あいつら再び
カニの屋台ができて盛り上がっていたところに、揚げ物の屋台を出したことでさらに盛り上がりをみせたウチらの区画。
迷宮へと続く大きな道を挟んで反対側には屋台が増えておらず、落ち着いて食べられる場所として認識されているらしい。
つまりウチらの方は騒がしい場所ということだ。
・・・うるさくないし。誰も騒いでへんし。人多いだけやし。
「やっぱ塩だよ塩!入れるハーブで風味も変わるし、味の調整もしやすい!」
「いーやトマトだね。お好み焼きにも合う万能ソースさ」
「万能っつたら塩の方が万能だろうが!」
「シンプルすぎるのさ」
「まぁまぁ、ここは間をとってフルーツソースにしましょうよ。お茶に溶かして飲むと風味が変わって新鮮ですよ?」
「買ったからって変な使い方するなよ!」
「いえいえ、これは味変です。色々なものに試してみませんと」
訂正。
やはりうるさかった。
今はどの調味料が1番か話し合っているテーブルが多く、買ったソースを街の食事処で使って新しい味を求めている人もいるらしい。
食事処からはソースの販売を求められることもあり、ハイゼルの店を紹介して購入してもらう。
そのソースにさらに手を加えて別のソースを出すお店もあり、他にはオリジナルのソース作りにハマった料理人もいるとか。
まだそのソースを目にしていないけど、ハイゼル経由で手に入れたいとお願いしておいた。
ミミが話を聞いて欲しがったから。
「好きなもの付けて食べたらええやん。美味しいが正義や」
「嬢ちゃんわかってねぇな。自分の中での1番を語り合うのが面白いんじゃねぇか」
「そうです。その過程でそんな食べ方があるのか!となるのが良いんですよ」
「えー、面倒くさいなぁ。あんま騒がんようになぁ」
「おう。別に喧嘩してるわけじゃねぇさ。心配すんな」
「酒が入っていたら熱くなって殴り合いすることも、食べさせ合いすることもありますけどね」
「おっさん同士の食べさせ合いなんか見たないわ!」
巻き込まれないようにテーブルから離れる。
騒ぎすぎないように注意しに行ったのに、なぜか諭される始末。
美味しければ良くて、あとは味の好みだけだと思っているウチにはよくわからなかった。
好きなものが違うのは当たり前なのに、どれが1番か決めるのは必要なことなんだろうか。
首を傾げつつ屋台に戻り、売り子とお客さんの話し相手に徹した。
「おいおいおいおい。まだやってるのかよ」
「まだ材料はあるで」
「そうじゃねぇよ!半獣の屋台出してるのかって意味だっ!」
「お?あぁ!いつぞやの……あれしてきた人やん!いちゃもんの人!」
「ぷっ」
ウチの言葉にミミは吹き出してしまい、以前の騒動を知っている人はヒソヒソと話し始めた。
そんな状況を目の前の男が受け入れられるはずもなく、青筋を浮かべた顔に向けて怒鳴り始める。
「半獣のくせに何俺を笑ってんだ!」
「うるさいわ!笑ったんはウチの言葉にや!そんなんもわからんのか!さっさとどっかいけ!食事が不味なるやろ!」
「エ、エルちゃん落ち着くんだよ」
「ウチ?!このおっさんに言うべきやろ!」
「エルちゃんの方が勢いがすごいんだよ」
言われてウチの発言を思い出す。
おじさんに言われたのは一言だけど、ミミに向けて怒鳴ったことにムカついたから勢いに任せてたくさん言った。
目の前で繰り広げられるウチらのやりとりに、当のおじさんは口をぽかんと開けてしまうほどだ。
「ほんで、おっさん何のようなん?商売の邪魔やから帰ってほしいねんけど」
「え?あ、あぁ、あー、半獣の屋台続けてるのかって言ってたんだが……もういい……。やる気が失せた」
「ほんまに?じゃあお疲れさん」
「いやいや、そうは終わらせねぇよ。俺が所属する団の全員が依頼を終えて帰ってきたんだ。これからは俺たちが迷宮で活躍するし、屋台も楽しむ。その時に半獣の店が出てると気が滅入るんだよ。だから閉店しろ」
「はぁ?何の権利があってそんなことほざいてんねん。ここは組合管理の場所やろ。寝言は寝て言え」
「はっ!これだから何も知らないガキは……。実力があれば多少の融通は効くんだよ!混み合うから場所を変えろとか、子どもの屋台は危ないとか色々言ってな!」
「何馬鹿正直に手口話してんねん。アホちゃうか」
わざわざやることを教えてもらったのだから、対策を練ることができる。
場所に関してはどうしようもできないけれど、子どもだけの屋台は他にもあるし、ウチがいなくても続けてこれたのだから、今更どうこう言われる必要はない。
