肉団子とぺたんこ焼きに包み焼き
「できたんだよ!」
「おぉ!さすがミミやな!」
「失敗もいくつかしたんだよ……。それはまとまらなかったからスープに入れたんだよ」
肉団子とぺたんこ焼きは、つなぎとして刻んだにんじんや玉ねぎに小麦粉を少々入れている。
水分の多い野菜だと、焼いたり煮込んだりしている間にばらばらになったので、もう少し小麦粉を多くしたらまとまるかもしれない。
あるいは肉を小麦粉をこねたもので包んでから焼くのもありかもしれない。
というわけでそれも追加してみた。
「肉団子はスープとトマトソースかけたやつ。ぺたんこ焼きはシンプルに塩やけどトマトソースかけてもいいかも。包み焼きはハーブ塩でどない?」
「いいと思うんだよ。ただ、全体的に肉肉しい夕食になってるんだよ」
「みんな若いから大丈夫やろ。ガドルフとベアロは肉好きやし。ミミも肉好きやろ?」
「好きなんだよ!じゃあ配膳するんだよ」
「手伝うわ」
2人で何度も往復して、リビングに食事を運ぶ。
途中でキュークスも手伝ってくれたけれど、運んでいる食べ物が気になって色々聞くためだった。
珍しく作り方を聞かれたけれど、料理するつもりなのだろうか。
部屋にこもっているアンリに声をかけ、軽く身だしなみを整えさせてからリビングに連れて行き、座らせてウチ産の水を飲ませる。
ろくに休憩も取らず魔道具の研究をするのがここ最近のアンリだから。
たまに素材を求めて迷宮に潜ったり、街の外に出ているようだけど、剣や盾の魔道具に使う素材は見つかっていないそうだ。
「んで、これはなんだ?」
「新作や!細かく叩き切られた肉を野菜と小麦粉でまとめて、焼いたり煮たりしたやつ。スープとトマトソースのやつが肉団子で、皿に乗せてるのがぺたんこ焼き。大皿にいっぱい乗ってるやつが小麦生地を薄く伸ばして肉を包み込んだ包み焼きや」
「これも屋台で出すのか?」
「みんなの反応が良かったらお試しで出すかな」
「もう料理屋開けそうね」
「定住するなら出してもええかもしれんけど……。ウチら大迷宮にも行くやろ?」
「たぶんな。せっかくなら色んな迷宮見たいだろ」
「じゃあお店出すのはなしやな。屋台で十分やわ」
この街に滞在する期間がわかれば出店しても良いかもしれないけれど、それならハイゼルにレシピを買ってもらって勝手に出店してもらったほうが楽だ。
今でさえ仕入れから調理までミミに丸投げしているのに、お店を構えたらもっと色々なことを考えないといけない。
つまり、ただただ面倒だ。
ウチは美味しいものを食べたくて料理を考えているのであって、お店を出して儲けたいわけではない。
ミミが料理したいと言っていたから屋台で稼いでもらっているだけだし、売り上げや話題性も十分にある。
これ以上を望むなら、それなりの理由が必要だろう。
確認したけれど、ミミも店を構えたいとは思っていないようで、今の屋台で十分楽しく生活できているようだ。
「で、味はどない?ウチはどれも美味しいねんけど」
「俺はこの包み焼き?が気に入った。これなら混ぜるものを変えれば色んな味が楽しめるんじゃないか?」
「せやな。今日は用意してなかったけど、キノコとか包んで焼いたら味が広がりそうやわ」
「ガドルフは包み焼きで、キュークスは?」
「わたしはこのトマトスープに肉団子が入っているやつね。トマトスープの濃厚な味わいとは別の味が、肉団子で楽しめるところがいいわ」
「ふむふむ。ベアロは?」
「俺はこのぺたんこ焼き?が美味かったが、もっと肉厚にできねぇのか?味は良くても満足感がねぇな。二口でペロリだ」
「それは勢いよく食べすぎてるからや!まぁ、大きいやつも売るようにした方がええか。迷宮帰りの請負人お腹減ってるし」
お好み焼きも大盛りの注文が多く、普通サイズは子どもと付け合わせに買う女性ぐらいで、男性はみんな大盛りだった。
ハニー丸の場合は女性が2人前になるけれど。
揚げ物は珍しさもあってか、常に品切れ状態。
材料を途中で仕入れることもあるぐらい売れ行きが良い。
「アンリさんはどれが好き?」
「どれも美味しい。このぺたんこ焼きはパンに挟んでも良さそう」
「それいただきや!」
「一度にメニューが増えすぎなんだよ。材料の準備とか調理の手が足りなくなるかもしれないんだよ」
