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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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203/305

創世神話と迷宮創世記

 

「これ穴が空いてるっすよ。虫に食べられてるんじゃないっすか?」

「周りが穴空いてへんし大丈夫やろ。ウチも毒味するし」

「そうっすね。任せたっす」


 沼地の中から取ってきた実をウチの水できれいに洗うと、薄い茶色っぽくなった。

 若干白くなったのだ。

 それをシルヴィアがナイフで切ると、断面にはぽこぽこと穴が空いていた。

 シルヴィアの言うように虫食いの可能性もあるけれど、身の周囲に穴が空いていないから、元から穴のできる実なのかもしれない。

 ピーマンも中に空洞ができるし、同じようなものだろう。


「本当に食べられるっすか?中身スカスカ……ってほどじゃないっすけど、泥の中から出てきたせいであんまり美味しそうじゃないっす……」

「美味しくなかった時は謝るわ」

「いや、別に笑い話程度なんで謝るほどじゃないっす」

「美味しかったらウチの直感を褒めてな」

「そりゃベタ褒めするっすね!沼地ガニの時点で決定っすよ!あ、カニ食べたくなってきたっす……」

「わかるわ……」


 今日は探索に集中していたから沼地ガニを倒していない。

 この実が沼地ガニ以上に美味しければいいのだけれど、香りからはわからなかった。

 切った実をフライパンで焼きつつ、スライスした塩漬け肉と乾燥野菜のスープにも入れる。

 ウチの口に合わせてぶつ切りにしてもらったから、どちらも食べやすいと思う。


「おぉ!美味いなこれ!ほくほくしてる!焼くよりスープの方が好きやわウチは!」

「ほ、本当すか?お!美味いっすね!これも当たりっす!売れるかはわからないっすけど、新しい食材として話題になるかもしれないっすね〜」


 焼いた実に塩を振ったものは歯応えが良く、スープに入れた実はホクホクですこしねっちょりしている。

 たくさん噛むから食べ応えもあっていい。

 実そのものの味は素朴な感じだけど、その分味付けが活かせるし、切り方で食感も変わる面白い食材だ。

 シルヴィアの言う通り追加でいくつか持って帰って、素材として提出してみよう。

 しばらくはウチらが取り放題だから稼ぎにも繋がるはずだ。


「いやー。この実お腹膨れる感じがするっす。あと、熱がこもりやすいのかポカポカするっすねー。気持ちいい感じっす」

「おー。確かになー」


 2人してお腹をさすりながらのんびりと過ごしている。

 傍目に見ると迷宮の中とは思えない光景だろう。

 いざという時でもウチは固有魔法があるし、シルヴィアも1人なら一気に逃げられる。

 そもそも周囲は草原だから、何か来ても気がつくはずだ。


「それじゃあ教会で話されている神話について話すっす」

「よろしゅうー」

「あ、その前に水をもらうっす」


 喉を潤したシルヴィアは教会で話されている神話を語った。


 -創世神話-


 始まりは大地しかなかった。

 生命は存在せず、ただそこにあるだけの大地。

 陽に照らされ、温まり、冷えるだけの大地に、ある時神が降りたった。


 神は嘆いた。

 何もない世界に。


 神は何もない大地の中心で、自らの体を減らし水を生んだ。

