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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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239/305

わくわく沼巡り

 

 ミミにホワイトソースを作らないと宣言されたウチは、翌日屋台の手伝いをした後牛乳を買って帰り、ミミの横で作ってみる。

 何回か作らないと忘れてしまいそうだからだ。

 いつも通り料理していたミミは慣れていることもあり、途中からはウチの手元を凝視していた。

 できたホワイトソースをミミのスープに加え、とろみが出たところで完成となる。

 ゲイルいわくホワイトシチューで、普段のスープとは違ってとろっとしていることから、パンによく絡んで浸すよりも付けるといった食べ方ができる。


「また新しい料理?最近のエルはすごいわね」

「ちゃうねん。それはレシピ教えに行ったところで教えてもらったやつやねん。ホワイトシチューって言うんや。パンをつけると美味しいで」

「貴族の食べる料理ってこと?これは味わう必要があるわね」

「これは熱いな」

「ガドルフには熱すぎた?」

「いや、この熱さも美味さの一つだろう。少しだけ冷ませば問題ない」

「だな!俺はホクホクのじゃがいもが好きだ!揚げるのもいいが、このスープも捨てがたい!いつものスープと違って少しねっとりしているところが面白いな!」


 ベアロが珍しく肉ではなくじゃがいもを中心食べていた。

 それほどホワイトシチューを気に入ったのだろう。

 今度はパスタを作ってみるのもいいかもしれないし、チーズを手に入れた後はゲイルたちが作った料理を真似してもいいかもしれない。

 オーブンがないから作ってもらうところからだけど、アンリに頼めば魔道具ができるかもしれない。

 そうすれば屋台でもオーブンが使えるようになってレパートリーが増えるだろう。

 そんな皮算用をしているウチの隣では、真剣な表情でホワイトシチューを見つめるミミがいる。


「ミミ、なんや真剣な顔しとるけど、もしかして美味しない?」

「え?!ちゃんと美味しいんだよ!ホワイトソース?をどう使うか考えていただけなんだよ!」

「レシピをいくつか教えてもらってるから、まずはその通り作ることからやな。ミミならできるやろ」

「もちろんだよ!アレンジは慣れてからするんだよ!」

「頼んだで」

「念のため聞くんだよ。これは屋台では出さないんだよ?」

「もちろん。乳使うから高なるし、たまに家で食べるぐらいでええやろ」

「よかったんだよ!」


 ホッと胸撫で下ろしているミミを見て申し訳なくかんじるけれど、美味しいものを追求するのは辞めないと改めて誓う。

 屋台で出さなければいいのだから、これからも料理は探していこう。

 なんなら貯まっているお金でレシピを買い漁るのもいいかもしれない。

 わいわいと感想を言い合う賑やかな食事を終え、就寝して翌日、朝食を食べ終わってのんびりしているとシルヴィアが尋ねてきた。


「エル仕事っす」

「おー。なんか依頼あったん?」

「沼の調査っす」

「またー?まぁ、十分休んだからええけども……。沼で何するん」

「エルの言うわくわく沼を巡って、宝箱の探索をするっす」

「お?ということはチャッキーさんが情報まとめてくれたん?」

「そうっす。それで、カバの獣人パーティと合同で調査することになったっすよ」

「おー?それはあれ?次からは獣人パーティに頼むためってこと?」

「だと思うっす。合同と言ってもそれぞれ担当する沼が3つずつなんすけどね」

「そんなにあったんやわくわく沼……」


 それを見つけたチャッキーに敬服する。

 アンリが持ってきた地図には大まかな沼地エリアの地図が書かれていて、一部の沼の近くに番号が振られている。

 どうやら迷宮内で採取した木を加工した杭を打ち込み、それに番号を振っているらしい。

 迷宮内に道具を放置していたら、時間経過で吸収されるけれど、迷宮素材の場合吸収されないからできる芸当だ。

 いつかは沼地攻略用の船などの道具や、移動用の橋なんかもできるかもしれない。


「丘エリア側の方を獣人パーティが、奥の方はわたし達が担当するっす」

「めっちゃ奥まで調べてるやん。チャッキーさん暇なん?」


 地図に書かれているわくわく沼は、前エリアとなる丘エリアから少し先に1箇所、そこから少し離れて逆三角形を描くように2箇所、中央らしき巨大な沼地の左右に1箇所ずつに、中央を挟んで反対側に1箇所だ。