「ふむ……。お試しメニューで一個ずつ出していくか。材料はお肉細かくするの面倒やもんな。人雇う前に、今回のお肉売ってくれた人に報告やけどな。とりあえず肉団子入りスープと包み焼き持っていったらええやろ。ぺたんこ焼きは冷めたら不味そうやし」
できるならば作りたてを持っていきたいところだけど、すでに細かくなった肉はない。
野菜スープとトマトスープ、包み焼きを何個か持っていけばなんとかなるだろう。
温めるのは屋台でしてもらえばいいので。
そうして翌日、市場に出向いたけれど、昨日とは少し違う場所でおじさんが屋台を出していた。
「おっちゃーん!」
「おぉ!お嬢ちゃん!肉はどうだった?スープにしかならなかっただろ?」
「ふふん。ウチの手にかかればこうなるねん。まぁ、ウチは支持しただけで、作ったのは料理得意な子やけど」
「おー?スープが2つに……小さなパンか?変な形してるけど、中に肉を入れているのか?挟むんじゃなくて?」
「せやねん」
温めてもらい、食べながら料理の説明をした。
ぱくぱくとスープや包み焼きを食べながら腸詰めを焼き、客からその食べているものは売ってないのかと聞かれて困っていた。
なんとか腸詰めで我慢してもらい、並んでいた客が捌けたら会話を再開する。
ウチの要望は刻んだ肉の購入だ。
「肉ねぇ……。まぁ、道具があるから量を作るのは可能だな」
「なんか乗り気ちゃうな。気になることでもあるん?」
「気になることっつうか、要望だな。できれば同じような料理を出してもいい許可が欲しい。さっきの話で大まかな作り方はわかったから、新メニューとして出せたら助かるな」
「ええで」
「は?!いいのか?!そんな即決で!」
「ええよええよ。ウチが屋台出すとしても迷宮前広場やし、おっちゃんは市場で出すんやろ?棲み分けできとるし気にせぇへんよウチは」
仮に迷宮広場前に出店すると言われても、同じメニューの場合区画を分けられるから問題ない。
それよりも美味しいものが広がる方が重要だ。
ウチやミミでは考えつかない味付けが考案されるかもしれない。
そんなことを考えているとは思っていないのか、通常高額になるレシピを惜しげもなく晒し、出店許可まで出したことでとても感謝された。
「お礼としては少ないかもしれんが、他の腸詰め業者からクズ肉を集めてお嬢ちゃんに格安で売ることに決めた。いつかは他の店も同じような商品を出すだろうが、しばらくは俺と嬢ちゃんのところで独占できるだろう」
「独占にはあんま興味ないけど、材料が安く手に入るのは魅力的やな」
「他のところが売り出してないから、量は手に入るはずだぞ」
「そりゃええな。おおきに!」
おじさんが商売に乗り出すまでに数日かかるということで、その間にお試しメニューを出すことにした。
しかし、スープは2つの屋台どちらでも出しておらず、組合にメニュー追加として申請することもできるけれど、付近に別のスープの屋台もあるため競合してしまう。
そこで、茹でた後肉団子を濃いめのトマトソースに絡めたもの、ぺたんこ焼き(ジャンボ含む)、細切れ肉包み焼き、細切れ肉包み揚げの4つにした。
それを2日ずつの合計8日間提供し、売れ行きや話題性で本採用するか、屋台を追加するかを判断する。
そうしておじさんに材料を手配してもらいつつ挑んだお試しだけど、もちろん大盛況に終わった。
どのメニューがいいか聞けば喧嘩になり、包み焼きに関しては焼き揚げで派閥ができた。
さらには中に刻んだキャベツを入れたさっぱり路線が女性にヒットして、第三勢力まで生まれてしまう。
さすがにこの時は、ミミの料理への熱意に何てことをしてくれたんだと考えがよぎった。
おじさんが市場で同じようなメニューを出しても、請負人たちは迷宮帰りに食べたいため広場の出店に向かう。
むしろ迷宮帰りで市場に向かおうものなら、その汚れ具合から入場拒否されてしまうだろう。
結果、孤児院に急いで連絡を入れて、追加で2人雇うことになった。
屋台『鉄板焼き』の出店だ。
ただ、1番割を喰らったのは魔道具を急いで作らされたアンリではないかと、キュークスがボソッと呟いていた。
・・・ごめんやで。なんかいい魔道具出てきたら優先的にあげるから許してや。
つみれ、ハンバーグ、なんちゃって餃子です。




