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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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228/305

新しい依頼

 

 沼地エリアのエリア主が倒されてから10日経った頃、ハイゼルの使いが拠点にやってきて、ウチらのパーティは依頼完了となった。

 ウチを背負ったシルヴィアほど簡単にビッグ沼地ガニを引っ張って来れないけれど、水の引いた沼地であれば、斥候なら難なく引っ張って来れるぐらいに慣れた結果だ。

 時には一緒にビッグ沼地ガニを探しに行くこともあり、仲良くなった人もいる。

 固有魔法は羨ましがられたけれど、身体強化が使えないことまで説明したら、遠慮されるのは変わらなかったけれど。


「久々の街やー!ミミとエリカは元気やろか?」

「きっと大丈夫っすよ。ハイゼルさんも様子を見てくれるって言ってたっす」

「アンリさんもおるしな」

「アンリよりハイゼルの方が頼りになりそうなのはなぜかしらね」

「キュークスから見るとそうなんやな」

「そうよ。だって一度のめり込んだら食事を忘れるぐらいよアンリは」

「あー、引き摺り出さんと部屋から出てこんこともあったなー」


 確か魔道具がいい感じに組み上がりそうな時と、仕組みが理解できそうな時だったはずだ。

 出会った時は魔法にしか興味がなかったアンリだけど、魔道具が作られる様子を見てから魔道具作りにハマっている。

 自分で稼いだお金で魔道具を買っては分解し、改造しては壊してを繰り返している。

 解体して学んだ通りに組み上げることもできるけれど、素材や魔石の属性を変えて影響を調べたりと楽しそうに試していた。

 かといってライトスティックを改造して、水を吹く棒を作られても困る。

 掃除に使おうにも頭上に放てば周囲が水浸しになるし、少し離れたところに水をかけることは、今のところ思いつかない。

 花への水やりぐらいだろうか。

 ちなみに使われなかった水を出す棒は、名前もつけられずアンリの保管箱に入れられている。

 そんなアンリに関するあれこれを考えていると、ミミたちの屋台前についた。


「ミミ!エリカ!元気しとったか?!」

「あ!エルちゃん!元気なんだよ!」

「おかえり!随分長かったわね」

「せやなー。さすがに疲れたわ。こっちはなんか変わったことあった?」


 お好み焼きとまんまる焼きを提供する2人を見ながら、迷宮に潜っている間の出来事を聞く。

 ミミは前から効率的に動いていたけれど、エリカも随分慣れたようで、お客さんやウチと談笑しながらでも手が遅れることはなかった。


 ・・・ウチよりまんまる焼き焼くの上手なってるやん……。負けてられへんな。しばらく休みやろうし、ウチも屋台に立つしかないな!


 2人から聞いた話をまとめると、ビッグ沼地ガニだけでなくたくさんの魔物素材が搬出されて賑わったことや、ハイゼルの焼き沼地ガニの屋台が繁盛していること。

 領主や貴族主体でビッグ沼地ガニのお披露目祭りが開かれたこと、ウルダーの街を拠点としている請負人の団が仕事を終えて凱旋したこと、魔物化した野菜が村を出て街道を通る人を襲う事件があったこと、沼地のエリア主を討伐した祭りがあったことなど、大小様々なことが起こっていた。

