表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

233/305

燃える布

 

 すでに一度開けている宝箱を開けるのに抵抗は全くない。

 中身を知っているシルヴィアが何の躊躇いもなくガチャリと開け、中身をセイルの机に置く。

 魔法の布2枚分だ。


「これは魔法の布でしょうか。効果は確認しましたか?」

「してないっす。詳しく調べるのは組合だって聞いたっすよ?」

「その場合この布を納品していただくのが条件になるのですが、よろしいですか?」

「そのための2枚っす。チャッキーさんも了承済みっす」

「わかりました」


 セイルはベルを鳴らして人を呼び、布を1つ渡して効果を確認するように伝えた。

 そしてウチらからは宝箱を見つけた詳細情報と、布がいくつあってどう分けたかなどを聞き取られる。

 その時に効果によっては悪用を防ぐために強制買取もあると伝えられた。

 例えば毒を撒き散らす布や洗脳効果のある布だ。

 なぜそんな布が出てくるのかは知られていないけれど、学者は過去の文明で罠に使われていたんじゃないかと考えているらしい。

 毒の布はカーテンやカーペットに、洗脳の布は上位者が服にして使っていたのではと、恐ろしい使い方を教えてくれた。


 ・・・そんな使い方嫌やな。他に使い道なさそうな効果やから仕方ないかもしれんけど……。もっと使いやすい効果なのを期待しとこ。


 しばらく沼地エリアの魔物の強さや味について雑談をしていると、扉がノックされた。

 セイルが入室を促すと、布と羊皮紙を持ったおじさんが入ってきてセイルに手渡し、一礼して去っていった。


 ・・・もう少し何か言わへんの?たぶん確認が終わったんやろうけど、終わりましたみたいなの。組合長が何も言わんからええんやろうけど……。


「結果が出ましたね。なるほど。どうやら魔力を流すと火を吹くようです。表面から流せば裏面から、裏面から流せば表面から出るので、服にしても自分が焼けることはないようですね。ただ、熱さはどうしようもないので、長時間使うのはお勧めしないと書かれています」

「え……なんか使い道なさそう……」


 魔力がこもっているとはいっても布だから、そこまで強くはないはずだ。

 しっかり作られた鉄の剣に魔力を流して強化した状態で振り下ろされれば、切り裂けると思う。

 簡単にいくかどうかは布の素材次第だろうけど、そこまではわかっていないそうだ。

 しかし、試しにハンカチサイズに切り出すことには成功しているようで、素材自体はそこまで強くないとのこと。

 それでも魔力を流していないハサミでは切れなかったことから、少なくとも何かしらの魔物素材だと予想されている。


「使い道ですか……。ライトスティックのような魔力を通しやすい棒の先に巻いて松明のようにすると、火付けにも使えますね。この魔法の布は魔力が尽きても徐々に回復するので繰り返し使えます。ちなみに魔力の有無は布の煌めき具合です」

「おー、今きらきらしてるから魔力たっぷりってこと?」

「そうですね。この布の場合火を出し続けると煌めきが減って普通の布になるはずです。わたしも魔法の布は初めて触っているので確証はありませんが……」

「そうなん?組合長やねんから色々触ってると思ってた」

「宝箱から出てくる物はたくさんあるので、狙った物が出てくることはありえないと思ってください。そして、有用な物ほど強い魔物がいる場所、つまり迷宮の奥地に出てくる傾向があります。つまり、沼地エリアで出たということは最近増えたエリアでやっと出てくる物になり、以前は一つ前のエリアで稀に出てくるぐらいということです」

「んー……これからは手に入りやすなるってこと?」

「そうなるかもしれませんね」


 丘エリアで稀に出ていた物が、沼地エリアだと少し出やすくなっているという考え方らしい。

 魔法の布も他の迷宮の深くで何度か見つかっていて、宝箱の統計からエリア開放に伴って出現する物がよくなっていることがわかるそうだ。

 ただし、奥になればなるほど出てくる物の種類が増えるため、狙うのが非常に難しくなる。

 サンプルとしていくつも魔導国に届けているけれど、複製には至っていない。

 魔力で何かしらの現象を起こす魔物の素材を使うことで、一時的に似たようなことはできるようになったけれど、再利用ができない。

 それでもいざという時のために服の一部に使ったり、周囲に見せびらかすために服を一着仕立てたりと需要はあるそうだ。


「他の使い道としては、盾の表面に張ることで火を吹く盾を作ることができますね。ただし、盾なので攻撃を受ければ破れる可能性が非常に高いです」

「勿体無い使い方やな」

「高すぎてなかなか手が出ないので、あまり興味はないですね。請負人としては一度きりの使い捨てとして金貨何十枚、効果によっては大金貨何十枚も出せません」

「お金は大事っすね」

「せやな」


 シルヴィアにとっては使い捨ての魔道具にそこまで出すのは考えられないらしく、眉間に皺を寄せていた。

 しかし、使い切りでそんな値段になるということは、この布は高額になるんじゃないかと気づいて、期待で目をキラキラさせ始める。

 それを見たセイルは1枚金貨10枚で買い取ると申し出てきて、これを了承。

 チャッキー宛に金貨10枚と確認結果の羊皮紙をお願いして、ウチとシルヴィアで金貨5枚ずつ、布2枚ずつ分けた。

 ウチの取り分となった布はアンリに1枚渡すことにして、もう1枚は保管。

 今後何か思いついたら使うことにする。

 シルヴィアは今すぐお金が必要というわけではないからか、一旦は自分で保持することにしたようだ。


「今回はありがとうございました。これで沼地エリアを主に活動している人たちから問い合わせられても答えることができます」

「答えてええん?広まらん?」

「もちろん難易度が非常に高いことなども含めて返答します。それでも広まったら、その時ですね。別に組合として禁止するものでもありません。むしろ積極的に宝箱を狙ってほしいぐらいです。ただ、犠牲になる人が少ない方がいいと考えているだけですよ」

