トラップモンキーのトラップ強奪
素材採取をしながら進むことしばらく。
またもやトラップモンキーと目が合った。
「キィ?」
「なんや」
ウチをしっかり見ながら首を傾げるトラップモンキー。
とりあえず返事を返したけれど、キィキィ鳴きながら首を傾げるだけだった。
・・・前と同じ個体ではないやろうけどムカつくなー。なんでずっとウチを見てくんねん。走ってるシルヴィアを見んかい。まぁ、今回は速いから追いかけるだけで精一杯かもしれんけど、なんで首傾げてくんねん。
「シルビアさん」
「どしたっすか?」
「トラップモンキーが追いかけてくる」
「お!奴らのテリトリーに入ったっすね!今回の獲物っす!」
「え?腰にある草でできた袋ぐらいしかないで?」
「それの中身に当たりがあるんすよ!」
魔物かした花の溶解液を溜め込む袋部分を使ったトラップモンキーの袋。
以前アンリが倒した個体からは石や毒を固めたものなどが出てきた。
毒は投げたら破裂して粉や液体が飛び散る物で、もしかするとそれを狙っているのかもしれない。
調合したり組み立てたりする手間が省かれるし。
「毒のかたまりみたいなやつ?アンリさんもそれは回収してたわ」
「それは当たりじゃないっす。魔物の調合は雑っすから、格下にしか通用しないっす」
「え?じゃあ何が当たりなん?」
「木に絡みついてる蔦あるっすよね?あれの種をいくつもまとめた物っす。それを投げつけると、一気に発芽して体を拘束することができるんすよ。トラップモンキーたちが使う落とし穴の蓋とかにも使われてるっす」
「蓋?上に乗ったら……落ちながら拘束されんの?」
「そうっす。その後は石を投げられてボコボコっす」
「えげつないなぁ……」
「見た目に騙されて餌食になる請負人多いっすよ」
「へー」
落とし穴に落ちたと思ったら、体が蔦で絡め取られて動けない。
そこに穴の上から石を投げつけられるのを想像しただけで怖くなった。
しかも、その蔦が勢いよく生える道具も投げてこられるなんて、落ちてなくても気が抜けない。
そもそも迷宮内で気を抜いたらだめだけど。
「集まってきたらこっちから攻めるっす!」
「了解や!殴り殺すん?」
「エルの力があればそんなことする必要ないっすよ!まぁ、見ててくださいっす!」
そう言ってしばらく、素材採取をしながら進んだ。
前回と同じように付いてきていたトラップモンキーは、途中でウチらから離れるように消えていった。
そして手に石を持って複数のトラップモンキーが現れるところも同じだ。
ここから追い込みが始まるのだろう。
「いくっす!」
「え?今なん?」
ウチの疑問を置いていくように、地を蹴って木の上にいるトラップモンキーに迫る。
がしりと音がするように顔面を鷲掴みにして、空いた手をトラップモンキー袋に突っ込んで中身を取り出していく。
「外れっす!」
「キキッ?!」
鳴いたのは放り投げられた方か、あるいは次に顔面を掴まれた方か。
シルヴィアは次のトラップモンキーを掴むと、またもや袋の中を漁る。
石や枝、拾ったであろうナイフなどは捨て、毒を撒き散らすトラップと、目的のものを探している。
「あったっす!」
シルヴィアの右手には、手のひらに乗るくらいの棘がチクチクと出ている楕円形の物体が握られていた。
魔力に反応するのではとはらはらしていると、普通に皮袋の中に入れてしまった。
「握ったら魔力で発動せえへんの?」
「この棘は問題ないんすよ。投げて破裂した時に蓄えられた魔力で爆発的に成長して、近くのものに絡みつくんす。だから、取り上げるだけなら問題ないんす。むしろ魔力を吸って強くなるかもしれないっすね」
「蔦が?」
「蔦がっす」
ウチの魔力を吸収したせいで、切れない蔦になったらどうしよう。
どうにもできないから頑張って解いてもらうしかなさそうだけど。