事前に組合長のセイルに相談しておけばなんとかなるだろう。
きっと。
「言った方法を使うわけないだろうが。別の方法だよ。別の」
「とは言いつつも〜?」
「あ?何言ってんだ?別の方法には変わりはねぇよ。それを言うわけないだろうが」
「ちぇー」
ぽろっと言ってくれるかと思っていたけれど、そんなに甘くはなかった。
ウチを甘くみているから、調子に乗って色々言ってくれることを期待していたのに。
おじさんは言いたいことが言えたからか、そのまま帰っていった。
迷宮に潜ることさえしなかったから、わざわざ圧力をかけると言うためだけに来たのだろう。
言わずにされたら何もできなかったのに、やはりおじさんはバカだと思ってしまった。
「おい嬢ちゃんたち、大丈夫か?」
「ん?おおきに。なんか喚いてただけで何もされてへんから大丈夫や!」
「うるさくて料理の邪魔だったんだよ!」
「これぐらいや」
「はっはっは。2人とも大物だな。だが、気をつけろよ。あいつ自身は森林エリアで活動できるかどうか程度だが、団の力は別だ。むしろ本隊はずっと出張ってて、実力不足のやつが街で留守番してただけだ」
「団っちゅうとアレやな。請負人が集まって作るやつ」
「そうだ。請負人以外にも料理人や拠点の管理、武具の整備や団の運営などで色々人の手が必要になるやつだ。金は必要だが大規模な依頼を受けられるようになるし、複数パーティで成り立っているから連携もしやすい」
「ふーん。で、その団がなんでウチらを目の敵にするんやろな?」
「それをしてんのは下っ端だ。団の考えじゃねぇよ。それでも一部の頭の悪い奴は自分の実力と団の実力を勘違いしがちだ。そういう奴に限ってなにするかわからねぇときた。団のお調子者に色々吹き込んで何かしでかすかもな」
「おー……なんか面倒そう……。とりあえず組合長に相談しとくわ」
「そうしろそうしろ。俺たちも注意しておくが、殴り合いになれば向こうに分がある。まぁ、そんな事態になった時点でしょっ引かれるがな!」
常連のおじさんは笑いながら、仲間を連れて去っていった。
その後もたくさんのお客さんが心配してくれて、兵士への相談や組合への相談、保護者への報告に雇っている子たちの孤児院にも伝えた方がいいなど、たくさんの助言をもらった。
その助言に従って兵士や組合に相談したけれど、何も起きていない状態では注意して見回るぐらいしかできない。
セイルは個人的に話題の団と付き合いがあったから、それとなくトップに忠告してくれることになった。
しかし、下の者が暴走した場合対応が遅れることもあるとも言われ、結局注意するしか方法がないことがわかった。
何もされていないのにウチが暴れたりすれば、捕まるのはウチになってしまうから何もできない。
せめて孤児院の子どもたちは守るべきかと屋台しばらく閉めた方が良いかとハイゼルに相談したけれど、そういったことも経験になるため続けさせたいと言われた。
相手も殺しにくるようなことはしないだろうという推測と、あくまで狙われているのは半獣のミミだからとのことだった。
・・・ウチとしてはミミが狙われてるのが嫌やねんけどな。ウチが狙われるだけならええねんけど、ミミを守る方法がなぁ。いっそのこと団の拠点に飛び込んで暴れた方が早そうやわ。
ガドルフたちにも相談した結果、とりあえず相手の団について調べることにした。
よくよく考えると最近依頼を終えて戻ってきたということしか知らず、名前もわからなかったからだ。
相談した人たちには最近戻ってきた団で通じてしまった結果、名前を知る機会を失っていた。
聞けば教えてくれたはずだけど、話が通じるためそのまま会話してしまった。
そんな話しを家でしていると、思わぬところから答えが返ってきた。
ずっと街で活動していたミミだ。
ミミ曰く最近帰ってきた団は『草原の狼団』と言い、この街出身の請負人たちが大迷宮に挑戦してから戻ってきて作ったもので、ウルダーでは最大の団となる。
他の団は迷宮に特化していて、人数も3、4パーティ程度。
しかし、草原の狼団は20パーティ以上在籍している。
迷宮で活動するパーティもあれば、周辺の町や村の依頼を受けたり、時には傭兵として貴族同士の争いに参加することもある。
団全体の評判は荒っぽくて戦いが好きと、なんとも何かが起きそうな評価だった。




