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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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193/305

キノコ、毒液なんでもござれ

 

 朝や。

 ちゅんちゅんではなくギャアギャアと威勢のいい声で起こされた。

 響いてくるのは少し離れたところにある森から。

 草食動物、肉食動物に虫、他にも鳥の魔物がいる。

 道すがら何が出るか聞いたけれど、鳥は一括りに鳥の魔物と呼ばれていて、素材屋なんかが固有の名前で呼ぶらしい。

 請負人としては敵を倒せば良いだけで、後はどこが素材になるか覚えていれば大抵なんとかなる。

 初めてみたとしても、同系統で素材となる部位に綺麗な部分や一際硬い部分などを選べば良い。

 鳥なら羽と肉、獣系なら毛皮と肉と骨のような硬いところ、虫なら特有の毒を生む器官などだ。

 あと魔石。


「ふわぁ〜……ほな行こかぁ〜」

「まだ眠い?」

「んー?いや、眠くはないで。気持ちのいい朝や」


 日課になった体だをほぐしてから、アンリに背負われる。

 森の中に足を踏み入れても、入ってすぐは陽の光も入ってきて気持ちがいい。

 さわさわと揺れる葉の音は癒しになるだろう。

 魔物さえ出てこなければ。


「この辺りは弱い魔物しか出てこない」

「強い魔物の縄張りが中央側ってこと?」

「そう」


 額から鋭い角が生えた角ウサギを解体しながら話す。

 食事用の肉はもっと奥で取る予定なので、嵩張らないように角と魔石だけ取れば、軽く土をかけて処理を終える。

 その後も森オオカミやウチなら簡単に吹っ飛ばせるぐらい大きな森イノシシ、懐かしのアームベアにも遭遇したけれど、攻撃を弾けるアンリにかかれば簡単に倒せる相手だった。

 そして目当ての毒キノコなどは、アームベアが出てくるところまで進んだあたりで簡単に見つかるようになり、アンリが種類ごとに袋を分けて採取している間、ウチが背後の警戒をした。


「この辺りは麻痺が多い」

「なんか理由あるん?」

「生育条件なのか、捕食する魔物がいないのか、色々考えられる」

「麻痺するのに食べるん?」

「麻痺毒を持つ魔物には効かない場合が多い。他にも麻痺毒を摂取することで体内に強力な麻痺毒液を生成している」

「ほー。毒を食べて毒作るんか……すごいな。ウチはそもそも毒弾くからな」

「食べれたら食べるつもり?」

「え?いや、食べへんよたぶん。あー……毒キノコには美味しいものがあるって聞いたから、毒が効かへんなら有りかもしれへんけど……」

「食べても毒を放てるようにはならない」

「そりゃそうやな。ウチの中に毒作るところないし」


 もしも体の中で毒を作ることができたとしたら、美味しい毒キノコだけを選んで食べたはず。

 毒液は美味しくなさそうだから果物やハチミツと混ぜればなんとかなるかもしれない。


 ・・・いや別に食べへんけどな。もしもを考えるのは楽しいやん。そんな変なものを見る目で見んといてやアンリさん。食べへんって!固有魔法あるから食べられへんって!


「ここから毒の種類が増える。出血毒、熱毒、めまい、嘔吐、幻覚、睡眠など。もちろん魔物もこの状態異常を使ってくる」

「ひぇ〜、こっわ。そりゃ対策必要になるわ」

「この辺りはまだ取り返しが付く。もっと奥には溶解液、呼吸困難、意識を一瞬で奪う毒など取り返しのつかない毒が出てくる」

「えぇ〜……そんなとこ行って大丈夫なん?ウチの固有魔法で防げるか分からんで」

「もちろんその辺りに近づいたら確認してもらう」

「それならええんか?ええんやろな。問題なければええんやし。でも、飛び散った毒とかない?アンリさんは大丈夫なん?」

「少し離れたところで待つ。問題ない」

「それならええか」


 それなら万が一毒が周囲に漂ったりしていても問題ないはずだ。

 ウチより毒に詳しいアンリを信じるしかない。

 アンリもウチの固有魔法を信じるしかないし、これが一蓮托生というやつだろう。


 ・・・毒を前にして互いを信頼し合う。なんかええやん。格好良いわ。これでウチがババーっと毒を集めれたらもっと良いねんけど、固有魔法が反応する物を集めるぐらいしかできへんからなぁ。そこもアンリさん任せや。


