組合からの新しい依頼
カニを試供品として焼いた翌日。
ウチらの屋台エミカには落胆する人が大量に出た。
話を聞いて並んだものの、カニはすでに焼き切って手元にない。
取りに行くにしても複数のエリアを突っ切らなければいけないから、シルヴィアの足でも10日はかかる。
そこから狩りをしても、軽量袋はあれど人が運べる量しか取ることはできない。
どうするかと悩んでいたら組合から呼び出しがあった。
「来てくださりありがとうございます」
「まいどー」
「カニの件っすよね?」
組合に行くとそのまま組合長室へと案内されて、組合長のセイルにお礼を言われた。
シルヴィアは早く沼地ガニを撮りに行きたくて、早速要件を聞き出そうとしている。
沼地ガニによる屋台の行列と予想しているみたいだけど、ウチは沼地の底から出てきた実だと思う。
沼地ガニの足はウチら以外でも取ろうと思えば取れる価値のないもののはずだし。
「カニ?あぁ、昨日の屋台街で一瞬食べられたものですか?いえ、その件ではないです」
シルヴィアの予想は外れたから、やはり実の方だろう。
それにしても組合長のセイルですら、沼地ガニの足で盛り上がっていたことを知っているとは。
なかなかの拡散具合で、朝から屋台に並ぶ人が出るのも納得できる。
「昨日買取に出してもらった石像の件ですが、あまり価値はありません。恐らく大きさからして店舗や住宅などで飾られていたものだと予想されています。もう少し大きなものであれば儀式場などの可能性もあるのですが、あのサイズですと小さすぎます」
ウチの予想も外れたようだ。
今はいない他種族の石像は少額で買い取られて終わった。
ウチもシルヴィアも残しておきたいものではないから、少なくても良いからと手放した形だ。
・・・ウチの宝箱スカスカやから入れてもよかったけど、もっと綺麗なもん入れたいしなぁ。ピカピカツルツルの石とか、でかい虫の抜け殻とかそういうやつ。
「しかし、もっと色々なものが見つかるかも知れないので、組合から沼地エリアの重点的な調査依頼を出します。」
「おー」
「やるっす!」
指名依頼を発行するから、沼の底から色々見つけてこいということだった。
ウチとシルヴィアが組んでいることは、セイルからの依頼を受けた後に受付で報告しているため知られている。
シルヴィアからは詳細な報告をして良いかとも聞かれていて、良いと答えてもいるので、探索と採取にはうってつけだと判断されたのだろう。
石像を持ち帰った当事者だし。
「何に使われた場所なのか特定できる物が出てくるのが理想ですが、過去に作られた魔道具や武具なども良いですね」
「ふーん」
「何が出るかはその時次第っすからね。一応念頭に置いとくっす」
「よろしくお願いします」
そう言ってセイルは話を終えようとしている。
羽ペンをインクにつけて書類に何か書き始めたからだ。
「実はどうなったん?」
「実?あぁ、泥の中から取れた食べれる物ですね。今は検証中です。毒がないことは把握済みですが、色々試すには数が足りません。時間をかけて調べる必要があります」
「もっと持ってきたらええん?」
「そうですね……。食べ方などの用途をしっかり調べるなら数が必要ですが、こちらは特に急いでいません。街としても食糧難ではないですし、見たことがない食材は忌避されますので」
見たことがない物を口にするのには勇気がいる。
毒がないからお試しで食べたウチやシルヴィアは変わり者のようだ。
請負人は好奇心の塊みたいな人いるから気にならないけど、しばらくはウチのところだけで消費して、気になって話しかけてくる人がいたら分けてあげればええかな。
・・・また値段のつかへんもん増えたな。ジャイアントスライムの魔石はいい加減値段ついてもええやろうに。いつまで待たせるねん。
「ふむふむ。数なー。いっぱい持って帰ろうとしてもウチらで運べる量には限界があるからなー。何回かに分けたら集められるけど……」
「ふむ。持ち帰るだけなら迷宮馬車を手配すればよろしいのでは?」
「迷宮馬車って迷宮の中を走る馬車やろ?荷物運びもやってんの?」
「ええ。魔物の群れなどを討伐した際に素材を無駄にしないように手配することもありますし、木を伐採した時などでも手配します。採取をたくさんするなら手配してもいいかもしれません」
「う〜ん。守るの大変やない?」
「護衛を含めて手配できます。荷運びも担当してくれますが、馬車は迷宮内で使用するため、帰還の魔法陣に採取物を置くまでが仕事になります」
「ほな帰還したら荷物運ばなあかんやん!早うどかさんと他の人魔法陣使われへんし!」