 つまり、沼地エリアのほとんどを巡ったことになる。

 1つのエリアをぐるりと周ると、だいたい10日から15日程かかると聞いている。

 ばらつきがあるのは魔物との遭遇による戦闘の数によって、進行速度が変わるからだ。

 それをやったチャッキーには改めて感心する。


「どうやらチャッキーの団から指示が出たそうっすよ。効率的に見つけられる今のうちにたくさん稼ぎたいそうっす。試しに1つだけ自分たちで引き上げたみたいっすけど、その時に泥の中で戦闘が何度か発生して怪我人続出。これなら宝箱の中身を半分譲ってでも頼んだ方が良いとなったらしいっす」

「うへー……。無茶すんなぁ。怪我だけで済んだん?」

「骨折が2人、腕を食いちぎられた人が1人、跳ね上げられて地面に叩きつけられた人が3人っすね。2パーティで探索してたらしいっすけど、なかなかの被害っす」

「うわー……。怪我のこと聞くとゾッとするわ……。固有魔法あってよかったで」

「本当にそうっす。でも、過信しちゃダメっすよ。エルの固有魔法で防げないこともあるかもしれないっすから」

「せやな。それには気をつけんとあかんわ」


 今のところ出会った魔物は全て問題ないけれど、とても強い階層主やエリア主相手だとどうなるかわからない。

 それに、とても深い湖や谷底に落ちた時も不明だ。

 試すつもりは全くないけれど。


「行くのは2日後で、最初に獣人パーティと顔合わせして最終確認するっす。その後草原迷宮商会の出す馬車に乗って沼地エリアまで一気に進むっす。道中の護衛は別でいるっすけど、稼ぎたければ戦ってもいいそうっす」

