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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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196/305

ウチの貸出検討

 

 屋台で呼び込みをしていると、大通りの方が騒がしくなったので覗きに行った。

 大きなゴリラの顔や腕が通りを進んでいて、それを見た屋台主や請負人たちが囃し立てていたようだ。

 運ばれているのは解体されたジャイアントフォレストゴリラで、運んでいるのは討伐したパーティだけじゃなく、見習い請負人を含めた暇な請負人たちだ。

 小遣いを貰って組合まで運ぶ雑用をしているらしい。


「はー、でっかいなぁ……」

「嬢ちゃん初めて見るのか?あれは新緑の剣ってパーティで、森エリアを中心に動き回っているんだ。定期的にジャイアントフォレストゴリラも狩ってくる優秀なパーティなんだぞ」

「へー。すごいんやなぁ……」


 近くで見ると改めてその大きさに驚く。

 口がウチを丸呑みできそうなほど大きく、手はウチを握り潰せるほどゴツゴツしている。

 腕は大人3人で一周できるぐらい太く、足も短いけれど筋肉はすごい。

 踏み潰されたらプチッといってしまいそうだ。

 ウチが戦うとしたら近づいてきたところをハリセンで叩いて、徐々に力が入らないようにする。

 最後に頭を叩けば気絶するから、首や心臓付近の魔力を抜いて剣を刺せば倒せる。

 剣を刺すのが1番大変な作業になりそうということで、アンリに1人で挑まないように言われている。

 もしも、今後1人で森エリアに行くとしても、行動不能にしてから逃げることを約束している。

 倒しても素材にならないし、ウチ1人だと運べないから戦う気は全くないけれど。


「エルちゃん売り切れたよ!」

「今日も繁盛したんだよ!」

「おっしゃ!じゃあ片付けしたら帰って明日の仕込みやな!」


 見物から戻ってしばらくするとお好み焼きの生地が売り切れた。

 ハニーまんまる焼きの生地は残っているけれど、どちらか一方が売り切れた時点で、屋台エミカは閉店となる。

 残った材料はエリカが持ち帰って孤児院で振る舞う。

 それでも余るなら別の孤児院に持って行くという約束だけど、未だにそこまで残ったことはない。


「明日は屋台かな」

「その前に組合に行くといいんだよ」

「なんかあったん?」

「組合の人がエルちゃんを探しに来たことがあるんだよ。迷宮から戻ったら顔を出して欲しいそうだよ」

「ふーん。ウチ何もしてへんから掃除の依頼かなぁ」


 帰ってお風呂に入りながら明日の予定を話し合う。

 象の獣人向けに作られたお風呂は横にデカく、ミミと2人で入る分には全く問題がない。

 そんな中でのミミからの報告で、ウチは組合に行かないといけなくなった。

 急ぎの要件ではないとのことなので、報告が今になったらしい。

 言われなければしばらく組合に行く用事もなかったから、ちょうど良かった。


「たのもー!」

「あ、エルさんようこそ。色々お話がありますのでこちらへお願いします」

「ん?指名依頼が来たんちゃうの?」

「え?いえ、特にそのような話はありませんが……」

「そうなんか。予想が外れてもうたわ」


 受付の人に連れて行かれたのはいくつかある会議室の中でも小さめの部屋だった。

 小さいとはいってもパーティで利用することがある場所柄、長い机が一つと、机を囲むように椅子が20脚ほど置かれている。

 個人で使う1番小さい会議室が使用中だったため、ここに通されたらしい。

 一つ前の部屋には使用中のプレートがかかっていた。


「飲み物を用意してきます」

「はーい」


 会議室に残されるウチ。

 どこに座るか考えて、なんとなく入り口から遠い方の長辺の真ん中に座った。

 入り口から遠い方の短辺に1脚だけ置かれている椅子にも興味はあったけど、組合の人が座る場所だろうと避けている。

 いつかはウチもあの席に座って客を迎えたいという小さな野望をぼんやりと妄想した。


「お待たせしました」


 妄想の中で客人をハリセンでノックアウトしたところで、飲み物を持った組合長のセイルが入ってきた。

 部屋の前で案内してくれた受付の人が頭を下げていたから、タイミングが合ったのだろう。

 面倒を嫌って1人で用事を済ませるのはいいことだけど、仕事を取り上げるのはダメなことだと、ライテ組合長ベルデローナの話を思い出しつつ挨拶した。

 その間にセイルはウチの前に座る。

 2人にしては広すぎる部屋だけど、空いてないのは仕方がない。


