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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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197/305

採取特化のシルヴィア

 

 しばらく掃除の依頼を片付けつつ、たまに屋台にも顔を出して過ごしていたら、ある日組合から呼び出しがあった。

 素材採取を主としている請負人が戻ってきて、一度会おうということになり、候補日を聞きにきたそうだ。

 ウチはその日に掃除の依頼を受けるだけだから、いつでもいいと返事をした結果2日後になり、念のため迷宮に行けるよう携帯食料などを準備してその日を待つ。

 そしてすぐに2日経った。


「君がエルっすか?」

「ウチはエルやでエルッスやないで」

「あー。申し訳ないっす。っすは口癖っす」

「そうなんや」


 待ち合わせとして指定された組合のロビーにある椅子に座っていると、女性の請負人がやってきた。

 獣人ではなく普通の人族。

 茶色い髪を頭の後ろで縛っていて、目は薄い茶色。

 体に合わせたぴっちりとした服を着ていて、腰には色々なサイズの鋏やピンセット、棒などが下げられている。

 ズボンもぴっちり目でブーツを履いている姿は、軽装の請負人そのものだ。

 胸はぱっと見であることはわかるけど大きいわけではないぐらい。

 年齢はアンリぐらいで15、6といったところだろう。

 身長は人族の女性としては普通か、少し低いぐらいだった。


「会議室押さえてるっす。依頼に関してはここで話す内容じゃないので行くっすよ」

「わかった」


 特殊な物を取るからか、あるいはウチの固有魔法を組合のロビーで話さないようにするためか、会議室へと向かう。

 今回は1番小さな会議室だった。


「改めて自己紹介するっす。わたしはシルヴィアっす」

「シルビアさんやな。ウチはエル。よろしく!」

「よろしくっす。でも、シルヴィア、ヴィっすよ。ビじゃないっす」

「ビやな」

「違うっす。ヴィっす」

「ビ?」

「ヴィ!」

「ビ!」

「前歯を下唇に当てながら言うっす」

「ゔぃ」

「そう!それっす!シルヴィアっす!」

「シル……ゔぃあさんやな」

「慣れるまではシルビアでもいいっす」

「なんかごめんやで」


 仕方ないなという感じのシルヴィア。

 口が回らないのだからどうしようもない。

 申し訳ないと思いつつ、練習することを決意した。

 ゔぃ、ゔぃと練習していると、気を取り直したシルヴィアは、笑顔で続きを話し出す。


「エルのことは組合長から大体聞いてるっす。なので、私のことを話すっす。わたしは戦闘が苦手……というか武器に魔力を流すのが苦手なので戦闘も苦手っす。その分身体強化はめちゃくちゃ得意なので、逃げ足には自信あるっす!道なき道を行くのも好きなんで、素材集めで生計立てるようになったす!こんなところっすね」

「武器に魔力流すのが苦手やったら戦闘も苦手なん?」

「あー、エルは身体強化できなかったっすね。う〜ん……うまく説明できるかわからないっすけど、頑張って話すっす」


 身体強化は読んで字の如く体を魔力で強化する。

 例えば皮膚や骨に魔力を流して頑丈にしたり、足に流して走る速度を上げたり、ジャンプ力を強化したり。

 手に流して物を握りつぶしたりなどもできる。

 その身体強化を持っている物や身につけている物にまで使うことで、魔物の攻撃を受けたり、強力な武器で攻撃することが可能になる。

 そのためには武器や防具も体の一部として認識するか、肌に触れているところから流すという感覚を身につける必要がある。

 同じ硬さの武器をぶつけ合う場合、魔力が多く流れている方が勝つということらしい。

 シルヴィアはそれを何度練習してもできなかったそうだ。

 どうしても武器は武器、防具は防具として見てしまい、皮膚で触れているとはいえ魔力を流すことはできなかった。

 その結果ただの武器で戦うことになり、強い魔物には通じなくなり、戦闘を避けて素材を集めるようになってしまっている。


 ・・・そもそも放出できへんのに武具に魔力流せるのおかしない?触れてるから流せるいうても体とは別物やん。魔道具に魔力を流せるからおかしないんか?使えへんもんはようわからんわ……。