「ウチはええかな」

「わたしもっす。というか2人してちゃんと戦えないからどうしようもないっす。護衛に任せるっすよ」


 戦いが得意ではないウチらは、のんびり馬車に揺られることにした。

 戦えないわけじゃない、戦わないのだと2人で言い合った翌日は準備に当て、さらに翌日の2の鐘で迷宮前に集合した。

 迷宮前広場にはいくつかのパーティがいたけれど、その中でカバの獣人だけで集まっているところは一つしかなかったから、迷うことなく合流できた。

 カバの獣人パーティは男女2人ずつで、それぞれ恋人同士らしい。

 しかし、ウチとシルヴィアは獣人の外見だけで性別を判断するには経験が足りず、鎧を着たカバは体の大きさぐらいでしか差がわからなかった。

 もっとリボンとか着けたらわかりやすいのにと思う。

 そんな4人組と一緒に馬車に乗り、数日かけて沼地エリアに到着した。

 道中、獣人組が肩慣らしとして度々魔物と戦っていたのを、馬車から声援を浴びせて楽しんだ。

 それ以外にも沼地エリアの地形や以前見つけた宝箱のこと、魔物の情報を共有している。


「じゃね!気をつけるんだよエル」

「そっちもな!水中戦は大変らしいで!」

「俺たちは川でも戦ってるからな!そんじょそこらの請負人とは違うってところを見せてやるぜ!」


 仲良くなったベルさんと、その恋人のゴルさんは張り切っていた。

 あとの2人とも言葉を交わし、それぞれ割り当てられたわくわく沼へと向かう。

 背負われているおかげで、見えなくなるまで随分時間がかかったことに笑いが込み上げてきそうだった。


「一気に静かになったなー」

「あの人たち賑やかだったす」


 ベルたちの戦い方は苛烈だった。

 獣人特有なのかガドルフたちも攻撃的で、たまに咆哮も放つぐらい。

 体の底から出される大声は、ガドルフ達で慣れていたと思っていたウチでも驚いた。

 戦闘以外でも結構なお喋りパーティで、ウチやシルヴィアのことを聞くだけでなく、今までの旅について話してくれた。

 そんな賑やかな人たちと別れて2人きりになったため、静かさが耳に痛く感じる。

 いつも以上に雑談しながら駆け足で進み、2日かけてようやく一つ目のわくわく沼に着いた。


「さーて、いっちょやったるかー!」

「背中は任せたっす!」


 いつも通り背負われたまま沼に入る。

 今回はチャッキーがいないため、的確な方向修正はない。

 そのせいで沼地をうろちょろする羽目になり、そうすると魔物との遭遇も増える。

 その全てをハリセンで叩き落とし、宝箱の探索に集中したおかげで、陽が落ちる前に見つけることができた。


「ようやく一つやな。どうする?次行く?それとも一回戻る?」

「場所を考えると次に行った方がいい気がするっす。宝箱を持って移動するのは面倒っすけど、戦わないなら何とかなるっすよ」


 戻って宝箱を置いて違うわくわく沼に向かうよりも、次のわくわく沼に向かう方が効率的だ。

 移動距離を考えると数日差がでるはずで、それを面倒に思ったウチらはそのまま中央の沼を越えた奥地に向かう。

 奥地では見たことがない魔物がたくさんいたけれど、美味しそうと思わなかったからハリセンで気絶させるだけに留める。

 そうしてそこでも宝箱を頑張って探し、中央の沼を迂回するように戻りながら3つめのわくわく沼へ。

 そこでも魔物を気絶させながら沼地の底を彷徨い歩き、しばらくして見つけることができた。

 そうして3つの宝箱を持って拠点に戻ったけれど、ベルたちカバの獣人パーティはまだ探索が終わっていないようで、言伝もなかった。


「向こうはウチらより大変なんやろな」

「戦闘があるから気が抜けないっす」


 ウチがなんとかハリセンで叩いて気絶させるよりも、当然普通に戦った方が時間がかかる。

 いくらウチの身体能力が低いとはいえ、向こうから向かってくる魔物にハリセンを当てるのは、5回あれば十分だ。

 魔物によっては頭から突っ込んで来ないこともあるから、どうしてもハリセンを振る回数は増える。

 それでも倒す必要がない分探索に集中できるから、ウチらの方が早かったのだろう。


「じゃあお待ちかねの中身確認っす。立会人を呼んでくるっすよ」

「はーい」


 借りた拠点の一室に宝箱を3つ並べ、沼地エリアに出張している組合職員を呼びに行く。

 依頼の中で要望されているのがこの立ち会いだ。

 わくわく沼を見つけたチャッキーが宝箱の中身の半分、取りに行ったウチらが残り半分と宝箱本体を受け取る依頼だけど、中身の数を組合所属の職員と一緒に確認することになっている。

 もちろん持ち帰る前に開けて中身を取り出すことで誤魔化せるけれど、そこは信頼の問題となる。

 ウチらは当然そんなことをするつもりはないけれど、ベルたち獣人パーティも同様だろう。

 組合長から紹介された依頼ということもあり、評価に大きく影響される。

 バレないようにする方法もあるかもしれないけれど、とても図々しくない限りどこかで態度や金払いが変わってバレるらしい。

 そもそもしばらくの間、金払いに関して監視の目がつくそうだけど。


「じゃあ開けるで!」

「頼んだっす」

「よろしくお願いします」


 今回も開けるのはウチが担当する。

 迷宮に出現する宝箱に罠があったことはないそうだが、念のためだ。

 そうして開けた宝箱3つには、前回も見た布が12枚、よくわからない仮面のような物が着いた金属製のヘルムのようなものが4つ、請負人がよく腰に下げているロングソードの装飾が施されたものが抜き身で2本出てきた。

 全部チャッキーと分けられる数でよかったと胸を撫で下ろすウチと違い、シルヴィアと組合職員さんは仮面とヘルムが一体化したようなものを手にとって眺め始めた。

 仲間外れは嫌なので、ウチも一つ手に取って色々な角度から眺める。

 形は騎士が被っていたヘルムに似ていて、後頭部や耳の横の側頭部も守られる作りで、正面には白っぽい板で作られた仮面があり、被った時に目のところにくる部分には、薄いオレンジ色の一本線のような板がはまっている。

