古代の魔道具
屋台でミミとエリカに声をかけてから迷宮へと向かうウチとシルヴィア。
その際ミミにカニの足はぜひ取ってきてほしいことと、屋台に張り紙をするから許可が欲しいと言われた。
張り紙には『沼地ガニの焼き足 銅貨50枚 迷宮帰りに素材があれば商品として並びます。素材持ち込みの場合銅貨10枚で焼きます。』と書かされた。
シルヴィアが。
ウチとミミの字はまぁまぁ読める。
エリカの字はウチやミミより綺麗だけど、大きな羊皮紙に書くのは慣れてなくて歪む。
その点シルヴィアは、いろいろな仕事を経験している中複写の仕事などもしており、大きな羊皮紙っで張り出される手配書や掲示物の書き方を知っていた。
ちなみにウチとミミは隅っこにカニの絵を描いて満足している。
「やっと沼地か……。やっぱ遠いな」
「それでもエルの固有魔法のおかげで正面からぶつかってもこっちが勝つんで楽っすよ。慎重に進んだ時より半分くらいで進んでるっす。そう考えると戦闘って思ったより時間食うんすね〜」
「人数少ないから野営が楽なのもあるなー。料理も少なくて良いし、手早く立ち去れる」
「そこもエルの固有魔法様様っすね。周囲の状況に関わらず快適な気温に調整されるとか、北国垂涎の能力っす」
「せやろ。まぁ、自分で身体強化できへんから活かしづらいねんけどな」
「それは仕方ないと割り切るしかないっすよ。何でもかんでも1人でやる必要はないっす」
「それはそうなんやけどな。やっぱみんなができることできへんのはたまに凹むで」
シルヴィアとはお互い腹を割って話せるぐらいの日数を過ごした。
戦う力のない者同士意気投合でき、お互い面倒なのは嫌いなのでパパッとやりたいことだけに注力できるのも高評価だ。
細かいところ気にしないところもいい。
どうしても譲れないところがあればしっかり話し合おうと決めたけれど、それも今のところ起きていない。
このまま色々なところを探索して、手に入れづらい物を中心に採取するコンビとして活動するのもいいかもしれないと思い始めている。
「今回は、前回探した沼地以外を探索しつつ沼地ガニを堪能して、実と共に持ち帰るってことでいいっすか?」
「それでいこかー……沼地の中って復活するんかな?拾った石像が宝箱みたいな扱いになってたりして」
「可能性はあるっすね。今のところ宝箱が沼地エリアで見つかった話は聞いてないっす。動きづらいから探索が思うように進んでないのもあるっすけど、もしかしたら地上には出てないのかもしれないっす。森林エリアも森の中や木のうろ、木の上に引っかかるように置かれていたり、根っこに絡みつかれるように置かれているっす。普通に通ってるだけじゃ見つかりづらいところばかりっす」
「じゃあ時間空けて探索済みの沼地も軽く見た方がよさそうやな。落ちてる物が復活したら宝箱扱いっちゅうことで」
「それでいくっす」
話がまとまったから、前回探索した場所まで一気に移動する。
ウチにはほとんど変わらない風景も、シルヴィアからすると沼地の形や間の距離、沼地じゃない場所に生えている草や花、遠目に見える風景の感じである程度わかるそうだ。
自分を中心に見える風景に2箇所ポイントを設け、その見え方によって距離を測ったりしているそうだけどよくわからなかった。
生えている木や草花と言われてもたくさん生えている。
その中からどうやってポイントを決めているのだろうか。
ウチなんて少し視線を動かしただけでポイントにした場所がよくわからなくなっているというのに。
「カニは美味しいっすけど、同じ味なんで流石に飽きてきたっす」
「これかけたら?」
「レモンっすか?」
「そう。さっぱりするで。ちょっと塩かけるのもレモン強ならんようにするためのコツや」
「何かかけてると思えばこれだったんすね」
「シルビアさんがレモンいけるかどうかわからんかったし、絶対に美味しいとも言えんからウチが試してん。結果、これは屋台で出しても売れると思うわ」
「おぉ!これはこれで行けるっすね!濃厚すぎる旨みをレモンの酸味がさっぱりさせてくれるっす!」
「せやろ。帰ったらミミに伝えなあかんわ」
昼食までの探索は空振りだった。
しかし、沼地ガニなら少し探すだけで見つかるので、食事に困ることはない。
カニだけという内容にシルヴィアは若干飽き始めていたけれど、ウチが持ち込んでいたレモンの果汁を絞ることで味を変えて楽しむことができた。
カニばかり続くのはウチも嫌だから、晩はエビにすると決めて、探索を再開する。
「お?なんか変なの落ちてない?」
「よく見つけれたっすね。わたしには埋まってる四角い石にしか見えなかったす」
「なんちゅうか、周りの石よりツルツルしてるというか、整いすぎてる感じやったから気になってん。」
「言われてみると確かに。じゃあ掘り進めるっす。今回は遺跡発掘用の道具も持ってきたので、手やその辺の木で掘る必要はないっすよ」
