チャッキーの直感−わくわく沼−
「見つからんなぁ」
「見つからないっすねぇ」
「無いんちゃう?」
「そうだとしたらどこから宝箱が出てきたっすか?」
「え?んー……雨と一緒に空から落ちてきたとか?」
「空っすか……」
沼地の中にぽっかりと空いた穴から空を見上げるシルヴィア。
迷宮には潜らず屋台や掃除、アンリ魔道具作成の見学をして過ごした後、組合長の依頼をこなすために迷宮に入った。
そして沼地エリアに着いてからすでに5日。
宝箱は見つけられず、壊れた魔道具や家具ばかり見つかっている。
・・・空からっちゅうのはウチのボケやってんけどな。迷宮やから何が起こるかわからんし、有り得るとでも思ってるんやろか。さすがに雨が降った時にしか宝箱出ないはないやろ。ないよな?ないと思っておかなやってられへんわ。
「戻ったっすー」
「お帰り。成果は?」
「いつも通り壊れた魔道具とかばっかりっす。宝箱の蓋すら見つからないっすね」
「あー、そりゃしんどいわな。たまにはビッグ沼地ガニ引っ張ってきてくれてもいいんだぞ。こっちはもう2匹同時でも余裕だ。4匹はしんどいが」
「考えとくっす」
上手くいってないのに魔物の相手までしたくはない。
最近は出会う魔物全てがハリセンの餌食となり、足を叩かれて動けなくなるか、頭を叩かれて気絶して放置だ。
シルヴィアもウチの固有魔法に慣れているから、ガンガン突っ込んでいき、ウチをぶつけるかの勢いで魔物の前に出す。
後はハリセンを振るだけの簡単な作業になってしまっている。
「あれ?エルじゃねぇか!」
「ん?あ!チャッキーさんやん!なんでここに?」
息抜きに休憩所をうろうろしていたらチャッキーに出会った。
チャッキーも肉串を持ってうろうろしていただけだったので、なぜか1本受け取って空いている椅子に座った。
「いやいや、それは俺のセリフだろ!屋台の売り子をしている子どもがなんで迷宮の!しかも最深部前にいるんだよ!」
「あれ?ウチのことあの3人に聞いたりしてへんの?」
「聞いてないな」
「何も聞かずに屋台にいちゃもん付けに行くとか、相手が悪かったらどないすんねん」
「あの時はテンション上がったからな。何か良いことが起きるはずだったんだ。美味いもんに出会えたし、それが良いことだったんだと思ってる」
「確かに。それはええことやな」
美味しいとの出会いは大事だ。
食べられる量が決まっている体というものがあるのだから、せっかく口にするなら美味しい方がいい。
3人に半獣の屋台を冷やかしに行くから着いてきてくれと言われ、何かあったら止めればいいかと簡単に頷く時に気分が高揚したそうだ。
だから、3人からは半獣が屋台をやっているということしか聞いてないし、なぜかその半獣を守るウチとやり合って美味しさに負けたというよくわからない結果になっていて、団内でも弄られているらしい。
「で、ウチがここにおるのは、固有魔法が使えるからやねん」
「固有魔法を?エリア主を倒した氷の奴は別人だから、沼地を調査してる固有魔法持ちのことか?」
「その話は知ってるんやな」
「ああ。帰ってから街で起こった色々を聞いている時にな。その固有魔法持ちのおかげでカニの食べ方が広まったと聞いたが、容姿やらは話に上がらなかったな。勧誘する訳でもないし、探索向きの魔法が使えるんだろうって納得したんだ。まさかそれがエルだったとはなぁ。もしかしてテンション上がったのはエルに会う可能性があったからか?」
「ウチに聞かれても」
チャッキーは首を傾げているけれど、揚げ物とウチのどちらに気分が向上したのかはわからない。
本人もテンションの上がった先で良いことが複数起きた場合、どれに惹かれたのかはわからないそうだ。
都度自分の気分を把握していればそれも可能だけれど、一度上がるとなかなか落ちないそうで、絶好調が続く分には問題がないからあまり気にしていないらしい。
「なー。固有魔法の内容聞いてもいいか?人によっては秘密にしてるというか、場合によっては狙われたりするからさ、ちょっと聞きづらいんだけど……」
「ええで。ウチを狙ってきてもたぶん意味ない能力や」
肉串を齧りながら固有魔法のことを話す。
