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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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208/305

遠隔攻撃魔道具?

 

「ん?何かあるっす」

「え?なんも見えてへんけど?」

「沼地の下がいつもより硬いんすよ。何か埋まってるっす」

「はー、そんなこともわかるんか。ウチにできる気がせんわ」

「降ろしてあげたいんすけど、そうなると押し寄せる沼でわたしが生き埋めになるんで我慢してくださいっす」

「流石にそんなお願いはせえへんって!」


 ウチらの周囲は泥の壁で囲まれている。

 上から見るとウチらの周りだけ穴が空いたかのように沼地の底を歩き回っていて、こんな状況でウチを下ろせばシルヴィアは生き埋めだ。

 地面に埋まった物を踏んだ時の感触には興味はあるけれど、そのために仲間の命を賭けるつもりは全くない。

 命をかけるならもっと熱い展開がいいと思いつつも、そんな場面は来なくていいとも付け加えた。


「掘れたっす!何すかねこれ?」

「何やろな?魔石いれれそうな丸い容器から筒が2本伸びてるだけやけど……。筒長くない?大人の身長ぐらいあるやん」

「本当なんなんすかねこれ」


 シルヴィアが地面から掘り起こした物体は丸かった。

 しかし、手で球体を掴んだらちょうど背面に当たる部分から、柔らかい素材でできた筒が2本伸びていた。

 球体の表面はパカリと開くことができ、中には魔石を入れられるようになっている。

 固定具は見当たらないので、魔石を入れるだけでいいようだ。


「魔石入れて魔力を流したら、この柔らかい筒を通って先に出るとかかな?」

「おーなるほど。エルは発想力もあるっすね」

「それほどでもあるな」

「認めるんすね。まぁ、食への執念も凄いんで色々思いつけていいっすけど」


 シルヴィアが言っているのはドレッシングやカツ、カニにレモンをかけたことなど、ウチの食に関する行動全般に対してだ。

 屋台では出していないドレッシングは迷宮の中に持ち込み、野菜が新鮮なうちに楽しんでいる。

 カツはパン粉の準備や揚げるのに時間がかかるものの、取れたての肉を揚げたものは時間を置いたものと違う味わいで美味しいことがわかっている。

 他にもシルヴィアが採取するウチの見たことがないものは、とりあえず口に入れようとする事にも言及してそうだった。


 ・・・毒ないなら味気になるやん。薬草も乾燥させたらいい感じの香料になるものもあるし、ドレッシングの幅が広がるねん。後は単純に珍味に出会えたらええなと思って食べてるけど。


