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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
請負人見習い

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19/305

ドレッシング作ろ

 

 宿に戻ったので早速ドレッシング作り……とはいかず、まずはベアロに帰ってきたことを報告する。

 たくさん寝たからか、部屋で斧を磨いていたベアロは、ウチがポコナと買い物を楽しんだことを伝えると、「楽しかったか?」と聞いてきた。

 それに頷いて応え、今からドレッシングを作ると言うと、興味があるらしくベアロも一緒に行くことになった。


 ・・・あ!作るための道具は何とかなるけど、場所がない!部屋で作って汚すのはあかんやろうし、厨房か食堂の机借りれるか女将さんに聞こう!


「ん?どうしたんだいお嬢ちゃん。ポコナかい?」

「えっと、ポコナも呼んでほしいけどもう一つあって、食堂の机か厨房って使ってもええ?もしかしたら油がこぼれたり、ハーブの匂いがつくかも知れへんけど……」

「ふむ。そのぐらいなら食堂の机を使いな。ただし、終わったらしっかり拭いて片付けること。約束できるかい?」

「わかった!約束する!」


 作業場所が確保できたので、一度部屋に戻り道具を準備する。

 買ってきた植物油、ハーブ、塩が入った袋とは別で、支給品からウチの分としてもらった木の器、スプーン、フォーク、ナイフ、まな板、粉になった塩を準備した。

 さすがに今から記念で買った岩塩を削るわけにはいかないし、そもそも削る道具がない。

 袋はウチが持ち、残りをベアロに持ってもらって食堂へ行くと、お使いの品整理が終わったポコナが待っていた。


「あ、エルちゃん、とベアロさん」

「おう!見物に来ただけだから俺のことは気にすんな!もちろん、手伝いはするぜ!」

「よろしくお願いします。と言っても、何を作るかはわかってないんですけどね」

「俺もわからん!どれっしんぐと言っていたが、何か知ってるのはエルだけだ!」


 知らないことに笑うベアロ。

 子供が頑張って何か作ろうとしているのをみまもるきもちなんだろうか。

 そんな2人の会話を聞きながら、机の上に道具を用意する。

 持ってきた物の他に必要となる水を、ベアロに取ってきてもらって準備完了である。


「まずはハーブを濡らして軽く揉むで」

「香りを出すんだね」

「そうそう」


 ウチとポコナが濡らしたハーブを一枚一枚揉み、香りを放出させる。

 そのままでもいいけど、こうした方が香りが強くなって野菜の苦味を抑えてくれる。


「次は揉んだハーブを細かく刻むんやけど、ナイフじゃ難しいな……」

「わたしが使ってる小さい包丁持ってくるね。2本あるから貸してあげる」

「おおきに!」


 ナイフの刃は太く、茎ならなんとか切れるけれど葉切ろうとするとすり潰されてしまう。

 すり潰しても良いんだけど、今回は刻んだハーブを入れるつもりだったので、ポコナの持ってきた小ぶりな包丁で気をつけながら刻んでいく。

 料理の練習をしているポコナの倍以上の時間がかかって、何とか刻むことができた。


「後は油と塩とハーブを混ぜるだけや!分量は……感覚やな!」


 細かく計る道具もないし、油に対して塩とハーブを少しずつ足して、味を確かめながら調節するしかない。

 一度作れば基準ができるので、次回からはある程度簡単になる。

 今回は小さいコップ一杯対して、塩とハーブを摘みながら入れて、フォークで混ぜることにした。


「油だと?!油を飲むつもりか?」

「なんでやねん!飲むわけないやん!野菜にかけて食べるんや!味付けを変えるんや!」


 思わずツッコんでしまった。

 でも、これに関してはドレッシングが何なのか説明していなかったウチが悪い。

 コップに入った油を見たら、誰でも飲むと思ってしまうだろう。

 できたもので実際に野菜を食べて驚かせたかったけど、勢いで言ってしまったので改めて説明した。


「そうなのか……。しかし、油だぞ?なかなかの散財になるな」

「ウチには苦い野菜を美味しく食べたいねん」


 ポコナがこくこくと頷く。

 ウチだけじゃなく、ポコナも苦い野菜は好きじゃない。

 それでも出しているお店の娘が残すのはダメだという気合でいつも食べていると、お使いの時にきいた。

