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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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189/305

屋台エミカ開店

 

 1日準備に使い、屋台開店の日が来た。

 ガドルフたちはウチとミミなら問題ないだろうと、朝食を取ったら迷宮へと向かった。

 2の鐘が鳴る前にエリカがやってきて、荷車に調理で使う魔道具や機材、材料を積み込んでいく。

 準備から参加しているエリカは、ミミの作るスープやお好み焼きを気に入ったようで、いつか自分でも作れるようになると息巻いていた。

 ミミも快く受け入れて、ポール譲りで料理長仕込みのスープを伝授しようとしていた。


「ここやな!ウチらの城や!」

「ライテと同じぐらいなんだよ」

「城は大袈裟すぎるでしょ」


 請負人組合から割り当てられた場所は、中央の道から大きく離れているけれど、周囲の屋台とは程よく距離があって道は広く、少し歩けば座って食事できる場所もあるところだ。

 混雑による交通の阻害を嫌った人気店の店主がいくつか離れたところに屋台を出していて、奥まったところにありつつも人通りは多い。

 さらに孤児院の子供が果実水を出している屋台もあるおかげで、兵士や請負人の目も多く比較的安全な場所になっている。

 そんな場所にある屋台はどこも横幅は同じで、奥行きが出す品によって変わる。

 必要な設備を足すことで、出したい商品の準備を裏で行うようになっているため、今ウチらが使う屋台の裏は何もない足場だけだ。

 そこに持ってきた機材や魔道具を設置していき、動作確認やエリカによる動線の確認を行なっていく。


「どう?動きづらない?」

「大丈夫そう。ミミは調理に集中できるようにしているし、問題ないよ」

「そっか。ならこれで完成や!」


 準備の時は敬語で話してきたエリカだけど、ウチとミミがそれを嫌がったので砕けた口調になっている。

 雇い主とはいえ年下の子どもに敬語で話すのは嫌じゃないかと聞いたら、雇われるということはそういう事だと大人な発言が返ってきた。

 ウチも気をつけないとと思いつつ、少ししたら忘れそうだ。

 実際、若干どうでも良くなってきている。

 元気が取り柄なウチなので。


「しゃー!開店やー!」

「どっちも焼けたんだよ!」


 ミミの言葉通り平な鉄板ではお好み焼きが、凹みのある方ではまんまる焼きが焼けている。

 迷宮の魔物の肉に近隣の村で採れたばかりの野菜を焼いたお好み焼きに、ポール譲りのトマトソースをかけてじゅわじゅわと音を立てる。

 その横ではハチミツを混ぜた生地を丸く焼いて、木皿に盛り付けた上で追いかけるようにハチミツをかけたハニーまんまる焼きを用意する。

 エミカのお客さん第一号は、ライテでも屋台に来たことがある請負人だった。

 仲間と共に並んでくれて、朝早くから活気のある屋台になる。

 そうなると朝から列を形成する昨日までなかった屋台を気にした人たちもやってきて、あまり見たことがない食べ物に興味を示す。

 若干女性が多いのはハニー丸のせいだろう。


「お嬢さん、これを1人前くださいな」

「まいど!ってお婆ちゃんやん!ここにおるってことは請負人なん?」


 屋台で接客することしばらく。

 やってきたのは腰が少し曲がり、真っ白になった髪を団子にまとめたお婆さんだった。

 この広場は入る時に請負人証を確認されるため、屋台を開くだけでも請負人にならなければならない。

 請負人が武力を持っているから、それを理解した人だけが商売できるような制度だ。

 それが嫌なら市場や他の広場で屋台を出せばいい。

 ここにいるという時点で請負人だけど、お婆さんはライテでも見ていない。

 おばさんまでだ。


「あらあら元気ねぇ。元請負人で今はお嬢さんと同じように屋台を出しているのよ。ほら、あそこ。今は孫が店番しているのだけど、良かったら食べに来てちょうだいねぇ」

「わかった!お昼に行くわ!はいこれハニーまんまる焼き!」

「ありがとうねぇ」


 お婆さんは受け取ったまんまる焼きの皿を大事そうに持って、4軒隣の屋台へと戻っていった。

 そこはウチの屋台に負けず劣らず列ができている煮込み料理の屋台だった。

 目新しいからできる列と地元で愛されているからできる列では客層が大きく異なり、ウチらの方は若い人が多く、向こうはベテランの風格がある請負人が多い。

 そこにお婆さんが戻ると、列に並んでいた人たちと言葉を交わし、こちらを見てにこやかに話していた。

 もしかしたら宣伝までしてくれているのかもしれない。


「よう嬢ちゃん。婆さんが買ったやつはどっちだ?」

「お婆ちゃんが買ってくれたのはこっちの甘いまんまる焼きやで」

「甘いのか……。こっちのはどうだ?」

「こっちは(しょ)っぱいで。トマトソースの方は濃厚やな。もう少ししたらチーズ手に入れてメニュー増やすつもりやけど、今は野菜か肉かトマトやで」

「じゃあ肉のやつくれ。2つな」

「肉スペ2ー!」

「了解なんだよ!」


 しばらくするとお婆さんのところに並んでいたおじさんがウチの屋台にもやってきた。