「ふ〜ん。大変やな」

「えぇ、全くその通りです」


 疲れた笑顔で答えたセイルに別れを告げ、組合の受付があるホールへと戻る。

 せっかく来たのだからとそれぞれ雑事と採取の依頼を眺めることにした。


「んー。また掃除が溜まってるなー。やっぱ空き家になると管理が手間なんやろなぁ」


 はられている掃除依頼のほとんどが転居に伴う家の掃除だ。

 大抵の転居は家財を荷車や馬車に積む関係で、最後の掃除はされずに出て行くことになる。

 その結果、建物を買い取った人や土地を管理する商会が掃除の依頼を出してくる。

 もちろん期限付き。

 急いでいるなら周囲の人を雇ったりするけれど、そこまで急ぎじゃない場合は主に見習いが受ける依頼として出されている。

 ウチのことを知った一部の商会からは、ちょっとお高めな家の壁や装飾、残されているしっかりした家具の掃除を指名依頼で出してくれる人もいる。

 張り出された依頼を眺めていると、一足早く見終わったシルヴィアがやってきた。


「エルの方はどうっすか?何か良い依頼はあったっすか?」

「ぼちぼちやな。シルヴィアさんは?」

「変わった依頼があったっすよ」

「お。なになに?」

「少し前に魔力を与えた野菜が魔物化したんすけど、それが森の中で仲間を増やしたそうらしいっす。それの駆除っすね」

「あー、なんかミミが野菜の魔物化がどうのこうの言ってた気がする……。でも、魔物化したとはいえ野菜やろ?簡単に倒せそうやん」


 トマトが魔物になったとして、攻撃は体当たりと蔓ぐらいだろう。

 その体当たりもトマトなら簡単に潰せそうだし、当たっても少し痛い程度だと思う。

 硬いトマトが魔物化していたら痛いかもしれないけれど。


「甘いっすね。エルは甘々っす。ハニー丸より甘いっす」

「めっちゃ甘いやん」

「エルの想像した野菜は、普段料理に使ってる野菜のはずっす。ジャガイモならジャガイモ1個。トマトならトマト1個っすね」

「当たってるわ」

「でも、実際にはトマトやジャガイモは苗ごと魔物化して、魔力で次々実を生成して放ってくるっす。しかも、放たれた実は急遽作ってるからか不味いっす」

「魔力こもった野菜は美味しいのに?」

「投げるようの野菜には込められてないっす。作るのに全力なんじゃないかっていわれてるっすね」

「おー。なるほどなー」

「投げられた野菜には魔力がこもっていなくても、投げる側は魔力があるんで結構な勢いで飛んでくるんすよ。見習いが挑んで骨折したこともあるらしいっす」

「ひえ〜。結構な威力やんそれ」


 見習いでも普通なら弱くとはいえ身体強化できる。

 つまり、身体強化していても骨折するぐらいの威力となるわけで、戦闘を主としていない農村の人たちだと負ける場合もある。

 もちろん農村の人たちも身体強化できるけれど、戦う意志や経験が重要だ。

 野菜を取りに行ったらその野菜に襲われてしまい、そのまま逃げられた結果が依頼になっている。


「受けるん?」

「いや、受けないっすよ。だって討伐依頼っすよ。わたしが受けても時間っけるだけっす」

「せやな。魔物化した野菜は見てみたいと気もするけど、いつかどっかで見れるやろ」


 シルヴィアは変わった依頼として教えようとしただけで、受けるつもりはなかった。

 固有魔法が活躍する依頼でもなかったので、ウチに若干の未練を残しただけだ。

 見てみたいのと、味が気になっている。


「じゃあしばらくはのんびりっすかね?」

「せやなー。ウチは掃除の依頼受けつつ、何か思いつかへんか市場で食材見て過ごすつもり。シルヴィアさんは?」

「エルの協力なしでもこなせる簡単な採取依頼でも受けるっす。自己鍛錬もかねてるっす」

「気をつけてや」

「もちろんっす」


 ウチが必要じゃないとはいえ、魔物が出てくる場所に素材を集めに行くのだから気をつけてほしい。

 シルヴィアからすると何年も行ってきたことだから余計な心配かもしれないけれど。

 宝箱を家に運んでもらってから布を分け、シルヴィアは借りている宿へと帰っていく。

 ウチの取り分からアンリに1枚渡すと、しばらく庭で実験した後部屋から出てこなくなった。


 ・・・暇になったし市場行こ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