「とりあえずもうちょっと探索したら試してみよか」

「賛成っす。他にも何か見つかるかもしれないっすし」


 そう言ってシルヴィアは沼地の底を歩き始める。

 しらみつぶしに探すしかなく、通った場所を覚えるのもシルヴィアが担当している。

 ウチの固有魔法がなければ探索できないとはいえ、背負われているだけな事に若干もにょもにょしているウチ。

 どうにかして地中の物を探せないかと考えたりもするけれど、結局は掘りやすくなる魔道具はないかと考えるだけで、次第にそれも飽きて食べ物のことを考えてしまう。

 美味しい食事も助かると言われているから役には立っているのだろうけど、もう少しできることを増やしたい。

 そんなことをつらつらと考えていると、似たような魔道具をシルヴィアが掘り出した。


「今度は筒が4本伸びているっす。しかも長いっす」

「おぉー。2本の倍ぐらいあるやん」


 2本の筒は大人の身長ぐらい、ウチ換算なら3人分だけど、それの倍の長さがある。

 筒が柔らかいおかげで嵩張るけれどまとめることができる分まだ助かる。

 これで筒が金属のように固ければ、持ち帰るのにも相当苦労する可能性があった。

 今は背負わなくてよかったことにほっとしておくけれど、持ち帰るカニの足の数を減らさないといけないことに少しだけ不満を覚える。


「とりあえず2本のやつで試していいっすよね?」

「ええんちゃう。筒が長いのと、球体が大きいぐらいしか差がないし」

「結構な差っすけどね」

「気になるなら両方試してもええけどな」

「それもそうっすね。ただ、軽量袋の下の方に入れたんで出すのが面倒なんすよね。あの筒が」

「細いとはいえ長かったもんなー」

「そうなんすよ。あんまり無茶な片付け方だと筒が壊れちゃうかもしれないんで気を使ったっす。準備できたっすよ」


 シルヴィアは地面に球体を置き、ウチらから遠くなるように筒を向こう側へと伸ばしてくれた。

 万が一筒から火や魔力が噴出しても、こちら側に向かってこないようにするためだ。

 2人分かれて準備をしているから、固有魔法で守れるのはウチだけだ。

 シルヴィアのためにも安全に気をつける必要がある。


「とりあえず今回も無属性から?」

「そうっすね。魔法剣みたいに触れられない可能性もあるんで、万が一の時になんとかなりそうっす。火や雷は絶対危ないっす」

「トマトは?」

「それは何ともいえないっす」


 トマトの果汁が筒から出たところで勿体無いだけだ。

 気を取り直して無属性の魔石を入れて、シルヴィアが深呼吸してから魔力を流す。

 カタカタと球体が震えたかと思ったら、伸びさ筒の先からキラキラしたものが放出されて、空気に溶けるように消えていった。

 それが数秒続いたら球体の動きが止まる。

 開けて中を覗くと、魔石が綺麗さっぱり無くなっていた。


「えっと……今の時間で魔石使い切ったっちゅうこと?」

「そうっぽいっすねぇ。魔法剣なまだまだ出せているはずっすけど……。使ったのはどっちも同じぐらいの大きさだったっす」

「燃費悪ない?」

「何に使うのかわからないっすけど、悪いと思うっす。ライトスティックなら半日は光らせられるはずっすよ」

「せやんなー」


 球体を開けてもう一度魔石を入れてみる。

 固定具がないため魔石を入れても余裕があり、親指の先ほどの魔石なら10個は余裕で入るだろう。

 1個入れて振ればカラカラと寂しい音がする。


「もしかして複数いれるんかな?」

「魔石をっすか?複数使う魔道具で思いつくのは村に設置する結界の魔道具っすけど、それは嵌め込む場所も決められてたっす。こんな一気に詰め込めるような物じゃなかったっす」

「古代の技術だと、まとめて複数個使えたんちゃう?」

「そうなんすかねぇ。売られてる魔道具ぐらいしか知らないんで何ともいえないっすけど、魔石はあるんで試してみるっす」


 今度はぱっと見で同じ大きさの魔石を5個入れた。

 結果、きらきらが放出される時間が5倍どころか10倍以上になり、魔力を流すのを止めてもしばらくで続けた。

 そして球体を開けると、魔石は溶けて小さくなっていることがわかった。

 だからといって使い道は思いついていないのだけど。


「火で試してみる?」

「使い道思いつくとしたら火と水っす。安全を考えると水の方がいい気がするっすよ」

「じゃあ水先で」

「入れる魔石は2、3個で様子を見るっす」


 水はじゃばじゃばと出て、火は料理に使えないほどの火力が出てしまった。

 うまく使えば大きな調理場が作れそうだと思ったけれど、そううまくはいかないようだ。


「これ火と水入れたらどうなるんやろ」

「お湯が出たら面白いっすね。それぞれ別にはめ込まなくて済むのは面倒くさがりに良いっす」

「せやな。お湯の魔道具はそれぞれ別々ではめ込んでるし、そこに上手いこと魔力を流せるように無属性の魔石で出力調整したり工夫されてたわ。しかも温度調節できるように魔石の位置をずらせる工夫もある。一気に魔石いれて上手いこと行くなら調整が楽になる……んか?」

「雑に扱うと大惨事になりそうっすねそれ」

「あー、やっぱそうなるよな。入れる量間違えたら熱湯になりそう」

「その辺も検証するっす」


 色々試した結果、お湯を出すことはできた。

 水の魔石を増やせば温度が下がるだけで出てくる量は変わらず、火の魔石を増やせば温度が上がるけれど適温の調整は難しい。

 1人で入るお風呂よりも、街にある浴場施設向けの魔道具だろう。

 一度決めたら毎回同じ量を入れるだけで、短時間でお湯を用意できるはずだ。

 少なくとも沸かすよりも圧倒的に早い。

 その分魔石の購入費用が嵩むから、公営施設よりも貴族の屋敷などに使われそうだけど。


「おー。火と風の魔石いれたら温い風出せるかと思ったら、遠くまで炎出るようになるだけか」

「風の魔石増やせば距離が伸びるっすね。火も増やさないと途中で風に負けてるっす」

「罠とかに使えへんかな?」

「閉じ込めて燃やすんすか?それなら高火力でゴミを燃やす施設の方が使いやすそうっす」

「あー。ゴミ処理はええな。今は集めたところに油かけて燃やしてるんやっけ」

「それとスライムっすね。家具なんかは溶かしてくれないんで燃やすしかないっすけど、食べ物のゴミとかならスライムが溶かしてくれるっす」

「スライム様様やな」


 村や街にはゴミを集めて処理する場所がある。

 領主から街や村を任されている人にしっかりと言い含められているそれは、結構な重労働なため給金もいいらしい。

 村では各自がゴミを運び、担当者がうまく処理できるように分別したりする。

 街だと決められた集積場所を馬車で回りつつ回収し、その後に分別をして燃やすか溶かすかだ。

 その燃やす方は油を撒いて火をつけ、消えないように、燃え広がりすぎないようにずっと見張る必要がある。

 それをこの魔道具なら一気に炎を吹き付けることで燃やし切れるようになるのではないかと考えた。

 上手くいくかはわからないし、時間をかけてでも油で焼いた方が安上がりかもしれないけれど。

 その辺を考えるのは役人の仕事なので、ウチらは探索で得た魔道具を提出するだけだ。


 ・・・魔道具職人が分解してなんかいい感じにしてくれてもええな。組み立て直せないとかになったら笑えへんけど。同じの拾えるかわからんし。とりあえず帰ったらアンリさんに見せて、その時に組合へ全部提出するか話し合いやな。


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