 お婆さんが美味しそうに食べていたから気になったようだけど、朝から甘いものは食べたくないようだ。

 肉スペを持って食事スペースに行ったおじさんを見ていると、ガツガツと気持ちよく食べてくれていたので、どうやら口にあったようだ。

 そのおじさんが顔見知りに屋台のことを話すと、その人たちもウチらの屋台で買って行くようになり、お昼を少し過ぎたあたりで準備していた材料がなくなった。

 初日なので様子見と少なめにしていたのが裏目に出てしまった。


「材料無くなってん!堪忍な!」

「明日はもっと用意するんだよ!」

「また明日お越し下さーい!」


 並んでいた人たちに頭を下げて見送る。

 残念そうな顔はしても、誰も文句を言ってこなかったことにホッとした。

 初日からトラブルにならなくて良かった。

 そうして鍵付きの箱に魔道具を入れて確認し、片付けが済んだら念願の昼食だ。

 ミミの料理も美味しいけれど、新しい街にきて新しい味を知るのも大事だとウチは考えている。

 その結果ミミのレパートリーが増えれば万々歳だ。


「よっしゃ!お婆ちゃんの屋台行くで!」

「はいだよ!」

「わたしは飲み物買ってくる」

「ほーい」


 ミミと2人でお婆さんの煮込み料理を3つ買い、子どもが出している果実水の屋台で3つ飲み物を買ったエリカと合流して食事場所へ向かう。

 いくつもあるテーブルと椅子の組合せの中には、お好み焼きを食べている人もちらほらいた。


美味(うま)!これ()()!」なんやこれ?!なんでやねん!反則やろ!」


 肉と野菜の煮込みだったけれど、とても美味しかった。

 丁寧に煮込まれた肉は柔らかく、歯でスッと切れる。

 一緒に煮込まれた野菜は、肉の油を吸ったのか旨味が強く、それでも野菜の風味を損なわない。

 量の少ない汁は肉と野菜が溶け出した濃い味を塩で整えたものだけど、濃すぎるからこそパンや水が美味しくなる。

 そんな煮込み料理に驚いていると、眉間に皺を寄せたエリカがウチに目を向けてきた。


「もしかして怒ってる?」

「いや、別に怒ってへんで。興奮しただけや」


 どうやら誤解させたようだ。

 ウチの反応に慣れてない時のミミのようだ。

 そのミミはというと、目を瞑ってゆっくりと味わっている。


「丁寧に煮込まれてるんだよ。野菜を入れる順番とかにも気を使ってると思うんだよ。それに、もしかしたら出汁の取り方がミミとは大きく違ってるかもしれないんだよ。なんというか、味の深みが違うんだよ。もしかしたら複数のお肉を一緒に煮込んでいるのかもしれないんだよ」

「ほーん、じゃあこの後時間あるし肉取りにいこか。エリカも戦えるんやろ?」

「最初の草原ぐらいなら問題ないよ。背の高いところだと視界が確保できなくて危ないけど」

「最初のとこらへんで狩るだけやから問題ないな。食休みしてから行こかー」


 少し休んで食器を返した後、3人で迷宮へと向かう。

 入り口の登り階段はエリカに背負ってもらい、時間をかけずに迷宮へと入る。

 エリカに固有魔法や身体強化について話しているから、迷いなく背中に乗せてくれた。

 ちなみに身体強化できなくなる代わりにウチと同じ固有魔法使えるようになりたいか聞いたら、すぐに拒否された。

 エリカにとって身体強化は日常生活を送る上で必須らしい。

 子供の相手や荷運びなどで。


「じゃあウチが動き止めるからあとはよろしゅう!」

「気をつけてね!」

「任せときぃ!」


 ウチを先頭に進み、魔物が出たら体で受け止める。

 気を失えばそのままトドメ、まだ動くようならハリセンで頭を叩いて気絶させる。

 肉だけ確保する予定なので、皮や爪などの食べられない素材から魔力が抜けていても問題はない。

 迷宮内でどこかにまとめて捨てるか、迷宮を出てからゴミとして回収してもらうかだ。

 拾われないように皮はズタズタにして、爪などの硬い物は傷だらけにするのも忘れない。

 これがウチにできる対処法だった。

 ちなみに考えたのはキュークス。


「来たで!……ウチに突進はきかーん!今や!」

「やるんだよ!」

「わかった!」


 突進してきた結果ウチの固有魔法に直撃して目を回す草原ウサギ。

 左右からミミとエリカが挟み込むように近づき、首に剣を差し込む。

 痛みで気付いたとしてももう遅く、流れ出る血を止めることはできない。

 後は2人で解体してもらって、その間は周囲の警戒だ。

 そうして草原ウサギに続いて草原ニワトリ、草原ウシも狩り、間に草原イモムシもいくつか捕まえた。


「こんなにいいの?」

「ええねんええねん。食い切られへんもん」


 肉の半分は屋台の調理用に、残った半分の半分を家用に、さらに残りをエリカに持って帰ってもらった。

 商会が運営しているとはいえ、お金がかかるのに売り上げは預かり料の微々たるものなので、備品や食料が満足にあるわけではない。

 孤児院の子供たちも請負人見習いに登録して、迷宮で肉を狩ることはある。

 今回もそんな扱いで対応してもらえばいい。


「エルがいたらお肉取り放題だね」

「解体すんのと運ぶの面倒やけどな」


 エリカからすればその面倒を受けるだけで肉がもらえるなら喜んでやるそうだ。

 ウチとミミだけでやるよりも効率がいいから、今後も時間があれば肉を取ることに決めた。


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