長期のお留守番
ドレッシング作りを終えて、予想外に綺麗になった机と、ウチが拭いてない机を見比べていると、ガドルフとキュークスが帰ってきた。
慌てた様子はないので、話し合いは穏便に終わったのだと思う。
普段着に着替えた2人が降りてきて、ウチとベアロからお留守番で何をしたのか話すと、ガドルフは呆れ、キュークスは楽しそうに笑った。
ドレッシングの作り方については、急に思い浮かんだとしか言えないので、ひとまずそういうものだと納得してもらった。
「この机だけやけに綺麗だな……。次はこっちの話だ」
周囲の机と見比べたガドルフは、それ以上机に対して何も言わず、呼び出された事について話し始める。
片付けをしたことは報告したけど、机の綺麗さについては伝えなかった。
本当にウチの固有魔法が原因かは、他の机を拭くまではわからないので。
「まず、開拓村が崩壊した原因を探るべく、俺とキュークスベアロは、もう一度あの村へ行く事になった。出発は2日後だ」
「エルちゃんはお留守番よ。ここに泊まりつつ、請負人見習いとして活動するの。できそう?」
「依頼を受けてないから何とも言えんところはあるけど、たぶん大丈夫」
固有魔法があるので、滅多なことが起きない限りは怪我もしないはずだ。
ドレッシングのおかげでお金もあるので、請負人見習いとしてうまくいかなくても、しばらくは何とかなると思う。
魔物を倒すのは無理でも、掃除ならできそうなので。
キュークス達も掃除はともかく、固有魔法があるので1人でも大丈夫だと判断してくれた。
「移動は馬車じゃなく馬で行く。領主様が貸してくれるそうだ」
「なら、俺も乗れるな」
「普通の馬だと大きさがねぇ……」
今回は荷物を運ぶわけではないので、馬車は使用せず、それぞれ馬に乗って村を経由しながら一気に進む行程だ。
向かうのは記録する文官、調査をする魔法使い、護衛の兵士、ガドルフのパーティとなり、ベランの商会や村に立ち入らなかった他の護衛パーティは参加しない。
ガドルフとキュークスは、長身の人族と同じような体型だけど、ベアロは2人よりも高く、何より横にも大きくその分重い。
街中で売られている馬では乗れたとしても長期間は無理な上、急げないので力のある軍馬を使わせてもらう事になっている。
「次はエルの扱いだが、今のままでいいそうだ。請負人としてやっていけないと判断した時は、この街の孤児院で引き受けてもらうことも了承済みだ」
ウチの扱いは住んでいた村を失った孤児になる。
親戚が居れば引き取りの話も出るのだが、情報がないため通常は孤児院に行く。
今はキュークス達が面倒見てくれているけれど、独り立ちできたら請負人として生きていき、できなければ孤児院に行くという保険を用意してくれた。
どうやら文官も幼い子供が1人で見習いを目指す事に難色を示した結果らしい。
「スライムに特化してるけど、心配はしてないから、万が一の確認で孤児院の話が出たのよ」
「おおきに。無理やと思ったら諦めて孤児院に行くわ」
「大丈夫だろう」
「だな!」
キュークスは心配してないけど、スライムよりそれ以外の魔物の方が多いので、どうにかする方法は欲しい。
スライム専門になるとしても、道中の魔物に対応できないのは良くない。
護衛を雇うとしたら、数匹のスライムでは賄えないのも面倒なところだ。
ガドルフとベアロも問題ないと同意してくれた。
ベアロに至っては、ドレッシングや他の何かを作り出して売れば良いとも言ってくれた。
・・・あの謎の閃きが上手くハマればそういう生活もできそうやな。屋台を出したり、露店でドレッシングを売るのも楽しそうや。毎日依頼じゃなくて、数日に一度はそういうことする日を作っても良いかもしれんな。
「後は、エルちゃんの体調診断よ。文官さんが気を利かせてくれて、明日お昼過ぎに魔法使いを宿に送ってくれる事になったわ」
「おぉ!文官さん太っ腹やな!」
「えぇ。子供は国の宝だから大事にしないといけないって釘を刺されたわ」
話をした文官は親バカだそうで、子供が体調を崩したらすぐに町医者か魔法使いを呼び出す人らしく、ウチのことを聞いた結果、領地お抱えの魔法使いを派遣してくれる事になっている。
魔物に襲われることで、魔法的に体の一部がおかしくなることもあり、それを気にしているようだ。
もしも魔法によって何かが起きていた場合、街への影響も考える必要がでてくる。
マーキングのようにウチのことを捕捉していて、開拓村を襲った魔物がこの街にやってくるなどが考えられるらしい。
・・・1人だけ生かして、そいつが村や街に着いたら襲う。そうすると周りに人間がおるはずやから、獲物が豊富になるってわけやな。もしもマーキングされてるとしたら、今までは移動続きやったから見逃されていたけど、ここに留っていることは数日でバレそうや。
想像しただけで怖くなり、ブルリと震えてしまった。
それを見たキュークスが安心させるかのように頭を撫でてくれた。
「それじゃあ夕食を済ませて明日に備えよう」
「ベアロはこの後の酒禁止だからね」
「仕方ねぇな」
ウチらの話がひと段落するのを待っていたようで、ガドルフの言葉と共に女将さんとポコナが料理を運んできてくれた。
ガドルフとベアロは明日、消耗品の補充に行くため今日はお酒抜き。
2日後には出発なので、しばらく飲めなくなることに苦笑していた。
・・・ベアロはともかくガドルフは連絡を待つために飲んでないもんな。お酒が美味しいのかは知らんけど、大人は仕事終わりに飲むものやから、その機会を逃して残念そうやわ。
「ドレッシング使ってみてな!」
ドレッシングは2人にも好評だった。
その結果、せっかく作ったドレッシングは全部なくなったし、教えるために使ったので油も無くなった。
・・・明日は朝のうちに油とハーブ買いに行こう。ほんで、風味の違うドレッシング作るんや!果物買うのもええかもな!
食事を終えるとそれぞれ部屋に戻り、汚れを落として就寝である。
明日の体調診断のことが少し不安になったけど、固有魔法もあるので害がある状態になっていないと考え着いたら、一気に眠くなった。
・・・たくさん移動したし、レシピの販売で頭も使ったから疲れたわ。




