ウチの活躍できそうな場所
おじさんたちに絡まれてから更に10日経った。
奉仕活動が終わったおじさんたちがまたやってくるかと身構えていたけれど、特にそれらしいことは起こっていない。
様子を見ているのか、覚えてろと言ったくせに忘れているのかはわからない。
でも、問題が起きずに平和に過ごせるのはいいことだ。
エリカともしっかり話して、辞めることなく屋台は続いている。
掃除の依頼も順調で、小物も家もピカピカにする子どもとして有名になりつつある。
天井などの高いところはハリセンを細長く伸ばして撫でるようにすれば綺麗になり、棚の上などは頑張って登ってからハリセンを伸ばしている。
身体強化できなくても何とかできる範囲でしか掃除ができないので、そういった依頼ばかり受けていた。
荷物運びが必要な時は見習いに声をかければいいと思っているのだけれど、エリカの孤児院から子どもを派遣してもらうのも手のひとつだろう。
そんなことを考えていると、迷宮の方からガドルフたちが帰って来てくるのが見えた。
「エル。お好み焼きを適当に頼む。あと、おすすめの店があれば教えて欲しい」
「わかった!あの店の煮込みは絶品やし、あの店の果実水は迷宮帰りにはしみるで!あとスープは……ちょっと離れてるからウチがついて行くわ。ミミ肉スペ4つ作っといて!」
「わかったんだよ!」
「エリカ運ぶの手伝ってー」
「わかった」
ガドルフとキュークスはベアロとアンリに食事場所の確保を任せて、教えた屋台へと足を向けた。
ウチはエリカを連れてスープを買いに、少し離れたところにある屋台へと向かう。
色々食べ比べした結果、ウチとミミの好きな味だったところだ。
スープを運ぶためエリカを連れて行っているけれど、そのエリカのお気に入りは肉の多いスープ。
つまり、今から買うのは野菜の多い健康的なスープになる。
肉は煮込みとお好み焼きから取れるからいいだろうと判断だ。
「美味い」
「美味いなこれ!酒が欲しくなる!」
「それはいつものことやろ!」
「お酒は後で飲みなさい」
「おう!」
アンリはテーブルについて黙々と食べ、獣人3人組がわいわいと感想を言いながら食事を進める。
煮込みは全員に好評で、迷宮帰りの定番にしようと話すほどだった。
「迷宮どんな感じやったん?」
「そうだな……。ライテとは違っていつでもいろんな種類の魔物と遭遇するな」
「ん?1つのエリアに複数の魔物がおるってことやんな?」
「そうだ。そして草原ウサギにしても、奥へ行く方が大きく、力も強くなる」
「おー。別のエリアに行っても前のエリアの魔物出てくるんか」
「地続きだから移動するんだろうな」
「なるほど」
最初の草が短いエリアに出てくる草原ウサギが、草の高い草原で生き残るならば強くなるしかない。
弱ければ負けて食べられるからだ。
そういった意味では魔物同士の争いによって、負けた方が食べられて勝った方が強くなる現象が起きやすいだろう。
全ての魔物を請負人が倒しているわけではないはずだ。
「後は全方位を警戒しないといけないから、ライテより精神的な負担があるわね。警戒が必要なのは街の外も同じだけど、魔物の出る頻度が全然違うから気が抜けないわ」
「エルならぼーっと立ってるだけで良さそうだがな!」
「せやな!ウチを立たせてたら魔物が寄って来ても攻撃受けへんし、その隙に倒してもらったらすぐやわ!」
「それがよ、そう簡単にはいかねぇんだ。強い魔物は一撃じゃ倒せねぇし、立ち直りも早ぇ。エルのハリセンならともかく、多少の攻撃じゃあ怒らせるだけで隙にもならねぇぞ」
「おー。まるで階層主やな」
「そこまでじゃねぇよ。でも皮は硬いし体力はあるしで戦いがいはあるぜ!」
「嬉しそうやな」
「おう!俺は少し休んだらまた迷宮だ!」
早食いのベアロは、食べ終わった皿を重ねていつでも運べるようにしていた。
この後は家で身綺麗にしてからお酒を飲みに行くのだと思われる。
キュークスは風呂でのんびりして、ガドルフは武具の手入れ、アンリは手に入れた素材の中から自分で使うものを仕分けるそうだ。
残った素材を組合で売って、それぞれの取り分とする。
「どこまで探索したん?」
「沼地まで行った。道中の魔物と戦ったり逃げたりしながらだったがな」
「逃げるほどなん?」
「あぁ。今の武器じゃあ硬すぎて切れない魔物が出てくるんだ。魔力で強化された皮は厄介だが、防具に使えば俺たちにも恩恵がある。その素材で強化した武器なら切れるようになるしな」
「ほー。武具の更新はようわからんわ」
ウチは未だに駆け出しが使う安い装備だ。
強化もしていない。
固有魔法のおかげで破れず汚れない。
着れて見た目に問題がなければ気にならないけれど、キュークスが着飾らせようとしてくるのに若干抵抗している程度。
さすがに裾がヒラヒラと飾られている服で迷宮に入るほどバカではない。
