?」
「うーん……。依頼見に行って、何もなかったら屋台行こかな?市場巡りでもええけど……。あ、チーズ注文しな!」
「新しい料理はもう少し先がいいんだよ」
「まぁまぁ、食材はあっても困らんやろ」
「腐らせないよう気をつけないといけないから、多いと困るんだよ」
「わかった。どれぐらい保つかその辺も聞いとくわ」
食材の管理はミミが担当しているから、勝手に材料を増やしたら使い方や保存期間、保存方法など聞かれる。
わからなかった時はもう一度出て聞きに行かないと納得してくれないから、今回はしっかり聞くことを意識する。
そうして屋台に向かうミミを見送った後は、組合に顔を出して依頼を確認。
掃除の依頼がいくつかあったから、孤児院のダンたちを呼んでもらってこなす。
ダンたちも荷運びなどを積極的に受けるようになり、雑事のランクが一つ上がっていた。
依頼の後はハイゼルを訪ねて草原迷宮商会に向かったけれど、商会の仕事で不在だった。
チーズが欲しいことを言伝としてお願いしたら、帰って夕食となる。
ミミと2人で食べる夕食は、みんなが忙しい時にもあったから、特に寂しいということはないけれど、何となくもにょもにょした。
・・・明日も掃除するとして、他は何しよかなー。1人で迷宮行ってもやれることないし……。市場巡るのと、たまには街の外出てみるかー。