 水は大地を満たして海となり、水に住む生命を創り出した。


 海の生命が増えた穏やかな日々が続く。

 そのことを嬉しく思いながらも、更なる創造のために体を減らし、火を生んだ。

 生み出された火は海を燃やして雲をつくり、新たな大地を作り出すと、火に適応した生命を生んだ。


 海には水の生命、陸には火の生命が生まれたが、ただそれだけだった。

 お互い微かに混じることはあっても、大きく変わることはなかった。


 神はまた自らの体を減らし、風を生んだ。

 風は様々なものを運び、風を愛する生命が生まれた。


 世界は動き出したが、同じ場所にしか風は吹かなかった。

 風が吹かない場所はずっと変わらない。


 神はまたも自らの体を減らし、大地を変質させた。

 変質した大地はひび割れ、隆起し、風の流れを複雑にした。

 姿を変えた大地に感謝する生命が生まれた。


 隆起したことで、世界は荒れた。

 神にとっても意図せぬ変化だった。

 神はまた体を減らし、大きな翼を持った調停者を生んだ。


 調停者は、空からそれぞれの生命が抱える問題を止めた。

 しかし、止めるだけでは解決しないことが出てきた。


 神は更に体を減らし、それぞれの生命を小さく分けた。

 数が増えれば問題が解決したからだ。

 しかし、数が増えた生命は小さな事でも争うようになった。


 調停者では手が入らないほどの小さな事に対して、最初の面影が残らないほど小さくなった神は、それでも更に体を減らした。

 後には神が神たるために必要なものと少しの体、細かなことができる小さい生命が生まれた。


 小さい生命は何にも愛されなかったが、何にも敵対しなかった。

 小さい生命は調停者の代わりに小さな問題を解決するようになった。


 それから生命の数が増えた。

 数が増える事で争いも増えた。

 更には神を狙う生命も現れた。


 しかし、神にできることはほとんどなかった。

 神は最後に自分を捨てた。

 残った神が神たる物を守る生命を作り出すと同時に神は消え、全ての生命は神から解き放たれた。


 更に世界は荒れた。

 幾度も滅び、また新たに起こる。

 そんな世界でも神たる物を守る生命は、他の生命からそれを守り続けた。


 やがて、誰もが争う理由がわからなくなった。

 そして、争いが止まった頃には、たくさんあった生命がほとんど滅びてしまった。

 神たる物を守り抜いた生命は、全ての生命と共に神の復活を願った。


 神は何も答えなかった。

 しかし、神たる物が応え、世界に再び生命が生まれたが、神たる物は砕け散った。

 その奇跡を目の当たりにした生命は、神に感謝してそれぞれの種族だけで生きるようになった。


 安寧の日々が続いたが、神たる物を失った事で世界が不安定になった。

 生命が穢れ、暴れるようになった。

 穢れた生命に対するために、生命は協力するために交わるも、また争うようになった。


 神たる物を守る生命は嘆いた。

 穢れは神たる物が砕け散った事で生まれたからだ。

 嘆きは穢れに対する力となり、守る物が無くなっていた生命が穢れを管理する事で、ようやく世界は安定した。

 それでも穢れはなくならないが、以前よりも生きやすくはなった。


「ここまでが神話っす」

「長い!ようわからんわ!」

「まぁ、そうっすよね。簡潔にするといろんな種族ができて、争って、穢れから魔物が生まれるようになったっす。そんで穢れを管理する種族のおかげで生きやすくなったって話っす」