自ら絡まれに行くようなものだ。
「ほんでほんで?ウチが活躍できそうな場所あった?」
「あるな。どこも森林の奥地と丘にある洞窟の中、後は沼地全般だろう」
「結構あるな。どこも状態異常?」
「森林と洞窟はそうだ。麻痺毒持ちの虫や蛇が厄介な上に、どちらにも蜘蛛の魔物がいるから巣が邪魔らしい。俺たちは様子見で少ししか入ってないから影響はないが、しっかり入るには薬が必須だろうな。その分素材は良い物があるから、ちゃんとやれば儲けれるだろう」
「ほー。じゃあウチが入ったらボロ儲け?」
「エルの場合魔物の素材が取れないからな。蜘蛛の巣やキノコ類、魔物が放って来た毒液の回収ってところだろう。大きく儲けれるわけじゃないが赤字にはならないな」
「ふむふむ」
棒を持って蜘蛛の巣に突撃したり、固有魔法が反応するキノコを採取、魔物に攻撃させて出てくる毒液を瓶に詰めるなどであればウチでもできそうだ。
ハリセンで気を失うまではできるし、ナイフを使えばトドメも刺せるかもしれない。
しかし、問題は解体と収納袋に入れる作業で、そのために誰かを連れて行くなら薬が必要になるから、せっかくの固有魔法を活かせない。
誰か1人を選んで背負ってもらい、解体までしてもらえれば何とかなるかもしれないけれど、その時は軽量袋が使えないから量が確保できない。
「わたしはエルを沼地に連れて行くのがいいと思うわ。あの足場を無視できるはずよ。ほら、あの川で釣りをした時みたいに」
「それは有りだな」
「沼地って面倒なん?」
「沼地は浅い場所から始まって、所々に深い所が出てくる。その先は大人でも腰まで沼にハマるぐらいの場所が続き、一部では底なし沼になっているみたいだ」
「そんなんどうやって進むん。戦われへんやん」
「船だ。左右に足場用の板を付けた船で進むんだ。そこに魔物を誘き寄せ戦うから、バランス感覚が大事だぜ」
「船ぇ?迷宮の中で?」
「小舟だけどな!」
「ふーん」
小舟といえば釣りをした川にあった。
川の真ん中で釣りをするため、川向こうに渡るための小舟は、大人が6人ぐらい乗れそうな細長いもので、木製の櫂で漕ぐことで頑張れば流れにも逆らえるようになっていた。
沼地に流れがあるかはわからないけれど、深いところなら船で移動するのはなんとなく理解できる。
足場があるイメージができないので、戦っている姿が想像できないけれど。
後、他にも気になることがある。
「迷宮に吸収されへんの?放置してたら無くなるやん。装備品とか死体とか」
「迷宮で取れる木材を使えば吸収されないらしい。だから、森林エリアの近くには小さいながらも休憩所が作られていて驚いた」
「おぉー!それはすごいな!ウチも見てみたいわ」
迷宮の中にある家。
詳しく聞くと使用する請負人と迷宮騎士で、持ち回りの見張りも立てているそうだ。
寝るだけの家がいくつかと共同の調理場、解体場と請負人組合の出張所、さらには馬房まであり、移動や荷運びに使っていた。
そんな休憩所は柵に囲まれていて、物見櫓がいくつか建てられているらしく、下手な村よりもしっかりと守られている。
周りに魔物が出てくるのだから当然だけど。
そんな休憩所は絶賛拡大中で、森林エリアから切り出した木を使って他のエリアにも用意しようとしているそうだ。
是非ウチが本格的に入るまでに使えるようになっていてほしい。
「こっちはこれぐらいだな。少し休んでから本格的にどこかのエリアに挑戦するつもりだ。エルの方に変わったことはあったか?」
「ないで」
「エルちゃんあるよ!ミミちゃんのこと!あのおじさんたち!」
「おぉ!来ぉへんから忘れとったわ!」
デザートとしてハニー丸を持って来てくれたエリカに言われて思い出した。
おじさん3人にいちゃもんを付けられて騒ぎになったことを。
あれから何も起きていないせいで片隅に仕舞われていた。
「次はもっと早くボコれ!エルならできる!」
「舐められたら屋台の売上にも関わる。さっさと痛めつけて文句を言えないようにしてやれ」
「請負人は舐められたら弱くみられるからね。強く見せるために叩くのは必要なことよ。特にエルの外見ならね」
「子どもに手を出す方が悪い」
と言うわけで、仮に次にやって来たとしても、すぐさまハリセンで応戦することに決まった。
知らないおじさんよりもウチらの安全が大事だからだ。
罰に懲りて二度と来ないのであれば、それはそれで構わない。
心意気が大事だ。
それぞれの報告を終えたらガドルフたちは精算に、ウチは店番に戻る。
お客さんを元気よく迎えるのは大事だから、ウチは頑張る。
決して料理を作るのも、たくさんの料理を配膳するのにも戦力外通知を受けたからではない。
ウチは進んで客寄せする。
場合によっては通りを挟んで反対側へ行って宣伝しているから、仕事はしっかりできているはずだ。
そうして今日も平和なまま完売となった。




