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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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お前らは客じゃない

 

 屋台の運営は順調で、10日経っても特に問題は起きなかった。

 ミミとエリカの相談による食料の準備はいつも余らないように調整されて、むしろ少し早い時間に売り切れるようになっていた。

 その後はみんなで迷宮に入って肉を取り、家で翌日の仕込みをしてから別れる。

 ミミのお婆さんの味を再現するための料理研究は、少し近づいたけれど深みが出せないところで行き詰まっている。

 試しに草原イモムシの体液を入れたりしても、トロみが付いただけで味に大きな変化はなかった。

 寒くなればトロトロにしたスープが売れそうなことが発見できたくらいだ。

 ちなみにトロトロを出汁に使おうとしたら、お好み焼きがネッチョリしたので断念している。

 そんな風に屋台と掃除の依頼をこなして過ごしていると、見慣れないガラの悪いおじさんたちが屋台にやってきた。


「うわっ。まじで半獣が屋台やってるよ」

「人様の口に入るものを半獣が作るとか考えられねぇ!」

「大人しく雑用してればいいんだよ」

「何やあんたら?客ちゃうなら帰って」


 顔に傷があったり、やけに鞘に入った剣をかちゃかちゃと鳴らしていたり、周囲を睨みつけながら視線を彷徨わせるおじさん3人組だ。

 注文することなくミミに向かって訳のわからないことを言ってきたから、さっさと帰ってもらいたい。

 幸い今は並んでいる人がいない時間帯だったけれど、周囲を歩いている人はいる。

 何が起きたのか気にしている人もいれば、このやりとりを肴に飲もうとする人までいる始末。

 さすが請負人しか入れない広場は、自己責任が強い。


「あぁ?ガキは黙ってろ」

「黙ってられるか!ミミはウチの従業員や!雇い主は従業員を守る義務があるんや!」

「あ?お前が半獣の主人なのか?こんなガキが?」

「こんなガキでも人を雇って屋台ができるねん!暴れるだけしかできない能無しとはちゃうねん能無しとは!」

「なんだとぉ?」

「すごんでも怖ないわ。整ってない顔がさらに不細工になるだけや。もしかして笑かしてくれてるんか?元の顔でも十分笑えるけどな!あっはっは!」

「このガキ……!」

「さっきからガキばっかりやな!もしかして他の言葉知らんのか?あ、攻撃受けすぎて忘れたんか!」

「上等だ!表出ろ!」

「嫌ですー!下等なおっさんに言われて出るわけないやろ!」

「てめぇ!」


 顔に傷の入ったおじさんが屋台を蹴ろうとした。

 それを見越して背中を屋台の骨組みにつけていたおかげで、固有魔法の影響を受けて蹴りを弾く。

 想像以上に硬い屋台を蹴ったことで、逆に足が痛くなったおじさんは、さらに眉間の皺を深くした。


「何だこの屋台!くそかてぇぞ!」

「屋台すら蹴られへんのに偉そうにすんなや!」

「あぁ?!俺たちは新エリアでも戦える請負人だぞ!ガキに舐められたまま終われるかよ!」

「舐めてへんし舐めたくないわ!腹壊しそうやしな!さっさとどっかいけ!」

「クソガキがぁ!」


 おじさん2人がガンガンと屋台を蹴り始めたけれど、固有魔法に弾かれて足を痛めるだけだ。

 本気で蹴っていないからつま先が痛い程度で収まっているようだけど、これを続けられるとわからない。

 自分から蹴ってきた結果足が折れてしまっても、ウチが悪いことになるのかなと今後のことを考えていると、残った1人がエリカのことをジロジロと見ていた。

 見られているエリカは居心地が悪そうに、ミミと一緒に小さくなっていて気付いてないようだけど。


「あ!こいつ俺たちにゴミ捨てるなって言ってきたガキだ!」

「本当だ!何だここは!俺たちをイラつかせるための屋台じゃねぇか!」

「ちゃうわ!美味しい料理を出す屋台や!おっさんらのことなんかどうでもええわ!」


 しっしと手を振っても、なぜかニヤニヤしたまま動かないおじさんたち。

 こんな人たちが前にいたら他の人が買いに来れないと考え始めた時、エリカと目が合った。

 涙目で申し訳なさそうな顔をされると、早くどうにかしなければならない気がしてきた。

 自分のせいでまた店に迷惑がかかっているとでも思われたら、せっかく仲良くなってきたのに辞められたらたまったものではない。

 その考えが頭をよぎった時、ウチらは悪くないのにいちゃもんを付けてきているおじさんたちへ一気にイライラが爆発した。


「お前らええ加減にせぇよ!人が平和にやってる屋台の前でぶちぶちおもろないことほざきやがって!そのせいでうちの可愛い従業員が怯えてるやないか!どないしてくれんねん!……おらぁ!表出たぞ!満足かこらぁ!そのブサイクな顔をさらにブサイクにしたるわ!」