 高級店や貴族の家で使われているガラスのようなものにも見える。

 その仮面の内側を見ると、口のところに出っ張りがあり、被った時に咥えるための物にも見える。


「うぉっ!仮面が上がった!」

「そういう作りっすか。これなら被れそうっすね」

「ですね。仮面を下ろしたままでは頭が入りませんでした。着ける時には仮面を上げる必要があるようです」


 頭の上にヘルムを乗せて被れないと唸っていたシルヴィアも、仮面を上げたら頭を入れることができた。

 ウチも同じようにして被ったけれど、ぶかぶかなため少し動いただけでぐらぐらと揺れた。

 その状態で手を頭上に上げ、跳ね上がった仮面を下ろせば、予想通り目のところにガラスがくる。

 大きめに作られているからか、ぶかぶかのウチでもかろうじて外を見ることができるけれど、口のところに来るはずだった出っ張りは顎に当たっていた。

 ちょうど固定される位置だけど、使い方が違うとウチでもわかる。


「口に当たって邪魔っすね。咥えることができそうなサイズっすけど……大丈夫っすかねぇ?」

「んー。大丈夫やな」


 ヘルムを持ち上げて出っ張りを口元に持ってきたけれど、特に固有魔法は反応しない。

 それを知ったシルヴィアは、ごくりと喉を鳴らした後に最後まで仮面を下ろし、出っ張りを口に咥えた。

 何か起きるかと期待したけれど何も起きず、職員としばらくシルヴィアを見つめる。

 内部で何か起きているのではないかと思っていると、しばらくしてシルヴィアが仮面をあげた。


「この出っ張りを吸うと空気が出てくるっす。使い方は水中っすかね?ヘルムを被って仮面を下ろすと首元がぴっちりするっす。もしかしたら水が入ってこないのかもしれないっす」

「水中ですか……。例えば毒の充満する場所でも呼吸ができるようになるのでしょうか?」

「吸ったらダメな毒なら使えるかもしれないっすね。触れたらダメな毒の霧とかだと手や足からが怖いっすけど」

「なるほど……。魔力は通してるんですか?」

「あ!そうっす!魔力流してないと吸っても何も出ないっすね!あー、そういえば魔力を流したから首元ぴっちりしたかもしれないっす。もう一度やってみるっすよ」


 もう一度仮面を下ろすシルヴィア。

 ウチが首元を、職員が口元を注視していると、首元の生地が膨らみ、仮面越しの口元からシューシューと微かに聞こえ出した。

 どうやら魔石をセットせずに魔力を流して素材の効果を引き出すタイプの魔道具らしい。

 薄いオレンジ色のガラス越しにシルヴィアの目が見えていて、なぜか片目を瞑ってアピールしてくるけれど、反応に困ったから無視しておいた。


「ぷはっ……。口で吸って鼻で吐かないといけないので、慣れないと空気に溺れそうになるっす。口の端から吐けなくもないっすけど、やりづらかったっすね」

「なるほど……。沼地で出たということは、沼地で活用しろとのことでしょうか。それがあれば水中で活動できますね」

「呼吸はできるようになるっすけど、体は泥に晒されるっす。身体強化を使って全力で動く必要があるから消耗も激しいっすね。でも、沼の中で戦えるようになるのは良いんじゃないっす」

「はい。組合としては是非とも量産したいものですね」

「つまり、1つ寄越せっちゅうことやな。研究量産のために」

「あー……、はい、その通りです……」

「チャッキーさんと相談やな。どっちが組合に提出するか」


 ウチらの取り分だと2つ。

 1つはシルヴィアが使ったから、他の人に使わせるのは嫌だ。

 洗えば良いのかもしれないけれど、ウチは遠慮したい。

 もう1つは、最近何かと魔道具作りをお願いしているアンリにプレゼントするつもりだ。

 チャッキーの方は2つだと戦力の一部しか水中に適応できないから、買取に出す可能性はある。

 団の中でアンリのような魔道具作りをする人がいたら別だけど。


「では、次は布と剣ですね」

「せやな」


 ひとまずヘルムは宝箱に戻し、布と剣の検証に入る。


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