「身体強化のことはわかったわ。それで、シルビアさんはウチのことどこまで聞いてるん?」

「エルを背負えば森エリアの素材取り放題ってことぐらいっすね。固有魔法の効果についてはエルから聞くつもりだったっす。組合長もよくわからない感じだったっすし」

「じゃあ説明するわ」


 ウチの固有魔法について、わかっていることを説明した。

 ハリセンのことも含めて、ジャイアントフォレストゴリラの攻撃も受けないだろうということも。

 それを聞いたシルヴィアは、俄然行く気になっていた。

 ウチとしても変な人じゃないから行ってもいいかとは思うけど、まずは軽く迷宮に行ってからだ。

 というわけでウチの家に背負子を取りに行き、アンリに挨拶した後迷宮に入った。

 もちろん入り口の階段の時点で背負われて。


「背負った感じでは特に何もないっすね」

「せやねん。ウチが見て感じるのと同じように感じてくれたら楽やねんけどな。世の中そう上手くいかんわ」

「まだ7歳が何言ってるんすか……。とりあえずウサギで試すっす!」


 言って駆け出すシルヴィア。

 その背中で揺れるウチ。

 そしてウチの目の前にはシルヴィアの軽量袋が、ウチを挟むようにして背負われている。

 自前の魔力を流さず魔石の魔力を使うなら、魔石をセットするだけで使えるから持っていくことにしたそうだ。

 若干視界が悪いけれど、草原エリアをうろつくぐらいなら問題ない。

 森エリアも今のところ問題ないはずだけど、沼エリアとかに行くことになったら、見えるように調整してもらわないといけない。

 見ないと大丈夫か判断できないから。


「おぉー!これはすごいっす!」

「せやろ!」


 仁王立ちしたシルヴィアの腹目掛けて頭突きを放つ草原ウサギ。

 しかし、触れる直前に弾かれて地面に落ちる。

 隙だらけなところに剣を突き刺せば、簡単に倒すことができるだろう。

 シルヴィアは採取用の刃物しか持っていないから、強化した腕力で首を捻って倒したけれど。


「エルの固有魔法はとんでもないっすね!他人を影響下にするとかやばいっす!」

「他の固有魔法を見たことないからようわからんけど……」

「ウルダーには他に2人の固有魔法持ちがいるっす。1人は凍らせる能力で、もう1人は岩を出す能力っす。2人とそれぞれ素材採取したことあるっすけど、凍らせたり岩を出したりして地形を無視できるくらいで、わたしの安全は確保されなかったっす。むしろ氷の時は寒くて動きが悪くなったぐらいっすよ」

「おー。話には聞いたことあるけど、そんな人と仕事したことあるんやなぁ。シルビアってもしかして凄いん?」

「いやー、わたしは凄いというより便利なだけっすよ。採取依頼がない時は、自慢の足を生かして伝令とかやってるっす」

「ウチも最近便利な装備品になりつつあるし、似たようなもんやな!」

「装備品……言い得てるっすね」


 シルヴィアは背中のウチをチラリと見て納得している。

 アンリからも背負う時のベストポジションなど説明されていたけれど、安全については固有魔法頼りだから気にしなくていいと、おおよそ人ではなく物を背負う時の説明を受けていたぐらいだし、ウチも気にしていない。

 しっかり座れて、お尻が痛くないようにスライムクッションを入れることができればいい。


「このまま森に行ったらダメっすか?」

「ダメやな。食料とかの準備もしてへんし」

「そうだったっす……」

「とりあえず今日のところは美味しいもん食べて帰ろ。シルビアさんとやったら採取行くの問題なさそうやし」

「わかったっす」


 階段を降りてから解放してもらい、ミミとエリカが開いている屋台へと向かう。

 途中、半獣について聞いたけれど、シルヴィアとしては大変そうだなぁというぐらいで、特に敵意とかはないらしい。

 そういった選別意識が強いのは、北の魔導国や東の海洋国家群に近い人ほど強くなるそうだ。

 そんなシルヴィアを連れて屋台でお好み焼きを買い、お婆さんのところで煮込みを買って食べる。

 ミミたちにも軽く話をして、不審者ではないことを伝えた。


「美味しいっすねー」

「せやろ。ウチのミミが作ってん」


 ミミが奴隷でウチが買ったことや、エリカを雇って屋台を開いていることなど、他愛のない話をしながら食事を進める。

 シルヴィアからは街に住む3女だったことや、幼い頃から迷宮の恩恵を受けて、いつか自分もと思っていたこと。

 見習い卒業まではとんとん拍子に進んだけれど、武具に魔力を込められないことで躓いた。

 それでも挫けず荷物配達していたら足の速さを褒められたこと、荷物持ちで迷宮に入って小遣いがてら素材採取していたらいつの間にか仕事になったことを聞く。

 お互いに自分のことを話したぐらいで食事を終えて、1日準備に充ててから森エリアに行くことになった。


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