誰にでも教える訳ではないけれど、お調子者の由来を教えてもらったからお返しにという気持ちと、ウチを利用することで手に入る何かがあるかもという打算もある。
ウチの固有魔法についてあらかた話し、ライテのジャイアントスライムや沼地での調査方法についても教える。
ついでに今は宝箱探しをしていて、なかなか見つけれていないことも。
「宝箱ねぇ……。森林エリアだと木の窪みや根元、たまに枝分かれしたところにあって葉に隠れてたりするな。丘エリアだと丘の影や丘に空いた洞窟の中。そうなると沼地エリアだと沼の中のはずだが、あの広さと深さの中から見つけるのは大変だな」
「せやろ。行き止まりにあるとか、この辺りを注意して見るとかじゃないねん。沼地に入らんと見つけられへんし、普通は身動き鈍るから探すのにも苦労するわ」
「あー、確かにあの中はしんどいな。俺も斥候だから沼地に入って魔物を探すんだけどよ、動きにくいったらありゃしねぇ。身体強化で押し切るしかできねぇから疲れるし、嫌になるぜ」
「おー。チャッキーさんあの沼地に入ってるんや。カニ狩り?」
「それを含めて色々だな。最終的には復活したエリア主を団で倒すのが依頼だ。数で押さえ込んで逃さないように戦うつもりだ」
「へー。大変そうやな。頑張ってな」
「他人事かよ」
「他人事やし」
「まぁ、そうか」
話しを終え、それぞれ割り当てられた拠点へと別れ、先に戻っていたシルヴィアと草原の狼団について話した。
尚、今回はウチとシルヴィアだけが組合長の依頼で潜っているため、休憩所は共用の物を利用している。
それでも2人部屋としてしっかりと壁や扉があるため、十分休むことができる。
ちなみに、ここに置いていったお風呂用の大きな樽とお湯を出す魔道具はハイゼルの商会が買い取っていて、アンリにお湯の魔道具を発注するぐらいに人気だった。
同じような魔道具は貴族向けに売られているけれど、そちらは見栄えや必要な出力が大きく効果な物になる。
アンリが作るライテで設計された物は、最低限の機能のみなので比較的安価に生産できている。
アンリは独占販売するよりも別の魔道具に挑戦したいと、設計図を売ろうとしていたけれど、しばらくは儲けたいハイゼルが拒否するという変なことになっている。
そうして翌日も宝箱探索に出るも空振り、さらに翌日の探索中、ビッグな魔物が出るところで仲間を連れたチャッキーにであった。
「お!エル!ちょうど良いところに来たな!」
「おん?ウチらに何か用事でもあるん?戦いやと囮ぐらいにしかならへんで。素材諦めるなら別やけど」
「あー、戦いには関係ない。いや、もしかしたら戦闘になるかもしれないが、頼みたいことは別だ」
「頼みたいこと?ウチらに?どっかの探索?」
「そうだ!昨日活動していた沼の隣の沼がワクワクしたんだ!ただ、深さが凄くて、俺たちでも頭まで飲み込まれそうだったんだよ。そんな沼探索できるのエルたちだけだろ?だから戻ったら頼むつもりだったんだ」
「へー。わくわく沼か」
「それは何か違うっすね」
「違うな」
もっと勢いのあるツッコミがほしい。
ウチのボケが微妙だったと反省しよう。
「そっか……。じゃあウチとシルヴィアさんで沼地見てきたらいい?何か出たら半々で」
「場所を言うだけで半分もいいのか?」
「宝箱が出たらウチら帰れるし、全然ええけど。あ。シルヴィアさんはどない?」
「半分でいいっすよ。そこで宝箱が出たら、今後は深い沼を重点的に探すことにできるっす」
「え?!帰らへんの?」
「1つ見つけただけでも依頼は達成っすけど、どういう場所にあるかの情報まであった方がいいっす。また探してこいって言われるよりは1回で終わらせたいっすね」
「確かに。何個も見つけてこいって言われたらウチのハリセンが唸りを上げるところやわ」
沼地生活をすると食事がある程度のサイクルで固定されてしまう。
さらに日々見る風景が変わらず、やることも探索しながらハリセンを振るだけ。
そんな日々に飽き始めている。
いや、依頼を受けた時点で飽きているところを、シルヴィアに連れられているといったほうが正しいかもしれない。
せめて出てくる魔物が変わるか、定期的に面白い物が見つかれば続けられるかもしれないけれど。
