森林エリアの主
中心にあるらしい帰還の魔法陣に近づくにつれ、周囲の木が太くなり、さらに木と木の間が広がっていった。
そこを通る魔物も合わせて大きくなり、名前にもビッグが付いている。
ビッグ、ジャイアントと大きさで判断できるのは、ウチにはわかりやすい。
「木の間広なったけど、大きい魔物が出てくるん?」
「そう。ビッグが付いたり、エリア主が出たりする」
「へぇ〜。やっぱエリア主もでかいんやな。何が出るん?猿?鹿?熊?」
「あれ」
「あれ?」
「あそこにいる」
「え?どこどこ」
アンリが指差した方を見る。
しかし、木と木の間に木が見えるだけの森そのものしか見えなかった。
「わからん」
「じゃあ近づく」
「ええの?戦闘にならへん?」
「大丈夫。すでに別のパーティが戦ってる」
「そんならええか。気をつければ」
移動し始めたアンリの先には、木の間に見えた黒い岩らしきものがあった。
近づくにつれて岩ではなく、巨大な生き物だということがわかった。
ウチから見えていたのは毛に覆われた背中で、座り込んだまま太い手足を振り回して戦っていた。
「え?猿……ちゃうよな?」
「違う。ゴリラ。ジャイアントフォレストゴリラ」
「おー、ゴリラ。獣人でもおったな。腕がムキムキで殴ったり投げたりするのが得意って聞いたわ」
伸びている腕は獣人と比べるまでもなく太い。
身長が大人5人分ぐらいある。
足は短いけれど、腕を支えに歩くから腕は長い。
そんな長い腕を地面スレスレで振り回されると、戦っている請負人は避けるしかない。
しかし、足に身体強化して空中に跳び上がると、残った腕ではたき落とされる。
くることがわかっていれば強化した体で受けられるけど、ダメージは蓄積する。
戦っている請負人たちの表情も決して楽という感じではなかった。
「助けた方がええんちゃうん?」
「問題ない。全員直撃は避けてるし、しっかり動きを見て対処している」
「そうなんか……」
ウチから見ると6人がかりで苦戦しているようにしか見えない。
大剣をぶん回している人の攻撃は皮を切る程度、盾と剣を持っている2人はジャイアントフォレストゴリラの注意を引くためか、ガンガンと盾を剣で叩いていた。
盾だけを持ったがっしりとした人は腕の振りも叩きつけもしっかりと受け止めているけれど、いつまで持つかわからないほどすごい音が響いている。
短剣を持った人は隙を見て、当たると粉が弾ける袋を何個か投げていたけれど、特に状態異常になったりはしていない。
それでも次の準備をするのは、しっかり役割があるからだろう。
最後の1人は弓を持っているけれど、さっきから様子を見るだけで引かない。
見ているだけでは全然わからない。
「動く」
「ん?」
アンリが呟いたと同時に弓の人が引き、放った。
それはジャイアントフォレストゴリラが咆哮を放つ瞬間だったようで、矢は開いた口の中に突き刺さる。
放つために思いっきり息を吸っていたところに、口の中の激痛。
全ての息が呻き声に変わってしまった。
そこに探検の人がいくつかの袋を口の中に突っ込むと、さっきまで全く効果がなかったのに、急に様子がおかしくなった。
大きな体を突っ伏して、体をビクビクと振るわせ始めるジャイアントフォレストゴリラ。
どうやら麻痺したようだ。
「いくぞ!」
「首はまかせろ!」
「目は傷つけるな!」
盾と剣を持った2人が、横向きに倒れたジャイアントフォレストゴリラの胸を狙って切り込んでいく。
大剣の人が跳び上がって首に思いっきり叩きつける。
それを探検の人と弓の人が少し離れたところから見守っていて、盾の人が水を飲んだり休憩している。
大剣は首に食い込むも切断までは程遠く、何度も跳び上がって切り込んでいく。
胸にもたくさんの切り傷がつけられ、いつしか切る人と突く人に役割を分けていた。
「注意!」
弓の人が叫ぶとジャイアントフォレストゴリラが起きあがろうと体を起こし始める。
首に剣が食い込んだままでも立ち上がる姿は壮絶で、血だらけの毛皮がテラテラと光っていた。
「刺し込め!」
「押してくれ!」
大剣の人が跳び退き、盾と剣を持った人が首の傷に剣を突き刺す。
呻くジャイアントフォレストゴリラ。
止めには足りないかと思ったら、突き刺した人に思いっきり盾の人がぶつかった。
それがトドメとなったようで、ジャイアントフォレストゴリラは力尽き、ズンと音を立てて倒れ込んだ。
「おぉ〜。すげ〜」
「じゃあ行く」
問題なく倒せたことでウチの懸念を晴らせたから、アンリが移動を始めた。
そんなウチらに気づいていた弓の人がジッと見てきたから、両手でぶんぶんと手を振って返した。
少し間が空いてから小さく振り返してくれた。
驚かせてしまったようだ。
「お疲れ様」
「お疲れさーん」
ジャイアントフォレストゴリラ以降は魔物に遭遇することなく、無事帰還の魔法陣を通ることができた。
アンリは早速素材を道具にする作業のため家に帰ったけど、ウチはまだ動き足りない。
ほとんど背負われていただけだから当然だ。
「ミミ!エリカ!ウチも手伝うわ!」
というわけで、屋台の手伝いで精力的に声を出して客引きをした。
ウチが迷宮に行ってる間に、この間のいちゃもんつけてきた人たちが来たらどうしようかと3人で話し合っていたけれど、幸いにも来てなかった。
もうこのまま忘れていい気がしてきた。




