レシピの扱い
なぜか食堂の中央にある机に移動して話し合うことになった。
席に着いたのはドレッシングの作成者のウチ、協力してくれたポコナ、保護者のベアロ、女将さん、ドレッシングを一番気に入ってくれて最初にレシピが欲しいと言い出した、カバの獣人であるレルヒッポだ。
「なるほどねぇ。これは中々のものだねぇ」
「そうだろ!ただでさえ美味しい野菜がさらに美味くなるんだ!これを知ったらもう戻れねぇよ!」
「美味いよな!」
ドレッシングをかけた野菜を試食した女将さんに話しかけるレルヒッポ。
ウチはそんなに危ないものを作った覚えはない。
ベアロは朝食を食べていないこともあって、試食ではあり得ないほどの野菜を注文してドレッシングと共に味わっている。
・・・もうすぐ夕食なので抑えめにする言うてたけど、どう考えてもウチが食べる量より多いやん。あと、美味い美味い言うてくれるのはありがたいねんけど、レルヒッポがすごく羨ましそうにしてるから、食べるだけやったら離れた机に移動してくれへんかな。保護者やからあかんやろうけど。
「それじゃあレシピの販売についてお嬢ちゃんに教えるよ。ポコナも、今後自分の考えたレシピを売るかもしれないから一緒に聞いておきな」
「よろしく女将さん」
「わたしの考えたレシピ……わかった。頑張るよお母さん」
今回のレシピはウチ発案なので、販売するのもウチとレルヒッポになる。
ただ、ポコナも一緒に作ったので作り方は知っているし、親に教えることで新しい味が生まれる可能性が高い。
そうなると、今のベースとなるドレッシングに加えて、新しいドレッシングのレシピも売ることができるようになるので、その時に販売できるように勉強することになっている。
「レシピは教える側と教わる側が納得してお金でやり取りするものだよ。作り方を口頭で教えるだけなのか、教わる側が作れるようになるまで面倒見るのか、色々決めた上で値段を計算するのさ」
「ほうほう」
「料理のレシピの時もあれば、魔道具の作り方の時もある。これも一種の依頼だと考えればいいよ。個人同士でやりとりするのさ。わかったかい?」
「わかったで!」
「大丈夫!」
作り方を伝えるだけなのか、作れるようになるまでなのか。
自分で販売するのならレシピを教えなければいい。
便利な魔道具などは作り方が広まっている物が多いけど、一部は受注した分しか作られず、市場には出回らないものもあるそうだ。
一人では作れない複雑な物や大きな物は、工房全体でレシピを管理しているらしい。
今回はウチがポコナに教えながら作っていたので、依頼すれば教えてもらえると判断したようだ。
・・・ポコナには道具とか借りたから、それでチャラでええやろ。レシピのやりとりなんか知らんかったし、今更お金もらわなあかんとか言われたら困るわ。
「注意点としたら、レシピを広めるのは教えてもらった側でもできるようになるってことだね」
「ん?どういうこと?」
「お嬢ちゃんが教えた場合、レルヒッポがどこかで教えることもできるようになるってことさ」
「ウチは別にええけど……」
「旅先で売ろうと思っても、すでに広まっていて売れないかもしれないんだよ?」
「ええよ別に。それよりも色んな味のドレッシングができる方がええし」
「そうかい」
ウチが行く先にレルヒッポや他の人達が先に行き、そこでドレッシングやレシピを売った場合、後から来るウチはそこで売ることが出来なくなる。
あまり別の町や村に行かない農村の人達なら、共同でお金を出し合ってレシピを購入することもあるらしい。
頑張ればレシピを広めることで稼ぐこともできるので、請負人や商人はレシピの売買が盛んになっている。
「じゃあ、値段とどこまで教えるか決めようか。レルヒッポはどうしたい?」
「作り方を教えてもらうだけでいい。値段は大銀貨1枚。ここにいるやつ全員合わせると金貨1枚だ」
「いや高すぎやろ!」
・・・金貨1枚ってことは銀貨100枚分やで!10人おるからこそやけども!ドレッシングに使った植物油の壺100個買えるやん!スライムの魔石で数えたら50個や!50匹のスライムがドレッシングになるんか?!混乱してきたわ!
「そうか?野菜は殆どのやつが食うし、どこでも売れることを考えるとこれぐらい貰ってもバチは当たらんさ」
「レルヒッポは大銀貨1枚で広めるん?」
「出先でか?う〜ん、銀貨2、3枚ってところだな。それをいくつかの村で売れば元は取れるし、何ならこの街の他の宿や料理屋で売ってもいい。大銀貨1枚なのは発案者だから多めに貰っておけってことさ」
「う〜ん。周りの人はそれでええの?」
言いたいことはわかるけど、妥当なのか判断できない。
ウチには多めに払っておいて、ウチより早く安くしてたくさんの場所で売れば元は取れる。
しかも、自分で作ったものをかけて食べるだけで宣伝できるので、無理に売り込む必要もないのが高評価の原因だ。
ウチがしたように試食させて興味を引くこともできる。
悩んでもわからないので、まずはレルヒッポ以外に買いたいと言っていた9人にも確認する。
「いいぞー!」
「もう少し払ってもいいんじゃないか?これは売れるぞ」
「油はランプに使う物であって、食事に使うなんて考えたことなかった」
「俺はかけたことあるぞ。肉はベチャベチャになるわ、火がついて黒こげになる。野菜はベチャついて食べられたものじゃなかった……」
味付けしてない油を肉や野菜にかけて食べようとした猛者もいるようだ。
しばらく聞いていたけど、誰も文句を言わなかったどころか、最終的に安すぎるのでもっと払うべきということになった。
その値段なんと大銀貨5枚。
元々提示されていた金額の5倍である。
そのかわり、実際に作る事になったのと、味付けを変える案をいくつか出した。
「ほんまにこんだけ貰てええんやろか?」
「払う側が納得してんだ、貰っとけ貰っとけ。どうしても気になるならその金で新しい味でも作って、次は安く売ってやれ」
「そういうもん?」
「そういうものだ。初めに作ったやつが評価されるのは当然じゃねぇか。初めて見つかった素材を請負人組合に持ち込んだら、物にもよるがこんなものじゃ済まんぞ」
保護者であるベアロに確認したけど、ウチがためらっていることが不思議なようだ。
仕方がないので、ベアロの言うとおり別の味にも挑戦してみようと思う。
基本のドレッシングを知っているならバイク何をどれだけ加えたか伝えるだけなので一気に安くなる。
「それじゃあ作ろうか!」
ウチもなんとか納得できたので、ポコナと2人で教えながら作った。
10人で分けると1人当たりの油が少なくなったけど、作り方を知るだけなら問題なかった。
味見も終えて、今日の夕飯を楽しみにしたレルヒッポ達。
・・・これだけお金あるなら果物買っても大丈夫やろ。すりおろす方法は考えなあかんけど。
ウチはドレッシング作りに使った机を、椅子によじ登って雑巾で拭いた。
もちろん靴は脱いでから。
・・・ドレッシング作りをする前より明らかに綺麗になってるけど、固有魔法のおかげやな。もしかしてウチの固有魔法ってめっちゃ便利やない?