 アンリはウチを背負ったまま素早く毒キノコや毒草を摘み取り、傷つかないことをいいことに魔物を掴んで直接毒を作る器官を剥ぎ取る。

 流石に虫の断末魔を聞いた時は少し可哀想になったけれど、放っておいたら他の請負人に被害が出るかもしれないから仕方ないと納得した。

 むしろ良いことをしていると考えるようにすると、スッキリして良い感じだった。

 ウチはアンリと協力して良いことをしているのだから何も問題はない。

 集まった毒が何に使われるか知らないけれど問題はない。

 ないったらない。


「結構集まった」

「魔物の素材もいっぱいやな。持てる?」

「問題ない。軽量袋に魔石をセットすれば流さなくて済む」


 いつもはウチが背負って垂れ流しの魔力を使う軽量袋。

 背中が塞がっている今はアンリが持ち、魔石の魔力を使って効果を発揮している。

 今までも何度か同じ手法で使っていたけれど、ウチが背負うより早く軽量化するための風の魔石が消耗されてしまう。

 魔力の質がどうたら説明されてもよく分からなかったので、そういう物だと理解しておいた。

 ウチの背中の水が美味しいのと同じだ。


「そろそろエルに見てもらう場所」

「おー、ようやくやな。ウチからするとなんでその判断になったのか分からんけど」


 アンリの背中から降りて体を伸ばす。

 別に凝り固まっているわけではないけれど、こうすると気持ちがいい。

 そしてアンリを残して指で示された方へと進む。

 以前教えられた通り途中の木に目印を付けながら進み、周囲に目を向ける。

 別れたところは軽く視線を向けるだけでも固有魔法が反応していたけれど、今はそれが落ち着いてきている。

 もしかすると毒キノコや毒草の生息域が変わり始めているのかもしれない。


「お?なんかおるな」


 少し進んでアンリが木で見えなくなったところで、奥に見える茂みがガサガサと揺れていた。

 姿が見えていないから固有魔法で判断はできないけれど、周囲にある毒キノコには反応しているから恐らく大丈夫。

 少なくともジャイアントスライムより強い魔物がうろちょろしているとは思えない。


「うわっ!なんやあいつ!変な動きやな!」


 茂みから出てきたのは花の魔物だった。

 大きさはウチよりも少し大きく、複数に枝分かれした茶色い根っこをうねうねと動かしながら移動して、緑の茎から生えた2枚の大きな葉っぱで上手くバランスをとっている。

 何に使うのか分からない大きな袋状のものが花の下に付いている。

 大きな円形の顔っぽい部分の縁に赤い花びらが生えていて、縁の内側には棘か歯のような緑色の突起がいくつもある。

 恐らく仕留めた獲物を棘ですりつぶして食べて、袋に入れているんだと思う。

 そんな花の魔物には目がないけれど、どうやってかウチを感知したようで、真っ直ぐこっちに向かってきた。

 うねうねと動く根っこと、バランスを取るために大きく揺れる茎、花の部分を歪めながら近づいてくる姿は全然綺麗じゃない。


「なんか動き含めて全体的にきしょいな。花のくせに見てても楽ないし。まぁ、固有魔法は問題ないって判断してるからハリセンで叩くけど」


 近づいてきたところを伸ばしたハリセンでスパンと叩く。

 頭がどの部分か自信はなかったけれど、とりあえず花の部分を叩いたらぐんにゃりと倒れて動かなくなった。

 他の生き物と同じなら、魔力が急になくなって気絶しているはずだ。


「初めて見る魔物やったし、とりあえずアンリさんに報告しよかな」


 ボーラのロープで茎や葉をぐるぐる巻きにしてから、来た道を慎重に戻る。

 魔物と出会うよりも迷子にならないかの方が心配だ。

 そんな心配とは裏腹に、問題なく合流できたウチは、ハリセンで動けなくした魔物のことをアンリに伝えると、すぐにウチを装備して花のところへ向かうことになった。


「カニバルフラワー」

「これの名前?」

「そう。なんでも食べて溶解液で溶かす」


 カニバルフラワーは人や獣すら食べる花の魔物全般を指す名前で、花の部分は色々種類があるそうだ。

 ただ、擬態する能力は持っておらず、陽の光に当たってぼーっとしているか徘徊しているかの2択で、放たれる溶解液にさえ気をつけていれば、そこまで苦戦することなく倒せる魔物になる。

 そんなことを話しつつ、アンリはカニバルフラワーの花を落としてトドメを刺し、溶解液の詰まった袋部分だけを取り出して切り出した茎で縛り、素材入れに入れていた。

 花も染色剤として、茎は丈夫な紐として使えるけれど、今回は花は捨てていくらしい。

 これだけの量では買い取ってもらっても、パン1個分ぐらいにしかならないからだ。


「素材集めを続ける」

「ほーい」


 そこからは、何度かウチだけで先の確認をしつつ、素材集めを行った。

 出会う魔物もカニバルフラワーが大きくなったり、逆に小さくなった分群れで押し寄せてくる種類、蜂系や鋭い鎌の手をしたカマキリに足が発達したバッタ系の魔物、動く木のトレントなどに遭遇した。

 さすがにトレントはナイフでは倒せないから逃げたけれど、それ以外の魔物は一方的に攻撃できることを活かしてどんどん倒していった。

 夜に寝るときだけ浅い場所に移動して、日中は森の中で過ごすこと3日で、ようやくアンリが満足いく量取れたようで、中央にある帰還の魔法陣へと移動を開始した。

 このまま何事もなく帰れたらいいけれど、森の深いところは虫系とは違った別の魔物がいるらしく、ウチを警戒に出すのは変わらなかった。


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