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迷宮王国のツッコミ娘  作者: 星砂糖
ウルダー中迷宮

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187/305

商会の孤児院

 

 組合を後にして家に戻り、のんびりと毛繕いしていたキュークスに事情を話した。

 担当分の情報収集を終わらせて暇していたところらしく、ミミを連れてすぐに行くことになった。

 セイルから聞いた商会の孤児院は全部で3つあり、服飾関係のところと建築関係のところは後にして、まずは食品関係で大きくなった商会がやっている孤児院へと向かった。


「頼もう〜」

「ちょっとエル。すみません代表の方はいませんか?」


 孤児院の扉は開けられていたので入ったけれど、言葉がまずかったらしい。

 訂正したキュークスの言葉で出てきたのは、ちょっと気が強そうで仕事もできそうな女性だった。


「本日はどのようなご用件でしょうか。そちらのお二人をお預かりでしょうか」

「違うわ。ここは屋台の手伝いも引き受けているって聞いたけれど合ってる?」

「はい。屋台の手伝いから商店の帳簿付けまで色々お手伝いさせていただいてます。こちらでゆっくりお話ししましょう」


 女性に案内されたのは、綺麗に整えられた応接室で、2人掛けの椅子が対面になるようにテーブルを挟んで置かれていた。

 壁にはどこかの風景画が飾られていて、他にも小物や執務机などもある。

 孤児院にこんな部屋が必要なのかと首を傾げていたら、女性が答えてくれた。


「ここは本来子どもを引き取りたい人と孤児を会わせる場所なんです。あ、申し遅れました、わたくし孤児院長のイザベラと申します」

「請負人をやってますキュークスです」

「ウチはエル」

「ミミだよ」

「よろしくお願いします」


 キュークスを挟んでウチとミミが座る。

 子どもだから2人掛けの椅子でも問題なく座れた。

 向かいに座ったイザベラさんは、ウチとミミをチラリとみると、キュークスに視線を合わせて話し始めた。


「それで、今回は屋台の手伝いということですが、どのような屋台でしょうか」

「えっと、調理したものを売るつもりだけど……」

「主食でしょうか、スープでしょうか」

「主食とおやつになるわ」


 お好み焼きが主食で、まんまる焼きがおやつになる予定。

 今回は最初からハニー丸で売るつもりだけど、香りが喧嘩するなら屋台を増やすかもしれない。

 今のところミミが調理をして、補助に1人ついてもらいたいと考えている。

 出汁はポール仕込みのミミテイスト。

 家で作るスープの元にも使えるようにする。


「作業内容は調理補助でしょうか」

「う〜ん、買い出しもかな。やりたかったら収支管理もしてくれてええけど」

「調理補助もですよね。買い出し、収支管理も含めるとある程度年嵩の子になります。問題ありませんか?」

「ウチは問題ないけど、ミミは?年上の人と屋台できる?」

「大丈夫なんだよ!ポールさんも年上だったんだよ!」

「確かにせやな!」


 ウチらのやりとりを見て、イザベラが口を何度か開け閉めしていた。

 ツッコミたいけどツッコミきれない。

 そんな葛藤が眉間にシワとして現れていた。


「もしかして屋台を出すのはそちらのお2人ですか?」

「そうよ。わたしは交渉のための保護者ね。エル、保証書を出して」

「ほい」


 キュークスに言われてベルデローナから渡された保証書を出す。

 受け取ったイザベラは上から下へとサッと目を通すと、屋台のところを何度も読み返している。


「資料ありがとうございます。状況はわかりました。そうですね……この要件でしたらやはりある程度学んだ年嵩の子がいいと思います。ただ、あまりにも長期になる場合本採用していただくことになります」

「長期ってどれくらい?」

「成人が15歳なので、その時ですね。ここにいる子どもたちは15歳になるまでに就職先を決めるのが慣わしになっています。ほとんどが10歳ごろから見習いで働き、そのまま勤め続けています。エルさんのご要望だとそういった子が対象になるわけです」

「なるほど……。もしも街から離れるってなったら屋台も終わりやけど、その時に15歳なってなかったらどうなるん?」

「こちらに戻ってきます。許可をいただければ屋台の継続もできますし、実務経験ありということで就職に悪影響が出ることありません。ですので、請負人として街を離れられなくなるということは気にされなくていいですよ」