「キィー!」
「キキッ!」
「キッ!キキッ!」
「お、逃げるで」
「追うっす!」
「え?なんで?」
荷物を漁られて物がなくなったトラップモンキーたちは、同じ方向に逃げ始めた。
それを追うシルヴィア。
疑問は置いてけぼりのウチ。
もう手元には奪うものはないのに追いかける理由が本当にわからない。
「見つけたっす!」
「え?トラップモンキーの巣?」
「そうっす!取り放題っす!」
トラップモンキーたちを追いかけると、少しひらけた場所に出た。
そこでは体の小さなトラップモンキーたちが、木の棒と器を使って毒を粉状にすりつぶしていたり、水に混ぜて溶かしたりしていた。
その広場の一角には、できた毒物や絡みつく蔦の種を入れている植物の袋が、たくさん置かれていた。
トラップモンキーの数も、ゆうに100は超えているだろう。
そんな場所にウチを背負ったシルヴィアが降り立つ。
「キィィィィィィ!!」
一際体の大きなトラップモンキーが大声で叫ぶと、作業を中断して石や棒を構える小さな個体たち。
睨み合い動かない間、お互いに何を考えているのか。
どちらから動くのかと背中からじっと見ていると、数で勝るトラップモンキーではなくシルヴィアからだったから驚いた。
「貰うっす!」
「キッ?!」
トラップモンキーの間を縫うように移動するシルヴィアは、振り下ろされる枝や放たれた石を軽く弾くと、植物の袋が置かれている場所に向けて疾走した。
攻撃が通じないことに驚くトラップモンキーをよそに、軽量袋に植物の袋を詰め込んでいく。
市場で野菜の詰め込み放題に勤しんでいる主婦のような動きだった。
トラップモンキーもタダで渡すわけもなく、横から袋を持っていったり、中身を投げつけてくる。
しかし、毒はウチらにかかることなく周囲を漂い、伸びた蔦も絡め取られるのはトラップモンキーだけだった。
ウチらに絡みついてきた蔦は、軽く動くだけでぶちぶちと千切れてしまい、拘束の意味をなさない。
そのままシルヴィアの強奪は続き、降り注ぐ石や枝を無視して手当たり次第回収すると、その場を後にした。
残されたのは物資を奪われて呆然とした小型のトラップモンキーと、怒り狂う大きなトラップモンキーだった。
「いやー大量っすね!」
「めっちゃ奪ったなぁ。なんか凄い熟練の動きやったで」
「素早く取らないと襲われるからっす!」
「普通に襲われてたけどな。石とか棒めっちゃ飛んできたし。逃げる時なんて小さな山できてたで」
「離れるのに必死で見てなかったっす」
トラップモンキーの巣からだいぶ離れたところで荷物の整理をする。
とりあえず突っ込んだだけだった袋を、内容物によって選り分ける作業だ。
麻痺毒、眠り毒、出血毒、蔦の種のように分ていき、これを納品する。
各種毒は低品質な毒として請負人が狩りのために使ったり、各地の農家が自衛のために備蓄する。
蔦の種も請負人が買うこともあるけれど、主に兵士や騎士が捕縛に使う用で要求されているそうだ。
種なのでトラップモンキーから奪わなくても採取は可能だが、集まっている物を奪う方が探すより簡単だ。
被害も減るし一石二鳥だとシルヴィアは嬉しそうに話す。
「これそんなに使えるんやな」
「そうっす。強い魔物は一瞬しか捉えられないっすけど、それでも隙は生まれるっす。高級な食事処とかにも防犯対策で置いてるっすよ」
「へぇ〜。何個かもろてもええ?」
「もちろんっす!山分けっすよ!」
「いや、そんなにはいらんねんけどな」
いざという時に使う自分の分、ミミとエリカが自衛に使う分、屋台に備える分としていくつか袋から抜き取った。
シルヴィアも自分で使う分や、お世話になっている人に配る分を分てから、自身の軽量袋に収納していく。
期せずして暴漢対策を手に入れたけれど、やりすぎと言われないかちょっと不安だ。