「それじゃあ今から行くか?あぁ、こいつらがいるとダメなら俺だけでもいいぞ」
「うーん。そういう固有魔法って納得してくれるなら見ててもええけど。いちいち説明はせぇへんで」
「ああ、それでいい。気になったら自分で聞くか調べるだろ」
チャッキーの後ろにいる人たちはその発言に頷いて返してきた。
見てしまえば気になるだろうけど、よく知らない人たちに詳しく教えるつもりはない。
チャッキーには伝えているから、そこから聞いてくれればいい。
そんなことを背負われながら考えていたけれど、誰もがウチがずっとシルヴィアに背負われているのに何も言ってこなかったから、すでに知られているのかもしれない。
ウチがチャッキーの能力をガドルフたちに話したように、チャッキーも出会った固有魔法持ちについてパーティに話していても不思議ではない。
そんなことを考えている間にわくわく沼のほとりまで移動していた。
「ここの……あー、場所が伝えづらいな。石投げておおよその位置を教えるのでいいか?」
「うーん……どうなんやろ」
「ここからはそれでいいんすけど、いざ進み始めたら声で教えてほしいっす。ここからなら聞こえるっす」
「わかった。俺が沼の外から誘導する」
結果、3投目でチャッキーの思い描いていた場所に石が落ち、シルヴィアはその方向に進み始める。
足を進めるにつれ周りに泥の壁ができ、やがて上に空いた穴から空しか見えなくなる。
その壁がいつも探索している場所の倍ぐらい深いと感じた時、チャッキーの声が響いてきた。
「少し右にズレてるぞー!……いい感じだー!もう少しまっすぐ行ったところだー!」
「おおきにー!」
向いている方向の都合、ウチが返事をする。
シルヴィアよりもウチの方が声が大きいのもある。
そうして何度かの方向修正を受けつつ、チャッキーが反応した場所まで辿り着くことができた。
「何もないっすね」
「うーん。じゃあ泥の中とか?……お、ハリセンになんか当たった」
「さすがエルっす。掘るっすよー!」
ハリセンでは泥を掘れないため、シルヴィアが持参している木のシャベルで掘っていく。
ハリセンが当たるほどの深さなので、身体強化した状態ならすぐに掘り起こすことができる。
しばらくぐちゃぐちゃとあまり耳障りの良くない音が響いた後、ガコッと音を立てて何かにぶつかる。
それはここ最近求めていた宝箱の蓋らしき物だった。
「これ宝箱の蓋っぽく見えるっすね。泥で汚れててわかりづらいっすけど」
「ほんま?!ウチからは見えへんけど、それやったらチャッキーさん様様やな!もっとわくわく沼見つけてほしいわ!」
「その名前は確定なんすか?」
「わかりやすない?」
「まぁ、チャッキーさんの能力を知っていればっすね。組合長にそのまま報告したら怒られそうっす」
「ウチは呆れられるのに1票や」
「そっちもありそうっす」
話しながらもシルヴィアの手は止まることなく掘り進め、時間をかけて箱を掘り起こすことができた。
その箱に水生みの魔道具で水を流して泥を取り除くと、何度か見たことがある箱が出てきた。
探し求めていた宝箱だった。
やはり沼地の中にあるようだ。
空から降ってきたわけではないことにほっとする。
「じゃあこれを持ち帰って中を確認するっす」
「よろしく!」
身体強化したシルヴィアが宝箱を担ぎ、来た道を戻る。
草原ではビッグ沼地ナマズとチャッキーたちが戦っていて、巻き込まれないよう少し離れたところから観戦することになった。
チャッキーは両手で刃の短いナイフを持ち、それをビッグ沼地ナマズの目やヒレの付け根などに投擲する。
その後すぐに腰や足につけた投げナイフを持ち、再度投げている。
動きが鈍くなったところに剣と盾を持った請負人が向かい、ハンマーや斧などの大きな武器を持った請負人が後ろから近づいて一気に攻める。
動きが鈍くなったビッグ沼地ナマズは、少し反撃しただけで倒された。
「めっちゃ手早い戦いやったな!」
「そうっすね。誰も怪我するような無茶せず、堅実な戦い方っす」
「相手の形で攻撃できる方法はある程度決まるからな。それを踏まえて訓練してりゃ問題ねぇよ。いきなり火を吹いたり魔法を使われたら別だけど。っと、そんなことより沼から見つかったのはそれか?」