「うーん……なんとなく、わかった気がしなくもない。でも、今は獣人と人族に半獣しか種族おらんのやろ?なんで?」

「その前に生まれた種族の説明っす」

「おぉ、そういやなんか色々生まれてたな」


 ウチの疑問は置いておいて、何回か生まれた種族について説明してくれた。


 海の生命はそのまま魚などの海洋生物。

 火の生命は火山などに生息する火を吐く生物。

 風の生命は木や花などの植物。

 大地の生命は獣などの動物。

 調停者は巨大な竜。

 神たる物を守る生命は魔法や魔物の管理に長けた魔族。


 小さく分けた生命が人のようなもので、それぞれの種族が生まれる。

 風が耳長族こと森人エルフ、火が鉱石の扱いを得意とする体の小さなドワーフ、海が体のどこかに魚の特徴を宿した魚人や人魚、大地は獣人。

 調停者の補助として竜人族。

 何にも愛されないがなんでもできる小さな生命が人族。


「ふーん。でも、今は獣人と人族しかおらんやん」

「そう!そこっすよ!それが迷宮と関係するっす!」

「迷宮が?」


 次にシルヴィアが話し出したのは迷宮ができる話だった。

 神話の中では魔物が生まれても、迷宮は作られていなかったらしい。

 何が生まれて何が生まれてないのかよくわからなくなっているけど、とりあえず聞くことにした。


 -迷宮創世記-


 守るものを失った魔族の長は嘆いた。

 ただ穢れを管理するだけの日々は輝いていなかったから。


 ある日他の生命の中に神のかけらがある事を、守る者として認識した。

 そのかけらは本人の強い意志で強く輝き、死と共に形になった。


 魔族の長はかけらを集めるようになった。

 配下を使ってかけらを探し、死と共にかけらを取り出して持ち帰る。

 そうして神のかけらを集め、神の復活を、守るべき物の復活を目論んだ。


 しかし、輝きが強くないかけらは、魔族の長からすると守る魅力のないものだった。

 さらに、なぜか時が過ぎると溶けるようになくなってしまう。

 強く輝くものほど長い時間形作られたままとなる。


 魔族の長は考えた。

 強い意志が生まれれば強く輝く。

 ならばその場を用意しようと。


 さらに守るべき物だけでなく、神の体も復活させねばならぬと。

 神が体を減らして作ったものを集めようと。


 考えた先に行ったのが大地を飲み込む巨大な魔法で、それに抗ったのが他の種族となる。

 その結果、人族と獣人族以外が飲み込まれ、迷宮が生まれた。

 迷宮は神のかけらの輝きを強くするための試練となる。


「んー?魔族の長が迷宮作って、その時に他の種族が消えたってこと?」

「人族や獣人族も大半は飲み込まれたらしいっすね。いろんな技術も一緒にっす。魔法薬とかすごい魔道具とか鍛治の技術なんかが消えたらしいっす」

「ふ〜ん。いつの話なん?」

「わかんないっす。めちゃくちゃ古い話だと思うっすよ」


 迷宮がいつからあるのかウチらにはわからない。

 教会に行けば教えてもらえるかもしれないけれど、知ったところで何かあるわけでもないので、調べようとは思わない。

 それよりも美味しいものや珍しいものがほしい。


「う〜ん。なんでこんな話になったんやっけ?」

「あ。これのせいっすね」


 シルヴィアが皮袋から石像を取り出す。

 話に当てはめると、エルフ、ドワーフ、獣人、人族だろう。

 そしてバラバラになった石を繋ぎ合わせたら、他の種族の石像になるのかもしれない。


「なんで迷宮の中からこんなん出てくるん?」

「学者とかの考えでは、飲み込まれた大地などが迷宮になっていると言われてるっす。ただし、中迷宮と大迷宮はってなるっすけど」

「小迷宮はちゃうん?」

「違うみたいっすね。なんか練習用じゃないかみたいな話になってるっす。こういう遺物も出てこないっすし」

「ほ〜ん。考える人たちは大変やなぁ。ウチは迷宮で請負人として活動するだけやわ。昔話とか知らんし関係ないけど、まぁ、勉強にはなった……かな?おおきに」

「いえいえ、教会に行けばいくらでも教えてもらえるっすよ」

「いやー、行かんかな。面倒そうやし」

「まぁ、真面目な感じはちょっと窮屈っすけどね。エルは騒ぎそうっす」

「騒がへんわ!ウチええ子なんやで!」

「いや、なんというか、活動的だから色々質問したりしそうって意味っすよ!」

「それは……あるかもしれへんな」


 暴れそうと思われてなくて良かった。

 ウチはおとなしいくていい子だから暴れたことなどないし、自分から騒ぎも起こしていない。

 周囲が勝手に騒いでいるだけだと思っている。

 その騒ぎも悪い事には繋がっていないから、問題ないだろう。


「明日はどうするん?」

「んー……。カニとこの実をできるだけ取って帰るっすかねー」

「それでええんちゃう?探索はゆっくりでええやろ」

「そうっすね。後は魔物をエルに見てもらって、安全か確認してもらうっすよ」

「それも大事やな!」


 ということで、起きたら実掘りと沼地ガニの足集めをすることに決まった。

 途中拾えるものがあればどんどん拾っていくつもりだ。

 沼地の中はほとんど探索されていないから、掘り出し物があるかもしれない。

 そんなことを話しながら、背中合わせに縛って眠りについた。


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