「呼んだのは聞きたいことと、返答によっては提案がありまして……」

「返答次第ではただじゃおかねぇぞってやつやな」

「違います」

「冗談やん」


 お互いに出された水を飲んで一息つく。

 いまいちこの人との距離感がわからない。

 ベルデローナならノってくれるかピシャリとツッコミいれるかなのに。


「んんっ。まずはエルに確認したいことがあります」

「どんとこい」

「エル、迷宮で誘拐されましたか?」

「へ?」


 何を言われたのかよくわからない。

 誘拐されたとしたら、今いるウチはどういう状況なのか。

 逃げ出せた結果ここにいるということだろうか。

 そもそも誘拐されていないと気づくまで、ぐるぐると変な思考に陥ってしまった。


「ウチ、誘拐されてへんで?」

「そうでしたか。いくつかの請負人から『小さな女の子を背負った請負人が迷宮の中を走っていた。』だの『川の中を女の子を背負った請負人が悠然と進んでいた。』だの『迷宮への生贄として小さな子供が運ばれていた。』だの通報がありまして。背負われている女の子が請負人であるならば、特徴はエルが1番近かったので聞き取ったまでです」

「請負人じゃない子が運ばれてたらどうなん?」

「お手上げですね。迷宮内に連れ込んで殺害された場合、誘拐犯の特徴から捜査はされますが、被害者が迷宮に取り込まれている可能性が非常に高いのです。迷宮の機能を利用した犯罪は完璧に取り締まれませんので……」

「まぁ、難しいやろな」


 迷宮広場への入り口で請負人証の提示はするものの、荷物確認までされない。

 複数の屋台を出していたら馬車で乗り入れることもある。

 その荷物の中に人、ましてや子供を入れていても、外からでは膨らんだ荷物程度だ。

 手足が出ていれば止められるだろうけど、そんな計画をするならしっかりと対策しているだろう。

 今回はそんな事件ではないけれど。


「誘拐されてないとなると怪我ですか?背負われて帰還の魔法陣に向かっていたとか」

「ちゃうで。あれ?ウチの紹介書に書いてへんかったんかな。ウチを背負うと固有魔法の効果を受けんねん。傷つかへんし、邪魔なものは弾けるようになるで」

「そこまで書いていませんでした。そうなると、エルさんを背負えば身体強化できる請負人が、魔物の攻撃や状態異常から身を守れる……というわけですね?」

「せやな。少なくともジャイアントフォレストゴリラ?の攻撃も防げるのはわかってるで」

「エリア主の攻撃までも……ちょっと時間をください」


 そう言ってセイルは顎に手を当てたまま俯き、自分の考えに集中し始めた。

 暇になったウチは森の様子を思い出して時間を潰す。

 見つけた毒キノコや毒を持った花や虫は問題なく弾けるし、固有魔法越しに採取もできた。

 魔物はジャイアントフォレストゴリラを含めて全ての攻撃を受けないことが感覚でわかっているため、1人でうろついても問題はない。

 いつもの如く、移動や重いものを持ち上げること以外は。


「エル。当初はあなたに素材採取の依頼をする予定でした。しかし、内容は変わらずともやり方を変えることにしました」

「ほうほう」

「素材採取を得意とする請負人がいるのですが、エルにはその人の背中に背負われてもらい、危険な素材を中心に採取に協力してもらうということにします」

「いや、しますってウチとその請負人の了承得てへんやん」

「断りますか?」

「ウチは暇やから受けるけど、その人はどうなん?」

「受けるでしょうね。危険な素材は採取するまでにかかる準備にもお金がかかります。その分高額で買い取られますが、その殆どが魔物や状態異常、道中の険しさです。道は身体強化でなんとかなりますが、魔物の攻撃を受ければ良くて怪我、悪くて撤退。状態異常にかかれば薬が必要になりますし、素材によっては薬がないと採取できない物もあります。それをエルを背負うだけで無視できるようになる。素材採取を主とする請負人なら断るはずがありません」

「そういうもんか。うまくいくかは知らんけど」


 そういうわけでウチにウルダー初の指名依頼が入った。

 時期は未定で期間も未定、内容も採取をする請負人任せなのでほとんど未定。

 いきなり採取に行くのは流石に気まずいので、まずは顔合わせをして日帰りの迷宮。

 そこから森エリアに行くかどうかを決めることになった。

 流石に腕は良くてもミミを半獣だからといって虐めてくるような人は無理だ。

 セイルも相性は大事だとわかっているので、顔合わせをしただけでも報酬を貰えるように設定してくれた。

 後は実際に会うのを待つだけだ。


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