シルヴィアの手には片手で持てるスコップや、魔物の毛で作られた刷毛など、遺跡などを調査する人たちが使う道具が握られている。
前回は手やその辺の木を折って作ったお手製のスコップで掘っていたけれど、組合長のセイルからも依頼として探索することになったことで購入した。
一応ウチの分もあるけれど、沼地の中の場合ウチを降ろすことはできないから、使うタイミングは今のところない。
良くてシルヴィアの予備ぐらいだろう。
休憩時に1人で掘ろうにも、目の届く範囲だと探索済みの場所にしか行けないし、深く掘るには道具も小さければ体力もない。
そんなことを考えている間にシルヴィアが掘り終わり、サッと泥を落とした物を手に取った。
それは刃の部分がない剣の柄のような物で、剣なら刃が差し込まれている部分には丸い凹みがある。
剣なら鍔に当たる部分はそこまで長くなく、持ち手部分よりも短い。
材質は何かしらの金属で、色々いじくり回していたら柄の底部分を引っ張ると穴の部分が大きくなり、柄の底を押し込むと穴が狭くなるというギミックがあった。
「なにこれ?穴で何か捕まえるん?魚とか捕まえるならもっとデカないと無理やろ」
「これは魔石を固定する機工っすね。安いやつには粘着性のある物や上から別の固定具を嵌め込むっすけど、高いやつは魔石の大きさがある程度バラバラでも使えるように固定具が内蔵されているっす。迷宮から見つかった物を分解して使われた技術っすね」
「ほほう」
魔石の魔力を通すには色々な方法があるとライテの魔道具工房に出入りしている時に教わった。
魔石を粉にしたものや、それを水に溶かしたもの。
別の魔力を通しやすい素材を魔石に触れるように配置するなど様々だ。
このよくわからない剣の柄のような物も、おそらく内部では嵌め込んだ魔石から魔力を流しやすくる機構があるのだろう。
とりあえずどうなるかわからないけれど、手持ちの魔石を嵌め込んで試すことにした。
「おー。大きくても小さくてもなんか上手いことハマるな。この固定する部分が柔らかいんやろうか」
「手を入れるのは危なくないっすか?」
「固有魔法が反応してないから大丈夫やろ。お?思った通り内側はなんかクッションっぽい柔らかい素材で固定しようとしてるわ。深く固定してもウチの指すら挟まれへんぐらい空くから、ある程度大きい魔石じゃないとあかんっぽいな。街の近くの魔物やと小さくて固定できへんかもしれん」
「そうっすね。少なくとも迷宮の中にいる魔物くらいの魔石は必要そうっす。それで、魔石を入れた結果なにかわかったっすか?」
「うんにゃ。しっかり固定できてるけど何も反応せえへん。ボタンもないしライトスティックみたいに魔石嵌め込んでボタン押すタイプじゃなさそうやわ」
「なるほど。魔力を流す系っすかね。わたしの苦手なやつっす」
「シルビアさんも弄ってみる?今のところ危険はないで」
「そうっすね。色々触ってみるっす」
ウチからよくわからない道具を受け取ったシルヴィアは、魔石を入れたり出したり、ひっくり返してみたりと確かめた後、魔石を嵌め込んだ状態で深呼吸し始めた。
魔力を流すための準備らしい。
準備なくするっと魔力を流せるなら銭湯でも使えるけれど、それができないからこその今のシルヴィアだ。
「やるっす。……お?思ったよりスルスル流れるっす。おぉ!魔力で剣ができたっす!」
「おぉー!すげー!格好いい!魔力の光で輝いてるやん!」
シルヴィアの握る刃のない剣の柄。
その刃に当たる穴に嵌め込まれた魔石が輝いたかと思ったら、光が伸びて綺麗な剣になった。
刃渡は武器屋で売っているロングソードと同じぐらいで、厚さも大体同じ。
むしろ武器に詳しくないウチからすると微妙な長さの差なんてわからない。
とりあえず武器屋に並んでいるロングソードと同じだと思っておく。
その刃部分は魔力で構成されているからか薄らと光っていて、内部を魔力が流れているせいか刃に模様が浮かんでは消えている。
「これ魔石の属性変えたら出る刃も変わるんちゃう?そのための交換式やろ。たぶん」
「確かにそうっすね。ただ、わたしは属性の違う魔石全然ないっす。沼地ガニも水と思いきや無属性っすし」
「それならウチが色々持ってるで。ほらこれ。水、火、風、土、雷、トマトが手持ちやな」
「トマトってなんすか?!トマト属性って聞いたことないっす!食べ物は属性じゃないっす!品種とかっす!」
魔石を入れた皮袋から魔石を取り出して地面に置いていくと、シルヴィアがトマトスライムの魔石に思いっきり反応した。
いつ魔石が必要になるかわからないから、ミスリルスライムの魔石と蜂蜜酒スライムの魔石以外は最低1種類持つようにしていた甲斐があった。
トマトスライムについて話し、さすがにトマトの剣は試す気にはならないと袋に戻される。
ウチもそれには賛成だから、基本的な属性だけ試すことになった。