「せやで!わくわく沼の正体や!」
「宝箱があるなら確かにわくわく沼かもな!」
チャッキーとウチは笑い合ったけれど、シルヴィアやチャッキーの仲間は苦笑いだった。
お気に召さないらしい。
そしていよいよ持ち帰った宝箱を開ける時が来た。
沼から少し離れた見晴らしの良い草原で、開けるのは安全のためにウチ。
見つけるきっかけがチャッキーだったので譲ろうとしたけれど、実際に見つけるために動いたのはウチらということで辞退された。
その後に罠の解除が面倒だという本音が飛び出たけれど。
「ほんじゃ開けるで!よいしょ!……布?」
宝箱の中には折り畳まれた布がたくさん入っていた。
白い布で、光が当たっているわけではないのにほんのりと光り、キラキラしているように見える。
「おー!当たりじゃねぇか!」
「布が?」
「あぁ!そりゃ魔法の布だろ。魔力を流すと何かしらの効果が出るんだ。鉄のように固くなったり、魔法を通さなくなったり、姿が見えなくなったりだな」
「布ごとに違う効果なん?」
「そうだ。もちろん同じ能力の布が見つかることもあるぞ。この布を服にしたり防具に使うことで魔法効果を使いやすくするんだ」
「ほうほう。じゃあこの布の効果を調べなあかんな。どうやるん?」
「魔力を流すだけなんだが、効果によっては見た目に出ない物もある。結局は組合で調べてもらうのが1番だろうな。詳しく調べてくれるし」
「そっか。じゃあ半分に分けて、1枚ずつ組合用に出せばええかな?」
「それでいいんじゃねぇか。こっちは文句ないぞ」
「わたしもそれでいいっす」
「じゃあそういうことで」
宝箱からは20枚の布が出てきた。
1枚で大人の服1着作ることができそうなほど大きく、それが折り重なっているのでなかなかの大きさになった。
それをお互い9枚ずつ皮袋に収納し、残った2枚は宝箱の件もあるためウチらが組合に提出することに。
布の買取分は後日精算する。
「宝箱がどうする?持って帰る?」
「んー、そうっすねー。わたしは要らないっすけど……チャッキーさん宝箱売るっすか?」
「いや、そっちで売ってくれていいぞ。こっちはまだまだ狩りをするからな。邪魔になる」
「わかったっす。こっちで処分しておくっすよ」
「宝箱って売れるん?」
「売れるっすよ。エルは入れ物として使ってるみたいっすけど、売る方が一般的っす」
シルヴィアが言うには、迷宮で出てきているため魔力がふんだんに詰まっているそうだ。
宝箱には木の部分と金属の部分があり、それぞれを分けて使うことで丈夫な箱や金属の物品を作ることができる。
貴重品入れなどで貴族や商人が使っていて、需要は常にあるらしい。
魔力がこもっていて強い素材のため火や水に強い宝石箱や化粧箱、剣を作るには足りないけれど刀身に付ける装飾や鍔、プレートメイルの内側に補強として入れるなど使い勝手は多く、どの商人にも売れる品となる。
見習い上がりの請負人が探索できるレベルの宝箱の場合、中身よりも箱の方が高値がつくこともあるそうだ。
ちなみに、宝袋も魔力はこもっているけれど、袋がそこまで大きくないため、丈夫な財布程度にしかできないらしい。
帰ったら放置していた宝袋も財布にしてもらおう。
「ほんじゃあ帰るなー」
「また気分が上がる沼見つけたら教えてほしいっす」
「おう。次は自分たちで取れないか挑戦してからだがな」
「頑張れー!」
「頑張るしかないのが辛いところだ」
大人を簡単に飲み込めるほど深い沼の中に沈んでいる宝箱を、気合いだけでは取り出すことはできない。
どう頑張るつもりかは知らないけれど、ウチら以外にも宝箱を取れるようになってほしい。
そうじゃないと宝箱のために呼ばれることが増えそうだし、そんなことをしていたら取り分でいつか揉めるだろう。
沼に入って取ってくるだけで半分減るのなら、自分でどうにかして取る方がいいと考える請負人がいてもおかしくない。
成功するかは別として。
「ようやく宝箱見つけれたんで、しばらくは休みっすかねー?」
「精神的に疲れたし、それがええなぁ……」
組合長が何も言わなければ休暇となる。
休みといっても屋台に出たり、掃除の依頼を受けたりと何かしら活動しているけれど。
