魔道具の作り
自宅用の沼地ガニと沼地エビを持ち、借りている家にシルヴィアと向かう。
キュークスたち獣人組は迷宮に関する依頼、アンリは迷宮で取れた素材を確認したり、魔道具を作る練習をしている。
そんなアンリに沼地の底から発見した魔法剣の魔道具と、筒の生えた球体の魔道具2つをアンリに見せて、研究のために保持したいと言われたら組合に出すのを止める予定だ。
ちなみにウチとシルヴィアは魔法剣は何かに使えるかもしれないから残したいと思っている。
おもちゃにしたいのはウチで、有効利用したいのはシルヴィアだけど。
「ただいまー!」
「お邪魔するっす」
「おかえり」
ウチらが帰って来たことに気づいたアンリが、自室兼魔道具製作室から出てきて迎えてくれた。
シルヴィアとは面通り済みだから、軽く挨拶をして家に入る。
ウチの背中から水を取ったら、軽くつまめる乾き物を用意して成果の報告だ。
「これとこれとこれが沼の底でシルヴィアが見つけたやつ。他はカニとエビやな」
「カニとエビはミミ行き?」
「せやな。食べたかったらそれぞれ調理してくれてもええけど、アンリさんは出てきたもの食べる派やん?」
「どうしても食べたいものがあったらわたしでも言う」
「そう?そんな場面見たことないけど」
「いつも美味しいから満足してる」
「そっか」
「食べ物の話になってるのは何でっすか?」
「なんでやろな」
「エルなら仕方ない」
「え?!ウチのせいなん?!」
こんなことを話しながらも、沼地の底で見つけた魔道具を様々な角度から見るアンリ。
間違って魔力を流しても問題がないように、魔石は全て外しているから、安心していじくり回してほしい。
「これが剣の形になる……仕組みがわからない」
「魔石入れて動かしてみたらええんちゃう?アンリさんならなんか見えるかもしれへんし」
「やってみる」
「あ、魔石は無属性にした方がええで。他やと万が一があるし」
「わかった」
無属性の魔石を取り出して、魔法剣の魔道具に嵌め込む。
他の属性がどうなったか話しながら、アンリが魔力を流すのを見守った。
問題なく出現するうっすらと光る無属性の刃。
アンリは左目の眼帯越しに魔力に流れを見ているようで、何度も刃を出しては消し、流す速度を変えて刃の出現までの時間を変えたり、素手で刃を触ったり、挙句の果てには魔力を見ることのできる失われた目に向けて刃を伸ばしたりした。
流石に最後の行為には、ウチとシルヴィアも慌てたけれど、本人はのほほんと検証を続けている。
「心臓に悪いわ……」
「同感っす……」
「あれやな。人の顔に剣がめり込んでるのってすごい光景なんやな……」
「思い出させないでほしいっす。わたしは争いとは無縁の世界で生きてるんすから」
「請負人として迷宮入ってるのに何言ってんねん。魔物は倒してるやん」
「人とは違うんですカウントしないっす」
「そう言い切られると何も言えへんわ。ウチも食材として見てる気がするし」
「初めて見た魔物に対して食べられるかどうかが一番最初に聞くことすもんね」
「美味しいのは重要やん?」
「そうっすね」
ウチとシルヴィアが話している間に魔法剣に満足したアンリは、筒の伸びている球体を手に取り、同じように魔石を入れて魔力を流していた。
真剣に魔力の流れを追う右目は綺麗で、魔力の光を反射してキラキラしている。
何度も筒を触り、球体を触りと検証していくにつれ、アンリの額には皺が寄っていく。
「使い方わかるん?」
「使い方……魔力を遠くに流したいというのはわかる。恐らく筒の先に別の魔道具を付けて動作させる魔道具」
「つまり、それだけやったら何の意味もないってこと?」
「そう」
「ふーん。じゃあその2つは組合でええか。魔法剣はどうする?アンリさんが研究したいなら組合には報告だけして、納品せずウチらで使ってもええで。見つけたもん勝ちや」
「それじゃあこれは貰う」
「ほいほい。じゃあ2つ持って組合行ってくるわ。存分に研究したってな」