「その時は迷宮広場の方が手伝ってくれますよ。近くにいなければ呼べばいいです。あくまで魔法陣の範囲に物がなければ良いので、丈夫な物であれば放り投げて範囲外に出す方法もあります」
「そういうもんか」
「はい。そういうものです」
これでカニを大量に運ぶ方法ができた。
さらに詳しく聞いたところ、迷宮内で作成中の村に大量の馬車と、組合から仕事として受けた護衛や設営担当の請負人がたくさんいるらしく、そこに話を通せば馬車を借りれるそうだ。
もちろん馬車が壊れた時用に補償金なども発生し、護衛では対処できない魔物が出た場合生存を優先するなど細かいことが決められている。
今のところ木を運んだり、森林エリアの素材を大量に仕入れる時、草原ウサギなどの食肉になる魔物を複数パーティで大量に狩る時などに使われている。
よく迷宮に出入りするなら、建設中の村への手紙運搬を依頼されることもあるらしい。
「とりあえずしばらくは沼地エリアで何か探す感じやな」
「その時にカニと実を持って帰ればいいっすね」
「せやな」
話が終わったようなので、シルヴィアと今後について話す。
内容に問題がないからか、セイルも頷いて返してくれた。
組合長の部屋を後にして組合の中を外に向かって歩いていると、食事処で飲んでいたうちの何人かがウチらに気づいて近寄ってきた。
「お前さんあの屋台の店主だろ?」
「わたしじゃないっす。この子っす」
「え?このちびっ子が店主なのか?」
「ちびっ子言うな!まだ成長するねん!」
話しかけてきたのは数人のパーティだった。
使い込まれた武具から、長いこと活動していることがわかる。
リーダーは筋肉がムキムキなおじさんのようで、代表して話しかけてきたけれど、シルヴィアが屋台主だと思われた理由はわからない。
保護者のように見えたからだろうか。
「そりゃおまえさんの歳ならまだまだ伸びるだろうが、今はちびっ子だ。下手な見習いより若ぇじゃねぇか」
「レディに対して失礼やろ!ほんで、屋台に関してなんかあるん?意見は屋台で直接言ってくれた方が動きやすいねんけど」
「言ったさ。だが、品切れだって言われてな」
「ん?もしかしてカニ?」
「そうだ。めちゃくちゃ美味そうな匂いを放っていたのに昨日は食べられず、今日こそはと早くに出向いたら品切れだって言われたんだ。食いたいんだが、調理法を教えてもらえないか?足は自分たちで取りに行ける」
「う〜ん。おっちゃんの反応も良いし、他の人たちも食べたそうにしてたから、商売になりそうやねんなー。調理法を教えるっちゅうても殻を上手く取るだけやで」
「それは俺たちも挑戦したさ。武器でやったら叩き潰し、ナイフで切ろうにも刃が立たない。もっと高価な刃物ならいけるのかもしれないが、食うために金をかけるのもちょっとな……」
「んー。シルヴィアさんどうする?」
「エルが決めて良いっすよ。ただ、1人に話したら広まると思っていた方がいいっす。レシピみたいにお金をとっても良いかもしれないっすね」
「金か。食えるなら払ってもいいぞ」
「広まっても捕りに行くの面倒な場所やし、あんま問題ない気もするなー。どうしよ……」
ウチが悩んでいると、おじさんのパーティで話を聞いてた1人も参加してきた。
「広めなければいいなら、そのように指示してくれ。情報に金は払う」
「勝手に広まったら?」
「違約金を払えば良い。もちろん俺たちが話したと言われたらだが」
「それをいちいち調べるのも面倒やな……。わかった。お金で教えるわ。違約金もいらんけど、不用意に広めへんよう意識するだけでええわ。素材集めも大変やし」
「おぉ!良いのか嬢ちゃん!それじゃあ早速向こうで聞かせてくれ!」
おじさんに会議室へと連れて行かれ、ハサミを使って殻を切っていることを伝えた。
驚かれた後納得され、感謝の言葉と共に沼地ガニの鋏を加工して持ちやすくするならと、魔物素材の加工を主とする工房を教えてもらった。
今後広めるなら必要だとのことだ。
確かにハサミを両手で持ち、開いて閉じてをするよりも、道具に加工してもらった方が作業しやすいだろう。
ミミに素材を渡すだけで調理できるようになってくれた方がウチも助かるし、いざという時の武器にもなる。
「情報ありがとよ!早速沼地ガニを捕りに行ってくらぁ!」
「気をつけてなー」
おじさんたちは情報代を置いて会議室を出て行った。
少し開けてウチらも出てから迷宮入り口へと向かう。
戦闘しないウチらは道中おじさんたちを追い越してしまうかもしれない。