「組合長!宝箱あったで!」
組合長室へ入ってすぐに結果を話す。
後から宝箱を担いだシルヴィアが入室して、現物を見たセイルは笑顔を浮かべた。
「依頼通りですね。沼地エリアのどこにありました?」
「深い沼の底っすね。しかも泥に覆われてて掘らないとダメっす」
「沼の底ですか。やはりというか、他のエリアと同じような場所ですね。深さはどれくらいでしたか?」
「うーん……大柄な獣人でも頭まで飲み込まれるっすね。この部屋の天井よりは低いと思うっすけど、普通に潜って取るのは無理な深さっす。せめて泥じゃなくて水だったらなんとかなったかもしれないっすけど」
「水棲系の獣人ならばどうでしょう?カバの獣人ならある程度は水中行動できますよね?」
「活動できるとは聞いたことあるっすけど、実際に見たことはないっす。獣人に直接聞いたこともないっすね」
「それはこちらで聞いておきます」
なんとなくしかわからなかったので詳しく聞いてみると、獣人は種族ごとに特性がある。
肉食獣系のほとんどが筋力が強く、草食獣系は察知能力が高く、獣人全体で体力が人より多かったり脚力が強かったりする。
その中で水棲系のカバやワニのような獣人は、ある程度水中で活動できるようで、大量の空気を吸い込んで長時間潜ることが可能。
加えてワニの獣人は尻尾を使って水中を泳ぐこともできるという話らしい。
「今ウルダーにいる獣人パーティの中でカバやワニの獣人は……2つですね。その2つに話を投げてみるとします。見つけた経緯を聞いてもいいですか?」
「もちろんっす。とは言っても助けてもらったんすけどね」
シルヴィアが宝箱を見つけた経緯を話すと、チャッキーのことを知っていたセイルは悩み始めた。
宝箱が出たことを公表する予定だったけれど、発見場所の難易度と沼の数から探索を推奨するわけにはいかないらしい。
泥の中での戦闘も影響しているため、安易に全体公開するのは下手な犠牲が生まれるかもしれない。
特に一つ前の丘エリアで活動している請負人たちが。
その結果。
「しばらく保留とします」
「何が?」
「獣人パーティにお願いするのをです」
「つまり?」
「少しの間宝箱探索をお願いします」
「嫌や!楽しないし!」
「そこをなんとか!」
「無理!わくわく沼ウチらにはわからんし!」
「報酬は弾みます!」
「ウチはお金に困ってないもん!」
「わたしはお金あるだけ欲しいっす」
「シルヴィアさん黙ってて!」
前回同様シルヴィアが味方じゃない。
ライテ小迷宮のスライムで荒稼ぎしたウチとは違い、シルヴィアはずっとこの町で素材採取をメインにしていた。
稼げていないわけではないけれど、決して余裕があるわけでもない生活だったらしく、ウチと組むようになってから上がった収入にほくほくだ。
お金はあるだけあればいいというのには同意するけれど、そのためにずっと沼地エリアに行き続けるのは嫌だ。
「仕方ありません。依頼は出しておきますが、今すぐ取り掛からなくて結構です。こちらからチャッキーに気分が上がる沼を見つけたら連絡するよう伝えておきます。それが溜まれば探索していただきたいです。つまり、優先的な探索依頼を予約しておくということです」
「なんかややこしいな……」
「また宝箱を見つけたら別途報酬が出るという程度で考えておいてください」
「それなら、まぁ、ええか……」
今すぐ沼地に行けというわけではなく、チャッキーがわくわく沼を見つけたら、その情報をセイルがまとめ、それを元にウチらが探索する。
それを約束するために依頼として縛り付けておくということだ。
つまり、チャッキーがわくわく沼をいくつか見つけたら、ウチらが呼ばれて取りに行くというだけのこと。
それならばということで了承することにした。
「ありがとうございます。後は今回出た宝箱の中身ですね」
話がひと段落したセイルの視線は、シルヴィアが持ってきた宝箱に向いている。
そういえば、前もウチらが宝箱持ち帰ったけど沼地エリアから宝箱見つかったと騒がれてはいない。
一緒にハイゼルの依頼を受けた人たちは、宝箱を持ち帰る姿を見ていたはずだけど。
噂は流れていても、まだそこまでではないのかもしれない。