 ミミとエリカは屋台を開く日々だったため、祭りに参加したり、討伐されたビッグな魔物を見物しに行った程度らしいけれど、充実した日々を送れたようだ。


「じゃあ家帰って荷物の整理してくるわ」

「お疲れ様なんだよー」

「気をつけてねー」


 屋台を後にして、カニの香り漂う迷宮前広場を出る。

 沼地の底から見つかった宝箱を、軽量袋に入れて背負ったシルヴィアを中心に借りている家に帰った。

 万が一シルヴィアが襲われることがないようにとのことだったけれど、宝箱が見えている状態でもない上に他の素材も入っていたからか、絡まれることなく帰り道を進む。

 ガドルフたち獣人3人が周りを固めていたので、変な威圧感もあったからだろう。

 ウチからすると獣人3人がシルヴィアを連行しているようにも見えていたし、すれ違う人の何人かはチラチラ見ていた。

 一部に人には誤解を与えてしまったかもしれない。


「ただいまー」

「おかえり。火を起こすやつ3つ作れた」

「お?おぉー!おおきに!ウチからもお土産あるで!シルヴィアさん!」

「はいはい、これっすね」


 帰宅を迎えてくれたアンリは、それほど誇ることなく3台のスライド式火力調整機燃えるくんを披露してくれた。

 代わりにウチからは壊れた盾の魔道具を渡す。

 ミミが帰ってきたら揚げ物のお店を出すための話し合いをしてもいいかもしれないと予定を立てつつ、宝箱を部屋に置いて中身を取り出す。

 これから組合に魔道具の剣と盾を4セット届けに行くから。


「じゃあ行ってくるわ」

「気をつけろよ」

「シルヴィア、エルを見ていてね」

「任せるっす」


 魔道具はウチが背負った皮袋の中に入っているから、襲われて奪われることはない。

 そもそもそんなに治安は悪くないけれど、組合に向かう時はいつもガドルフとキュークスに気をつけるよう言われる。

 そんな心配性な2人とは異なり、ベアロは荷物を置くと早速飲みに出掛けていた。

 お酒の何が良いのかは飲んだことがないからわからないけれど、いつかはウチも毎日お酒を飲むようになるのだろうか。

 そんなことを考えながらシルヴィアと世間話していると、いつのまにか請負人組合に着いていた。


「組合長おる?」

「はい。在室していますよ。何か用がありますか?」

「魔道具を見つけたから持ってきてん」

「組合長の依頼でしょうか。声をかけてきますね」


 受付で要件を伝えると、すぐに組合長の部屋へと案内された。

 中では書類仕事に精を出すセイルが待っていた。


「迷宮振りですね」

「せやな。あの時思い出せれば良かってんけど、忘れてたから持ってきたで。はいこれ。剣と盾の魔道具を4セット。宝箱から出てきたから壊れてへんと思う」

「沼地初の宝箱ですか!剣と盾の魔道具!それも4セットですか!どこの宝箱から出ましたか?!」

「え?!あー、一応沼地?あの雨の後で沼地が湖みたいになったやろ?そこを進んでたら流れてきてん」

「宝箱が流れてきた……。本来は沼地の底にでもあったのでしょうか。それだと探索が面倒ですね」


 受け取った直後とは異なり、一転考えるために静かになったセイル。

 ウチとシルヴィアは考えがまとまるまで待つ間、今後どうするか軽く話し合った。

 しばらく沼地は嫌だということで、丘エリアの洞窟か、森林エリアの依頼をこなそうとひと段落したぐらいで、セイルの考えがまとまった。


「お2人には沼地エリアの宝箱を」

「嫌や!しばらくは沼地エリア行かへん!」

「いや、しかし」

「しかしもかかしもあれへん!ビッグ沼地ガニ引っ張ったり色々したんや!ちょっとは別の場所行きたいねん!」

「今ならエリア主もいませんし、探索しやすいですよ?」

「ウチの固有魔法あったら逃げるだけならなんとかなるし!シルヴィアさんも言ったって!」

「報酬はどのくらいっすか?」

「シルヴィアさん?!」


 裏切られた。

 さっきまで沼地以外に行こうと話していたのに。

 呆然とするウチをよそにシルヴィアとセイルは依頼の内容について話し合い、報酬や期間など細かく決めていく。

 ウチが気を取り直して声をかけようとした時点で、ほとんど話がまとまってしまっていた。


「エル!組合長から破格の依頼料を搾り取ったっす! 評価も上がるし受けるべきっすよ!」

「えー」