「ありがとう。作りが複雑だから分解しないと詳しくはわからない。街の魔道具屋にも持って行ってみる」
「頑張ってなー」
魔道具の作りや運用方法などはできる人や興味のある人への丸投げに限る。
自分に使い勝手のいい便利なものが出たら確保するだけだ。
無ければ注文して作るつもりでもある。
アンリが色々作れるようになれば嬉しいけれど、今はまだ修行を開始する前段階の、魔道具の作りを調べている最中で、複雑なものを作ることはできない。
「魔法剣が出たのですか!」
組合についてセイルに用があると伝えたら、少し待たされた後、組合長室へと迎えられた。
筒の伸びた2つの魔道具を出しつつ、魔法剣は自分たちで使うと伝えたら驚かれた。
「え?知ってるん?」
「はい。大迷宮の宝箱からも出てきます」
「なんや。じゃあこの2つも?」
「こちらはわかりませんね。知らない物です。これは組合買取でよろしいのですか?」
「ええで。ウチらが持ってても使い道ないし」
「わかりました。査定に回します」
組合職員を呼んで魔道具を持って行ってもらった。
話し合いが終わる頃には金額が出ているだろう。
ジャイアントスライムの魔石とは違って。
「魔法剣の魔道具って使い道あるん?」
「もちろんです。魔法剣ですから十分戦力になりますよ」
「ウチらが見つけたやつ木切れへんかったで?」
「詳しくは分解しないとわかりませんが、泥の中から出てきた都合、どこかが詰まっていたり壊れている可能性もあるかと思います。少なくとも大迷宮の宝箱から出てきた魔法剣の魔道具は、即座に使って問題がない品です」
「あー、そういう可能性もあるんかー。思いつかんかったわ」
おもちゃとしか思えなかった魔道具だけど、完全な状態ではないと言われたら納得できる。
いつから泥の中にあったのかはわからないが、空洞部分に泥が詰まったりしていたらまともに動作しなくても不思議ではない。
むしろ魔石を入れてちゃんと動いた上に、変な動作をして壊れていないだけ運が良い方だろう。
「魔法剣の魔道具ですが、やはり貴族やその護衛が買い占めているのでほとんど出回っていません。魔導国でも量産に向けていくつか買い取っているのですが、素材が足りないためあまり進展もないのです」
「素材?魔石の魔力を流すだけやないん?」
「魔力を剣の形にする部分がありますよね。あれはとある魔物の素材だというのは判明しているのですが、その魔物が迷宮のどこにもいないため作れないのです」
「んー?魔力で剣を作り出せる魔物がいて、それの素材が欲しいけどどこにもおらんってこと?合ってる?」
「合ってますよ。量産ができればアンデッドやゴーストばかりの迷宮攻略が楽になるんですけどねぇ……」
セイルから教えてもらったアンデッド迷宮は、ゾンビは臭く、スケルトンは硬く、ゴースト系などの魔法生物は魔力消費が激しい相手となる。
ゾンビ対策はハーブをセットできる鼻と口を覆うマスクで、スケルトンは骨の間から見える魔石を直接狙うしかない。
実態のないゴースト系は物理攻撃が通用せず、魔力で強化してもあまりダメージは与えられない。
自ずと火や水を出して攻撃するしかなくなり、アンデッド迷宮攻略用の魔道具すら出てきているそうだ。
それでも環境からか、積極的に迷宮に入る請負人はおらず、組合も攻略ボーナスを出すほどだそうだ。
セイルからのアンデッド迷宮へ行かないかという心の声が聞こえる勧誘を無視して、素材や魔道具のお金を受け取り、組合を後にする。
家に帰ってアンリに魔法剣の魔道具についてセイルから聞いたことを伝えると、躊躇いもなく魔道具を分解し始めたことには驚いた。
魔力を伝達する部分に泥が詰まっていたり、一部の素材が欠けていたりと、ウチの目で見てもおかしい部分を見つけることができたけれど、アンリでは直すことができない。
この情報によって、アンリの魔物素材への欲求が増えてしまった。
・・・地下が素材で埋まったらどないしよ。魔力流してどうなるか確認し始めてるけど、簡単に終わらんやろこれ……。