 野菜を少しでも美味しく食べられる物だということで、ポコナのドレッシングを見る目が変わっている。


「油自体の香りもあるけど、ハーブを入れることでスッキリするし、塩のおかげで美味しいね」

「味見で美味しかったら野菜にかけても良さそうやな!」

「これはいいな!ハーブを変えたら風味も変わるだろうし、好みの味を探すのが楽しそうだ!」


 スプーンですくって、手のひらに少しだけ乗せたドレッシングを味見した。

 油そのものに植物の香りがあるけれど、植物仲間のハーブとは相性が良いようで香りが喧嘩しない。

 塩の濃さはお好みだけど、ちゃんと塩っぱいと感じれるぐらいはほしい。

 元々塩をかけて食べていて、それよりも少ない量になっているので問題ないと思う。


 ・・・ウチは手のひらやけど、ポコナとベアロは肉球に乗せてる。それを一舐めで味を確かめたベアロはいいとして、何度もペロペロしていたポコナはむっちゃ可愛い。もっと肉球にドレッシングを乗せたくなるわ!


「せやで!他にも色々入れたら味も大きく変わるから、それもいつか作ってみたいな。ウチでは準備できへんやろうけど」

「他にはどんな風にするの?」

「果物の果汁を入れたり、果物自体をすりおろして入れたり、人参すりおろしたり、玉ねぎを細かく切って火を通した物を入れたり色々やな!」

「へ〜。そんなに色々できるんだ……」

「これが一番簡単な基礎のやつやからな!」


 人参と玉ねぎは市場にたくさんあったし、宿の野菜にも入っている。

 果物は少しだけ見かけたけど、パンが銅貨1枚に対して果物は1個銅貨5枚という贅沢品だった。

 しかも、すりおろす方法が岩塩を削るための硬い棒状の物しかないそうで、野菜をすりおろすには不向きだ。

 すりおろす方法も考えないと種類は多く増やせない。


「できたで!せっかくやから色んな人に味見してもらいたいんやけど、お金払うから少しだけ野菜くれへん?」

「お金はいらないから、作ったドレッシング少しだけ分けてほしいな。お父さん達にも味見してほしいから。野菜は私のおやつ分があるから大丈夫」

「ウチはええけど、ポコナのおやつ減るで?それはええん?」

「いいよ。他の人の反応次第では商品になるかも知れないから」

「さすが宿屋の娘やな!」


 商機を見つけた強い瞳のポコナ。

 ウチは野菜が手に入るし、ポコナはドレッシングの反応を見て売れるか判断する。

 ウチとしては料理のプロに改良してもらえる可能性もあるし、それで問題はない。

 コップ一杯分のドレッシング作りで満足したから、たくさん作るのは別の人にお願いしたい。


「それじゃあお試しドレッシング味見会や!ドレッシングを作ったウチと、野菜を出してくれたポコナに感謝して食べてな!」

「おう!ありがとうな嬢ちゃん達!いただくぜ!」

「これはいいな!」

「歯応えは変わらず風味でここまで美味しくなるとは……」

「凄いな……」

「美味い!すごく美味い!」


 ポコナが持ってきた野菜を切り分け、ドレッシングをかけた物を食堂にいる人に配った。

 お試しの品で感想がほしいと伝えていたけど、みんなの反応で大体わかる。

 特に反応がいいのはカバの獣人で、大きな口で野菜を噛み砕きながら何度も頷いている。


「よし!お嬢ちゃん!俺にこのドレッシング?のレシピを売ってくれ!」

「俺もだ!」

「私も!」


 次々に上がるレシピを購入したいという声。

 ウチとポコナで作れる物なので、請負人でも片手間で作れるところが良いらしい。

 ただ、レシピを売るというのがよく分からない。

 ベアロに助けを求めようとしたところ、別のところから声が上がった。


「静かにしな!そんなでかい図体で子供達に詰め寄るんじゃないよ!お嬢ちゃん、レシピを売ったことは?」

「ないで。初めて言われた」

「そうかい。なら、アタシが手助けするから、あんた達は一旦離れな!あぁ、最初にレシピを欲したあんたは残りな。お嬢ちゃんポコナに勉強させてやっておくれ」

「わかった」


 間に入ってくれたのは女将さんだ。

 一喝されて勢いがなくなった人達は、少し距離を空けてくれた。

 そして、レシピを売ることについても助けてくれるようで、練習相手にカバの獣人が残った。


 ・・・もしかしたら他にもビビッとくるかも知れへんし、レシピの売り方についてはしっかり覚えないとあかんな!


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