「エル!」

「大丈夫や!ウチに任せとき!こんなおっさんらウチならどうとでもできるで!」

「ほぅ〜。上等だ!やってやろうじゃねぇか!今更ビビって他の人間に泣きつくんじゃねぇぞ!」

「お前らこそガキだとバカにしてる子供に負けても泣くんやないで!ブサイクに涙は似合わへんねん!」


 屋台を離れて通りへと向かった。

 エリカに気付いた時点で蹴るのをやめていたので、背中を離しても問題はない。

 むしろウチが動いているのをじっと見ているぐらいだから、相手を警戒することはできるのだろう。

 半獣をバカにするのは今までの生き方のせいかもしれないけれど、それもわざわざ口にして文句をつけてくる必要はない。

 嫌なら素通りすればいいだけだ。

 それを口にして争おうとするのだから、このおじさんたちの素行が悪い。

 ベルデローナから、一部の請負人は自分が強いことを誇って傲慢になることがあると聞いている。

 到達階層で誇ったり、倒した魔物で誇ったりなど、その原点は人によって違うけれど、共通するのが一般人や他の請負人にはできないことを成したということだ。

 このおじさんたちは新エリアの沼地で活動していて、その結果色々素材を持ち帰ったりしているはずで、それが高値で売れたり大きな商会から依頼が来ることでいい気になっていたのかもしれない。

 生まれ持った気質の可能性もあるけど。


「今更怖気付いてもダメだからな!ガキといえど請負人は自己責任だ!いや、一つ確認しておくが、お前見習いだろ?見習いだったら手加減してやるよ」

「ざんね〜ん!見習いちゃいま〜す!ちゃんと1人前の請負人や!手加減なんていらん!」

「そうか!だったら遠慮なくぶっ飛ばしてやる!俺に喧嘩を売ったことを後悔するぐらいにな!」

「はぁ〜?最初に喧嘩売ってきたのはそっちやろ!ウチらの屋台では喧嘩は売ってへんわ!美味しいものだけや売るのは!」

「くっ……もういい。やるぞ!」


 残り2人に声をかけて拳を構える傷のあるおじさん。

 さすがに武器は抜かないようで、周囲で見ている人たちも、ただの喧嘩として見てくれている。

 これが剣を抜いたら殺すつもりということで、一気に騒ぎが大きくなる。

 今の時点でもある程度の騒ぎだけど。


「おらぁ!痛ぇ!何だこいつ?!」

「隙だらけやで!おりゃ!」

「はっ!ガキの攻撃が痛くねぇぞ!ただ、こっちから殴ったら痛かった!気をつけろよ!」

「やっぱあかんか……」


 最初は傷のおじさんだった。

 背の低いウチの頭を狙って振り下ろした拳は、固有魔法に弾かれておじさんに返る。

 予想外の痛みで動きが止まり、そこをウチの拳が唸りを上げて迫ったけれど、痛がっている手をぺちんと叩いただけだった。

 やっぱり素手の攻撃は効かないかと落胆しつつも、一回の攻撃でウチを警戒するようになった3人のおじさんに感心する。

 もう何度か攻撃されるのを覚悟していたけれど、このままだと互いに手が出せない。

 せめて1発はしっかり殴っておきたいけれど、ウチにはそんな力はない。


「しゃーない。これの出番か」

「おい!なんだそれ!喧嘩に武器はダメだろうが!というかどこから出したんだそれ!」

「これは剣ちゃうし切れへんからええやろ。こうして……叩くやつや。な」


 ペシンペシンと地面を叩いて、切れないことをアピールする。


「……確かに叩くだけだな。ガキにはお似合いの武器じゃねぇか?それぐらいなら許してやるよ」

「いや、ウチとしては許可なくても使う気やしミミとエリカに対して謝ってもらうつもりやで」

「何だそれ!聞いてねぇぞ!」

「おっさんたちが暴言吐いたからやろ!勝ったら言うこと聞いてもらうんや!ウチは怒ってるねんで!」

「くそが!負けなきゃいいだけだろ!やってやらぁ!」


 もう一度突っ込んでくる傷のおじさん。

 今度は後ろの2人も同時にやってきて、3方向から拳を突き出したり、足を振り抜いてきた。

 そんなことをしなくても避けられないウチは、迫る攻撃を呆然と見送って固有魔法を頼る。

 期待通り弾き返されたことで拳や足を痛めるおじさん。


「今や!もう一丁!」


 その中で1番近い傷のおじさんに対してハリセンを振る。

 痛めた拳に気を取られているとはいえ請負人なのでいきなり頭は狙えず、まずは固まっているせいで避けづらい足を狙う。

 スパンと音が鳴ったと同時に魔力が抜けて、がくりと膝をつくおじさん。

 力の入らない足に混乱している間に頭も叩く。

 頭からも魔力が抜けて気を失う傷のおじさんと、それを見て驚く残りの2人。

 さて次はどっちだとハリセンを構えた時に、大きな笛の音が響いた。


「何を騒いでいる!」

「道を開けろ!」


 見物していた人たちを割って来たのは、迷宮騎士だった。

 抜剣はしていないけれど、周囲を警戒しながらウチらに近づきてくると、片方は首を傾げた。

 喧嘩が起きてると来てみれば、大の大人が子どもに伸されていたら不審に思うかもしれない。

 そこから成り行きを聴取されたけれど、ウチにはお咎めなし。

 3人は数日の奉仕作業となった。

 去り際に気がついた傷のおじさんに「覚えてろ」なんて言われたけれど、ウチの貴重な記憶にそんなことを記録したくないので、キュークスたちに話したら忘れることにする。

 エリカとミミも、迷宮騎士に連行される3人を見送ってホッとしていたから、謝らせることはできなかったことは仕方がないと諦めることにした。

 もう一度やって来たら問答無用でハリセンを出すことは2人に話して納得させておくことは忘れない。


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