「それは助かるなぁ」


 ウチらはいつまでウルダーに居るか決まっていない。

 中迷宮に飽きたら他の迷宮に行くかもしれないし、ライテでは断った小迷宮に呼ばれるかもしれない。

 長期の依頼を受けることはないと思うけれど、数年経って成長すればそれもわからない。

 手足がニュッと伸びて、いろいろなところがバインバインになっているかもしれないし。


「それで、エルさんの条件に合う子が1人居るのですが、今会われますか?」

「え?報酬の話とか色々聞かんでええの?」

「それは働き手も関係する話なので、雇われる子も一緒にいるべきです」

「確かになー。話は早い方がええし、連れてきてもらってもええで」

「わかりました。少々お待ちください」


 イザベラを見送ってのんびりする。

 もっと孤児院の見学とかした上で気になる子を連れてくるのかと思っていたけれど、やけに事務的というか効率的な対応だ。

 でも、こちらの要望を聞いた上で斡旋してくれるところは嫌いじゃない。

 むしろ話が早くて好ましいくらい。


「お待たせしました」

「エリカと申します。よろしくお願いします」

「キュークスよ」

「ウチはエル!」

「ミミだよ!」


 連れてこられたのは、当然ウチやミミよりも背の高い女の子で、何度も手直しされたワンピースを着ていた。

 髪の色は赤く頭の横で左右に結び、目の色も赤みがかかっている。

 挨拶は平坦な声で、あまり乗り気じゃないのかもしれない。


「こちらのエリカですが12歳になります。少し歳は高めですが、請負人相手の商売となると、多少気の強い方が安定するでしょう。何分この子は優しいのですが言い方がキツい時がありまして、お客さん相手でもキッパリと言い切れるところは魅力なのですが、一般のお店ではそれが嫌がられることもあります」

「それは、ルール通り使わない人が悪いんです」


 詳しく聞くと雇ってもらっていた店先にゴミを捨てる人たちがいたそうだ。

 迷惑をかけるためというよりも、買った物を早く使おうとして包装を取り外し、そのまま道端に捨てていくなどだ。

 しかし、店側からするとたまったものじゃない。

 自分の店で用意した包装のせいで街が汚れる。

 しかも、店の前だけならいいけれど、歩きながら捨てられると他の店にも迷惑がかかる。

 かといって包装なしで渡せるものでもない食べ物だから、対処に困った。

 そこでエリカがポイ捨てしたところを目にして、注意した。

 された側としてはなぜ自分たちだけが言われるのかと反論したそうだけど、たまたま目についたのだから運が悪いと思ってもらいたい。

 むしろ運より素行が悪い。

 文句を言うポイ捨てした人にエリカは劣化の如く怒った。

 雇ってくれているお店の店主が、ポイ捨てに頭を悩ませていたからだ。

 相手も開き直った手前謝ることができずに騒ぎが大きくなり、巡回中の兵士が来るまでになった。

 今はゴミ箱を近くに設置することでなんとかなっているけれど、炎のように怒る少女として居心地が悪くなったエリカは孤児院に戻ってきた。

 店主は引き留めたそうだけど、噂が収まらないため気になり続けていたらしい。


「エリカ悪ないやん!」

「ゴミを捨てる人が悪いんだよ!」

「子どもに注意されて引けなくなった格好悪い大人ね。そうならないように注意しておかないと」


 辞めた後は請負人組合で見習いとして働き、ある程度戦えるようになったら行商人から承認を目指すつもりだった。

 そんな時にウチがやってきて、請負人相手に屋台をすると言ってきた。

 一般の人相手に噂になっていたとしても、請負人からすると良く言ったと好意的に受け止められているエリカなので、イザベラとしてもいい縁だと思ったのだろう。

 色々なことを話してくれた。

 他の子との関係や、年下の面倒見がいいこと、率先して家事をしてくれること、孤児院で行っている勉強会でもいい成績なことなどだ。

 自分の話をされて、髪と同じように顔を赤く染めるエリカは可愛く、少し潤んだ目でチラチラと見られたら思わず手伝いではなく雇うと言い出しそうになった。

 ウチのテンションが上がっていることを察知したキュークスに宥められたから勢いのまま喋ることはしなかったけれども、イザベラの推し通り契約することになった。

 しばらくは孤児院から通ってもらい、慣れてきたら家に呼んで仕込みも一緒にする。

 ウチらが請負人ではなく普通の商人であれば、働き始める日から住み込みになるのが本来の流れらしいけれど、今回は様子見も兼ねている。


 ・・・まぁ、店主が子どもやったら仕方ないわな。ちゃんと運用できることを証明せんとあかんわ。変な請負人が近づいてきたら、ウチのハリセンが火を吹くで!叩くだけやけどな!


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