「宝箱を見つけるだけで大銀貨2枚っす!中身は好きにして良いんでさらに儲けるっすよ!」

「見つけられたらやろ?ハイゼルさんの依頼は1日銀貨2枚やから5日で大銀貨1枚。10日で大銀貨2枚稼げるやん」

「それも破格の依頼っすけどね。普通なら食事なしで素材買取だと銀貨1枚っす。一泊と朝昼晩の食事には十分っす。それの倍っすから破格っす」


 一泊大銅貨5枚から高くて10枚で銀貨1枚と同じ。

 食事は大人なら大銅貨2枚あれば満腹で、ウチは銅貨5枚ぐらいの食事で十分だ。

 そう考えるとハイゼルの依頼は1日働いただけで2日分の生活費になるし、魔物を狩って素材を売れば更にプラスになる。

 素材は参加した請負人で頭割りとなるため、1匹あたりは稼げて銀貨1、2枚ほどだけど、数が多いから結構な金額になる。


「んー。探すのはシルヴィアさんで、ウチは背負われてるだけになるけど、ホンマに沼地行くん?さっきまで沼地やってんで?」

「もちろん少し休憩してから行くっすよ?でも、組合からの依頼は高評価っす。受けた方がお得っす」

「ウチ掃除の依頼しか受けてへんからなー。あんま評価気にしてないねん」

「エルはそうっすよね。でも、わたしが素材採取なんかの依頼受ける時に評価は大事っす。わたしが受ければエルと一緒に行けるから、早めに上げておくに越したことはないっすよ」

「そこまで言うならええよ。でも、しばらく休みやで!」

「ありがとうっす!」


 ウチは討伐が10段階の2、雑事が3で、採取、探索、護衛、傭兵は0。

 シルヴィアは討伐3、雑事3、採取と探索が5、護衛と傭兵は0だった。

 2人で動く場合の依頼上限は採取と探索が6までとなり、十分稼げるけれどもっと難易度の高い依頼は受けられない。

 例えば魔物群生地の素材採取や、未開拓の調査などだ。

 それを早めに受けられるように組合からの評価を得たいというシルヴィアの気持ちはわからなくはない。

 ウチは依頼よりもできることをやるだけだから、全然気にしていないけれど。


「話はまとまったようですね」

「なんやその笑顔!ムカつくな!」

「ご機嫌斜めですね……。わたしは組合長なんですが……」

「まぁ、受けたくない依頼受けさせられたように見えるっす。必要経費だと思ってほしいっす」

「はぁ……、まぁ、仕方ないですね。では、気を取り直してこちらの魔道具の買取をさせていただきます」


 にこりとした爽やかな笑顔も、シルヴィアを上手く転がされたウチとしてはイラつくだけだ。

 シルヴィアが間に入ろうともすぐには収まりそうにないため、早く話を終わらせようとし始めた。

 そうしてセイルが用意したのは金貨2枚。

 1セット大銀貨5枚で、4セットで大銀貨20枚を金貨にして渡してきた形だ。

 これが適正価格かわからなくてシルヴィアを見たけれど、わからないようで見返された。

 魔道具は安い物だと銀貨数枚から買える。

 水生みの魔道具などは使い勝手も良い分良く売れるから安くなっているし、アンリが留守番中に作ってくれたスライド式火力調整機燃えるくんは、固定の魔物素材を使っていないため、魔力回路と機能の安定化に務めていて、大銀貨2枚で販売する予定だ。

 燃えるくんの2倍ちょっとと考えると安い気もするけれど、戦闘にしか使えないと考えれば高いような気もする。

 ガドルフの話を聞いたせいで、命を預ける武具としての信頼性はあまりない。

 2人で考えても答えは出ず、組合長の提示した金額で納得することにした。


「商会に持ち込めばもう少し高くなるかもしれませんが、2人には剣の魔道具を納品していただく依頼を出していますからね。依頼達成料は別ですよ」


 セイルは追加で大銀貨4枚を出してきた。

 別の依頼を受けている間にいつのまにか達成したので、ウチらとしては丸々儲けたようなものだ。

 正式な依頼書などはシルヴィアが管理していたため、これで依頼達成となり評価もされる。

 組合長直々の依頼だから通常よりも高評価となるが、ウチはそこまで興味はない。

 話が終わったウチらは組合長の部屋を後にして、ぶちぶち文句を言うウチを宥めながらシルヴィアと帰った。

 そんなウチの機嫌は、屋台を終えたミミが帰ってきて、揚げ物屋台の話をするまで直らなかった。


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